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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部終章 信仰から生まれるもの

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第1484話 やはり無能力勝負はあきらめよう

「なるほどそれで。で、私はどうすればいいんです?」

「さて? とりあえず、イシスさん連れて来れば何とかなるかなって」

「なんとかなる訳ないじゃないですかぁ! 無理ですって、私もスキルなしじゃあ」

「なるほど? そうなんだね」

「そうですよー。当然じゃないですか。ずっとスキル任せでやってきたんですから」

「寝そべってポテチ食べながらね」

「ぽ、ポテチは関係ないです……」


 ハルたちは通常業務中だったイシスを呼び出すと、この夢世界へと共に来てもらった。ハルを除けば最も<龍脈接続>のスキルに長けた彼女なら、何かを見出せることを期待してだ。

 しかしそんなイシスでも、やはりスキル無しではどうにもならないようである。まあ、当然といえば当然か。


 ハルたちは今かつてはプレイヤーで賑わっていたテーブル樹木の上にまで来ており、その今の世界では唯一といっていい広く落ち着いたフィールドにて、色々とテストをしていく予定だ。

 テストの行く末は、今のところなかなかに難航する予感。


「ハイレベルプレイヤーに現実で『魔法を使ってみて』って言ってるようなものだしね」

「頭の調子を疑われちゃいますよ。ゲームのやりすぎでおかしくなったのかと」

「まあでも僕は実際に使える訳だし」

「そうでした。ハルさんは色々と本当におかしいんでした……」

「失礼な人だ」


 ただ、ハルも『おかしいから』というだけでリアルに魔法が使えている訳ではない。

 そこにはそれなりに、筋の通った法則が存在するからこそ使えるようになっている。


 ならば同様に、イシスの才も何かしらの法則に則ったものであり、スキルシステムの補助がなくとも発動が可能なのではないかと思ったのだが。


「すぐには難しいか……」

「すみません。今まではごく一般的な、事務員だったので。魔法使えとかそういうぶっ飛んだ業務は、ちょっと」

「現代の事務も昔から比べればぶっ飛んだ魔法みたいなものだけどね」

「確かに。エーテルネットが無い時代なんてどうしてたんでしょうね?」


 その当時を知るハルからすれば、イシスら現代人のやっていることなど魔法に等しく映るだろう。

 生まれた時からそうした環境下で訓練された彼女であれば、あとは少し視点を変えてやるだけでエーテル操作も魔法行使も大差ないとハルは思うのだが。これは旧世代の人間による過度な期待だろうか。


「でもその理屈なら、やっぱり私なんかじゃなくってハルさんがやった方がいいのでは? コツをよくご存じでしょうし」

「それが、僕じゃダメなんだよ」

「ハルさんでダメなら、私なんかもっとだめだめですよぉ」

「そうでもない。基本的に僕はね、こうした神様のゲームと相性が悪いんだ」

「ええ~~! うっそだぁー」

「僕は嘘つきだがこれは本当だよ」


 ハルはその脳構造の特異性により、通常の『人間』として判定されていない。

 なので一般的な人間に向けて作られた神様たちのシステムとは、基本的に相性が悪かった。これは本当に、最初から一貫して変わることがない。


 そのうえで、有り余るスペックにより力押しで、強引に攻略してしまっているのがハルのいつものパターンなのだ。


「だからさ、『本来のターゲット層』であり、そのなかでも突出した才能を持つイシスさんなら、もしかしていけるんじゃないかってね」

「で、でへへへへ。そ、そうですかねぇ。わ、私、そんなに才能なんてありませんよぉ~~」

「あ、嬉しそう」


 いつも自分を低く見積もってはいるが、褒められてまんざらでもないイシスなのだった。一目で分かるほどデレデレしている。


「……はっ! こんなところを社長に見られたら何て言われるか!」

「今もルナはモニターしてるよ」

「うげぇ!!」

「嘘うそ。この世界には通信が通らない」

「本当に嘘つきですねハルさんは! それもしょーもないウソばっか!」

「まあ、致命的な嘘つくよりはいいってことでさ」

「それは、そうですが!」


 ちなみにルナは女の子らしからぬ『うげぇ』に最も反応し顔をしかめることだろう。イシスは命拾いしたようだ。


 そのようにハルにおだてられてイシスも少しはやる気を出してくれたか、アイリの真似をするように両手に力を入れて、ぐっ、と気合を入れて見せる。


「じゃあ、とりあえずやってみますね。き、期待しないでくださいね……!」

「ああ、頑張って。期待しているよイシスさん」

「なんでそんないじわる言うんですかぁ~~」


 こうして反応がいいからだろうか。なんとなく弄りたくなってしまうハルだった。


「……うーん。とはいえやっぱり、何か感じるとかそういうことは、ありませんねぇ」

「そうすぐに成果を求めたりはしないさ。ゆっくりやってね」

「はい。どうにかこうにか、やってみます」


 イシスは目をつむって精神を集中させたり、うんうん唸って手を突き出してみたり、お尻を気にしながら四つん這いになって地面をぺたぺた叩いたりしてみていた。


 スキルがあった時は特に手で触れることは能力の発動条件に含まれてはいなかったが、今はなにかと地面、つまりは龍脈に向けて手を差し出している。これは無意識だろうか?


「どう? 何か手ごたえあった?」

「いや、分かりません……、ない、と思います……」

「なんだか必死で魔法を出そうとしている小さな子みたいだったねイシスさん」

「ハルさんの馬鹿ぁ! やめてくださいよタダでさえ恥ずかしいんですからぁ!」

「いいじゃあないか。童心どうしんに帰れて」

「うううぅ」


 へたり込んで真っ赤になってしまったイシス。あまり大人の女性をからかうものではないかも知れない。ルナが居たら、ハルも怒られてしまいそうだ。


「……まあ真面目に言うと、地面が気になってるみたいだね」

「えっ、あっ、はい。やっぱり龍脈は地面の下だから、そっちに意識を向けた方がいいかなぁって」

「それじゃあ、ここからじゃ位置が悪いかも知れないね」

「あっ、確かに」


 ハルたちはいま地上より高くそそり立った巨大樹の上に居る形だ。世界樹の本体には及ばないまでも、地面、いやかつての地下にあたる位置から見れば高所にあたる。

 それだけ龍脈からは距離があり、それが能力行使の妨げになっているのかも知れない。


「じゃあ、下りてみましょっか」

「そうしようか」


 二人は階段状に張られた細い根の道を通り、世界樹へ続く太い根の上まで移動する。

 その位置こそが、かつて龍脈の通っていたラインそのもの。当時よりもずっと近い、ゼロ距離からのアクセス位置だ。


「ここなら、より龍脈を感じやすいんじゃないかな? やってみて、イシスさん」

「で、でもですよーハルさん。ここでやってダメだったら後がないというか、いよいよ終わりというか。緊張しちゃいます。なのでもう少し上からやって、刻んでいきません?」

「はよせい」

「ひやっ! せ、セクハラですよぉー」

「大丈夫。ここでの事は記録に残らないから」

「とんだブラック企業に勤めてしまった……」


 よくわからない臆病さを発揮する愉快なイシスを、背中をはたいてハルは急かす。

 別に、失敗したら失敗したで問題ない。次の手を考えるまでだ。イシスが考えるような深刻な事態ではなかった。


 そんなイシスも覚悟を決めて足元の道のように巨大な根に手を当ててみるも、やはり反応はかんばしくない。


「やっぱりだめでしたぁ……」

「その姿勢で言うと本当にものすごく落ち込んでるみたいだね」

「むぅー。私をいじめてる場合じゃないですよハルさんー。さっきも言いましたが、これより下はないんですから」

「そうだね。厳密にはまだ世界樹の奥になるはずだけど、こいつの皮をぐことは出来ないからなあ……」

「世界最強ですからね」


 なのでこの位置が、事実上の限界距離だ。

 かつての霊峰れいほうの地下、源泉のあった場所や世界樹のみきにまで行けばもっと直接触れられる位置はあるかも知れないが、イシスの身体能力ではそちらは厳しい。


「それで、どう? 何か違いはあった?」

「あった、ような気はします。ですが気のせいかもですし、具体的にどうとは……」

「気がするだけでも十分さ。その直感を大事にしていこう」

「しかし、これ以上はどうしようもないんですよ?」

「いや、そうでもなかったりする」

「??」


 直接触れても駄目なのにハルは何を言っているのか、とイシスが不思議がるが、ハルは気にせず次の作戦に向けて準備をする。

 彼女には申し訳ないが、最初からこれでどうにかなるとはハルも思っていなかった。


「どうして、今はあえてルナたちをあっちに置いて来たか分かるかい?」

「私にセクハラするためですか!」

「違うよ! ……あの子たちなら、この世界からでも連絡が取れるからだね」


 あらゆる通信が通じぬここ夢世界からでも、ハルたちだけは例外だ。その魂の繋がりは、この空間ですら途絶えはしない。


 ハルはその繋がりを通して、目覚めている彼女らにとある合図を送って行くのであった。





「……なにをされてるので?」

「心の命綱いのちづなを通して、信号を送っている」

「オカルトすぎる……、いや夢見る乙女でしょうか……」

「残念ながら事実さ。確かにアイリは喜ぶねこの通信」

「心臓から蜘蛛くもの糸が出てるようなイメージですね」

「なんかすぐ切れそう……」

「あっ、知らないんですかハルさん。蜘蛛の糸って、なんか強いんですよ。鉄のワイヤーより強いとかなんとか」

「物知りだねイシスさん」

「仕事中暇なときに、雑学仕入れるのはかどりましたから!」


 ちなみに実際にワイヤーと単純に引っ張り合いをして蜘蛛の糸が勝つ、という訳ではない。そこは注意が必要だ。


 そんな雑談をしつつ待っていると、現実側から返答が返って来た。最近はだんだん、メッセージを送ることにも慣れてきたハルたちだ。帰還信号との差別化もできている。


「ちなみに何を?」

「見ていれば分かるよ」

「??」


 またも不思議がるイシスに、ハルはあえて説明をしない。語らぬままでイシスが変化を察してくれれば、それが最も確実な成果となるからだ。


 そして、ついにハルの期待通りに、イシスがその変化を敏感に察知し興奮してハルに告げてきた。


「あっ! ハルさんハルさん! なんか来ました、本当に来ましたよ!」

「おお、凄いじゃないかイシスさん。やっぱりスキルなしでも、感じたんだね“これ”」

「ふえ?」

「この変化を感じたってことは、やっぱりイシスさんは才能あるよ。あとは、ここからどうやって使いこなしていくかだ」

「そろそろ説明してくださいよぉ! 結局外から何したんですかぁ~」

「ごめんごめん」


 ハルはイシスに、ルナたちに何を頼んでいたかを説明していく。といっても、ルナたち自身は特に何かをした訳ではない。傍にいる神様たちに連絡をしただけだ。


 その結果なにが起こったかといえば、外部からの干渉により龍脈エネルギーが溢れ出てきた。

 これは、攻略最終盤になってハルたちが編みだした数少ない夢世界への干渉法。エーテルネット上に特定のノイズを走らせることにより、龍脈のエネルギーを増加させられる。

 当時はこれを使い、龍脈砲の緊急装填(そうてん)に使ったものだ。


「あの時は、龍脈変異体の発生源にもなるから一瞬でしかやれなかったけど、ゲームクリアした今なら問題ないしね」

「なるほどぉー……」


 外部からのアクセス手段を見つけたはいいが、あまり活用できる場面はなかった。実行役のエメとしても、この作戦を聞いて盛り上がっていたようである。


「あとは様子を見ながら、イシスさんが感じた感覚をより鮮明にして、可能ならまた操れるように頑張ってみようか」

「が、頑張ります……!」

「体調がおかしいとちょっとでも思ったら、すぐに言うんだよ?」


 これで、第一の関門かんもんはクリアといっていい。一切なんの手出しも出来なかったこの世界への、最初の侵攻の一手である。


 だが、これではまだ足りない。なによりイシス一人に頼りすぎだ。

 ならば万丈や情報屋など他の記憶継承者も呼び寄せるというのもアリだが、彼らはまだ明確に味方とも言い切れない。


 ならば、ここはハルたち自身も使い物となるよう環境を整えなければなるまい。

 それにはやはり、スキルの復活が求められるところであった。


 どうにかして、スキルシステムをもう一度引き入れる。しかもアメジストの目を盗みつつ。なんとも、厳しい綱渡りになりそうなのだった。

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― 新着の感想 ―
環境再現は大切ですねー? どうでもいいと思っていた要素が思わぬ働きをしている可能性も考慮しなければならないので、寝そべってポテチを食べながら、流し見できるような番gーーー監視対象を探すつもりで使用する…
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