第1400話 強引に世界をこじ開ける力
また百話の区切りを達成できました! 応援してくださる皆様のおかげです!
しかしながら、落とさず投稿は出来てはいるものの、作者として課題を感じているのも事実です。掲示板などもやりたかったのですが、労力の問題で作れていません。
読者の皆様は、気になった部分などございますでしょうか? より良い作品となるよう、今後も努力したいと思います。
属性加速器。これは円環状に配置された属性球の間を、属性の力を帯びたエネルギーが循環し膨れ上がっていく現象をハルが名付けた俗称だ。正式な魔法名ではない。
発動している効果も加速というより増幅だが、語呂がいいのでハルたちはこう呼んでいる。
本来なら、属性間で起こる吸収効果は、強い魔法が弱い魔法を吸収して終了だ。完全に食いつくしてしまうので、循環など起こらない。
しかし、ハルの身に生じたバッドステータス、『属性中毒』の効果によって、ハルの発動する魔法にはあらゆる属性が混在する状態になっており、常に暴走寸前の状態だ。
その不安定な状態を<属性振幅>により適度に抑えてやることにより、この無限増幅状態を生み出しているのである。
「こうして無限に増幅し続けるエネルギーを、無限に竜宝玉に食わせてやれば、お手軽に最強の強化素材が完成するという訳だ」
「無限増殖はいかんよハル君。デュープは」
「大丈夫。課金アイテムでもないかぎりは、運営もそこまで目くじらを立てない」
「そういう問題ではないと思うのだけれど……」
「しかし、ここまでやっても一切介入してこないということは、エリクシルさんは本当に手出しが出来ないのでしょうか?」
「かもね。もしくは、ゲーム内の力をいくら強化しても、最終的に意味がない作りになっているのか」
本来、この手の抜け穴を使った『無限』に至る道は、運営者は最優先で塞いでこようとするものだ。
不正に生み出された成果物の没収、時には世界その物の巻き戻しも含めて、その動きは容赦ない。世界の崩壊に繋がるからだ。
しかし、エリクシルはハルがどれだけ無法を働いても、止めに来る気配も対処するそぶりも見せていなかった。
「唯一、彼女が慌てたのは、僕が強制メンテを発動した時くらいか」
「ユーザー側がメンテナンスをするとか、頭痛くなりそうなことを言わないの……」
ハルが眠りに落ちる日本人の通信状況を完全に制御し、夢世界へのログインを封じた時、彼女は初めて自分からハルにコンタクトをとってきた。
つまり彼女にとって重要なのはこの世界に人間が居ることで、その中で何をやっていようと、そこに関してはどうでもいい、ということだろうか?
これは、異世界にログインしたプレイヤーと魔力の関係を思い起こさせるが、それでもまだ決め手はなく、仮説の域を出ないだろう。
「まあ止めてこないというならば、僕はゲームクリアに向けて容赦なく歩を進めるだけだけど」
「もしかしたら、ハル君の強化がそのままラスボスの強化に繋がるかも知んないぜぃ?」
「それか、強化されたハルさん自身がラスボスとなるのです! ハルさんを倒さないと、ゲームクリアできないのです!」
「まあ、ないとは言えない」
「意地の悪い話ねぇ?」
「わたくし、昔のゲームでその罠にはまったのです!」
「まあそんときゃ、ハル君がわざと負ければそれで済むっしょ。……できる?」
「でき……、できる、よ……?」
「負けず嫌いねぇ……」
負ければゲームクリアという条件になったとして、最大の障害は他プレイヤーの強さではなく、ハル自身が極度の負けず嫌いであることかも知れなかった。
……まさか、エリクシルがそれを見込んで一連の強化を黙認していた、いやそうなるよう誘導していたなどということは、無いとは思うのだが。
ともあれ、そうこう雑談をしているうちに、属性加速器の内包するエネルギーは順調に肥大化の一途をたどっている。
既に魔法球の直径は、ハルの身長を超えて砲弾以上の巨大な弾と化していた。例え単なる鉄の塊だったとしても、こんな物が飛んできたら戦艦も一撃でお陀仏だ。
そんな危険物が十二個、円を描きながら回転を続け、周囲のエネルギーを巻き取っている。
その様子からこの技のもう一つの俗称は『わたあめ製造機』だ。皆は見たことはあるだろうか? 昔ながらの綿あめの生成過程を。
「触れたら即死のエネルギーが渦巻いているというのに、中に放り込んだ竜宝玉はやっぱり無敵のようだね」
「はい……! わたくしの<鑑定>眼でも、健在の様子がよく見えるのです……!」
「いいじゃん。魔力込め放題で」
「しかしハル? この技は、龍骸の地専用の技ではなかったの?」
「ああ、基本的にはね」
属性の力を無限に吸収し、綿あめを巻き取るように大きくなるこの魔法だが、逆にいえば属性の力を帯びないエネルギーは吸収しない。
なので、本来は強い属性の力が常に渦巻く龍骸の地でしか発動できない専用技ではあるが、例外的にこの霊峰の上、正確にはハルの支配する龍脈の中心部でなら同様の事が可能であった。
「僕が、源泉から過剰に力を引き上げて、そこに属性帯びさせてやれば問題ない。なのでまあ、正確に言うと無限ではないのだけど、極大なのは変わらないから許してよ」
「どのみち人知を、超えているのです!」
「結局対処できる存在なんて居ないだろうからねぇ」
「そうね? 放り込んだ竜宝玉も、この力を吸いきれていないようですし?」
「……それが問題だ」
「小食な珠め。ふがいない!」
ユキが竜宝玉を叱咤するが、もちろんそれで吸収力が上がることはない。
宝玉が吸いきれるエネルギーには限界があり、加速器の成長速度はそのスピードを優に上回っていた。
まあ、下回っていたら消滅してしまうのでそれでいいのだが、問題はどんどん成長を続けることだ。
加速の名が示すとおり、その成長スピードは徐々に増加し、完全に竜宝玉の手に負えなくなっていく。
「……ハル? エネルギーの供給を止めるべきよ? 幸い、龍骸の地と違ってここはあなたの制御下でしょう?」
「ですね……! あのエリアでは止める術はないですが、ここなら自由に……!」
「いや……、それがね……? 龍脈の“栓”を思い切り開けすぎちゃって、僕もすぐには、閉められない……」
「ははは。やらかしたなハル君? まあうちらの無茶では、よくあること。気にするな、メテオバーストも、完成品は三号からじゃ!」
「気にしなさいな! 爆発したら死ぬわよ全員!?」
「《ハルさんー! ハルさんー! これヤバくないですかー!!? どこに逃げたら安全ですかー!? 世界樹の中ー!?》」
龍脈からとめどなく吹き出るエネルギーを察知したのか、イシスからも慌てふためいた通信が入る。
彼女の言う通り、無敵の世界樹の内部に避難すればひとまず命は助かるだろうか?
「ああ、いや、ちょうどいいことに、今日は帝国軍の侵攻があるみたいだ。ユキ、観測をお願いできる?」
「あいさー」
「哀れな犠牲者の、登場なのです!」
「そうね? 彼らには、私たちの代わりにこの力のはけ口になってもらいましょう?」
都合の良いことに、というべきか、本日は帝国軍も準備をしっかりと整え終えて、再びこの地へ向けて進軍を再開したところのようである。
豆粒のような、地を埋める軍勢が遠方に確認できた。じきに、射程に入るだろう。
彼らに向けて、はち切れんばかりに力を溜め込み、もはや巨大な一本のリングとなって高速回転する加速器が狙いをつける。
世界樹の上から飛び出て、まるで天使の輪のようだ。
そんな、神の遣いから放たれる神罰の魔法は、一瞬で土地ごと帝国兵を消滅させる。
ドーム状に膨れ上がった魔法のエネルギーは帝国兵を、輸送艦を、そして足元の地面すら飲み込み、巨大なクレーターを作っていく。
その爆風は、遠くこの世界樹のハルたちまで、体を震わす衝撃として響いてきたのであった。
◇
「最初からこうすりゃよかったんじゃね?」
「いやよくないだろ。地図がいくらあっても足りやしない」
「毎日書き換えないと、いけないのです……!」
「《そうともハル! まるでよくなんかない! 我々の出番が、まるでなかったじゃないか!》」
「ごめんねセレステ。もうやらないから」
「《そうしてくれたまえよ!?》」
十分に成長しすぎた属性加速器は、整列した帝国兵を飲み込むと、その一切を消滅させた。
魔導砲台の射程外から放たれたその力に、帝国軍は対処の間もなく、逃げる判断もとれなかったようだ。また一つ、トラウマを与えてしまっただろうか。
「……それに、最もよくないのは、龍脈を寸断してしまうことだね。幸い、この周囲には全て世界樹の根が通っているからいいけれど」
「逆にアレでも壊れない世界樹はなんなのよ……」
それと、あの爆発でも破壊されない竜宝玉もである。
加速器と合わせて放たれた竜宝玉も、そのクレーターの内部に転がり落ち、世界樹の根に接触して停止していた。
まさに爆心地にて直撃を受けたというのに、ヒビ一つ無いのは、本当に破壊不可であることを実感させる。
「まあ、今なら陣地の警備も薄いだろう。なんとも幸運ということで、このまま宝珠を運び込んじゃおう」
「薄いのではなく、薄くしたのです!」
「言い逃れが出来る被害じゃないんだよねぇ……」
仲間たちのツッコミを聞き流しつつ、ハルは世界樹の根によって竜宝玉を遺跡の中へと運び込む。
そうして前回と同様に、装置へ宝玉の一つをセットすると、予想通りにメニューの内容が前回とはまた異なる物になっていたのであった。
「ふむ? やはりか」
「予想通りだねぇ。でも、予想以上のこともあったね」
「これですね! 『火属性の強化』メニューが、新たに解放されているのです!」
「これは、火の属性球に放り込んだ宝珠がこうなっている、ということかしら?」
「そうなる」
どうやら、竜宝玉に食べさせるエネルギーは何でも同じ、という訳ではなく、食べたエネルギーに応じた内容のメニューが出現するらしかった。
今回は、十二に分かれた加速器の、対応するそれぞれの属性が作用しメニューに出現している、ということだろう。
「これを使えば、属性魔法を操るあなたの力が、更に強化されるのではなくて?」
「そうなるね。しかし、それだけといえば、それだけか」
「ちと拍子抜けかねハル君? いいっちゃ良いけど、正統進化すぎるか?」
「バグ技を使った割には、ということでしょうか!」
「うん。まあ、まずは最後まで見てみようか」
その他にも、いくつかメニューの内容は追加されていた。それらの中には、属性に関わるものもあれば、単純にエネルギー総量によって解放されたと思われるメニューも含まれていた。
そんな選択肢を、最後までハルたちはスクロールし確認していく。
それらの最後に、妙な表示があることをハルは発見するのであった。
「おや? このメニューの最後、空欄になってるけど、これ、余白じゃなくて選択ができるね?」
これが、アイリの言うようにバグ技によって出現した、バグメニューなのだろうか?
少し迷うものの、それを選択しないという選択こそ、ハルたちには存在などしないのであった。
その瞬間。ハルの脳裏に、聞き覚えのある声が響き渡った。
※誤字修正を行いました。「時期に」→「直に」。また、勝手ながら「じきに」と漢字を開かせていただきました。誤字報告、ありがとうございました。




