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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1367話 後出し運営世界の歩き方

 そうして帝国とハルの間にて勃発ぼっぱつした勢力争いは、見かけ上は圧倒的にハル有利で進行していった。

 竜討伐による枯渇こかつ地帯の支配も、それ以外の基本的な龍脈そのものの支配においても、ハルの支配域は桁違いの勢力だ。


 帝国もそこそこ頑張ってはいるが、ドラゴンの討伐は五体、つまり宝玉の入手は五つにとどまっていた。今後、これ以上増えることはないだろう。


「あとは、今攻略中の最後の枯渇地帯が攻略されるのを見届ければ、全てのポイントが点灯するね」

「ハルさんと帝国以外も、いくつか頑張ってるようですねぇ。とはいえ、位置に救われた感は否めないかぁ? 中央部は全て、ハルさんが支配しているぅ!」


《いつもの毒がないぞミナミ》

《キレが足りない》

《案件か?》

《魔王に魂を売ったかミナミ》

《見損なったぞミナミ!》

《まあいつも見損なってるが》

《そういえばそうか》

《なんだいつも通りか》


「うっせ! 強者におもねるのがミナミ流よ! こっちもいつも通りだってーの! それにリアルでもお世話になってるお人だぞ? そうそうはしゃげるかっての!」


《やっぱ案件か》

《いくら貰ったミナミ》

《こっちで媚び売っても意味ないぞ》

《忘れちまうからな》

《尻尾振り損だな》

《目覚めろ忠犬ミナミ》

《狂犬だった頃を思い出せ》


「おや? 手を噛んでくるかい?」

「いやだなぁハルさん! こいつらの言葉なんて信じないでくださいよぉ~。それに、例え記憶がなくても、心の何処かでは俺の忠義を憶えていてくれると信じてますよ!」

「相変わらずの三下ムーブだねえ」


 今はこの新たに仲間に加わったミナミと共に、最後のドラゴンが倒される瞬間を他のプレイヤーと龍脈通信越しに交流しながら待機している所であった。

 ミナミが加わることで、ハル一人で開催するよりも彼らの緊張感は大きくほぐれているようだ。やはり、得難い人材だ。


「……しかし、確かに普段の君と比べると固い気もするね。いつも通りにやっていいのに」

「いやそうもいきませんって。それに、ある意味いつも通りですよ。スポンサーが付いた時は、デフォより多少大人しくなるのが相場なんで」

「そんなもんかね」

「そんなもんですよ」


 視聴者に聞こえないよう音声を切って、裏で調整を行うハルとミナミ。

 この状況の時は、更に落ち着いた礼儀正しい青年だった。ハルが『ローズ』だった時に、裏で送って来た丁寧なメッセージを思い出す。


 まあ、実際には記憶が残ってしまうということはミナミも知ってしまった訳で、そんな中で無茶はできないだろう。

 ハルとしても恩に報いたい気持ちもあるので、またミナミに仕事をお願いしてもいいだろう。

 かなり露骨にはなってしまうが、なに、プレイヤー達が言うように、どうせ彼らの記憶には残らないのだ。


「……しかし、ハルさん! 最後の一個、魔王らしく、奪い取っちゃったりはしないんですかい? 確かにちょっと遠いですが、高速艇でひとっ飛びすれば、横取り可能ですぜ、ぐへへ」

「やめんか。まあ彼らが攻略失敗したら考えるけど、やれそうな所に横入よこはいりはしないよ」


《帝国の邪魔もしなかったもんね》

《公正な魔王》

《流石は陛下》

《調子出てきたなミナミ》

《調子乗んなよミナミぃ!》


「どうしろつーの! まあ? 俺は長い物にはぐるんぐるんに巻かれまくるスタイルなんで?」

「むしろ皇帝に付いて、その調子で破滅させちゃってよ」

「いやー……、あの人お堅すぎて無理かもなぁー、ってのが正直なとこっすかねぇ……」

「まあ、そこらの悪徳貴族のようにはいかなそうだね」


 ミナミの口車に乗り破滅するような単純な相手ならいいのだが、若くして旧家の当主となった者だ。皇帝はそう簡単には崩せまい。

 鋭い嗅覚でそれを察知したか、ミナミも彼の元に身を寄せることなく、ハルに保護を求めた。


 ハルとしては有難いところだが、また敵としてのミナミも見てみたかったのも、正直な気持ちである。


「ハルさんが正々堂々なのは分かりました。でも、それでもサービスしすぎじゃないですか? 帝国行きの船まで手配しちゃって」


《確かに》

《それがなきゃもっとドラゴン狩れたよね》

《お前もハルさんの世話になっとるやろ!》

《バレたか》

《魔王領はいいぞぉ》

《支持者集め?》


「そういう打算もあるよ。例え宝玉の全てを手中に収めても、世界全てを敵に回しては僕も厳しいからね」

「ホントに厳しいっすかぁ~~??」

「……厳しい、と思うよ?」

「まあそういうコトにしときますかぁ!」


《まさに魔王の風格》

《龍脈王ハルVS全世界》

《俺らは打算で集められた!?》

《舐められてるな、許せねぇ!》

《でも宝玉を奪えた人は?》

《ゼロ……です……》

《舐めてるんじゃなくて見切ってるな》

《な、なぁにこれからよ》


「挑戦待っているよ」

「しかし、打算だけじゃないって言いましたよねぇ。つまり、攻略を抑えたのには他にも目的があるってこと! そこを、今日は深掘りさせてくださいよ!」

「別にここで焦って聞かなくても、すぐに答えが出ると思うよ?」


 確かに、ハルがその気になれば、帝国にすら一つも渡さず、全ての竜宝玉をハルが手にすることは出来ただろう。

 それだけ今よりも全世界に警戒されるが、逆に今のように拠点周辺にプレイヤーを集めることもないので物理的な脅威も薄い。


 ゲームクリアを目指すハルは、あからさまなキーアイテムである宝玉を可能な限り集めておいた方が良かったという考えも確かにその通り。

 その点で、ハルの言動に疑問を持っている者も居るだろう。この時間に、少々釈明しゃくめいというか、考えを話しておいてもいいかも知れない。


「……このゲーム、全てが運営の匙加減さじかげん次第というか、後出し上等だからね」

「というと?」

「宝玉を手にした結果が、良い事ばかりとは限らないってことさ」

「つまり全てを揃えると、大爆発して国ごと吹っ飛ぶとか、そーゆー!?」

「そこまでは言ってない……」


 ただ、集めれば集めるほど有利、ともエリクシルは別に一言も言っていない。彼女はただ、ハルの求めに応じてイベントを実装したのみだ。

 イベントの続きは全てエリクシル次第で、それがどんな展開になるかは、彼女による完全な後出しが可能なのである。


 これは、ほぼ断言可能な精度で、ハルにとって不利益のある展開が待っていると言って構わないだろう。


「だからある程度、帝国を含めた他国に取らせたのも、予定通りというかリスクヘッジであるともいえる。例えばだけど、宝玉を手にした複数勢力で協力しなければ攻略不能な展開とかも、あるかも知れないしね」


《なるほどー》

《考えすぎじゃね?》

《んなこと気にせず、全取りしちゃえばいい》

《取れなかった負け惜しみじゃないの》

《はい不敬》

《死刑》

《七割がたの確保でも十分だろ……》

《バケモン》

《でも取れるなら取った方が絶対いいだろ!》

《だよな。言い訳っぽいというか……》


「まあ、結果はすぐに分かるだろうさ」


 もうじき、最後の竜討伐が完了する。ハルは現在討伐中の者達による書き込みを横目で見ながら、その瞬間を皆と雑談しながら待つのであった。





「……来た! きたきた来たぜぇ!」

「そのようだね」


 そして、ついに最後の一体が他国プレイヤーによって討伐される。

 これはハルたちでも、帝国でもない第三国。西の端に位置した、幸運にもハルからも帝国からも遠く手の出しにくい位置の大国だ。


 彼らはそのライバルの居ない地理的有利を十分に生かして、時間を掛けて『兵舎』を強化しドラゴンを弱体化させていったのだった。


 そうして、崩壊し虚空こくうに消えた中央の一つを除き、全てのエリアが誰かしらの支配下に置かれた状況が完成。

 ここから、イベントが何かしらの新展開を見せるのではないかと、世界中が固唾かたずをのんで見守っている。


《……何も起きない?》

《おきないね》

《お知らせにも何も来ない》

《期待外れ》

《何かトリガー探せと?》

《また自分達で見つけろってやつ?》

《そういうの多すぎだろ!》

《クソゲー!!》

《まあまあ、そういうのも好きだよ俺は》

《……そりゃ強制参加じゃなければね》


 あらゆるものが非表示マスクデータで、次の段階への進行条件も全て自分達プレイヤーで解き明かすゲーム。

 確かにその『探す楽しみ』は代えがたいものがあるが、気軽な娯楽において求めていない者だって多い。


 特に、このゲームは望まぬ者も強制参加、途中抜け不可能の鬼畜きちくゲーム。ストレス要素は少ない程いい。デスゲームではないところくらいか、褒められるのは。


 ただ、今回においては、その彼らの心配は杞憂きゆうに終わる。次のイベントに向かうための答えは、一部の者には既に開示されていたのだから。


「まあ落ち着け君たち。どうやら、トリガーはもう判明しているようだ」

「おおっとぉ!? ハルさんの手元で竜宝玉が輝いているぅ! 通信越しには伝わらないかぁ? 残念だなお前ら! だが俺には、傍でばっちり見えちゃってるよ~ん」


《ミナミ! このクソ野郎!》

《許さねぇこいつう!》

《よくもやってくれたな、ミナミのくせに!》

《さっさと画像を貼れぇ!》

《はやくしてミナミ。役目でしょ》


「どぉしよっかなぁ? ハルさん、どうします? ナマイキですよね、こいつら! 誠意が足りないんじゃないでしょうか!」

「……遊んでないで貼ってあげなさいミナミ。話が進まない」

「はーいっ」


《流石は魔王様》

《慈悲深いぜ……》

《惚れそうだぜ陛下》

《ミナミと比べたら天地》


 あえて道化を演じることで、相対的にハルの評価を上げる気か。いじらしい男である。

 しかしそれでいて、ミナミにとってはいつもの事なので、特に彼の評価も下がった訳ではない。流石のやり手と言わざるを得なかった。


《それで、何が分かったの!?》

《教えて教えて!》


「待てまてっ。慌てるな君たち。今見ていくからさ」

「しかしなんとなく、いやーな感じの輝きしてますねぇ……」

「うん。やっぱり予想通りというか、所持者にとって良いことばかりではないようだよ?」


 当然といえば当然。エリクシルがすんなりとハルに攻略させてくれるはずもなし。

 どうやら宝玉の所持者はメリットもあるが、それと同時にこれを管理する為の、多大なデメリットをも負わねばならないらしかった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夢から覚めても覚えているぐらいにはお気に入りですからねー。下手なことをすれば没落も現実的となれば、忠犬ミナミぃ公になるのも致し方なしですねー。いや、もしかしたらミナミを調子に乗せて無礼を働…
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