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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部終章 信仰から生まれるもの

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第1487話 壊して遊ぼうかつての名作

「……さて、来れば分かるかとも思ったが、まったくそんなこともなく。当のアイリスとも連絡は取れず」

「おのれー。たばかりましたねーアイリスー」

「あの子も神様なんですから、そんな嘘はつけないでしょうに……」


 ルナのいう通りだ。まあ単に、接続が成功しただけで自動的に全てのスキルが使えるようになるような、都合の良い展開にはならないというだけだろう。


「こっからマニュアルで設定していかにゃならん、というわけだ」

「カナリー様! どうしたらいいのでしょうか!」

「お任せですよー。なんといったって、昔、やったことあるんですからねー」

「どうにも不安だ……」


 なにせ昔のことである。今も正確にやり方を記憶しているか怪しい。

 特にカナリーは、当時の身体を捨てて今はハルと同様の肉体を手にするに至った。当時の感覚を、忘れていてもおかしくない。


「いいですかー? 私の言う通りにするんですよー?」

「まあ、よろしく頼むよ」


 とはいえハルは、彼女に頼るより道はない。カナリーの感覚的すぎる説明をなんとか読み解き、時には直接彼女の感覚を共有して、ハルはスキルの本体へと接続を試みていくのであった。


「あっ、本当に繋がった」

「でしょー。私の言った通りなんですよー」


 しばらくそうして四苦八苦しくはっくし、ああでもないこうでもないと試していると、ある瞬間ふいにハルは手ごたえを感じる。

 そうして気付けば、目の前には設定用のウィンドウパネルが開き、脳内でも同様に、どこか巨大なデータベースへと接続された実感を覚えたハルだった。


「……ただ、読むのに正直苦労する。そもそも人間用に作られてないもんなコレ」

「ハル君でも厳しいん?」

「それだと普通の人では、絶対に読めないのです!」

「いや、知識や能力というより、そもそもの規格が違う。確かに僕だから辛うじて操作出来ている部分はあるが、僕も人間の範疇はんちゅうだしね」

「私たち用のシステムですからねー。いや、私はもう違いますがー」

「精神体が使うのに最適化されている、ということね?」


 そういうことだ。一応ハルもこれまで、彼らの使う『神界ネット』を用いて交流を重ねてきているので、その規格自体にはそこそこ馴染みはある。

 しかし、ここでは一切の外部サポートが無効化されるため、完全に自力が試される状態となっていた。


「今までは、自動で魔法的システムの補助や他の神様からのサポートを受けていたからなあ。実は、あの学園の教育って役に立つのか?」

「極論よそれは」


 ばさりと、ルナはかつての学びの理念を切って捨てるのだった。


「確かに役に立つ場面もなくはないでしょうけど、今の時代であの教育が役立つ時代が来たら色々と終わりよ?」

「あんなもの建前で、モノリスを入れる箱を作る言い訳ですねー」


 エーテルネットワークから完全に独立し、それに頼らぬ知性を育てるという名目のあの学園。再評価しようかと思ったが、残念ながら却下のようである。


「しかしそれなら、わたくしがお役に立てるかも知れません! いつかやったように、力を合わせていっしょに“もぐる”のです!」

「そうだねアイリ。アイリの直感を頼らせてもらおうかな」

「私は頼りにしないんですかー?」

「……頼らないこともないけど、カナリーちゃんは今はもう完全にエーテル特化じゃないか」

「ですかー」


 本来は元神様のカナリーこそ活躍する場面だろうけど、今の彼女はハルと同様の管理者の体。当時のようにはいかない。

 一方のアイリは人の身でありながら元々神界ネットと相性がよく、彼女と共に接続することでハルは以前もその感覚に助けられていた。


 そんなアイリの目と、カナリーの経験、それらを武器にハルは操作権限を得たスキルシステムに挑む。

 まるで分厚いマニュアルを片手に、説明書きのまるでないインターフェイスに挑むように、少しずつ慎重に紐解ひもといてゆく。


「あっ! これは、わたくし、見覚えがある気がするのです!」


 そうしてアイリの直感が探し当てたとある仕様を有効化すると、ようやくハルたちの前に見慣れたそのウィンドウが、姿を現したのだった。


「おっ、ステータスが出た」

「ようやく、私たちにも理解できるメニューが出て来たわね……」

「んだね。さっきまでは、まるで何やってっかわかんなかった」

「待たせたね二人とも。すまない、のけ者にしたようで」

「いえ、仲間に入れてもらってもねぇ?」

「ん、逆に困る」


 見守っていたルナとユキの前にも、各々各自のメニューが表示される。

 それはかつてこのゲームが運営されていた時の物と同じ、毎日のように見慣れたステータス。


 しかしその中身は、数値まで当時のものと同じという訳にはいかないようだった。


「強さは、初期化されていますね。わたくしたちの、あんなに鍛えたステータスが!」

「本当だよ……、僕は何のために、あんなに毎日毎日休まずに、『世界樹の吐息』を飲み続けたんだ……?」

「そらハル君、『クリアするため』っしょ?」

「おっしゃる通りで……」


 完全にユキが正しかった。メニューを開いて莫大な体力を目にしては、えつるためではないのだけは確かである。


 ただ、目的は達したとはいえどうしても、ゲームデータが消えた時というのは悲しいものだ。

 もうゲーム内でやることは一つもなくても、鍛えた力や集めたアイテムをただ眺めては、当時の思い出を振り返ることがあるゲーマーも多いだろう。


「しかし、そうなるとわたくしたちは、『二周目』になってしまうのでしょうか!?」

「いいえー。大丈夫ですよーアイリちゃんー。今は管理者権限を持ってるような状態ですからー。わざわざゲームルールに従ってスキルを覚える必要はありませんー」

「そうだね。ステータスが出て来れば、あとは楽な方だ。どれ、試しにちょっとやってみよう」

「おっ。デバッグモードか?」

「楽しそうねユキ?」

「そらそうだよルナちー。デバッグモードが嫌いなゲーマーはいないよ?」

「嫌いな開発者はそこそこ居そうだけれどね?」


 まあ、その名の通り『バグ取り(デバッグ)』の為のモードだ。全てのスキルを使えるのだって、チート気分で楽しむためではなくバランス調整のためのもの。


 社長のルナとしては、響きからどうにも仕事気分が先に来てしまうようだった。


「カナリー様。スキルシステムには、任意に他者にスキルを与える機能が入っているのですか?」

「当然ですよーアイリちゃんー。それがなければ、プレイヤーが『スキルを購入する』なんて出来ませんからねー」

「なるほど!」

「あー言われてみれば確かに」

「そういえばあなたたちのゲームは、課金でスキルを販売していたわよね? なかなか法外な値段だったと記憶しているわ?」

「仕方ないんですー。こっちもシステム使用料があるんですからー」


 またこれも懐かしい話だ。物が根幹に関わるシステムなこともあって、最近はこうした話が次々出てくる。


 それこそハルとルナが初めてスキルに触れた際も、そうした課金購入によりスタートしていた。

 言われてみれば、当たったスキルを的確に覚えられるのは特定個人への任意付与の機能があるからに他ならない。


「という訳で、はい」

「おお! <火魔法>、<水魔法>、<風魔法>! プレイ中はわたくし“するー”したスキルまで、どんどん追加されていくのです!」

「っはは! いいねいいねぇ。やっぱこういうのがないとね! その調子で全部のスキル覚えちゃおうぜーハル君!」

「……そんなに沢山あったら、選ぶのも大変でなくって? 絞った方がいいのではないかしら?」

「訓練あるのみですよールナさんー」

「よし、ルナちー。私がスキル選択の極意を教えちゃろう!」


 次々とメニューに追加されていくスキルの数々に、女の子たちも興奮気味だ。

 やはりこうして派手にやるのは視覚面で非常に楽しい。一覧に大量の文字がずらずらと並ぶのは、見ているだけで気分がいいものだ。ハルも気持ちは分かる。


「……ただ、ルナの言うことももっともだ。攻略目的なら確かに無敵だけど、悲しいかなもうその段階は過ぎている」

「そうよ? 目的を見失わないようにしなくちゃいけないわ?」

「確かにですねー。別にこんな<火魔法>やらいくらあったって、世界樹にはなんのダメージも与えられないですもんねー」


 カナリーが足元の大地代わりになっている世界樹の枝に<火魔法>を放つも、地面にはコゲひとつ付くことなく一切の無傷なまま。

 それは大量に付与したその他のスキルでも、一切結果は変わることがないだろう。


「レベルを上げますかー」

「最強レベルに、してしまうのです……!」

「おっ。チーターっぽくなってきたねぇ」

「……上げても同じでしょうに」

「まあ、そうだね。最後はあの龍脈爆弾にも無傷で耐えた世界樹だ。魔法の威力どうこうの話ではないはずだよ」


 龍脈アイテムを大量に暴走させ、変異体の大軍団を一掃いっそうした威力の大爆発。それにすら涼しい顔をしていた世界樹には、通常スキルの最強攻撃など効く気はしない。

 なのでここからは仕様外のスキルを模索すべき段階なのだが、派手なチートで遊びたい組はまだこの状況を楽しみたいようだった。


「仕方がない。しかし、出来るのかねレベルの方は?」

「出来るとは思いますけどー」

「わくわくするのです!」

「ちょっと待ってね。んー、カナリーちゃんの知識とこっちじゃズレがあるからね」

「むー。時代遅れの知識というわけですかー。おのれー、最新版めー」

「そうじゃなくてね? ほら、このゲーム、スキルレベルの設定が特殊でしょ?」

「ああ、あったよね。ワールドレベルと侵食率」

「そちらはどうすればいいのかしら?」

「もちろん、上げちゃいますよー。全部思い切って上げちゃいましょー」

「ど、どうなってしまうのでしょうか……!?」


 強すぎて、スキルを発動した瞬間に術者のハルたちの方が耐えきれなくなったりしないだろうか?

 数値まで弄れる場合、調子に乗って高く設定しすぎるとそうした事態になりがちだ。


 まあ、そうなったとしても今は別に、単にもう一度ログインすればいいだけの話。彼女らの満足いくようにやってやろう。


「ああ、これかな?」


 そうしてハルは通常仕様から大幅にアレンジされたシステム内に、レベルの設定項目を発見する。

 だがハルがそれを適当に上昇させようとするも、思うように設定が動かない。

 操作方法を間違えたかと一瞬思ったが、どうやら違う。これは外部から、変更に対し何かロックのようなものが働いているようだった。


「それは、ちょっとお待ちくださいなハル様。わたくし、それは推奨いたしません」


 そうしてまた前触れもなく現れたのは、今ハルたちの倒すべき因縁の相手。そして、このシステムの設計者でもある、アメジスト本人なのだった。





「ごきげんようハル様、そして皆様。本日もスキルシステムをご利用いただき、誠にありがとうございます」

「あっ。ジスちゃんだ」

「出てきたわね?」

「アメジスト様!」

「『様』は不要ですよアイリちゃん」

「そうですよー。こいつはサポートの人なんですからー。こらー、サポートの人ー、お前のスキルシステム壊れましたよー? なんとかしなさいー」

「……壊れたのではありません。壊さないように、わたくしの方でロックをかけたのです」

「知りませんよー。こっちは利用料払ってるお客様ですよー。好きに使わせなさいー」

「ハル様……? このお宅のクレーマー、なんとか静かにさせていただけません……?」

「大変に申し訳ない」


 やはり神様同士は反発し合う運命なのだろうか?

 だが、今は強気なカナリーが頼もしくもあるハルだ。いうなればラスボス、いや隠しボスの登場に、腰が引けていてもしょうがない。


「……とはいえ言い方はともかく、これは越権行為じゃないのかいアメジスト? 製作者であっても、正式に代金を支払って利用中のシステムを止める権利はないはずだ」

「え、やむを得ぬ事情がある際には、こちらの判断にて介入できると契約書に記載があります。隅っこの方にこう、ちぃーっちゃく書いてあります」

「なら、仕方ないか」

「仕方なくないですよー。詐欺ですよー」


 なにせ契約内容など詳しくは知らぬハルである。契約を交わしたのはエリクシルだ。


 だがさて? ここで彼女が現れたのは、なにか致命的な弱点を見出みいだすチャンスではないか? ハルはそのヒントを見逃さぬべく、注意深く彼女の様子を探るのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
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