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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1409話 どうぶつだいこうしん

「《ゆけゆけ愉快ななかまたち♪ わるものさんをやっつけろー♪》」


 空から響く陽気な掛け声に導かれ、地の先から土煙と共に地鳴りが迫る。

 進軍する帝国兵を迎え撃つようにして、モンスターの軍勢がこちらも隊列を成してやってきたのだ。


「おおっとぉ? あれは、ここ『魔物の領域』の先住民かぁ? 住みかを荒らされた事を怒って、なーんてタイプには見えないがどうしたどうしたぁ!?」

「彼らは龍脈から生まれた龍脈の精だからね。その龍脈を枯らした帝国を、明確な敵と認定したんだろう。知らないけど」

「こりゃあやっちまったなぁ帝国軍! 自業自得、因果応報。己のごうの深さよりでた炎に焼かれるがいい! 知らんけど!」


《知らんのかーいっ!》

《んなわけあるかーい!》

《どうみても扇動されてるだろ!》

《『ゆけゆけ♪』って言っちゃってるし》

《ここ一帯のモンスター全てに<調教>を?》


「いや、さすがにそこまでは出来ないね」

「キャパの問題もあるっすよね。それじゃあ、一時的な何か魔物使い系のスキルを?」

「スキルじゃない。上空に居る彼女を見てごらん」


 視点は疾走するモンスター群の頭上に移り、そこから群れを指揮するマリンブルーの姿に焦点が当たる。

 同時に、彼女が騎乗する巨大なモンスターが、ハルたちと視聴者の前にクローズアップされた。


《ドラゴンだー!!》

《これは、龍骸の地の!?》

《いやあれはもっと大きい》

《テイムは不可能だったはず》

《ハルさんたちも諦めてた》

《じゃあドラゴンの子供か》

《卵でもあった?》


「それに近くはある。卵そのものじゃないけどね」

「おっとここでクイズ出題かぁ? 卵に近いけど、卵じゃないものなーんだ! まあ竜宝玉ですよねぇ?」

「クイズにした意味とは……」

「いいじゃないですかぁ! こういうのはノリですよノリ! それであれは、竜宝玉を使ってハルさんが呼び出していたと。いつの間に」

「まあ、戦備を整えていたのは帝国だけじゃないってことさ」


 ハルの手元には、まだまだ竜宝玉が存在する。それと遺跡を組み合わせれば、こちらでもユリアと同様のコマンドは実行可能だ。


 その中にあったモンスターの召喚コマンド。ハルに対抗するには力不足とユリアは切り捨てたが、逆にハルが呼び出す場合は単純に戦力強化でしかない。


 そうして呼び出されたドラゴンは、小さくても魔物の王としての威厳をいかんなく発揮し、マリンブルーの<調教>スキルもあいまって、弱いモンスターを従え指揮する能力を有していた。


「これは、火属性の竜がいた火山地帯の龍骸で生まれた仔ドラゴンだね。オーソドックスなデザインだし、シンボルとしての騎竜にはちょうどいい」

「あー、そいや見覚えが。それじゃあ、生み出すエリアによってデザインや能力が異なるってことですね」

「だろうね。ぜひ、興味がある人はドラゴンコレクションをしてみてよ」


《出来るかーいっ》

《まずやりかたがわからん??》

《まって、ヒント出してくれてないこれ》

《場所は龍骸の地で……》

《必要なのは竜宝玉で》

《あっ、無理だ》

《魔王か皇帝限定サービスじゃん!》

《クソゲー!!》


「いやいや。ユリアのように、僕から竜宝玉を奪ってみせればいいさ」

「それが出来るなら苦労はないんじゃーい! しかし、そー考えると敵ながらユリアはヤバいですねぇ」


 本来、小出しとはいえ貴重な情報をこうして全体に向けて流してしまうのは迂闊うかつでしかない。

 ただ、ハルはあえてこうしてヒントをあからさまに織り交ぜて解説を行っていた。


 理由は、既にこの情報は独占ではないことが一つ。帝国も掴んでいる情報なので、伏せておいても意味はない。

 そして、その帝国に揺さぶりをかけるのが理由のもう一つ。帝国上層部のみが、このハルの発言が紛れもない真実だと断定できるのだ。

 ハルが、『こちらも既に知っているぞ』というメッセージを兼ねられる。


「《どかんどかん♪ とつげきだー♪ みんなでおさんぽ、たのしーね♪》」


 そんなハルの思惑はどこ吹く風。当のドラゴンを与えられたマリンブルーは上機嫌で、魔物どうぶつの群れを先導している。

 彼女に率いられ死の行軍(おさんぽ)するモンスターたちは、ハル陣営に足りない物量差を埋めるコマとして、帝国の布陣と正面から衝突する。


「《問題ない! どうせ道中でぶつかるはずの敵だ! 蹴散らせ!》」

「《そうだ! こっちには防御の加護がある!》」


《いーや、別物でしょ》

《単体でエンカウントするのと訳が違う》

《しかも統率が取れてるからなぁ》

《やっちゃえハルさん!》

《がんばれどうぶつさん!》

《……なんかめっちゃ顔怖いけど、いいの?》

《普段は大人しくて可愛い子なんです!》

《だから敵の応援すんなって!》

《いや敵じゃないし?》

《帝国軍は戦争中にここ来んなよ(笑)》


「ここでサポーター同士の衝突が起きているなぁ? これはよくないかぁ? ハルさん、応援席を分けた方がいいんじゃないでしょーか!」

「えっ、うーん……、これがメインって訳でもないし、正直面倒かなぁ……」

「なるほど、ありがとうございますっ! 魔王様は『どうせ全員俺にかしずくことになるから、放送を分ける必要などない』と仰せだ! 分かったか臣下ども!」


《調子のんなミナミぃ!》

《お前の臣下じゃねーぞミナミ!》

《まず捏造すんなミナミぃ!》

《そういうとこだぞ!?》


 ハルに賛同する者が増えるにつれ、陣営同士の衝突が生じ始めていた。職業柄かミナミが敏感に、その危険性に反応する。

 とはいえ、ハルの目的にとってこの放送はあくまでおまけ。これを平和に終えることや、長期にわたって継続することにそこまで力を費やせない。


 完全に世界の敵であったら気にしなくてもいいことなあたり、複雑な所だ。

 まあ、目が覚めれば忘れてしまうこと。この対立をずるずると引きずって大事に至ることはないだろう。


「《みんなで並んで、なかよくどうぶつさんと触れ合おう! 一列に並んで、えらいえらい♪》」


「《並んでるわけじゃねーー!!》」

「《あの指揮官を狙え!》」

「《いや、数を減らすんだ! 今日倒しておけば、明日は復活していない!》」

「《なるほど!》」


《なんで? リポップするでしょ?》

《龍脈》

《龍脈が封鎖されてるから》

《そうなの?》

《そうだよ。詳しい理屈は知らないけど》

《ハルさんは龍脈を操ってモンスターを生み出せる》

《魔王じゃん!》

《だから魔王だって言ってんだが!?》

《そうだった!》


 帝国兵の判断は適格だ。竜宝玉を使った戦略コマンドにより、北側の龍脈からはエネルギーが枯渇こかつしてしまっている。

 地上に湧き出た龍脈、『龍穴りゅうけつ』によって生まれる強力なモンスターも、これでは再び生まれることはない。


 この状態がどの程度持続するかは分からないが、日を追うごとに兵力が目減りして行くのは明らかだった。

 対して帝国軍は、いつも通りに翌日に復活。ここで命をなげうってでも、モンスターと刺し違える価値は十分にあった。


「《握手会も、忘れちゃダメだよ!》」


「《だから握手もお断りなんですけど!?》」

「《俺らは並んでる訳じゃな、》」


 必死の主張は、途中で喉ごとかき消された。彼らが対処すべきは、モンスターの群れだけではない。


 この地でこの魔物どうぶつたちと日々触れ合って過ごしてきたソフィーが、慣れ親しんだ彼らの間を悠々とってやいばを走らせる。

 モンスターの突進を押しとどめる為に動きを止めた帝国兵の首は、<次元斬撃>の前では練習用の藁人形わらにんぎょうに等しかった。


「……だが動きが実に不安だ。不穏と言った方がいいか」

「どこがです? 達人の剣が絶好調のようにしか見えないですけど」

「んー、それがね? よく見るとあの子、モンスターが視界に入るたびに、反射的にそっち切ろうとうずうずしちゃってるんだよね……」

「ぜんっぜん分からん……! ま、まあ、普段は獲物っすからね! 今は味方ですけど!」


 その味方の首をいつ狙うかとヒヤヒヤさせながらも、ソフィーはモンスターとの的確な連携にて次々と敵軍の数を減らしていった。


「このまま人数が減っていけば、そのぶん軍団防御の出力も下がる。そうなればモンスターに加え、残る精鋭の攻撃も通りやすくなっていくね」

「ここで追い幹部の登場かぁ! 更なる魔王軍精鋭の登場に、どうする帝国軍!? どうもするな帝国軍! そのまま死ぬがいい!」


《ひでぇ!》

《でも何処に?》

《さっきからソフィーちゃん一人しか見えないけど》

《モンスターを着ぐるみにしてる?》

《そんなばかな》


 その姿の見えぬ精鋭の居場所、その答えはすぐに明かされた。ただし、見えたのは彼女の武器の先のみ。

 地中より、まるで世界樹の根が突き出すかのように、無数の穂先ほさきが飛び出し兵士を襲う。

 その正体は、セレステの持つ『神槍セレスティア』、その姿を模した複製品だった。


「《うむっ。オリジナルほどとはいかないが、なかなかイメージ通りに動くようになってきたじゃあないか》」


 その無数に分裂した槍の根元を持つセレステ本人は、モンスターの壁を隔て遥か後方。

 彼女はただ一本の槍を地面に突き刺しただけのポーズで、一瞬で複数人の帝国兵を全く同時に刺し貫いていた。


 以前にも、槍を長く伸ばしての同時撃破という曲芸を見せていたセレステだ。しかし、当時はただ単純に、直線で伸びたのみ。

 しかし今は、あきらかにそうした単純伸張の域を超え、本物の神槍セレスティアのごとく多重に分裂する様を見せていた。


「《とはいえ、まだまだ“補助”を借りてこの程度か。いや私も、研鑽けんさんが足りないものだよ》」


 このセレステの力は、ソフィーのようなユニークスキルの発露ではない。あくまで、彼女の技術の結晶である。逆に末恐ろしい。

 そんなセレステも加わり、更には武器を更新したカナリーも控えている。まだまだ、帝国軍の勝利が見えるには程遠い状況と言わねばなるまい。


「……さて、ユリアがこうして、竜宝玉を使っても押しきれない状況だ。そろそろ本国の<龍脈接続>持ちも、こっちに派遣する決断を、してくれないものかな皇帝陛下は?」

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
いやいや、きっとソフィーちゃんが襲われてる(?)と勘違いして助けに来たんですよー。いやいやいや、 ソフィーちゃんを倒し平和を勝ち取るには今しかないと立ち上がったのですかー? いやいやいやいや、ソフィー…
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