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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部終章 信仰から生まれるもの

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第1472話 世界樹を作りし者

 長すぎる世界樹の根を伝い、太すぎる世界樹のみきにたどり着く。いや、よく見ればそれはまだ幹ではない。何本も束ねるように連なる、垂直に近い角度で地底に伸びた巨大な根だった。


「これは、山頂から山の内部に張った根だね。ということはここは、かつての坑道の内部ってことか」


 今は世界と共に崩壊し、跡形もなくなった巨大な鉱山をハルは思い出す。

 ハルたちが独占し、序盤からずっと資源の供給を担ってくれた大坑道。その面影を、坑道にそってう形の根が今もかすかに残していてくれた。


 ついこの間の事にすぎないが、なんとなく懐かしい想いにかられるハルだ。

 特にこの鉱山を中心に遊んでいた頃は、まだまだ制限も多く皆でわいわいと協力しながら楽しんでいた。


「こうなっても、プレイヤーの身体能力は健在か。よかったよ、通常の肉体で木登りするには、この世界樹は少し大きすぎる」


 ハルは迷路のように複雑に入り組んだその根に手をかけると、肉体能力任せに力いっぱい引っ張り上げる。


 その勢いで砲弾のように飛び上がったハルは、かつて坑道に沿っていただろう根の上に着地。続いて大きくジャンプし次の根へと飛び移る。

 そんな風に、木登りというよりはアクションゲームの巨大樹ステージのように通路の隙間から次の足場を上へ上へ。

 かつての霊峰れいほうの標高を垂直に飛び上がってゆくようにして、その根の迷路を昇り切ったハルだった。


「よし。到着! 幹に着いたってことは、この辺がかつての僕らの城か」


 うねうねとからみ合う迷路を抜けて視界が開けると、景色も高所から見下ろす形の絶景に変わっていた。

 大地はまるきり無くなっているが、この景色にも見覚えがある。

 時計の中心から、片側六個の文字盤を見下ろす形の半円。かつて見慣れた、霊峰のふもとに広がる魔物の領域、その中に作ったプレイヤー用の居住区画だ。


 城から眺めたその記憶の光景と一致するこの位置こそが、かつて仲間と生活したその場所ということで間違いないだろう。


「……なんだかんだで、楽しかったよね。その点は、エリクシルに感謝しないと。いやまあ、一方で思い出されるのは口の中いっぱいに広がる甘ったるい味なのが悔やまれもするが」


 そんな、『世界樹の吐息』をがぶ飲みさせられた事も今となっては良い思い出だ。たぶん。恐らく。比較的には。


 ハルはそんな脳裏を駆け巡る数々の思い出を懐かしみつつ、今度は一面の視界を塞ぐ壁でしかない巨大な幹へと手をかけて、更に世界樹の上部を目指す。

 既にずいぶんと苦労して山登りもとい木登りをしてきてはいるが、実際のスタートはここからだ。本来の木登りならばここがゼロポイント。


「『樹道きどうエレベーター』が吹っ飛んだ今、よじ登るしかないのがなんだかなあ」


 水平に這う根が無くなったここからは、ロッククライミングのように壁をよじ登って進むしかない。

 それでも時おり飛び出た枝を見つけると、そこを足場にハルはジャンプし、強引なショートカットをはかる。

 そうして登って行くことしばらく。ようやくハルは、壁のような幹を抜けて枝のエリアへと到達した。


 そこからは早かった。枝から枝へ、飛び移りそして駆け抜ける。一直線の坂道を進むように容易。そして踏み込む足場も選び放題だ。

 細い枝を踏み折って足を踏み外す心配はない。どんなに小さな枝だろうと、この世界樹の一部。無敵の耐久力で壊れる心配など皆無かいむであった。


 そんな、文字通り『山のような』世界樹を登り切ったハルは、ついにかつての世界樹飛行場、そして世界樹研究所の跡地に到着した。


 世界樹の葉の内部に隠された、飛空艇を収める秘密飛行場。そしてその開発を行う製造施設の数々。

 設備類は既に消滅してはいるが、その骨組みは全て世界樹の枝によって組み上げられている。そのため形は丸ごと、今も変わらず保存されているのであった。


 特に飛行場などは、内部に唐突に空っぽの大ホールが登場したようで秘密基地感が満点だ。


「ここがゴールでもいいけど、どうせなら、本当のてっぺんにまで顔を出そうか」


 しばらく、その木漏こもれ日のおちる葉っぱの屋根の飛行場の雰囲気を楽しんでいたハルだが、ここでのんびりばかりもしていられない。

 外部との連絡の途絶えている今、あまり時間を掛けすぎては外のエメたちが心配するだろう。


 ハルは思い切りよく元飛行場の壁を垂直に駆け上がると、葉の屋根を突破してその上に。

 そして一気に、直接空の臨める世界樹の完全な『頂上』へとその身を乗り出して行ったのだった。


「絶景かな、と、言っていいのだろうかね果たしてこれは。いや絶景には間違いないんだろうけど……」


 天に最も近い場所から眼下に広がる絶景は、地脈に沿ってまるで血管のように広がる世界樹の根が織りなす神秘の経路図。

 確かにこうして世界の果てまで続く龍脈地図を一望できるのは感動的ではあるが、その一方でどうしても『不気味』と感じてしまう感覚もまた、ハルの正直な意見であった。


「うーん……、あまり直視するのは止めておこうか……」

「あら。ご自身の偉業の集大成、そんな言い方をしてしまっては不憫ふびんというものですわ? わたくしとしても、残念です」


 そんな龍脈地図から目を背けるようにハルが振り向くと、そこにはいつの間にか、この世界樹の精が姿を現していたのであった。





「ごきげんようハル様。またお会いできまして、なによりですわ。わたくし、ここのところずっとあなた様と会えなくて、寂しかったのですから」

「ならいつでも天空城に直接顔を出してくれて構わない。総力を挙げて歓迎しようじゃないか、アメジスト」

「うふふ」


 こうしてハルの力の及ばない所でしか、その姿をみせないゴスロリ姿の神様。

 紫の髪にフリル満載のドレスを纏った、幼さを残す少女の名はアメジスト。エリクシル同様に、いやある意味エリクシル以上に、やんちゃを続けているお騒がせの神様だった。


「君も、この世界に直接介入できるようになっていたのか」

「つい最近のことです。わたくしとしては、出来ればもっと早期に、そう、ゲームの開催期間中にこうして会いに来たかったところではあったのですが」

「……勘弁してくれ。ただでさえ大変だったのに、君まで相手するとなると流石にどうなっていたか分からない」

「ええ~、どうかそんなことはおっしゃらずにぃ~」


 挑発するように体をくねらせながら、びた声を上げてすり寄ってくるアメジストの頭を反射的にハルははたいた。

 絶妙に人をイラつかせる態度である。それでいて可愛いのも事実なのが、更にイラつくところ。


「あーんっ」

「あーん、ではない。そもそも君は、ここで何してんの……」


 元々、この世界に介入しようとゲーム開催期間の当時からハッキングを仕掛けていたアメジストだ。彼女がここに居ること自体には、ハルも不思議はない。

 むしろ、彼女のおかげでゲームクリアにかかる時間は短縮できたと言ってもいい。その感謝はあるが、それでも警戒は解けないのがこのアメジストという少女。


 むしろ共闘はここまで。ここから先は、ハルはアメジストも相手取って戦わねばならない事になる。そんな気がしている。


「それはもちろん、あなた様のお力になって、悪いエリクシルちゃんと戦う為にはせ参じたのですわ」

「嘘じゃないあたりが厄介だよねこの女……」

「どうか信じてぇ~」


 一応、信じてはいる。神様は嘘をつけない。

 彼女もハルと敵対する気はないのも確かだ。ハルを助け、エリクシルと戦う気なのも本当だろう。

 ただ一方で、自分の目的は何が何でも押し通すのも、それはそれで事実であるだけだった。


「わたくしの信頼の無さが悲しいですね。しかし、嘆いてばかりもいられません。かくなる上は結果を出すことで、ハル様に認めていただく所存にございますわ」

「大人しくしていてくれれば僕は一番嬉しいんだけどね」

「ですがそれではわたくしがハル様の目にとまりませんしぃ」

「マナー悪すぎだろう君……」


 ファンとしては実にマナーの悪い部類であった。確かに目立つは目立つが、それは『悪目立ち』というものである。


「……まあいいや。今更の話でもある。それで、けむに巻かないで答えるんだアメジスト。君はここで、何をしようと企んでるの?」

「あらら、誤魔化されてはいただけませんか。ハル様の助けになりたいのは、心の底からの真実ですのに」

「そこは、僕としても助けられたくはある。ただ場合によっては、逆にエリクシルと組んで君を打倒することになる」

「そして可能であれば、わたくしたち二人を共倒れにさせて美味しく頂いちゃおうとしているのですね。いけずなハル様」

「いけずではない。ではないが、勝手に争ってくれるなら非常にありがたい」

「あーん正直」


 最悪なのが彼女とエリクシルが互いに手を取ることだが、少なくともその心配は無さそうなのが今のところの朗報だ。


 どうやら二人の目的は対立しているようで、アメジストがエリクシルに同調するという事はない様子。

 ならば、そこから逆算し、彼女の目的もある程度は推測出来るかも知れない。


「……エリクシルは、無数の次元からのエネルギー回収を目的としているようだ。つまり君は、そうされては困る目的を持っている」

「一応、申し上げておきますと、エネルギーを枯渇こかつさせて地球人類を困らせてやろう、とかそういう野望ではございませんわ。わたくし、積極的にそこまではいたしません」

「それはよかったよ」


 とはいえ言い方が気になるところだ。消極的になら、やる気なのだろうか?


「ふーむ。困りましたわね? どのように語れば、果たして納得していただけるやら。わたくしの目的という部分では、それほど大きく変わったところなどない、ということでご安心くださいません?」

「いや元々の目的が全然安心できないし……」

「単に超能力者が日本にちょっと増えるだけですのに」

「じゅうぶんヤバいわ」


 一応、ハルも未来に向けた多少の革新ならば許容している。だからこそ、アメジストが行う学園内部でのゲームに関しては許容しているのだ。

 ただ、そこから更に手を広げようとするのは、どうにか思いとどまってほしいところ。

 彼女のことだ、少し目を離せば、際限なくスケールを大きく広げてしまいそうである。


「……まあいいや。目的がなんであれ、ぶっ飛ばして止めさせれば同じなんだし」

「まあ野蛮やばん。ハル様って大人しそうなお顔をしておきながら結構過激でいらっしゃいますよねぇ。いいと思います」

「何がいいのか……」

「とはいえ、それが可能かどうかはまた別のお話。今この世界では、わたくしが一歩リードしているのも事実。いえ、一人勝ちと言っても過言ではありませんわ」

「この世界樹だけで何かできると?」

「確かに今はただの大きなだけの樹ですけど、侮ってはいけませんよハル様。今でもこれは、世界中ほぼ全ての龍脈にアクセスできるのですから」

「ふむ……」


 やはり龍脈か、と確信を新たにするハルだ。確実に何かあるとは思っていても、それが一体何をつかさどっているのか、ついぞ分からぬうちにゲームは終わってしまった。

 ここからは、とうとうそこに踏み込む段階フェイズという事なのだろう。

 そして、何かを察しているアメジストと、当然ゲームマスターとして龍脈を利用しているエリクシルに、ハルだけが一歩遅れているのもまた事実であった。


 だが、悲観することはない。彼女らが欲していることから推測していけば、その正体もまた自ずと見えてくるはずなのだから。


「あっ、そうだ。良い機会だから訊ねておこうか」

「はい、なんでしょうか? わたくしに答えられることでしたら、なんなりと。どしどしと!」

「さっきは答えなかったくせに……」

「そこは、『わたくしに答えられない事』、ですので」

「……そうかい。まあ、それでね? アメジストは超能力の研究をしてるってことだけど、その中に透華って名前の女の子は居なかった?」

「ええ、居ましたよ? 織結おりゆい透華ですよね?」

「……織結」


 何でもない事のように、彼女は語る。いや考えてみれば、三家のうちのどれかであるのは当然なのだが。

 どうやら透華は、あの皇帝の親族であったらしいのだった。

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― 新着の感想 ―
ハル様もそこに山があるから、と山登りをするタイプの登山家でしたかー。とはいえ世界一の山でもありますからねー。思わず上ってしまうのも人情ってやつですかー。そもそも他にやることがない? またクソゲーを掴ま…
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