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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部終章 信仰から生まれるもの

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第1486話 組み合わせて遊ぼう超能力

「いけそうかいアイリス?」

「あたぼーよ! 私を誰だと思ってるんさね! まあちょおっと? 時間は掛かるかもしんねーけども……」

「構わないさ」


 当然、一発で成功させろなんてハルも言うつもりはない。

 むしろその時間で、ハルの方もしておかなければならぬ準備があった。一発成功されてしまっても、それはそれで居心地が悪い。


「さてカナリーちゃん」

「はいー」

「仮に僕らがスキルシステムに手出しできるようになったとて、それで何でも出来るようになって一気に解決、とはいかないよね?」

「ですよー? 私たちの使っているシステムを持ち込んだところで、効果はありませんー」


 魔力が無いからである。あの夢世界には。

 単に一括ひとくくりにして『スキル』と言えど、その内容は全くの別物といっていい。例えそっくりな効果であったとしてもだ。


 ハルが慣れ親しんだスキルはほぼ全て魔力を燃料として奇跡を発現するためのプログラム。それが万能であるのは、神様たちが魔力体であるゆえだ。


 いわば共通言語にして基軸きじく通貨。その支配力に関して無敵の力を手にしたハルには、スキルシステム開発者のアメジストですら直接対決を避けている。


 ただ、夢世界とエリクシルにはそれが通用しない。彼女は魔力とは別の、まったく異なる法則をスキルへと落とし込んでいる。

 それが龍脈であり、そこから生じるエネルギー。そこに既存のスキルシステムを持って行ったとしても、それはエンジンに異なる種類の燃料を投入するようなものである。

 まあ爆発はしないだろうが、動かなくて当然だと考えられた。


「ですがまあー、いちから法則を理解する必要はありませんー。その時間もたぶん、ありませんー」

「だろうね……」

「それが出来れば一番なんすけどねえ。まあでも、悲観する必要はないっすよ! あのゲームには既に、あの世界に適合したスキルが用意されてるんすから、それの使用権限を全てオンにしちゃえばいいだけっす! ぐへへへ……、全スキル解放とか、実に分かりやすいチート行為っすねえ……」

「管理者権限と言おうか」

「デバッグモードですよー?」


 ハルはエリクシルの代理として、スキルシステム利用料をアメジストへと支払っている。

 その立場を上手くシステムに落とし込めれば、エリクシルが作ったスキルは全て、ハルが自由に使えるものとなってもおかしくないだろう。


「じゃあやっぱ問題なくありません? 本編プレイ中以上の力を得たハル様のさいきょーパワーで、アメジストだってけっちょんちょん、っすよ!」

「けちょんけちょんですよー? ……まあー、そうもいかないので特訓する必要があるのですがー」

「……そっすね。例え全てのスキルを総動員しても、世界樹には傷一つ付けられない可能性があるっすもんね」

「そうなんだよねえ……」


 そこが困ったところだ。流石は世界の終焉(ラグナロク)を耐え抜いた世界樹である。いや、褒めている場合ではない。


 多種多様なプレイヤーたちのスキルをその身に受けながらも、その全てを受け止め続け倒れることなくクリアを迎えた世界樹。味方のうちは頼もしかったが、敵に回ると厄介極まりなかった。

 もしこれが『運よく弱点で攻撃されなかった』だけならばいいが、どこを探しても弱点などない可能性だって十分にある。


「なので、都合の良い新スキルを開発する必要があるんですよー?」

「とはいえ、龍脈やらなにやらの法則を理解してる時間はないっすね。つまりここは、既存のスキルを組み合わせての改造品で戦うしかないっす! それでどーにか、突破口を見つけるしかないっすね!」

「そう上手く行くかね……?」

「頑張るしかないですねー。まあー、手法としては私たち運営がやっている事の内容と同じですからー」

「カナリーちゃんもそうやってプレイヤー用のスキルを?」

「ですよー? ユニークスキル以外は、だいたい既存の部品の組み合わせによって出来ていますー」

「ユニークスキルは?」

「勝手に出てくるので意味不明いみふめーですー」

「それでいいのか運営……」


 良くないから、時おりバランス崩壊だったり他人に迷惑のかかるスキルが生まれてしまうのだ。

 だがどうしようもないらしい。エリクシルがユニークスキルの発生を封じたのも納得だ。


 そんなユニークスキルも完全にブラックボックスという訳ではなく、時には新たなスキルの『材料』となる場合もあるらしい。

 そうして知らず知らずのうちにプレイヤーも巻き込んで、この異世界で開催している『エーテルの夢』は進化を続けているようだ。


「その部材の組み合わせ方はな? 世界が変わっても大きく変化はしねーもんなのよ?」

「アイリス。てことは、君の『フラワリングドリーム』は」

「そーよ? 多くはこっちのスキルを流用させてもらってるんさね。とはいえ、完全に同一じゃないんだわさ。そこは、『燃料』の違いなんよ!」


 アイリスたちの運営していたゲームである『フラワリングドリーム』も同様に異世界で開催されていたが、こちらは少しおもむきが異なる。

 スキルの『燃料』となる力はどちらも魔力に変わらないが、アイリスたちは魔力を直接は使っていない。

 言わば『サーバー』として電脳空間を構成する為に魔力は用いられ、プレイヤーはその中の世界でスキルを使う。


 つまりは、一度データとして加工され変質した魔力を使うために、スキルシステムにも手が加えられているのであった。


「でも改造するっつってもな? 中身のパーツは案外そのままだったりするんよ。完全にオリジナルで作ったのなんか、その独自の燃料入れる用のエンジンくらいなのよさ」

「……なるほどね。つまり、夢世界におけるエンジンがどこかを特定してしまえば」

「そっからはもう組みかえ放題なんよ!」


 そう聞くと簡単そうに思えてくる。いや実際はもちろんシステムは複雑に暗号化されており、そうそう一目見ただけで分かるような物ではないはずだが。


「とはいえ、希望が見えて来たか」

「その意気なんさ! よっしゃ! 私もお兄ちゃんにコツを伝授してやるのよ!」

「アイリスー? あなたは仕事に集中してくださいー」


 手ごたえの無さに疲れたらしいアイリスがこちらへ来ようとするが、カナリーにより阻止されてしまっていた。

 そんなアイリスに報いるためにも、ハルも遊んではいられない。

 なんとかスキル生成を形になる所までは仕上げ、そして出来れば、あの世界樹に通用する構築を見出みいだしておかねばならないのだった。





「やっぱり、<天衣てんい>が鍵じゃないかと思うんだ」

「おっ? <転移てんい>か? 木ん中に直接入って、内部から吹っ飛ばすんな」

「アイリスー。お仕事ですよー?」

「やってる! やってるんよ! あたしだって神なんよ? 喋りながら仕事くれーは、」

「割と出来てないっすよね? 口を開くと夢中になっちゃうといいますか」

「まあいいじゃないかカナリー。ちなみにそっちの<転移>じゃないねアイリス。ユリアの<天衣>、透明化スキルだよ」

「あれなー」


 正確には透明化ではなく、気配を消しあらゆる物を透過してしまう完全隠密スキルだ。

 スパイの為にあるようなこのスキルだが、実はある意味で、無敵の世界樹に唯一土をつけたスキルともいえる。


 あらゆる攻撃を防ぎ、あらゆるエネルギーを遮断する世界樹。当然、その身で塞いだエリアは絶対の侵入不可領域。

 しかしユリアの<天衣>だけは、そんな世界樹の守りも物ともせずに、難なく封鎖エリアへ侵入してみせた。


「完全な無敵ではないってことだ。そこに光明こうみょうが、あればいいなあ……」

「ユリアちゃんのスキルも、また完全な無敵スキルではなかったですしねー。これは、三竦さんすくみですよー?」

「そうなんすかねえ?」


 三竦みかどうかはさておき、<天衣>もまた完璧なスキルではない。それも事実だ。

 透過中も人間的な活動をする為に、接地だけは避けられないという制限があり、つまり重力にだけは影響を受ける。

 そのため<星魔法>による重力操作で簡単に捕まえることができ、ユリアは何度もハルの前で醜態しゅうたいを晒してしまったのだった。


「既にちょっと懐かしいですねー。重力トラップに引っかかって、女の子のしちゃいけない格好で床にへばりつくユリアちゃんー」

「忘れてあげなさい……、本人はもう忘れてるんだから……」


 ユリアは元気にしているだろうか。残念ながら、いや幸運なことに記憶を引き継ぐ才能はなかった彼女は、今は夢世界のことなど忘れ、以前と変わらぬ現実を過ごしているはずだ。


 そんなかつての仲間でありライバルだった少女のことを思いつつ、ハルは彼女の残してくれたヒントを、いかに攻略に役立てるかを考える。

 なんだか、かつて居た仲間が力をくれる展開のようで、熱いものを感じるハルだった。いや、別にユリアは死んだわけではないのだが。

 ただもうハルを思い出すことはないだろうし、こうして絆を感じられる気がするのはやはり嬉しいものだ。


「そもそもどういう原理なんすかねあれ? いや、普通のゲームなら分かるっすよ? 単に接触判定オフればいいだけっすから。ただあのゲーム、完全ではないにせよ物理法則が再現されてるっすよね?」

「確か『隣り合う別次元に身を潜めてるー』とかー、ハルさん言ってましたよねー」

「ゲームではありがちじゃないか」


 ただのゲーマー的発想というだけだ。何も根拠はない。こうして改まって指摘されると、少々恥ずかしいハルだった。


「ただ、まったくもって的外れって訳じゃない気がするんすよね、ハルさんのそれ。ほら、運営がエリクシルちゃんじゃないっすか。謎のエリクシル空間を知り尽くした彼女だからこそ、そういう応用もあるのかなー、と」

「ふむー。『透華ワープ』もありましたしねー?」

「……あの子の力を元にしている、ということもあり得る。のか?」

「無いとは言えませんー」

「なにせスキルシステムの大元は、そういった超能力っすからね」


 だからこそ、オリジナルたる<超能力系>スキルは特段使用料が高くなっている。なので大した出力も出せず燃費も異常に悪いのに、レアスキル扱いになっていたのであった。


「エリクシルしか知らない根源のスキルを追加したことによって、世界樹、アメジストも想定外の能力が生まれた可能性か……」


 証拠はないが、そうしたこともあり得るという話であった。


「まあとりあえず、これで引き分けには持ち込めそうっすね! 世界樹が触手でビシバシしてきても、<天衣>で引き篭もれば完全回避っすよ! 物理攻撃しかできない奴なんて、めじゃないっす!」

「いやだめだろ、そんな時間かけたら……」

「なんかの企みが、進行しちゃいますよー」

「でもどーすんすかあー。世界樹も<天衣>に巻き込めば、なんとかなったりしないっすよねえ……」

「うーん。一部だけを巻き込めばー、そこだけ栄養供給が途絶えて腐り落ちたりー」

「そう都合よくいくかね……」


 可能ならそうやって<天衣>を攻撃手段として転用できれば、言うことはないのだが。

 そこは、先ほど言っていたように、スキルに使われているパーツを構造解析し組みかえて、いかに凶悪に応用できるかといったハルのセンスに委ねられていた。

 それに関してだけは、正直やってみないことには何も分からない。


「よーし。ではー、本番に向けてとっくんですよー? 手始めにー、こっちの世界で色々とヤバいスキルを作ってみましょー」

「あー、カナリー? それなんだけどな?」

「どうしましたー、アイリスー。口もいいけど手を動かすんですよー?」

「いやな? だからな? なんか、繋がっちまったんよ……」

「あらー?」

「凄いじゃないかアイリス」

「いや偶然たまたまな? 私も、驚いてるんよ……」

「もしかしたら世界を救ったかもしれないっすねアイリス。このままいったら、特訓の名目で加減を知らぬハル様と無責任のカナリーが、プレイヤーが見つけたら一瞬でゲームが終わるようなヤバいスキル作ってたかも知れないっすよ?」


 そんなことはしない。と思いたいハルだ。

 その危険性はともかく、ほぼぶっつけ本番となってしまった。だが、ここまで来たらやるしかない。


 もしどうにもならずとも、まだまだ事前に用意していたカードは残っている。イシスが何とかしてくれる可能性だってある。

 そんな行き当たりばったりで、ハルは再び夢世界へと取って返すのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
なるほどつまり、燃料を核にするかコジマにするかコーラルにするかの問題はあれど、パルスキャノンだろうがミサイルランチャーだろうが建築資材だろうが武器の形は変わらないので、例えば貫通属性でもうどくの状態異…
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