第1373話 敵を食らい強化されていく者達
アイリの<鑑定>したアイテムの内容はこうだ。今ハルの手の中にある星属性の石は、実際の属性は実は火属性。それを、ユリアが<変身>させた物であるとのこと。
ハルから見ればまったく見分けがつかないが、<鑑定>にはその痕跡が記録されているのを、隠しきれていないようだ。
そしてどうやら、彼女が使っていた回収スキルも、自分が<変身>させた物を手元に集めるスキルのようだった。
「ふむ……? ずいぶんと厄介なスキルだね。あの子さえ居れば、再び帝国は船を建造できる」
「だから手抜きのハリボテでも問題なかったって訳かぁー」
ハルが投げ渡した属性石を光に透かしながら、ユキも彼女の力の厄介さを認識する。
敵の船は脆く急ごしらえであったが、代わりにその単純さゆえに再<建築>も容易い。
つまりは、遭遇戦におけるハルの勝利は、大金星とまではいかずに、ひとまず一歩追い返した程度に格下げされてしまっただろう。
「思えば、僕らが現地で組み立てていた客船。あれを参考に輸送艦を作ったと言われれば納得できる」
「確かに。私らが組み立ててるとこ見せちゃったもんねぇー」
ユキも『うんうん』と頷いて、ハルの意見に同意する。
ああしてハルたちがその場で組み立てていたように、一晩明ければ次の輸送艦が元気に復活することだろう。
もちろん、また撃ち落とすことは出来るだろうが、逆に言えば、彼らがそれを飛ばして来たら、ハルはまた迎撃を強要されてしまうということだ。
「少々、鬱陶しいわね?」
「ですねー。その為にハルさんが拘束されてしまいますしー、次はどうせ完全なハリボテですよー? 本隊は恐らく地上から来ますー」
「そうなれば、隠し魔道具がピンチなのです!」
「そうだねアイリ。それが、悩ましい問題だよ」
カモフラージュされ配置された、対空迎撃用の魔道具たち。
しかしそれは、空から見えない事を重視しており地上からの目線に対するカモフラージュは少々弱い。
接近されればバレてしまう可能性は高く、しかも発動する魔法の効果も、的確に働くとは言い難い。
もちろん、輸送艦を落とすほどの強力な魔法だが、あくまで発動者は動くことのない魔道具。
慣れてしまえば簡単に、攻略されてしまうのは想像に易かった。
「魔道具が破壊されるならまだマシだ。問題は、<窃盗>ないし単純に強奪されていった場合だね」
「んー。こいつの例から考えてー、良さげな石を見つけたらまた複製しますよねー?」
「でしょうね? そうやって、徐々に戦力に幅を持たせてくるわ?」
「むむむむむ……! なかなか、厄介な能力ですね……!」
「だね。帝国の人材の幅はやっぱり侮れないよ」
きっとユリアの他にも、優秀で貴重なスキルを持った兵が投入されていることだろう。
それを考えれば、これ以上技術を<窃盗>されるのは得策とはいえない。<変身>によって量産され、未知なるスキルで応用されてしまいかねない。
「でもさでもさ? その子の<変身>も、万能じゃないんしょ?」
「だろうね」
「能力の詳細が、分かったのかしら?」
「いや。<鑑定>で読み取れること以上は断言できないさ。ただ、それでもわざわざ彼らが、大量の属性石を買い集めていたことから見えてくるものがある」
「素材は、別に何でもいいって訳じゃない、ってこと。同格、あるいは同種、もしくはその両方の条件を満たすアイテムじゃなきゃ複製できない」
「なるほどね?」
でなければ、その辺のガラクタを材料に<変身>させれば良い訳だ。手間の面でも経済面でも、そうした方がいいに決まっている。
もしくは、複製用の専用素材アイテムがあったりするのが定番だが、素材は既存のアイテムということは、その可能性も低くなる。
「逆に言えば、あの子は属性石なら、魔道具なら好きに複製できる可能性があるってことだ。こうなると、戦場で<窃盗>ないし強奪される危険は抑えたいところ」
「どんどん敵の武器が強くなっちゃいますねー?」
「ミーティアエンジンを奪われてしまったら、たいへんなのです!」
「……それは、逆に敵が事故を多発させて自滅してくれるのでなくて?」
ルナはどうにも、ミーティアエンジンが苦手らしい。まあ、気持ちは分かる。
ただ、確かに運用が難しい石であるのは確かだが、中には強襲艇としての『メテオバースト』を再現してしまう者や、それを乗りこなしてしまう者も所属していそうだ。
そうなってしまえば、あの圧倒的スピードにて、この本陣の城や世界樹にまで、直通で乗り付ける敵も現れかねない。
「迂闊だったわ? やはりあの子、あの場で捕らえておくべきだったわね?」
「覚悟ガン決まりってやつでしたねー? ルナさんがえっちなこと言うからー」
「……悪かったわ? でも、そんなに重要人物だとは思わないじゃない」
「いやまあ、明らかな<隠密>持ちを城に招くのもどうもね? 幽閉しておけるとも限らないし」
それに、少女誘拐犯の汚名を着せられるのも出来れば遠慮したいハルだ。
加えて龍脈の巫女強制労働の非難をした身としては、その帝国と同じことをすることは避けたいところであった。
「しかしそうなると、こうして近場に帝国軍を派遣されてしまった時点で詰みではー?」
「……詰みではないけど、大変ではあるね。撃退しても近所の竜骸の地で無限にリスポーンするし」
「しかも、弱体化するどころかどんどん強くなるのよね? どうするのハル? 素材となる石を、ひたすら狙い撃ちにして消費させましょうか」
「それでも、マーケット機能がある以上そこから補給されるのではないでしょうか! 帝国本土から、味方同士で売買するのです!」
「確かにねぇ。仮に、遺跡から取れる宝珠でもいいとすれば、彼ら自身で無限に調達も可能だ」
その可能性は高い。むしろアイテムの格としては、バリアを発生させるようなあの宝珠の方が正当であり格上なので、問題なく素体となる可能性は高い。
こうして考えれば考える程、この場に軍を輸送されてしまった時点でハルは相当厳しい現実が見えてくるが、まあなんとかするしかない。なんとかなるだろう。
「なんとかして、なんとかしなきゃね」
「なんとかかんとか、がんばりましょう!」
「行き当たりばったりねぇ……」
まだまだ敵の情報も少ないのだ、仕方がない。
とはいえ、敵もまた決定打を欠いており具体的な攻略方針は『手探りでなんとかする』以外に立てられていないはずだ。
なにせ、このゲームのシステムにおいて、そうしたギルド戦相当の勝敗を決めるルールなど存在しないのだから。
言ってしまえば、最後まで負けを認めなかった方の勝ちともいえる。
意地の張り合い、我慢比べ。そうした泥臭い戦い方は、ハルの大いに得意とするところであった。
*
「とりあえず、前線は下げることにしたよ。君たちの方にも早い段階で接敵すると思うから、悪いけど対応をよろしく」
「《ははっ! 仕方がないねぇハルは。私がいないと、駄目なのだから! よし、ここは、大船に乗ったつもりでお姉ちゃんに任せておきたまえよ!》」
「全然仕方ないって感じじゃないし、大船に乗ってるのは相手だし、あとお姉ちゃんではないね?」
「《ツッコミの量が贅沢だねぇハルは》」
嬉々として戦う気満々のセレステに警戒態勢を取らせ、ハルは結局対空トラップを引き上げることとした。
やはり輸送艦を撃墜することの手軽さよりも、敵に魔道具を徐々に奪われるリスクの方を重く見たハルだ。
強化された装備を使って徐々に進撃速度を上げて来られるよりも、多少前線を下げても安定して防衛できる方がいい。
それに、敵輸送艦の構造はもう理解した。しかも急遽再建した物となれば、その強度も一段落ちていることだろう。
「世界樹からの対空砲もそれなりの距離まで届く。そこを開戦ラインとすれば、それが分かりやすいだろう」
「《ふむ? 世界樹の枝で作ったテーブル大地の、更に少し先といったあたりか》」
「その辺だね」
「《そうなるとハル、今後は帝国軍以外にも、少々注意したまえよ?》」
「む?」
「《いやね? 今は目的を見失ってダラダラと過ごしている、樹上の民たちのことだとも。住居の付近にまで軍隊が迫れば、彼らものほほんとしてはいられまい》」
「自分の家を守る為に、帝国軍と戦ってくれる……、ことはないだろうねえ……」
「《うむっ。これを機に、再びハルの元へと攻め込むだろうさ》」
何度もハルに撃退され、更には竜宝玉をハルから奪うメリットも薄れたことで、最近はすっかり大人しくなってしまった樹上の民こと魔王討伐軍。
そんな、ハルの連れて来たゲーマーたちも、付近で戦争なんて一大イベントが発生すれば黙っていないだろう。
お祭り騒ぎに乗じよと、帝国軍と共に再びハルの居る城へと向かって来るはずだ。
そんな彼らにもまた、同時に目を光らせておかねばならない。
帝国と完全に同調し、合流して一つの軍になる訳ではないのが救いといえば救いか。
そうして、まさに寝る間も惜しんだハルの忙しい戦いの日々が、ここにスタートしたのであった。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。




