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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部終章 信仰から生まれるもの

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第1483話 無能力者の戦い方?

「図らずも自動でエリクシルルートに入ったってこと?」

「うん。アメジストルートは今回は選べないみたいだ」

「二周目に期待」


 帰宅し状況を報告したハルを、そんな言葉でユキが出迎える。

 二周目だなんだというのは、ルート選択の存在するゲームで稀にある、『選択肢は表示されているけれど選べない状況』の事である。


 初回のプレイではまず決まったルートを遊ぶしかなく、一度そのルートを見た上でないと違う選択肢を選ぶことはできない。

 多くの場合、封鎖されているルートには物語の根幹に関わるネタバレが存在したりするものだ。


「二周目ってなんの話よ……」

いにしえのエロゲーの話」

「いや別にえっちなゲームに限らないけど……」

「今更取り繕うなハル君。昔はよくエロゲー談議で盛り上がったじゃないか」

「男性となんの話をしているの。はしたないわユキ?」

「そこで怒られるの私なん!?」


 ルナの判断基準は少々特殊であった。


「つまりアメジスト様のルートが、“ぐらんどるーと”ということなのです……!」

「そうだねアイリ。いやどうだろうねアイリ……」

「もしかすると、何らかのパラメータが足りんかったパターンかも知れん」

「アメジストポイントが、足りなかったのです! “せーぶでーた”から、やり直しませんと!」

「いや別にそこまでしてアメジストルート入りたくもないかな……」


 残念ながら、現実にはセーブデータも二周目もない。この状況にやり直しはきかないのだ。

 かといって、消去法でエリクシルの言う通りに事を進めるのも何かが違う。そもそも現実には選択肢なんてものも出ないので、必ず両者のどちらかを選ばないといけない訳でもない。


「……放置するか?」

「その場合、アメジストが目的を遂げるのかしら? エリクシルは、一度ハルが下している訳ですし」

「そうとも限らんよルナちー。ジスちゃんは確かに今まで好き放題にやってたけど、それが夢世界にどこまで通じるかは未知数じゃ」

「……そうですね。ゲームとしては終了しましたが、それがエリクシルさんの力を封じることに繋がった訳ではありません。この先は、アメジスト様とエリクシルさんの一騎打ち、ということになるはずです」

「だね。クシるんはむしろ、ゲーム運営として割くリソースを全部使えることになるかんね」


 そう、ハルたちが協力しなければ、即座にエリクシル不利となる訳ではない。

 こちらとしては二人には、互いに潰し合ってくれた方がやり易くなるくらいだが、さてどうしたものだろうか。


 現在攻め手であり何かを積極的に進行しているアメジストを止めたい気分もあるハルだが、一方であの世界樹はエリクシルを牽制けんせいするくさびとしてあそこに残しておきたい。

 問題となるのはやはり、アメジストがどこまで状況を進行させているか、それに尽きるだろう。


「……結局、キーになるのは透華の存在か。アメジストが情報を出し渋る程の何かを見つけたというなら、彼女の進める作戦もそこと関連している可能性は高い」

「では、わたくしたちもそこを調べれば、あるいは?」

「調べてどうにかなる保証もないしなぁ」

「そうね? そもそも私たちには、彼女らの領域を調査する能力に欠けているわ? そこは、大人しくエメたちに任せましょう」

「となれば、やることは一つなのです! やれることを、やりましょう!」


 結局、アメジストの活動範囲が謎であるうちは、ハルたちから仕掛けることは出来ない。

 しかし、ここにきてようやく、思わぬ方向から彼女の尻尾を掴める可能性が見えてきた。


 織結おりゆい透華、エリクシル。そしてアメジスト。それらを結んだ一本の線の上に、求める答えが存在している。そんな予感をひしひしと感じるのであった。





「到着です! わっと! 足場が、大変に大変なのです!」

「木の根を渡るアクションステージじゃ! 落ちたら、ゲームオーバー」


 さて、ハルたちは自分達に出来ることをするべく、再び夢世界へとログインしてきた。

 世界樹だけが残ったゲームフィールドは広大な大地が消滅した後も、その中に伸びていた根だけがその世界の大きさを物語る証人として残っている。


 これを用いて何かをすることがアメジストの企みであり、逆にこれを駆除したいのがエリクシルだ。

 ハルたちは両者の勝利条件のどちらかに肩入れするか、またはその両方を上手く回避しなければならない。


「しかし、来たはいいけど。……なにすん?」

「勢い勇んでいたじゃないのユキ。何か考えがあったのではないの?」

「ない!」

「いきあたり、ばったりなのです!」

「まあ実際、来てみないと分からないからね」


 ハルは先に一人で探索してみたが、ユキたちはクリア後初めて。その目で現状を確認してみねば、考えも纏まらぬことだろう。


「よし! 木登りしよう!」

「ああ、それはもう僕がやった」

「じゃあいいか!」

「ここから登るのは、たいへんなのです……!」

「私はちょっと、出来る気はしないわね……」


 山ひとつ登り切るジャンピングアクションは、ハルとユキ以外ではきつそうだ。いくら身体能力が高く設定されているこの世界とて、運動神経には大きく差がある。


 よって今度は世界樹本体へと向かうのはやめて、その逆側、一般プレイヤーの住んでいたテーブル樹木の大地の上を一行は目指すことにした。


「……あそこへ繋がっている道はどれかしら? 外したら、リカバリーが絶望的ね?」

「こっちだよ。龍脈地図は憶えているから、それは大丈夫」


 川のように枝分かれする世界樹の根は、放射状の進行方向へ進むのは楽だが横移動が難しい。

 根と根の間は飛び移るには遠すぎる距離で、マップを見れば葉脈ようみゃくのように密集しているそれらも実際に見れば広く切り立った崖の渓谷けいこくに等しい。

 まるで『あみだくじ』の正解ルートを選ばなければ、全く違う場所へと出てしまう迷路のようになっている。


「スキルも消えてるしねー。こりゃ私でも、走るのは厳しい」

「ユキさんでもですか!?」

「うん。風景が単調すぎて、飽きる」

「そんな理由なのね……」

「まあ確かに、世界樹以外になにもないからねえ……」

「んー。来てみたはいいけどこれってさハル君。うちらに何ができるん? スキルはなくなったし、相手はあの無敵の世界樹さんだぜ? 活用するにも駆除するにも、手出しのしようがない」

「確かにそうです! わたくしたちも強くなっていますが、世界樹は、無敵です! たあ!」


 アイリが足元の根を思い切りパンチするが、世界樹の根はなんの痛痒つうようも感じていない。

 一切の破壊を受け付けない仕様外の存在。プレイ中は便利に使ったが敵に回ると実に厄介だ。


「……帰らん?」

「判断はまだ早いよユキ……」


 だが、ユキの感想ももっともだった。

 スキルがあってなお無敵の存在を、スキル無しの今どうしろというのか。いや仮にどうにか傷がつけられたとして、一般のゲームよりもはるかに広いこの世界中に根を張った世界樹を、手作業で伐採ばっさいし尽くせるものだろうか?


「……確かに。それは実に楽しい楽しい単純作業になりそうだ。配信すれば、偉業を讃えるファンがつくレベル。帰るか」

「ハルさんも、未来に絶望してしまったのです!」

「かかる時間を計算したわね……?」


 そういった膨大な単純作業を楽しむことは確かにあれども、今やりたいことではない。

 エリクシルはどうやって、これを伐採する想定でいるのだろうか? 何か革新的な力を授けてくれる予定でもあるのか。


 ……いや、人間とは異なる感性を持つだろう彼女だ。地道に何十年もかける想定である怖れだって十分にあった。


「前みたいに、世界樹の操作は出来ないのかしら?」

「出来ないね。<龍脈接続>も無くなっているから。あれを戻してもらえれば、またアクセスが可能になるかも知れないけど……」

「更になんか問題?」

「うん。アメジストに操作をロックされているかも。彼女、既にこの世界に姿を見せることも出来ているしね」


 世界樹の力が、ハルがエリクシルを倒す為に女神アメジストから与えられた加護だとするならば、役目を終えた今そのボーナスタイムはもう終わり。加護は女神に返却された。

 そんな今はもう人間たちに出来る事などなく、あとは神々同士が戦うのを見守るしかないのか。


「……いや。まだやりようはあるか。返却を免れた、彼女らにもどうしようもない力が僕らにはある」

「なんと! それはいったい、なんなのでしょうか!?」

「龍脈だよアイリ。龍脈は依然いぜん、この根の中に通っている。そしてそれを感じ取ることが、イシスさんになら出来るはずだ!」

「ハル君じゃないんかーいっ!」

「人任せ、だったのです!」

「結局私たちには、何も出来ないのねぇ……」


 仕方がないのだ。無理なものは、無理なのである。


 しかしゲームが完全に終了し、夢世界への道が閉ざされた後も、イシスを始めとした記憶継承者の記憶が消えることはなかった。

 それは彼らが、この世界から得た何らかの影響を保持し続けている証拠に他ならない。


 龍脈を使い何かを成すことがエリクシルの目的である以上、その成果を手放す理由もまた存在しない。対策の方向性としては、間違ってはいないはずだ。

 問題があるとすれば、それがエリクシルの目的達成を進行させてしまう可能性と、再び無関係なはずのイシスを巻き込むことになることだ。


「そうね? あの子もうちの社員になったことだし、このくらい手伝ってもらっても構わないでしょう。特に最近、たるんでいるようですし?」

「わぁ。ルナちーが鬼上司の顔してる」

「そんなことないわ? あまり暇だと、仕事をしている実感もないだろうと思って、彼女のことを考えてあげているのよ?」


 ハルがイシスを巻き込むことを躊躇していると、その間にルナが率先して彼女を巻き込むことを決めてしまった。

 これはまた甘さを読まれて、ぐだぐだと悩むことを封じられたのだろうか。それとも、また汚れ役を引き受けさせてしまったのだろうか。


「……よし。そうだね。まずは、イシスさんにこのことを相談してみよう。それで彼女がやると言ってくれたら、またこっちに来てもらおうか」

※誤字修正を行いました。一部文末がばっさり欠けている部分がありご迷惑をおかけしました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
いえいえー、グランドルートは素知らぬ顔して死者蘇生してくる透華ルートで確定ですねー? アメジストルートに入るには御三家を生贄に捧げて超能力開発のレシピを獲得、織結の玩具を使い世界中に怪電波をばら撒き、…
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