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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1405話 引きこもり少女たちを取り巻く世界

 そうしたハルたちの地道な活動は、徐々にではあるが芽を出しつつある。

 夢世界に囚われたプレイヤー、その精神をいざなうきざはしたる夢の泡を経由し、ハルたちは感情パラメータの継承けいしょう準備を行っていった。


 まだ本格的に夢から感情値をダウンロードするのは先になるが、その前段階として、現実ではいったい誰が睡眠時にログインしているかの特定作業を、その結びつきにより進めている。

 そうして明らかとなった者のもとに、ハルは作成中のゲームに関する広告を、こっそりと紛れ込ませていっていた。


「起きている間は、彼らは有象無象うぞうむぞうのゲームと、その区別なんて付かないだろう。ただ、眠りに落ちて改めて思い返せば、広告はこのゲームを知る者でなければ作れない内容だと気付く」

「ハルお兄さん! 私も遊びたい! 私も招待して~~」

「ウチもー。起きてたって暇なだけだし、ちょうどなんか新作プレイしたいと思ってたんだよねぇ~」

「君たちね……、内容は似てるんだから、このゲームで満足しなよ……」

「えーっ!」

「だってこのゲームもう『お仕事』じゃーん」

「それは一応、申し訳ないとは思ってるよ」


 そんなハルたちを取り巻く現状に、ヨイヤミとリコがそんなことを言い出した。

 確かに、ゲームを楽しむというよりも、ハルの依頼にて『仕事』としてこの夢世界に参加している側面の強い彼女らだ。ハルとしてもそこは、申し訳ない気持ちもある。


「まあ確かに、光る部分も大きいこのゲーム、自由に楽しませてやれてないのは確かだからね」

「そーだそうだぞぅ! ……まあでも、基本的にこのゲーム、遊ぶように作られてないからノリにくい、ってのはあるんだけどね? アメジストちゃんのゲームの方が、その点では考えられてたなぁ」

「えーっ。あれはアレで、説明もなしに投げっぱすぎっしょ」

「でもワクワクした!」

「まあ、それは確かに? なんだかんだ、進めていくと自然と目的に向かう導線が見えてくる作りだったっけー」

「……その線の向かう先は、他国との領土の奪い合いだけどね」


 既に少し懐かしいアメジストのゲーム。あの閉じた世界の遊技場は、陰謀の度合いは大差ないが確かにゲーム性は最初から整備されていたかも知れない。

 思い描く世界を自在に作れる、という点では、あちらこそ個人の夢を映し出せる理想の夢世界なのだろうか?


 何より、参加するもしないも自由という点において比べるべくもないが、逆に言えば入念に参加せざるを得ない状況を作り上げているアメジストに白い眼を向けたくなる。


「リコはあっちにはもう参加してないの?」

「前ほどはねー。なんか今は、在学生の序列を決める裏バトルー、みたいになってるし? ウチみたいなのは出しゃばっても空気読めてないかなーって」

「えー。リコちゃんもったいないよー。せっかくハルさんと一緒に居て攻略法知り放題なんだから、がっつり無双しちゃおうよ!」

「……そーゆー立場だからそこ一歩引いてるんだってーのー」


 無邪気に、思春期の学生たちの間にある危ういバランスをかき回そうと提案する小さなヨイヤミに、リコはどう言ったものかと、言葉の代わりに彼女の頭を撫でまわしている。


 あちらも今はよりゲーム性を整備されており、学園生たちはそのゲームの成績の高低で、陰の上下関係ヒエラルキーを決めていたりするようだった。


「なかなか楽しそうな状況じゃないか」

「……遊びに行こうなんて思わないでよーハルさん~~? ハルさんが行ったら、箱庭の中の小人が大海に飲まれちゃうんだから」

「井戸のカエルちゃんじゃなくて?」

無意識イドはこっちだよーヨイヤミちゃん」

「?? ……?」

「リコってたまに高度に詩的な例えするよね」


 流石は研究生である。いつも研究室でサボって、寝たりゲームしたりして過ごしている訳ではないのである。


「へっへー。まあねん。この間、別のゲームでそーゆーの題材にしてた」


 ……やはり、寝たりゲームしてるだけの駄目人間なのだろうか? 学園側に通報したら、除籍されたりしないだろうか?


「まあ私の激うまギャグはともかく、夢だったり無意識だったり、二つのゲームには共通点が多いと思う」

「……確かに」

「だから、例の介入の影響が学生たちに出たりしないか、私もそれとなく中から見てみるね」

「悪い。頼んだねリコ」

「私も! 私も学園スパイする! 任せてよ、あそこ、それこそ私の箱庭だもーん!」

「ダメダメ。ヤミっちはおうちで大人しくしときんしゃい。そもそもキミは、ハルさんの付き添いないとこっち来れないじゃんね?」

「む~~っ!」


 学園で寝泊りする自堕落な女性だが、たまに侮れないのがリコだ。

 事情を知るようになった彼女が、内部からアメジストの動向をチェックしてくれるのはハルも素直にありがたい。


 そんなリコの語った通り、二つのゲームには奇妙な共通点が見つけられるのも確かであった。

 さて、そんな人の無意識を操る事に長けた二人の神様は、水面下で今どんな争いを繰り広げているやら。ハルにも、まだ読めないところなのだった。





「そんなアメジストさんの技術を使ってこっちの感情をダウンロードすんだよね? 大丈夫? 危険じゃない?」

「まあ、そこは平気だよ。彼女らは絶対に嘘をつかないし、一応こっちでも、数人がかりで内容を精査している」

「エメちゃんたちが毎日ひーひー言ってるもんね」

「うぇぇ。臨床試験のデスマーチとかマジ勘弁」

「まじかんべん!」

「ヨイヤミちゃんはあまりお姉さんの言葉を真似しないように。それで、最終的にはカゲツのシステムでゲームを通じて本人に落とし込むから、原理上、脳に危険は出ないはずさ」

「あっ、あの『環境で美味しく感じられます』システムだ。あれ美味しいから好き。私もまた行こうっと。でもさお兄さん、あれもズルいよね? 結局さ、あれって記憶を呼び起こすシステムだから結局リアルで経験豊富な人ほど有利じゃん!」

「……まあ、否定は出来ない。でも、そうした人達のおかげでデータ採取できてるってことで」

「ぶーっ! それでも納得できないぞー! 私なんて、病院食の思い出しかないんだから、共感しようがないんじゃー!」


 そこは、まったく返す言葉もない。今後の改善点として心に刻んでおこう。


 ただ、そんなものよりもヨイヤミには、今後はもっと元気になってもらって、その自分の身体で、世の中の美味しい物を好きなだけ食べて、物を美味しく味わえるシチュエーションにいくらでも触れて欲しい。

 その為なら、手間を惜しむ気はないハルである。


「んー、ヤミっちはまあ起きたらハルさんにデートしてもらうとして、カゲっちゃんのシステムも、新作に導入すんだ? てんこ盛りじゃん?」

「そうだね。これは、ゲームの為というよりも本来の目的のためだけど、結果的に完成度は上がることになるんじゃないかな」

「上がる、上がるって。考えただけでも臨場感ヤバいもん! 例えばさ? 山の上で夕日が沈む絶景のマップとかで、実際にリアルで感動した人のデータとか叩きつけたら!」

「確かに、ゲームの域を超えた体験として人気になる、か?」

り前じゃんさ! いやー、独占技術やばいなぁ。ただでさえエー夢の超技術使えるってのに、何世代先を行くんだろ」

「まああっちは表現技術とかじゃなくて、“ただの異世界”なんだけどね……」


 しかし、語る者が違えば出てくる意見も違うものである。

 ミナミやケイオスからは、ニンスパに搭載されている、高機動アクションの為の補助技術を生かしたゲームにすべきとの案が出た。激しいゲームになりそうである。


 対するこちらは、味覚補助システムの応用で情景を更に装飾するというもの。この案もなかなか興味深い。おもむき深いゲームになりそうである。


「もういっそ、独占技術の全部乗せでいっちゃうぅ? ゲーム業界から、世界取っちゃってよハルさん。あっでも、情報量多すぎて脳が酔ったりするのかな?」

「ねーねーそれ以前にさーあ? あんまりやりすぎると何らかの法に触れるよお兄さん?」

「それは本当に注意しておこう……」


 ハルが『画期的な新技術です!』と言ったところで、法がそれで納得するとは限らない。

 無防備な脳に働きかける都合上、電脳法は異常なまでに規制が激しいのはこれまで何度も語った通りだ。


 それに、仮に現行法をクリアしたとしても、ハルのゲームが原因となって新法が発令されないとも限らない。

 特に、リコの言うように世界を取りに行くレベルの隆盛を見せた場合は注意が必要だ。


 当然、同業他社または間接的に被害を受けるだろう異業種から反発が起こり、彼らが政界に働きかける。

 ハルたちのようなぽっと出の弱小会社は、いくら技術があろうと、その荒波に揉まれて沈んでゆくのみなのだ。


「まあ、そこは奥様が何とかしてくれるだろう。あの人に丸投げしよう」

「月乃ママは私たちいじめる人に容赦しないもんねー!」

「こ、こいつら……、子供の喧嘩でためらいなく親の力に頼るじゃん……」


 子供ではないが。だが権力面でも隙なしという無法ぶりにリコもドン引きである。

 ……それとも、今までも幾度か問題が見え隠れした、彼女の複雑そうな家庭環境を思い出させてしまったのか。

 リコも、別に好き好んで学園という鳥かごの中に収まり続けている訳ではないはずだ。


 そんな彼女の事情には、これまでハルもあまり触れないようにしてきていた。

 ただ、ここまで巻き込んでしまった以上、折を見て彼女にも手を差し伸べるべきだろうか?


 ……こうして、なし崩し的にすべきことが増えていくので、ハルはこれまであまり己の視界を広げすぎないよう意識していた。

 最近は、そのバランスが少し崩れてきていることを自覚している。


「まあ、何はともあれ、やると決めたことは仕方ない。やりきらないと」

「プレイヤーの救済ってコト?」

「まあ、そんなところ」


 自分の事とは一切思っていないのは、彼女が半ば諦めているからだろうか。

 ともかく、実際、プレイヤーの救済についてが現状の急務だ。そこはたがえないようにしなければならない。


 そのハルの現実での動きを受け、キョウカたちのように、帝国を離れハル側へ付く者達も少しずつ増加してきている。

 さて、このまま順調に、全ての人員を説得できれば楽なのだが。当然ながら、そんな訳にはいかないのが現実なのだった。

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― 新着の感想 ―
デバッガーとしてテスト項目を埋めるのとプレイヤーとして遊ぶのでは天と地ほどの差がありますねー。延々と繰り返す単調作業、突如致命的に崩壊するのに再現性のないバグ、ようこそ果て無きデバッグ作業へー。 はい…
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