第1353話 世界を超える力の循環に関する考察
「少し整理してみよう。本来、魔力がどうとか龍脈がどうとか言ったところで、それは単なるゲームシステムの話だ。でも、この世界においては少し違う」
「何かのメタファーってことですか? 欲求不満がどうとか」
「イシスさん欲求不満なの?」
「そうじゃなくてぇ! 何でもかんでも欲求不満な夢ってことにする人が居たじゃないですかぁ!」
「よく知ってるね。かなり昔の話なのに」
「……女子は夢占いとか好きなんですよ」
なるほど。そういうものかも知れない。間があったのが気になるが、特にツッコむところでもないのでそのまま流すハルだった。
「龍脈が何のメタファーかってことではなく、ここでは何か、別のシステムにゲーム的な皮を被せた物である、ってことだね」
「見れたものじゃないキャラを、スキンでまともな見た目に、って感じですね」
「それはどちらかといえば改造の類なのでは……」
とはいえ、やっていることはそれに近い。元が見れた物なのか否かは分からないが、本来別の用途を持つ物を、ゲーム的な見た目に改造して何も知らぬユーザーに遊ばせている。それがこの世界の現状のはずだ。
例えるなら核動力の施設に、ファンシーな見た目とポップなボタンの皮をかぶせて、何も知らぬ来場者に操作させているようなものである。
「そしてその用途は、ある程度その、元々の本質に通じる部分があるはずなんだ」
「スキンで誤魔化すにも限度がある、時たま元の奇妙なアクションが出て来ちゃう、って感じですかね」
「まあ、イメージはそんな感じ」
この世界とシステムは、何かしらの手段を用いてほぼオートで生成されたものであるとハルたちは考えている。
エリクシルも神様、元AIであるので、その辺りに疑問は特にない。
ただその都合上、自然と元々の機能に準ずる形にシステムは組まれやすいはずなのだ。あまりにかけ離れたシステムにすると、色々と破綻が起きる。
「だからこそ、本来エリクシルがやろうとしている事とも、何かしら共通点があるはず。僕はそう思っている」
「今みたいに、宝珠がエネルギーを飲み込むことでしょうか?」
「龍脈から、エネルギーを生み出すことかも知れません!」
「ああ、そういえば、変な黒い石板も、エネルギーを生み出すとかで注目されてるんでしたっけ? それ関係ですかね?」
「モノリスに関わっている可能性は大いにある。あるけど、誰だい、イシスさんにそんなこと話したの……」
「えー、仲間外れにしないでくださいよー。いいじゃないですか、私にも教えてくれたってぇ」
「いや、知っていること自体がかなり危険なことだからね? くれぐれも外で、今みたいにぽろっと言わないように」
「げっ……」
危なっかしいことだ。そのせいで、事件に巻き込まれる可能性だって無いとはハルも保証できない。
まあ、とはいえこの事はそもそも知っている人間が極端に少ないので、ぽろっとこぼしても誰にも伝わらず相手にもされない可能性もある。
ちょうど、イシスが夢世界の話を公言しても誰にも相手にされなかったように。
「まあ、これから職場もハルさんのとこになるんですし、大丈夫でしょ!」
「会社から外に出ないつもり……?」
「えー、人生そんなもんですってぇ」
「エメさんみたいなことを、言い始めたのです!」
「これは、皇帝が目を付けるのも納得か。まあお望みなら、どうぞ無休で働いてもらって……」
「嘘です! 嘘! でも自分から積極的に動くのも面倒なんで、どこかに遊びに連れてってください!」
「イシスさんだんだんズボラなところ見えてきたよね」
「わたくしたちと、いっしょに遊びましょう! ナンパして街に、くりだすのです!」
「私またナンパされちゃうのかぁ」
言いつつどことなく嬉しそうだ。とはいえ、イシスと遊びに出かける計画はまた今度にしよう。
それこそ、そのモノリス周りの話が一区切りつかないうちは、イシスに危険が及ばないとも言い切れない。
皇帝は、織結の当主は今は当然彼女にも目を付けているはずなのだから。
そう考えると、彼が記憶のことを知るより先に、無茶をしてでもイシスを攫って来れたのはハルたちのファインプレーだったと言えるだろう。
「それで、なんでしたっけ? 龍脈はそのモノリスと関係がある?」
「いや、それはまだ分からない。結果的に、間接的には全てがモノリスに通じているような気もするけど、このゲームが直接アレと関わっているかは、まだなんとも」
「なんか複雑ですねぇ……」
「そうだね。なにせ、話は日本だけ、地球だけで済まない可能性もある訳で」
「わたくしたちの世界も、関わっていると!?」
「それも間接的だけどね。他の神様の技術も使われてるし、何より、その『エネルギーを別次元から取り出す』というシステム、どうにも聞き覚えがある」
「!! わたくしの世界の、魔力! ですね!」
「うん。そういうこと」
「なんでしたっけ……、私、まだまだ勉強中でしてぇ……」
「簡単に言えば、日本人の色々な活動が異世界の魔力に変わって流れて行ってるんだよ」
特に、かつての繁栄していた異世界人が言及していたという『神の夢』。すなわち地球人の夢というのが、現状にピタリと当てはまっているのが引っかかる。
単なる偶然なのだろうが、魔力の発生源が本当にこの空間なのだとしたら、エリクシルの動きもそれに関わる事になるだろう。
しかし、今のところ観測されている魔力発生量の推移に関しては、エリクシル活動前後で大きな差異はなく、彼女の計画は魔力とは無関係だろうと結論が出ていた。
「ふーん。でもそれじゃ私たちの地球って、異世界に取られ損なんじゃないですか?」
「わたくしの世界が、大変ご迷惑を……」
「あっ、ごめんねアイリちゃん! 責める気はないの! というか、そんなん誰も意識してないエネルギーなんだから、むしろどんどん持ってっちゃって!」
「いや、そこなんだよ、僕も気になってたのは。もちろん、アイリを責める意図はなくてね」
「魔力の、ことですか?」
「うん。何が流れてるかはともかく、ただ一方的な流れとなると、こっちの宇宙のエネルギーがどんどん減少していってしまうことになる。もちろん、宇宙の広さからしたら誤差でしかないけどね」
それでもエネルギー保存則の観点から考えれば、ひたすら長い目で見ればこの宇宙の力が枯渇する結果になるのではないか。
もしかしたら、本当に完全なる無限の力であるのかも知れないが、そうそう上手い話というのは無いのが現実の世界だ。
「で、では、やはりすぐに止めた方がいいのでは!」
「え? 止めたら不便でしょアイリ。国が傾いちゃうよ。それよりも、もっと簡単で手っ取り早い解決法がある」
「なんと! それはいったい、なんなのでしょうか!」
「それはもちろん、僕らも他の世界から持ってくること」
「うわぁ、なーんとなくそうじゃないかと思いましたよ。まさに魔王的発想」
「いや、強盗みたいに奪い取る訳じゃなくてね……? 循環というか、なんというか……」
まあ、このゲームでのハルを身近で見ていれば、そう納得してしまうのも無理はない、のかも知れない。
暴れるのはもう少し抑えて、大人しくした方がいいのだろうか? なんとなく、そう不安になってしまうハルだった。
「……まあともかく、そうした別の宇宙、別の次元とのアクセスが、思ったより日常的に行われているんじゃないかと最近は思ってるんだ。情報屋が使っていた秘密の通信とかね」
「ああ、『イヤッホゥン!』ですね」
「織結が持ってたのは大きなヘッドフォンね?」
「ヘドッホゥン! ですね!」
「もはやなにがなにやら……」
彼の奇声はさておき、この世界の構造を詳しく紐解いてみれば、案外別の世界なんてものは身近に存在していたのかも知れない。
魔力の発生も、モノリスからのエネルギーの取り出しも、世界規模で見れば何も特別な現象ではない可能性だってある。
「さて、そこで龍脈やイシスさんの存在だけど」
「そういえばその話でした」
「今の話に、関係しているのでしょうか!」
「それこそ記憶の引継ぎがさ、ここを異世界と仮定すると、次元を超えた情報の流れ、エネルギーの通り道の確立を意味してるんじゃないかな、と」
「私の記憶と一緒に、なんか妙なエネルギーが地球に流れてると!?」
「妙かどうかは知らん」
「知っておいてくださいよぉ。私、なんか不安ですってぇ」
「少し脅かしすぎちゃったかな? まあ、全ては仮説だし、今は僕らのシステムで行き来してるから問題ないはずだよ」
「なんだ、じゃあ被害を受けるのは、情報屋だけですね」
「図太いなこいつ……」
ただ、そうして記憶と共に『通り道』を開ける者を量産することで、何か地球に新たなエネルギーを齎そうとする計画、と考えれば辻褄があう。
いかにも、神様の考えそうな計画っぽくもある。どちらかといえば、アメジストあたりがやりそうな事ではあるが。
「でもそうすると、このゲームに終わりは絶対に来ないのでは?」
「そうなんだよね。貴重なエネルギーの伝播役を、ここから逃すはずはない」
「じゃあ私、一生このゲームをプレイし続けることになると!?」
「どんなにゲーム好きでもさすがにそれはねえ。だから、断固阻止しないとね」
まあ、まだこの予想が真実だと決まった訳ではない。しかし、このゲームを潰さなくてはならない理由が、また一つ明確になったのは確かなのだった。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。




