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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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1454/1796

第1454話 地上に生まれる宇宙

 全身をエネルギー体へと耐性変化させたドラゴンに、無数の範囲魔法が降り注ぐ。

 たった一つでも大破壊を引き起こし、街の一区画を壊滅させるような威力のそれが、続けざまに次々次々と、まるでその辺の石でも投げ込むかのような気軽さで飛んで来る。


 もはや、街並みを壊す心配をする必要などもない。今まで被害を恐れて使えなかったそれら過剰威力なスキルの集大成。ここで使わずにどこで使おうか。

 魔法使いたちのこのゲームにおける集大成の発表会。そして使う機会の無かったストレスの発散。そう言わんばかりの魔法連打は止まることがない。


「ハル! こんなにごっちゃになって大丈夫なのか!? ええと、属性相性とか!」

「確かに普通なら、これだけ雑多に撃ち込めばせっかくの高威力魔法の数々も、消滅相性によってほぼ相殺そうさいされてしまうだろうね」

「だよな!」

「けど、彼らの<天>に至った最高位の魔法には、『相性無視』のようなものが付いているらしい。対属性との干渉による影響を受けず、必ず自属性によるダメージを押し通す気のようだ」

「ほおぉー。の強い奴らってこったな! 嫌いじゃねーぜ!」


 ケイオスの言う通り、普通はこんなに大量の属性を考えなしに撃ち続ければ、必ずどれかは対応する属性と干渉する。


 隣り合う吸収相性ならばまだいい。一つになって、結局はデカい的(ドラゴン)にダメージが通る。

 しかし向かい合う消滅相性と重なってしまえば、ダメージをかき消し合いほぼ威力は無くなってしまうだろう。

 互いに戦争中なら、差し引きゼロでまだいいが、全員が味方の場合は無意味でしかない。


 しかし、魔導の極みたるそれぞれの上位スキルに至ったプレイヤーたちの放つ魔法は、何が何でも自分の得意な属性を押し通すという、ある種わがままな特殊効果で守られているようだった。


「これを待っていた! この時を待っていた! もう、俺の風は火属性の燃料には甘んじない!」

「風はまだいいだろ! 雷がどれだけ水に喰われてきたことか!」

「星とか虚って対人戦ではホント通らないからねー」

「適当に聖暗張っときゃいいだろで対策できちゃうね」

「そういう意味では雷も敵だ。奴は四不遇の中でも最強」

「最強ってか最優は生命属性じゃない? ヒーラーとして食いっぱぐれなし」

四不遇よんふぐうじゃないよ、四不遇すーぷーぐー

「なにそれかわいい」

「ユキさんが流行らせようとしてた」


「……うん。いろいろとゲーム環境についてはご意見があるようで」

「ああ、そりゃな。流行りの属性の隣が自分の好きな属性だと、色々キツいらしいぜ。みんなお前みたいに全属性使える訳じゃねーからな」

「なるほど確かに。特に、<天>に至るほど使い込んでいる人は、ずっとそれ一本の人も多かったろうしね」

「まあもう終わるから、これ以上環境に悩む必要もねーな」


 とはいえ彼らはそれでも良いかも知れないが、ハルとしてはそうもいかない。このゲームを模した新作を『受け皿』として現実に作り直すハルは、そうしたバランスに今後も頭を悩まさなくてはいけないことだろう。


「……さて、そんな先のことはともかく。とはいえ全員が<天>に至っている訳でもない。通常の魔法もまだまだ混じっているから、それは結構無駄になっているね」

「ぜんっぜん分からん……」


 水が逆巻さかまき、その上に雷電らいでんを纏い、それを突き破って風に巻かれた炎が飛び出してくる。

 そんな天地開闢てんちかいびゃく混沌こんとんを思わせる魔法の坩堝るつぼの内においては、多少の魔法がかき消えようとも誰にも気付かれないだろう。


 だがハルだけは違う。


「どれ、せっかく心を込めて放った魔法が、大したダメージも与えずに消えてしまっては最後の最後で寂しいだろう」

「どんな心込めて撃ってんだ?」

「さて? 『消え去れクソゲーとクソドラゴン』、あたりかな? 僕もそう思うよ、<煌翼天魔こうよくてんま>」

「うわビビったぁ! しれっと羽広げんのやめろやハルゥ!」


 ケイオスの抗議を無視してハルは<煌翼天魔>の翼を広げ、その十二枚の翼にそれぞれ対応した属性エネルギーを操り始める。


 この力は、例え敵の撃ってきた魔法だろうと自分の支配下に置いて自由に操り、吸収するも暴走させるも自由に扱える魔の道の絶対強権。

 そのスキル効果は、当然味方の魔法であっても自由に支配の対象に出来る。


「借りるよ君たち。その力、僕が十全に昇華させてあげよう」


 ハルはドラゴンを中心に原初の地球と化して荒れ狂う巨大な魔法の編みまりの中から、“ほつれた”糸だけをするすると抜き出してい直す。

 形を成さなくなっていた十二色の糸はたちどころに艶を取り戻し、編み直されて巨大な鞠に戻りその表情と装飾を増していった。


 混沌カオスの中にも調和のとれた美しさが生まれ、魔法使いたちの集大成として、このままずっと眺めていたいような作品へと仕上がっていく。


「ただ、少しまずいね。安定しすぎているがゆえに、効果時間が長すぎるか?」


「何か悪いの?」

「爆発力がない」

「これ爆発したらマズいって……」

「大丈夫だ。ここはもう、これ以上更地にはならない」

「次は俺らが吹っ飛ぶだろぉ!?」

「でも爆発というか、一気にエネルギー開放しないと」

「あっ、中のドラゴンさんか」

「また形態変化しちゃう?」

「裏返っちゃう!」

「そうなったらこの魔法もゼロダメ!?」

「私たちの卒業制作が!」

「なーに、もう一回撃ってやる」


 それでもいいのだが、色々と面倒な事情がある。やはり、このエネルギーはまた形態変化する前に全て叩き込みたい。

 次にまた魔法無効形態で飛び出して来たら、残ったこの危険物はハルと仲間たちにだけ牙をむくのだから。


「よし。悪いけど、ここまでにして僕が全ての魔力を接収せっしゅうさせてもらおうか」


 ハルは魔をべる十二の翼を広げて羽ばたき、美しい細工の施された巨大な鞠へと飛行しそれに触れる。

 次々と形を変えていた万華鏡まんげきょうのような表面はそこでピタリと動きを止め、次々と隣り合う色同士で溶けあってゆく。


 鮮やかで美しかったそれらは一気に退廃的にくすんでいって、最終的には二色のみに分かれそして透明に色を無くしていった。


「最後に、使い手に乏しかった<星魔法>と<虚空魔法>、その極地をお見せしよう」


 色を失った魔力の巨大なかたまり、その内部に輝く不定形のドラゴンが見える。

 表面を削られ身を縮めたその身は波打ちながら脈動みゃくどうし、また変身を控えている予兆に見えた。


 そうなってしまっては、この膨大な魔力も無駄になる。ハルは翼を更に輝かせると、二種類の魔法、その方向性を明確に定義づけていく。


「<虚空魔法>の真髄しんずいは空間の操作。<星魔法>は重力。これらを消滅させることなく高め続ければ、こうしたことも可能になる!」


 透明なボールに包まれているだけのようだったドラゴンの身に、いやボールの内側そのものに、異様な変化が起こり始める。

 巨竜の身はどんどん小さくしぼんでいき、後ろの背景を透過していた球体は、夜空を切り取って持ってきたかのように、暗く静かに灯を落とす。


「うちゅうだ!」

「虚空魔法は真空と宇宙の魔法!」

「極めれば宇宙を持って来れるってこと!?」

「凄い!」

「感動的だなー」

「てかなんか引っ張られてね?」

「宇宙だからな!」

「言っとる場合か!」

「ふんばれー!」

「ヴァンの後ろに隠れろ!」

「私の盾は引力は防げないのだが!?」


 その突如とつじょ地上に出現した宇宙は、同時に強力な力で周囲の空気を吸い込み始めた。

 これは真空だからではなく、<星魔法>による重力操作の影響。そして正確には吸い込んでいるのは空気ではなく、ドラゴンとプレイヤーたちによってさんざん周囲にまき散らされた魔力であった。


「この場の魔力全てを爆発させたら、さすがに僕でも防ぎきれない。だから、空間を拡張させて強引に距離を稼ぐとしよう」

「何が起こるんだハルゥ!?」

「それはもちろん、大爆発さ。見た目はさしずめ、地上で見る超新星爆発ってとこかな?」


 そうして、吸い込まれまいとそれどころではないプレイヤーたちの目の前で、地上に現れた宇宙の中心が、ドラゴンを巻き込んで地上で起こしてはいけない大爆発を起こすのだった。





「お、終わった……?」

「とりあえず、もう吸い込んでないみたい」

「危なかったぁ……!」

「敵よりもハルさんに殺されるとこだったぜ!」

「こっぱみじんこ!」

「おばけドラゴンと心中は嫌ぁ!」

イヤッホォウッ!」

「いいから、終わったのなら離れるんだ! 私から!」


 それぞれの防御姿勢で踏ん張っていた彼らも、嵐が去ったのを確認し順々に身を起こしていく。

 まさか最も死の危険を感じる瞬間が、味方であるハルによって引き起こされるとは思いもしなかっただろう。


「ドラゴンはぶっ飛んだかなハルさん!」

「あんだけ派手に爆発すりゃ、そりゃーチリも残らねーよソフィーちゃん」

「おお! やったね! ちょっとあっけないけど!」

「いや。まだ終わってないよ。皆、気を抜いてないで攻撃に備えて」

「まじかよ!」


 魔法効果を終えて次第に明るくなっていく目の前の球体。同時に、内部に取り込んだ“それ”が、黒いシミとなって中心から浮き上がって来る。


 取り込んだ時は白かったその色の変性は、それすなわち耐性変化の証。

 竜は間一髪かんいっぱつで、その身の全てを吹き飛ばされる爆発から逃れていたのであった。


「……効果が切れると同時に飛び出してくる! ヴァン、構えてろ!」

「とはいえ、また先ほどの作業の繰り返しだろう? そう慌てることはない。この私にかかれば、」


 だがそのヴァンの余裕のセリフは、最後まで発せられることはない。

 球体のおりから魔力が完全に消失し、中から姿を変えた巨竜が飛び出して来る。


「ってうおおおおおおおおぉ!? 速い! そして重い!」

「《ガアアアアアアア”ア”ア”ア”ッ! グルアァ!》」


 いや、もはや『巨竜』ではない。既に先ほどまでの堂々とした巨躯きょくはなく、その身は多少大きなモンスターといった程度。


 しかしその漆黒しっこくの鎧のようなうろこに身を包んだ軽躯は、ちっぽけな人間を狩り殺すにはちょうどいいサイズの身軽さを備えていた。


「ヴァンが押し負けたぁ!」

「いやまあアイツ盾頼りの半端者だから当然だけどさ!」

「追撃が来るぞ! 立て直せ!」

「空中で無茶を言わないでくれ!」


 この場には空中で体勢を立て直すくらい造作ぞうさもない者は多いが、残念ながらヴァンは対象外。身軽になったドラゴンの爪が、防御の空いた彼を襲う。


「イヤッホゥ! 手間のかかるおっさんだぜ!」

「助かった! 礼を言う!」

「イヤよく考えたら、おっさんをってる間に後ろから叩けばよかったか!」

「礼の言い損だ!」


 すんでの所で回避されたドラゴンの爪は、しかし執拗にヴァンと情報屋を追い続ける。

 彼らはおとりとして大量の龍脈アイテムを所持しているので、それを得ようと血眼ちまなこだ。


 ヴァンを引き寄せてなんとか窮地を救った情報屋だが、無理な姿勢では更なる追撃を避け切れずに、ついにその身に直撃を受けてしまった。


「……ぐはっ! 南無三なむさん年貢ねんぐの納め時……、ってあれ……? 死んでない」

「手間かけさせんなぁ? オレにも、周囲のみなさんにもなぁ。オレのスキルで、一時的にダメージを全体に分散しておいた! 痛みは皆で分け合うぜ。大部分はハルが食らうが!」

「……いいけど。僕は無駄にHP多いし。しかし、またサポート系のスキルなんだねケイオス」

「言うな! オレも気にしてるの! だから見せなかったの!」


 どうやらそうした星のもとに生まれたケイオスのようだ。

 しかし、直撃のダメージはハルのHPでもそうとうなもの。このまま防御の強いとは言えない彼らが叩かれ続ければ、ハルも持つとは限らない。


「ルナ。ヴァンたちのアイテムの回収を。……ダメか。あっちも忙しいようだね。仕方ない。むざむざ奪われる訳にもいかないし」


 ハルは天魔の翼をブースター代わりにして、彼らと狂乱の竜の間に割り込みをかける。

 そのままゼロ距離で高火力の魔法を叩きつけるが、予想通りというべきか、実体化した竜には今度は魔法が全く通じないようだった。


「ハルさん! 武器要る!?」

「いいや、僕は強いので、この『木の棒』で十分」

「って世界樹の枝じゃねーかハルぅ! 世界最強の木の棒使ってなにドヤ顔してやがる!」

「まあ、よくある『達人が木の枝で戦うエピソード』、ありゃそもそも木の枝が硬くてつええってオチだかんなぁ」

「そうなのお爺ちゃん!? ショックだあー。まあ、刀でマキ割りなんてしないもんね! 確かに!」

「あんまソフィーちゃんに適当言うなよヤマト!」

「ふひひひっ!」


 達人の技を気取るには、頼りになりすぎる木の枝を携えて、ハルは竜の前に立ちはだかる。

 見境なく暴れ狂う竜と、枝を武器代わりに対峙するハル。原始の戦いすぎるが、最後の最後がこんなものでいいのだろうか。いや、こんなものなのかも知れない。


 魔法が通じぬその身に、ただハルはひたすら世界樹の枝で殴りつける。

 竜の鎧は砕け、鱗が飛び散り、しかしなおも暴走を止めない。敵も最終形態の『発狂』モードということか。巨大だった時よりも、ずっと脅威度が高かった。


「《ハル? 待たせたわね。アイテムの回収をするわ? それと、危ないから、早くそこを離れなさい?》」

「《龍脈砲が行きますよハルさん! そこに居ると吹っ飛んじゃいますよぉ!》」


 どうやら、最後のトドメは棍棒で終わらずに済むようである。

 その天よりのその一撃が到達するまでこの荒れ狂う竜をこの場に留め置くことが、ハルの最後のミッションとなるだろう。

 今年の終わりと同時に、なんとか「ゲーム部分は」終わりにすることが出来そうです!


※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
何が何でも自分の主張を押し通す、つまり皇帝のような魔法ってことですかー( はい。夢夢がサ終しようともハル様のバランス調整の仕事は終わらない、エリクシルの雑な仕事による後始末にもハル様の腕が試されること…
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