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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1369話 世界樹に巣食う寄生虫?

「さて、本性を現した竜宝玉への対処だが、主に二種類の対応が考えられる。エサを与えて大人しくさせるか、あえて放置して効果を活用するか」

「……そのぉ、手放すっていう選択はないんでしょうかっ! これって、ハルさんを狙い撃ちにした罠なんですよね?」

「ないね。確かに僕に対する嫌がらせが含まれてるのは確かだろうけど、それでもゲームクリアに繋がる重要なイベントアイテムなのは確かだから」

「神様は、約束したことは絶対に守るんだよミナミん」

「はぁ、俺は、その辺のことはまだあんまし分かってなくって。すみません」

「いやいいよ。はたから見れば、意味不明な事をしているとは分かっている」


 敵であるというのに、どこかエリクシルのことを信頼している。いや、敵であるからこそ、彼女の敵としての振る舞いを信頼しているというべきか。


 どれだけハルにとって不利になる内容であっても、そこにクリアへの道筋が隠されていることは間違いない。

 その奇妙な信頼が、ハルにこの厄介まみれの爆弾を手放すことを引き留めていた。


「しかし、持っているならなおのこと、早めに方針は決めなくてはね?」


 今は他プレイヤーとの交流会も終わり、続々と仲間たちが集まって来ている。ユキやルナもまた、先ほどの集会は見ており内容はしっかり把握していた。

 この仲間たちも、宝珠が暴走した際の被害に巻き込んでしまい無関係とはいかない。ハル一人で済まないところが、問題を余計に難しくしていた。


「活用するってーと、やっぱ防衛兵器か? 今後来るであろう帝国軍を迎え撃つための、地形トラップや門番モンスターっつー感じでよ」

「さっすがケイオスサン、元魔王様は考えることがえっぐい?」

「普通だろこんなん。あと『元』やめろっての」

「まあ、ケイオスの言うようにすれば、この魔王城周辺がより一層『魔物の領域』らしくはなるだろうね」


 視聴者たちも言っていたが、現在の魔王領は少々見た目が平和すぎる。まあ、元々が全体に向けて過激なメッセージを送るためだけの名付けであるので当然ではあるが。


 そんな平和な環境を天変地異によって激変させることで、より魔王らしい箔付はくづけが出来るのは確かだろう。


「でもさーケイオス。それやるにしても、問題が出るよ? 盗難対策どーすんの、ってゆー」

「そこなんだよなぁ……」


 外敵からのカウンターとするには、そして拠点自体に被害を出さぬ為には、城からなるべく離れた位置に配置することが望まれる。

 しかしそうすると、今度は放置された竜宝玉を狙って、こっそりと忍び込むやからへの対処が難しくなる。


「いるんですかね? これだけヤバいと分かってて手を出すような空気の読めない人」

「それは居るさミナミ。ここに居るのは、君の配信に集まるような教育の行き届いた人ばかりじゃないからね」

「そうだぜ人気配信者? 中には、嫌がらせのためだけに自分の不利益も度外視で動く奴だっている」

「そーそー。真っ当な理屈だけで考えてちゃダメ。そうでなくても、ワンチャンのし上がれる可能性を秘めたキーアイテムなんだからさ」

「……んー、ユキちゃんの言う通りだわな。となると、防衛装置はやっぱ無理かぁ」

「扱いが、とても難しいのです!」


 様々なゲームに慣れた、ミナミ、ケイオス、ユキが、揃って微妙な顔をして対応に困るこのアイテム。

 その空気を感じて、アイリたちも事の面倒くささを察したようだ。


 エリクシルが念入りにハルに楽をさせないよう設定したであろうアイテム。これを活用するには、ハルたちが苦手とする『多くの人員を割いて遠方へと派遣』を行い『竜骸りゅうがいの地』へと配置しなければならない。


「どうやら帝国は、早くも竜骸の地に衛星都市を建設することを決めたようね? 掲示板にもう情報が出ているわ?」

「流石は皇帝、決断が早いね。掲示板に書かせているのも、わざとだなこれは?」

「でしょうね? 内外にアピールするために、あえてでしょう」

「きっとハルさんを挑発しているんですよー? やり口が陰湿ですねー」

「それもありそうだ。『こっちは対処できるけど、お前は?』ってか?」

「被害妄想はおやめなさいな……」


 いっそ帝国に手持ちの宝珠を全て送り付けてやろうかとも思うが、そんな事をしても長期的に見て損をするのはハル自身だ。

 むしろ、帝国の衛星都市を襲撃し、彼らの宝珠を奪い取るくらいの気概で挑まねば。


 気にかけるべきは帝国だけではない。ハルの落とした竜骸の地の近辺にある勢力からも、早くも『提携』という名の宝珠の供出要求が来始めている。

 自分達が宝珠を管理してやるから、代わりに得られる恩恵の一部を享受きょうじゅさせろ、というものだ。

 ハルに何の利点があるというのか? よく考えて発言してほしい。


「竜宝玉を竜骸の地にそれぞれ配置することで得られる利点は気になるし、きっと破格の物なんだろうけど、僕らにはそれを管理する人材がいない。ここは無視するしかないね」

「仮に配置したとしてー、現地に行って何かしらの成果を回収して帰って来るだけで、日が昇っちゃいますもんねー」

「日が昇っちゃうね」


 日が暮れてしまう、ではないのがミソである。飛空艇をもってしても、この世界は一日で回るには広すぎる。


「……とりあえず、今は暴走を抑えることを第一としよう。ユキ、すまないが生産ラインは一時ストップだ」

「ほーいっ。しゃーないね」

「これで、ハルさんが帝国に勝る技術力も、潰されちまったってことっすね……」

「念入りだよね?」


 ミナミの危惧する通り、戦争に向け進めていた魔道具開発が滞れば、今後は更に余裕を見せてはいられなくなる。

 それどころか、リソース不足は全てにおいて響き、マーケットでの各地からの物品集めにも支障が出る。

 全てエリクシルの狙い通りだとすれば、なかなかの的確な嫌がらせなのだった。





「……よし。さてと、配置はこんなところでいいか」

「城からずいぶんと離れているけれど、これでは“エサやり”が面倒でなくて?」

「まあ、そこは大丈夫だよルナ。きっとね? 『樹道きどうエレベーター』もあるし、そもそもこれだけ流しとけば十分だろう」

「なんせうちの自慢の工場止めてまで燃料流してるもんねー。これで足りなきゃ、お前らどんだけだよっていう」


 ハルたちは世界樹の枝の上まで備え付けのエレベータにて昇って来て、天空より見下ろす雄大な景色を眺めながら、その先端付近に竜宝玉を配置していく。

 ルナとユキが両手に抱えるようにして運んできてくれる宝珠を受け取りながら、枝から枝へ移動しつつ、専用の祭壇を作り出して安置していった。


「……どうしたのかしら?」

「いいや? 改めて、収納できないのは面倒だなって」

「そうね? ゲームではあえて、ストレージから出して手運びするなんてしないもの」

「いいや、違うぜルナちー? これはきっと、荷物に押し上げられた私たち二人の立派な宝珠に目を奪われていたんだ!」

「あら? えっちねハル? ……というか自慢かしらユキ? 私のは、あなたの宝珠のように立派ではないのだけれど?」

「ルナちーも十分におっきいだろぅ!? あ、危なかったぜ……、ルナちーの手がふさがってて助かった……」

「ハル? 私の方の荷物から優先して消費するように」

「……君たち、樹の上ではしゃがないこと。足を滑らせたらシャレにならないよ?」

「はーい」「はーい」


 ハルがつい、押し上げられて形を変える二人の豊かな胸に目を向けてしまったことで、また妙な騒ぎに発展するところだった。

 世界樹の枝は十分に太く頑丈だとはいえ、この場は恐ろしく高所であることは忘れてはならない。


 そんな、周囲の国々まで遮るものなくしっかりと見渡せるパノラマを楽しみつつ、ハルたちは一つ一つ、枝の先に祭壇を配置し、加えてそこに向けてハルが龍脈のラインを通していった。


「よし。とりあえず、現状の全エネルギーをこの枝先に向けて排出する設定になった。僕らの生産力はガタ落ちになったが、これでこいつらも大人しくするだろう」

「いちいち龍脈結晶を与えるより楽だしね。オート万歳」

「……しかし、なぜ枝の上なの? 龍脈を繋げるなら、下の方がいいじゃない」

「それはほら、ルナ。あれだ。もし暴走事故が起こった場合、ここなら城への被害も出ない。世界樹は無駄に頑丈だからね」

「なるほど。確かに、例の<天剣>ですら破壊出来ない強度ですものね?」

「いいや、違うぜルナちー。また騙されてるな?」

「あら? またなにかえっちなの?」

「いや、今度はそういうのとは違うハル君の少年の部分。ハル君はきっと、この珠が輝いてるから夜になったらイルミネーションになるとか考えてる」

「いたずらっ子ねぇ……?」

「……ユキだってどうせ同じこと考えてただろ?」

「てへ」


 すぐその発想に行き当るということは、そういうことである。長い付き合いだ、この辺の考えは似通っていた。


 赤黒く、なんとも怪しい輝きを放つ竜宝玉は邪悪さに欠けると評判の世界樹を邪悪に彩るいいイルミネーションになてくれるのではないか。そうした悪戯イタズラ心が芽生えてしまったハルである。


 また、リスク管理の面でもルナに語った内容は嘘ではない。

 世界樹の枝や根は、竜宝玉にも負けぬ無敵の強度を誇っており、例え天変地異が巻き起こってもまるで壊れる気がしない。

 なので、城から離れ、かつ強度的にも十分なここに安置しておくのは、遊びの面以外でも最適なのだ。


「ついでに言うと、泥棒除けにも非常にいい」

「そんな事を言っていると空を飛んできてかすめ取られてしまうわよ……?」

「安心せいルナちー。わが軍は高射砲の備えが無駄に多い」

女王蜂じょおうばちとその配下も居るしね」


 ハルが腕を振るとそれに合わせて、巨大なハチのガーディアンが舞い参じる。

 例のジュースの材料を作ってくれる、ありがたくも厄介な存在だ。


 その力もまた、大きさに見合ったものを備えていて、『倒されてもいい』という気持ちで各果物の樹へと送り返した個体も、未だどれ一つとして撃破報告が上がっていなかった。


「まあ、これであとは、徐々に生産力を強化していけば以前の通りの拠点に……」


 戻っていくに違いない。そのように、安易で希望に満ちた発言をハルが行おうとしたところ、それを許さぬとでもいうように慌てた様子の報告が割って入る。

 どうやらアイリが、龍脈通信にて重要な書き込みを発見したようだ。


「大変なのです! 帝国が、我が国へ向けての派兵を決定したという情報が!」


 どうにも、世界はハルたちに、ゆっくりリソースの回復時間を与えてなどはくれないらしかった。

※サブタイトルの話数ミスを修正しました。(2024/10/7)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ある意味ゲーム的な魔王ともいえますかー。たまに負けイベを用意するけれども、基本は片手間に勇者を育てるような事をしている感じですねー。つまり、エリクシルも魔王ハルの育成を……あれ? とにかく…
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