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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1398話 悪い大人の悪い誘導尋問

「《協力って、私が何をしようとしているのか知っているんですか? ございますか?》」

「《詳細は知らないけど、なんとなくね》」


 この時点で、ユリアの目的は帝国軍と共にハルを討伐することにはない事を自白してしまっているようなものだが、彼女はそれに気付かない。

 幼いゆえの駆け引きの不慣れか、それともそれだけ余裕がないということか。


「《君はそのスキルで、帝国内で行われている大人達の黒い会話を何か聞いてしまったね? そして、その陰謀をなんとか止める為に奔走ほんそうしている》」

「《どうしてそれを……、見ていたんですか……?》」

「《いいや? 遠すぎて見れないさ。ただ君の能力とその行動、少し考えれば分かるよ》」


「分かるのハルさんだけだと思いますけどねぇ」

「こら。余計な合いの手入れない」


 非常に素直に、同意を得られてしまった。まあ、ハルとしては楽でいいのだが。やはり彼女の余裕のなさには、不安を感じるハルである。


「《でも協力って、何をする気なの……?》」

「《逆に、君が何をする気なのかによるね。それを聞いておかないと、僕もどう協力したらいいかハッキリできない》」

「《それは……。っ! し、質問を質問で返さないで! その手には乗らないんだから、でございます!》」

「《ふむ? 汚い大人のやり口に、少しは敏感みたいだね。でも、聞かないとどうしようもないのは、実際のところ事実だよ》」


 自慢ではないが、ハルは大抵の事情には対応できると自負じふしている。ユリアの口からどんな内容が出て来ようと、それを解決する案は出せるだろう。


「《ここで力を手に入れて、悪い大人をやっつけるかい? けど、仮に強大な力を君が手にしたとして、殺した相手は次の日には復活しちゃうよ?》」

「《分かってる! ……ございます。ですが、やつらを自由に動かせないように、抑止力にはなれる。のでございます》」

「《ふむ? まったくの考えなしという訳でもないのか》」


 話していて分かりやすいのが、ユリアは冷静さを取り戻すと『ございます語』を思い出すということだ。

 つまりは、彼女の思い描く作戦が成功し、力を手に入れた後のことも、おぼろげながら想定はしているらしい。


「……どー思いますハルさん? この子の計画、可能だとは思いますか?」

「いや無理だね。『ちょっと鬱陶うっとうしいな』って思われるのが関の山さ」

「ですよねぇ。リアルでいえば、子供がデモやるようなものでしょうか」


 一応、それで世論が動けば、すなわち多くのプレイヤーが賛同し、帝国の敵に回れば、かの国を瓦解がかいさせることは叶うかもしれない。

 だが、それが叶ったとて、悪い大人達の悪い計画が、完全に潰れることはないだろう。

 彼らは地下に潜り、多少効率が落ちようとも、粛々(しゅくしゅく)と己の悪だくみを継続するに違いない。


「《とはいえ、結局は同じことだ。それに、それなら尚更のこと僕につけばいい。帝国だけなどとは言わず、僕はこのゲームそのものを終わらせようとしている。そうすれば、全て解決じゃあないか》」

「《それが成功する保証なんてない! クリア出来なかったらどうするの。ございます》」

「《それはまあ、そうだね》」

「《……あと、それじゃダメなんだ。ダメなんだよ。あいつらの企みはもう、リアルにまで影響しちゃってる。こっちを壊しても、もう止まらないの。それなのにリアルの私は、そんなことなんにも知らないで平和ボケして生活してる》」


「うん知ってる」

「よーく知っちゃってますよねぇ」


 現実あちらでも変わらず、密かにハルのストーキング被害にあっている可哀そうなユリアなのだった。


「《どういう方法か知らないけど、奴らはこっちからリアルに連絡が取れるんだ!》」

「《まあ、演説でもそう言ってたよね。いずれこっちからリアルも支配する選ばれた民だとかなんとか》」

「《そう! 出まかせじゃなかったんだよ!》」


「支配するとまでは言ってなかったかもね」

「なーに子供に敵の悪印象すり込んでるんですかぁ。ここにも悪い大人が居ますねぇ」


 まあ、皇帝の最終目標はきっとそうした所にあるだろう、ということで。

 ユリアもまた、認識に偏向バイアスがあるせいでハルの言葉をすっかり違和感なく受け取ってしまったようだ。


「《なるほど。つまり君は、自分も同じ力を手に入れるか、少なくともこちら側から彼らを改心させるかするまで、このゲームに終わられるのも困る訳だ》」

「《そうなの……、なのでございます……》」

「《決心は固そうだね。もしかして世界の危機とか、そういうレベルの大事おおごとなの? ならいっそう、僕にも手伝わせてよ》」

「《そんなに、立派な事じゃない、です。ございます。これは私の問題、なのでございます》」

「《ふむ? つまり、身内が巻き込まれているのか》」

「《……お姉ちゃんは、私が守るの》」


「なるほど。だいたい事情は分かった。自白感謝するユリア」

「本当、悪い大人ですねぇ。警戒してたのに、全部喋っちゃったじゃないですかこの子」

「それは、結局ユリアも誰かに聞いてもらいたかったのさ。悪いのは僕じゃない」

「いーや。ハルさんが悪い。ハルさんがむりやり聞き出した!」

「いやいやいや」

「いやいやいやいや!」


 確かに、自然に会話を誘導したのはその通りだ。だが一方で、孤独な戦いを続けるユリアは、どこかで誰かに、胸の内を吐露とろしたかったのも間違いではないだろう。


「《まあつまり、君も結局リアルに記憶が継承したい、ってことに帰結するんだね。ゼクスと同じで》」

「《……あんな、色恋と一緒にしないで。……彼らは今、ハルさんの所に?》」

「《うん。僕に賛同してくれている。今のところ、一応ね?》」

「《そう。それは、好きにしたらいい。でございます。でも、貴方が何をしようとしているかは知らないけど、私は、記憶だけじゃダメ。力を得ないと。力がなければ、奴らを倒してみんなを守れない……!》」


 やはり決意は強く固まっているようだ。言葉だけで簡単に、ハルになびいたりはしない。

 実際は力を得たからといって全てが解決するような、彼女の思うほど簡単な話ではないが、言っていること自体はその通りでもある。


 まずはその決意を揺るがすほどの結果をハルから先に見せねば、彼女の協力は得られないということか。


「《……話している間に、無駄に時間が過ぎちゃった。そろそろ戻らないと、怪しまれる》」

「《そうかい? まあ確かに、偽物の珠じゃリソース操作も受け付けないからね》」

「《次に合う時はまた、敵同士。次も、宝珠をいただきます。ございます》」

「《予告状出されちゃった。まあ、期待して待ってるよ》」

「《ふんっ……!》」


 ハルと話している間に、そこそこ時間が経ってしまったことを思い出したようだ。ユリアは捨て台詞を残すと、竜宝玉を手にその姿を消してこの場を去ってしまった。


 だが、凝り固まっていた思いを吐き出せて、多少は気も晴れたのだろう。焦って選択を決めることなく、宝玉のメニューは保留のまま帰ってくれた。


「よし。邪魔者は帰ったようだね。ではここからは、僕らが好きに、この遺跡を使わせてもらうとしようか!」

「女の子の気持ちをもてあそんで出てくるセリフがそれとか、やっぱりハルさん極悪人を名乗った方がいいですよ?」

「失礼な。僕は悩める少女にカウンセリングを施しただけ」

「大人はすぐそういうこと言うー」


 そうして終始イシスに『真の悪い大人』扱いされつつも、ハルは当初の目的でもある竜宝玉の使い道を解き明かすことに成功したのであった。





「それで、どうするんですか? 宝玉はユリアちゃんが持って行っちゃいましたけど」

「残したままだと、ユリアの信用を得られないしね。あそこは何も言わず彼女に持って行かせるのがベスト」

「もうそういう行動にはいちいちツッコミませんけどぉ。でも、それじゃあ内部でイタズラできませんよ?」

「安心しようかイシスさん。僕らにはまだまだ、手持ちの竜宝玉がたっぷりある。……ユキ!」

「《あいさー!》」

「竜宝玉の射出準備! 狙いは帝国陣地のちょい手前」

「《あいさーりょーかい! まあそんなトコまで届かんのだけどね》」

「届く距離まででいいよ」


 魔導砲台の制御を担当するユキによって、大砲に『荷物』が詰め込まれる。あれは人間だけでなく、物資の輸送も可能であるのだ。

 ……むしろ人間の輸送が、イレギュラーなのだ。ただそこを気にする者はハル陣営にはあまり居ない。


 そんなユキの魔砲便で、竜宝玉が敵陣近くに撃ち込まれた。ただプレイヤーの殺傷や施設破壊が狙いではない。逆に人気のない目立たぬ位置に、それは着弾する。


「よし。そしてここからは、世界樹の根によってこれを移送する……!」

「《バレんなよーハル君! その先は敵陣じゃ!》」

「大丈夫だユキ。足元を小動物が駆け抜けていく程度のものさ。誰も気にしない」

「いや足元に木の根の触手が這ってきたら飛び上がりますって普通」

「イシスさんは繊細だね」

「《そうそう。気にしない気にしない》」

「おかしいの私!?」


 まあそんなはずもなく、見咎められたらもちろん一瞬で拠点全体に警戒態勢を敷かれるのは間違いないので、ハルは慎重に龍脈越しに敵兵の姿を確認しながら、宝珠を絡みつけた世界樹の根を移動させる。


「……幸い、龍脈に近い位置にはあまり帝国軍は近づかない」

「《うちらにとっては朗報だね》」

「龍脈の近くで話したら、機密保持もあったもんじゃないですからねぇ……」

「《しかし逆にそれこそ、危機意識が低いぜ帝国軍!》」

「だね。自ら死角を作っているようなものだ」


 ハルからモニターされることを避けるために配置も避けていたことが、今はハルに幸いした。

 普段なら、もっと龍脈上で無警戒に作戦内容を話せばいいのに、などと言うハルたちだが、それはそれ。大人の話は都合がいいのである。


 ハルはそうした警備の手薄になっている死角を選び取り、世界樹の根によって宝珠を運送。例の隠し扉の前まで運び込み、ダンジョンの内部へとそれを放り込んだ。


「よし成功。あとは、邪魔者の居なくなった遺跡を使ってゆっくりと、悪だくみをするとしよう」

「《どんな機能あるんだっけ? 確か爆弾にできるんだよね? そこの陣地ふっとばさん?》」

「まあ落ち着けユキ。それも実に面白そうだけど、結局明日にはプレイヤーは復活することには変わらない」

「《でも施設は吹っ飛ばせるし、今後の利用も封じられるよ》」

「そうだね。悩ましいところだ」

「……楽しそうでいいですけどぉ、ユリアちゃんの事情も忘れないであげてくださいねぇ?」


 もちろん、並行してその対処も進めねばならない。とはいえ、悪い大人の悪い企みとなると、少々規模が大きくなりそうだ。

 ここは、話に出た彼女の姉という存在から探りをいれていくのがいいだろうか?

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2024/11/7)

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― 新着の感想 ―
見事に汚い大人の口車に乗ってしまい全ての情報を開示してしまいましたかー。もはやハル様が「来ちゃった(ハート)」するのも時間の問題ですねー。「覗いちゃった(恍惚)」されるよりはマシですかー? 諸説出てき…
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