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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1414話 黄色い青の世界を見る

「んで、なんだねこれはハル君?」

「なんだろう……、僕にもわからん……」

「やはり、思ったようにはいかないのね?」


 ハルに新たに追加されたスキルの名は、<龍脈大河:死水航路>。求めていた<龍脈遡行(そこう)>とは、だいぶ違うスキルであった。

 まあ、仕方のない結果といえる。多少の勝算はあったとはいえ、仕様外のスキルを使ったシステム外の行いだ。なんでも思い通りに行く方がどうかしている。


「りゅーみゃくたいが、しすいこうろ! です! なんとなく、名前からも異質な感じが伝わってきますね!」

「そうだねアイリ。恐らくはアメジストが、というか本家スキルシステムが勝手に作ったスキルなんだろうさ」

「命名規則としては、一応<龍脈魔法:火>のようなものと近い気もするけれど……」

「なにを表しているんでしょーかー?」


 カナリーの疑問に、皆一様に頭をひねる。考えて答えが出るとは限らないが、やはりその部分は気になった。


「むむむむむ♪ 龍脈大河は、そのまま龍脈の流れのことだよね♪ じゃあ死水航路は、なんなのかなぁ~♪」

「大河とは真逆の言葉に見えますねー」

止水しすい、止まった水よりも、更によどんだ水のイメージよね? 確かに流れとは相性が悪そうね?」

「大河を遡り、源流たる死水に至ることを示しているんでしょーかー?」

「じゃあ実質、これが<龍脈遡行>ってことだね♪」

「そんな都合の良い……」


 ただの言葉遊びだ。そうそう都合の良い内容であるとも思えない。

 とはいえ、しかしだ。全く同じではないが、アメジストが可能な限り内容を似せて作ってくれた、構造再現エミュレータースキルという可能性はないだろうか?

 同一名称には出来なかったが、それを匂わせる名称を設定してくれた、といったことだって考えられる。


「……いや、やっぱり良い方に考えすぎだ。都合が良かったとしても、それは“アメジストにとって”都合が良いスキルに違いない」

「ですねー。あんにゃろ、なにを考えてるんでしょーかー?」

「まーまー。とりあえず、使ってみよーぜハル君」

「まあ、そうだね。使ってみないと始まらない」


 鬼が出るかじゃが出るか。救いの女神が出る目については、まあ考慮しなくていいだろう。

 ハルに出来るのは、出てきた怪物をなんとか誘導して、もう一方の怪物にぶつけるだけだ。


「では、<龍脈大河:死水航路>、起動」

「どきどき……! ですね……!」


 アイリたちの見守る中、ハルは新たなスキルを発動する。

 その瞬間、ハルの視界は大きく揺らぎ、酩酊めいてい感にも似た眩暈めまいが襲い、幻惑じみたイメージが視界を支配する。


「ああ……、これが、黄色い青と赤い緑の世界か……」

「……大丈夫なのかしら?」

「ハル君壊れちった」

「わたくし、知ってます! 黄色い青は、決して緑にはならないのです!」


 黄色い青に赤い緑。人間の視神経の構造上、決して見ることの出来ない色というネタである。ハルが狂った訳ではない。

 そんな狂気的サイケデリックな色のイメージは、視覚を通さず脳に直接色彩が叩き込まれている証拠。だが重要なのは色ではなく、このイメージは全く別の処理の副産物だと思われる。


「とりあえず視覚からイメージを強制カット。検証はあとでいい」

「お。おかえりハル君」

「別に意識がなかった訳じゃないけどね」


 目の焦点のはっきりしたハルを、仲間たちが安心した表情で出迎えてくれている。

 そんな裏でもハルの中ではなおもスキルが動き続け、今も何らかの効果を発揮し続けている。HPもMPも消費はなく、表面上から読み取れる物はなにもない。


 ただ今回は、絶えず頭痛のように襲い来るイメージが何かしらの処理の実行をハルへと教えてくれていた。


「何してるかわかりますー?」

「全くわからん。でも、少々この感じには覚えがあるね。明らかに、スキルシステムに関わる何かだ」

「ほうほうー。どんな時の感じでしたー?」

「ミレイユとセリス姉妹、いたでしょ? あの子らの、セリスの使った<簒奪さんだつ>のスキル。あれのイメージに近い」

「ほお~~」


 カナリーは納得するが、他の女の子たちは少々、きょとん、とした顔だ。無理もない。


 カナリーたちのゲームにて、他者プレイヤーのスキルを奪い取れるスキル、<簒奪>。それをハルが解析し、無効化した際の感覚に、今のこれは近い気がしていた。


 その際のイメージは、巨大な『スキル格納庫』や、『書庫』といった全プレイヤーのスキルを保管する空間にハッキングをかけ、他者のスキルの『ラベル』を張り替えることでスキルを奪う感覚だ。

 スキルそれ自体が奪い取られた訳ではなく、場所はそのままに発動のための権利書だけをペタリと張り替える。それが<簒奪>スキルの原理。


 その保管庫に侵入する際のイメージと、今のこれは酷似していた。

「<世界ナントカ>を入手した際のシステムメッセージでも、このゲームのスキルも専用の保管エリアが存在することを示唆しさしていたし」

「確かこれ以上、スキルは増やせなかったのですよね!」

「よく聞いていたねアイリ。そう、だからアメジストは妥協案として、僕のキャラクターボディに新スキルを埋め込んだ。勝手に」

「エリクシルさんも、それを防ぐためにハルさんに新スキルをくれたのです!」


 そうして両者共に妥協して終わり、ハルは両者から共に恩恵おんけいを受けた。

 一見一人勝ちだが、逆にいえばどちらからも完全な状態で報酬を受け取ることは出来なかったといえる。

 これが吉と出るか凶と出るかは、この先進めていけば分かるだろう。


「さて、どうやらスキルの処理が終わったようだ」


 強烈な眩暈めまいは消え、補正せずともハルの視界が正常に戻る。

 さて、明らかに常軌を逸した、謎のスキルの効果やいかに?





「どうかな♪ このゲームに存在する、全てのスキルが使えるようになっちゃった! とか♪」

「分かりやすいチートだけど、さすがにそうはならなかったよ」

「残念♪」

「しかしだマリンちゃん。このゲーム、そんな安っぽい攻略法でどーにかなるんかね?」

「少なくとも、今回の課題はクリアできるね♪」

「確かに! 全てのスキルなのですから、<龍脈遡行>も含まれていますものね!」

「そうなのだぁ♪」


 普通のゲームなら初心者でも苦労せずゲームクリアまで一直線なチート代表だが、このゲームはそれでどうにかなる保証はない。

 まあそれでもあって困る物でもないので、その結果が出なかったのは残念か。


「ただ、今回の課題という意味では、多分だけど達成できそうな手ごたえはある」

「おっ♪」


 ハルが龍脈通信のメニューを開き、『龍骸りゅうがいの地』エリアの位置を示したマップを開いてみると、そこに普段は見慣れぬ追加の表示が現れている。

 マップ上には非常に細かい光点が並んでおり、その分布は均等ではなくある地域に密集して配置されていた。


「なにこれ、人口分布?」

「ユキの言う通りだと思うよ」

「おお。正解しちった。てかそれしかないか、これ見て思うのは」

「わたくしの世界では、まだまだこんなに詳細な把握はできないのです……!」

「確かに。この表示が当たり前になったのは近年のことなのかしら?」


 さてどうだろうか? ともかく、日本人なら見慣れた地図上の分布図は、見た通りユーザーの位置を表示していると見て間違いない。

 ただ、これがログインプレイヤーの現在地なのか、それとも全プレイヤーのセーブポイントかは、検証を重ねなければ判明しないだろう。


「これを見て戦略を練ろうっていう、ジスちゃんのお告げ? 親切じゃん」

「確かに便利そうだけど、これはあくまで副産物だね。重要そうなのはこっちだ」


 ハルは続けて、ヴァーチャルタウンとなっている龍骸の地の一つを選び内部表示に切り替える。

 そこでも、今まではなかった追加表示が、ミニチュア状になった街の各種施設に、重なる形で表示されていた。


「うげっ、なにこれ、ライン多すぎて吐きそう」

「確かに、目がちかちかするのです!」

「これはー、施設の権利者に伸びるラインですかねー?」

「その通り」


 それぞれの施設からは光の線が伸び、四方八方にくまなく飛び交っている。

 見ているだけで頭が痛くなりそうで、背景を埋め尽くす邪魔なライン。ハルはそれを、大半は非表示になるようスキル内容を設定した。


 カナリーが一発で詳細を言い当てたのは、この設定でもなお色濃く残っている、掲示板施設からハルへと伸びるラインがあったからだろう。


「誰がどの施設に、どれだけ投資したのかが、一発で視覚化されるようになった。……まあ、視覚化されすぎて、非常に見づらくなってるんだけど」

「やっつけ仕事ですねー」

「なるほどね♪ このゲームでは、『ワールドレベル』の影響で、全ユーザーがスキルで繋がってるから。逆にスキルシステムを辿れば全てのユーザーに逆行できる訳だ♪」

「つまり! これが真の、<龍脈遡行>なのですね!」

「そういう意味なの……? まあ、アメジスト側が、僕の意図をそう捉えてしまった可能性はあるか……」


 ともかく、これら色々と使い道のありそうな内容は一時横において、ハルは竜宝玉を一つ持ち出してみせる。

 そう、この結果はあくまで副産物。本来の目的は、<龍脈遡行>の所持者がやったように、この龍脈通信とリンクした竜宝玉専用スキルを発動する事だ。


「……さて、これは、果たしてどうするのが正解なのかな」

「ここはやっぱり、画面に宝珠を押し込むのです! ぐりぐり~、ぐりぐり~、と! 画面さんが、を上げるまで!」

「そりゃあ、何かあればおとを上げるかもだけどね?」


 システムメッセージという意味で。

 そんな、二人にしか伝わらぬコントを披露しつつ、他に思いつく事もないのでハルは言われた通り竜宝玉をモニターに近づける。


 すると、画面にぐりぐりするまでもなく、一定まで近づけた段階で、龍脈通信が反応したのであった。


 そこに現れた表示は、掲示板施設の管理者専用画面のもの。

 残念ながら音声は発しなかったが、出現したメッセージには、『竜宝玉所持者が許可を求めています』、『利用申請を許可し、権利を一時譲渡しますか?』と記されているのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
あのアメジストが素直に協力だけするなんて夢にも思えませんし、いったんは成果が出たこと喜ぶところでしょうかー。……喜んでいいところなのでしょうかー。こちらはこちらで何か潜んでる感があって、鬼でも蛇でもな…
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