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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1444話 輝きを放つ世界樹!

「《キリがない……! 後から後から引き寄せて、いつ終わるんだよこれ!》」

「《ハァ!? 弱音吐いてるんじゃねぇゼクス! 女にいいとこ見せるんだろ!?》」

「《言ってねぇよそんな事! ……見せるけどさ!》」

「《が、頑張ってください……!》」


「んー、とはいえ、皆の疲労感もつのってきたか。体力、HPMPは問題ないとしても、そこはいかんせんどうしようもない」

「《ウチももうきっつーいっ。それに砲台の耐久度も、ヘタレてきたよーハルさんー》」


 誰もがハルやユキのように、理論値通りのスペックを常に発揮し続けられる訳ではない。

 人間が操作している以上、時間が経てば経つほどケアレスミスも増加してきて、そのミスはこの激戦化において即座に致命傷となりかねない。


 そうして、一人また一人と友軍は減ってゆき、物資の減少、施設の耐久度の限界も無視できないレベルに達し、戦闘継続能力の底が、否応いやおうなしに見えてきてしまう。


 もちろんゼクスら実力者はまだまだ危なげなく戦いを続けているのだが、全体人数の消耗はキョウカのような接続系スキルの使い手や、広域支援を得意とするプレイヤーにとっての効率低下も、また意味していた。


「……最後の一人が倒れる前に、恐らくはこの周囲の敵は全滅させられる。しかし“その後”のことまで考えると、これ以上の戦力消耗は避けたいか?」

「効率だけで考えるなら、もう少し減らしても大丈夫よ? 大丈夫なの! 今居る全員が残ったって、どのみちその後は持て余すわ?」

「《そう、だね。“積載量”から考えても、今居る全部は、乗せられない、よ?》」

「《あーやだやだ。マリーゴールドもモノも、最初から人間を数でしかカウントしてなくってさぁ》」

「あらあら。言われちゃったわねモノちゃん?」

「《マリーはともかく、ぼくは、理想論だけで語るマゼンタも、どうかと思う》」

「あら?」


 効率だけで語るなら、必要な戦力だけ残して、後は全てこの場で出しきってしまうのが最も無駄がない。

 ただ、相手はゲームのユニットとしての『ただの数字』ではなく生きた人間。そうした態度は、大幅な士気の低下を招くだろう。


 ……このように合理的に感情についても織り込んで考えているハルも、十分に冷徹な人間なのだろうけど。


「それよりも、マリーゴールド。次の資源移動はどうすればいいのかしら? 私だけでは、判断が追いつかないわよ」

「あっ、ごめんねルナちゃん? 今は、そうねぇ。とりあえず、全部の資源を、こっちに回収しておきましょうか」


 疲弊ひへいしているのは何も、戦士だけではない。絶えず世界全体で資源の配分と再配置を行っているルナや、後方でサポートを行っているプレイヤーも、判断することのあまりの多さに疲労がつのる。


 やはりここは、休憩と気分転換の意味もかねて、作戦を一段階先に進めても良い頃だろう。


「よし。この拠点を放棄する」

「《うっわ! 思い切りよすぎないハルさん!? ーて砲台はもうしばらくは持つよ? 弾薬も》」

「《そうだぞーハル君。いくら捨てる事が求められているとはいえ、キレイに使い切ってキッチリ終わる。それがいちばん美しいぜ?》」

「分かるけどさユキ。思い切りも大事だ。美学を追い求めすぎて、それで失敗しても締まらない」

「《そだねー》」

「《てっしゅーですかー?》」

「うん。全員シリウスに搭乗して」

「《はーい》」

「《私は最後でいいよ!》」

「《当然、私も殿しんがりを務めるとも》」


 世界中から引き受けた龍脈アイテムに引き寄せられて、龍脈変異体の押し寄せる勢いも更に激しさを増してゆく。

 徐々に前線は押し上げられて、そろそろ敵の波はこの山を登り切り、拠点を囲む城壁へと迫ろうとしていた。

 終わりが見え始めたとはいっても、蹂躙じゅうりんされ崩壊する被害は免れないだろう。


 だからといって、もう拠点を捨てるのは気が早すぎるのではと、多くの者はそう思うだろう。

 だがこれは決して、ハルが自棄ヤケになった訳ではない。『他人に壊されるなら自分で壊す』という美学の持ち主な訳でもない。


 最後は絶対に帝国へと行かなくてはならない以上、この城を維持するのは難しく、必ずここを放棄する必要があるからだ。引きこもっていてもクリアは訪れない。


「ならば最後はせめて派手にいこう。……さて周辺の諸君も、樹上大地に避難するんだ!」

「《退け! 退けーい皆の衆! 撤退じゃー!》」


《撤退! てったーい!》

《ありがてぇ!》

《まあそろそろ休んでやってもいいかな》

《はぁ!? まだやれるし!》

《バーサーカーすぎん?》

《退いた方がいいぜー》

《うんうん》

《ハルさんがこういう時は……》

《大人しく避難してないと巻き添え食うよ》

《うげっ……》


 いずれも、一度はハルに吹き飛ばされた経験のある者だ。皆、それを思い出し意外と素直。


 テーブル状の大地に向けて、撤退していく彼らをモンスターは積極的に追わない。目的はあくまで、ハルが資源を溜め込んだ世界樹なのだから。

 そうして生き残りのプレイヤーたちの避難が完了したことを確認すると、ハルはテーブル状だった世界樹の枝を、今度はドーム状に覆うようにふたをしていってしまうのだった。


《閉じ込められた!》

《たすけてー》

《おのれハルさんめ! 罠か!》

《いやシェルターでしょうに……》

《一息つけるぅ》

《体勢を立て直すぜ!》

《いやもうこのままでもいいのでは?》

《このままゲームクリアでも構わんが?》

怠惰たいだっ!》


「……んー、それもありか?」

「このまま世界中の拠点にふたをして、ゆっくり爆撃していくのです!」

「なにかしら……、終末世界感が凄いわね……」


 まあ、実際に終末世界なので仕方ない。

 人は固く閉ざされたシェルターの中で身を縮め、外部にひしめく暴走したモンスターの群れを、最終兵器たるハルたちが孤軍奮闘こぐんふんとうし削っていく。


 なんだか、これだけで一つのゲームにでもなりそうな展開である。だが申し訳ないが、これからゲーム一本分の壮大なドラマを演じている余裕はない。


「単にー、この後ここで、外に出ていたら危険だからってだけですねー」

「カナリーちゃん。戻ったか」

「はいー。出発しましょー」

「《敵が『空港』まで入って来ないうちに、早く、乗ってね》」


 周囲を巡回し爆撃の雨を降らして航空支援を行っていたモノも、ハルたちの為に飛空艇を世界樹空港に戻す。

 その飛空艇に、ハルたちは拠点の全てを置いたまま急ぎ全員が搭乗した。


「じゃあ、発艦、するよ?」

「ああ。頼んだよモノ艦長」

「艦長は、ハルだけど」


 空を埋め尽くしながら押し寄せる変異体を、砲台の連射と船のフィールドそのもので蹴散らしながら、皆を乗せた飛空艇が高速で拠点を離脱する。


 敵はしばらく船の周囲にまとわりついていたが、次第に龍脈アイテムの置き去りにされた拠点の方へとその興味を移して行った。


「……こーして見ると、わりかし思い出深い我が家だったねぇ」

「別れるの辛いねぇユキちゃん」

「フン。どのみちこの世界の終わりと共に消える場所だ。それがほんの少しだけ早まっただけだろう」

「また大木戸様はデリカシーのないことゆーっ!」


 あまりにもあっけない拠点との別れ、皆、色々と込み上げてくる感情があるようだ。

 ハルもまた、仲間と過ごしたこの地でのプレイは、なんだかんだ楽しかった。終わらせるべき世界であっても、それは紛れもない真実だ。


 そんなハルたちの城に、世界樹に、魔物の群れが真っ黒な渦となり取りついてゆく。


「しかし、どんなに攻撃しようと、世界樹の樹皮じゅひはびくともしないのです! 無敵です!」

「そうと分かっていても、奴らは内部のアイテムを求めて突進を止めない。哀れなものだね。……あれ? このまま見ているだけで大部分が圧死するんじゃないのこれ?」

「まさかの攻略法を、見つけてしまったのです!」

「まるでおりに入れたモンキーの前に、バナナを見せつけるような状況ですねー」

「檻に入っているのは、実際はバナナの方ですが!」

「……ま、まあ、圧死を待つ時間も惜しいし、何より少々気の毒だ。予定通り、派手に散らしてあげるとしよう」

「大爆発ですよー?」


 ハルたちは敵の求める龍脈アイテムを、全て世界樹によって完全に囲い封鎖した。

 それでも、敵はアイテムを求めて殺到するのを止めない。その性質と、バグじみた世界樹の防御力を悪用すると、このような進むことも戻ることも出来ない状況が作り上げられる。


 そうして敵を一か所に誘導した後に何をするかといえば、それはもう一つしかない。

 ハルは飛空艇を樹上大地のドームまで移動させ、そこに触れると、その枝を経由して世界樹を操作し隠していたアイテムを露出させた。


「そら、お求めの龍脈資源だ。たっぷりと食らうがいいさ」


 だが、そのアイテムに変異体の伸ばした手が触れることはない。それよりも前に、アイテムは全てエネルギーに変わりあまねく周囲に放出されるのだから。


 こうして、世界樹そのものを使った巨大な爆弾が、周囲を閃光一色に染め上げた。

 その大爆発は、城も山も、大地すらも残らず吹き飛ばし、爆風の破壊力はドームで囲ったこの樹上大地の先にまで、その威力を響かせたのである。





《やりやがったぁああ!!》

《大爆発! 世界樹大爆発!》

《拠点ごと自爆させたあ!!》

《もったいないいい!!》

《これが、全てを捨てる覚悟……》

《ハルさんの決意、見せてもらったぜ》

《決意あってもここまでやる!?》

《ハルさんだからなー》

《正直予想してた》

《いつかやるんじゃないかと思ってました》


「……いや予想以上だね。飛空艇ごとふっ飛ばされるかと思った」

「これはアレだね。世界樹の反射板としての機能が、想定以上の効果を上げたってことだよ。なにせ完全に無敵なんだから、その効率は驚異の100%と言っていいのかも。そこを見誤ったねー」

「マゼンタ君が計算ミスするとは珍しい」

「しょーがないじゃん! ぶっつけ本番なんだし!」

「一度も試し撃ちできてませんからねー」


 世界樹自身が自爆したに等しい状況だというのに、当の世界樹のみきにはほんの一筋ほどのダメージも入っていない。

 アメジストによる介入は、ここにきて完全な完成を成したと思って間違いないだろう。


 一方周囲の環境は、甚大じんだい極まる被害を受けている。

 敵モンスターは勿論のこと、世界樹を植えた霊峰れいほうはえぐり取られ、アリの巣状の坑道とそこに張った根が露出。ふもとの大地に至るまでを爆風が吹き飛ばした。


 当然のように、皆で作り上げた絢爛けんらんな城は見る影もないが、その大破壊の中でも一つだけ無事な施設が存在した。

 ハルたちはそれを目指し、変異体の生き残りを蹴散らしながら世界樹に向けて取って返す。


「あっ! 無事だ無事! 無事だよハルさん、研究所は! いやー、頭おかしい防御力だよねぇ」

「そだねぇリコちん。あんな、葉っぱの間からド派手な木漏れ日が、ぶあぁ~~、ってなってたんにね」

「……木漏れ日は普通下から天に向けては昇らないものよ?」


 集めに集めた龍脈結晶を、一気に破壊力として放出したエネルギーにも、世界樹の枝は耐えきりその中に隠した研究所もまた無事な姿をの下にさらす。

 その内部には無事な装備と、残った龍脈資源がぎっしりと詰められてハルたちを出迎えてくれたのだった。


《わおっ》

《まだまだ資源たっぷり!》

《これもう一度やれるんじゃね?》

《また引き付けて、どーん!》

《その繰り返しで終わり?》

《いや、まだ帝国がある》

《あー、唯一の》

《非協力勢力》

《あれがあるかぎり、完全誘導不可》


「そうだね。それに、地の果てから誘導するのを待つ時間も惜しい。だから、僕らはこれを持ってこちらから出向くよ」

「最終決戦ですよー?」

「そこで、生き残った精鋭であるみなさまにも、わたくしたちと一緒に来て欲しいのです!」


 その為に残した、というと聞こえが悪いが、言葉を選ばずに語ればそうなるだろう。

 彼らも薄々感付いてはいるかも知れないが、そこに文句を言うことはない。結局死ぬよりはマシである。

 その気持ちを分かって利用するハルは、やはりズルいだろうか?


「もちろん、残ってもいい。どのみち、残党退治の戦力は必要になるからね」

「行くも戦い、残るも戦い。修羅しゅらの世界ですねー」

「本当にね」


 だが上手くいけば、これを最後の戦いに出来るだろう。帝国を襲う変異体を片付けて、残った龍脈エネルギーとアイテムを処分する。

 まあ、語るのは簡単だが、実行するのは骨が折れそうだ。アイテムも人材も、飛空艇に積める分しか持っていけない。


 だが、拠点も無い今、もう先に進み続けるしかない。果たして、帝国の地で待ち受ける物は、どんな物なのだろうか?

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― 新着の感想 ―
おのれ帝国めー、貴様らが立て籠もったせいで世界樹拠点を爆破せねばならなくなったではないかー。この落とし前、帝国を無き物にすることでつけさせてもらおう、というやつですねー。 はい。世界樹を攻め落としたと…
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