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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1342話 竜退治の船出

 竜が形態を変え、ハルもまた再び飛空艇から出撃する。なんだか、前座を部下に任せ美味しい所だけを持って行っているように見えるが、仕方ない。

 どうしても彼女たちが真っ先に突っ込みたがるのだ。それを止めることは出来ないだろう。経験値稼ぎにもなる。


「あっ、ハルさーん! 気を付けてー! とつぜん荒れた海から、襲ってくるからー!」

「わかった! ありがとうソフィーちゃん!」


 そう言うソフィーは騎乗する魚ごと高波にさらわれつつも、その中で器用に体勢を立て直し水中からの襲撃に備える。

 水のドラゴンが飛び出るようにその波からの落下中のソフィーを狙うも、彼女はまるで問題なく対応し逆に刀傷を付けていった。


 なお、水棲テイムモンスターは当然ドラゴンの攻撃には対応できないので、回避のためにソフィーに蹴り飛ばされ海面に叩きつけられていた。哀れ。


「むーっ! 刀が通らない! 悔しいーっ! ハルさん、もっと強い刀がいるよ!」

「ははっ、甘いねソフィー! だから自前で初期武器を強化することこそ、至高……、むっ……!」

「ほらー! セレステさんも駄目じゃん! やっぱり武器の開発が要るんだよ!」

「武器は重要ですねー。私は武器頼りなので、特にー」


 近接娘たちは果敢かかんに竜へと挑戦するが、その攻撃は全て硬い外皮に阻まれまともに攻撃が通っている気がしない。

 いや、正確には竜のうろこというよりは、龍脈から得た魔力によって強化されたフィールドのようなものか。


「周囲にエネルギーを展開すると、僕に逆利用されると分かって戦法を変えたか。テクニカルな事は止めて、自身の肉体を最大限強化することにしたのかな?」

「それじゃあ、ブラックドラゴンと同じだぞ♪ 芸がないね♪」


 辛辣しんらつである。だがその通りだ。防御を強化し無敵の竜鱗りゅうりんを盾に相手を押しつぶすのでは、最初に戦った暗黒のドラゴンと同じ。

 いや、しかもあちらはまだ第一形態。これでは、むしろ退化でしかないのだが。


「っと! 危ない、危ない。悪口を想像しているのが伝わったかな?」


 雨の海上を飛行するハルの背後に、突如として水竜が飛び出てきたと思うと、唐突に強烈な魔法を撃ち放って来る。

 自分はブラックドラゴンとは違うと、証明したかったのではないかと、そんなことを思わせるタイミングだ。勿論、偶然であるのだろうけれど。


 圧縮した水属性の力が込められた氷の槍が連続し、ミサイルのようにハルに放たれる。そしてその奥から駄目押しのように、水圧カッターじみた水のブレスが飛んできた。


 ゆったりと浮遊するだけの魔法では、到底避けられる速度と数ではない。

 当然、隕石の衝突エネルギーを使えば回避はやすいが、ダメージはそちらが上なので本末転倒。ハルは甘んじて氷の槍をその身に受けて、その衝撃で水圧カッターの軌道からだけはなんとか身をらした。


「……なるほど。技巧派なんだね、すまなかった。しかしまあ、対策が露骨だね」


 この凝縮された属性魔法は、明らかにハル対策だ。ハルに属性のエネルギーを絡め取られ利用されないように、自身の体内に溜め込み圧縮して撃ち出している。

 その結果、風の竜のようなある種の威厳いげんを失って小賢こざかしく感じるのは、なんともドラゴンとして残念な部分だろうか。


 だがさすがにこれほど力の凝縮された魔法となると、確かにハルの方の小ずるい手も意味をなさないのも事実。

 属性中毒の魔法を吸収させても、その構造が強固すぎて暴走ラインにまで至らない。

 こちらに吸収するにも同じ。形を保つ圧力が強すぎて、そして攻撃が速すぎて吸収する隙など存在しなかった。


「とはいえ、分かったことがある。いかに風のから情報が伝わったとて、君本人のスペックが上がった訳ではないと」


 その情報を得た方法についてはやはり気になるが、まあ、これはゲームだ。考えても答えは無いのかも知れない。

 もしかしたら、エリクシルが手動で行動ルーチンを書き換えているのかも知れないのだから。


 そして、スペックそのものが上昇していない以上、結局は小手先の付け焼刃やきばにしかならない。

 ハルを打倒するだけの、化け物じみた進化を見せる訳でもないのであった。


「ふむ? なら今回は、趣向を変えてみよう。せっかく海なんだ、やっぱりここは、船に活躍してもらわないとね」


 ハルは舞い戻るように空へと待機する飛空艇シリウスに飛行して帰り、ブリッジに居るモノの所まで戻っていく。

 彼女から船の制御を一部受け取ると、その操作板を通じて船の各所に通じるエネルギーラインに、自身の膨大なMPを通していった。


 もともとが、ハルの膨大な力を動力炉代わりにして動かすことも考えられていた船だ。力をこうして込めるのも、実に簡単だった。


「どうするの、ハル? 今回は船で、戦うの、かな?」

「うん。海竜討伐といったらやっぱりこれでしょ。それに、僕らの自慢の飛空艇がドラゴン退治にも足るってところを証明したいしね」

「もちろん、だよ! ぼくらの船は、最強、なんだ」

「フン。当然だな。このシリウスの砲は、プレイヤーや雑魚モンスターに向けるには過剰に出来ている。ここで化け物退治に使わずして、どうしようというものだ」

「ウチらの技術の、集大成っしょ! やれるやれる!」


 先ほどの風竜戦では、少々活躍の場がなかった飛空艇だ。その晴れ舞台も作ってやりたいという思いもある。

 今回はハルを警戒してか、周囲の空間を満たす属性力はずっと薄くなっている。そのため、飛空艇の航行もずっと安定していた。


「これなら、砲撃も減衰げんすいされずに十分に威力が出るっていうものだ」

「しかも、今回はハルが、力を込めるからね。威力は、段違い、だよ」

「貴様が動力炉になるならば、やはり主砲が必要、」

「いやそれはいいって! 大木戸様このに及んでこだわりすぎじゃん!」

「まあ、副砲とは言うものの一本一本が主砲レベルだよ。威力は申し分ないさ」


 元々は、城壁や世界樹の上から敵軍を狙い撃ち壊滅させることを目的として開発された固定砲台の魔道具だ。

 その属性石に込められた魔法は、一門いちもん一門が戦略レベルの上級魔法。

 先ほどは周囲に満ちる風の力に邪魔されて、十全に威力が発揮できなかったが、今回は敵がそれを抑えてくれているので実にやりやすい。


「なんか。『あちらを立てればこちらが立たず』ーって感じじゃん? 敵もかわいそ」

「まあ、そのバランスをいかにとって戦略を練るかが、ゲームの醍醐味だいごみでしょ。圧倒的な力で押しつぶすだけじゃ面白くないって、ドラゴン族にも知ってもらわないと」

「圧倒的な力で、毎回押しつぶしている人が、なにか言ってる、ね?」

「……モノちゃん静かに刺してくるのやめて?」

「それより、敵がこちらの動きに気付いたぞ。やるなら早くしろ」

「分かってるよウィスト。じゃあモノちゃん、号令を」

「うん。飛空艇シリウス、一斉射撃、開始」


 淡々としたモノ艦長の号令により、ハルの力がチャージされた砲台が次々と火を吹いた。

 滑るように海面に舞い降りた巨大な船は、その『船』としての本来の姿を改めて発揮する。


 よく見れば真空の壁で水を押しのけながら、海上を高速で航行する飛空艇。それを撃沈しようと追いすがる水竜とスピードを競いながら、旋回しつつ敵に船の腹を向ける。

 その側面部に取り付けられた十二の砲門が、六門ワンセットで小気味よいリズムを奏でて掃射された。


 そのセット射撃、ただいたずらに連打している訳ではない。それぞれが微妙に、砲弾に込める力を調整されて、発射間隔も緻密に計算されたリズムによって撃ち出される。

 それは当然、ハルお得意の『直列繋ぎ』。属性の階段状強化による、従来通りの吸収作用だ。


「うん。今の僕でも、魔道具を介した魔法なら素直に発動できるのはいいね。これで、もう前の魔法を使えなくなったとしても一安心だ」

「魔法使いの発言ではないな。そこは、自在にコントロールしてみせろ」

「まあ、努力してみるよウィスト。理想が高いね」

「フン。当然だ」


 風から闇へ、闇から暗へ、暗から虚へと、順番に一段ずつ吸収されその度に強化される砲弾。

 最終的には、水を飲み込む強大な雷属性の砲弾と、水の力と相殺そうさいし打ち消し合う火属性のそれに分かれ、その二発が竜へと直撃する。


 幾度かその砲撃を受け、敵はたまらず海中に逃げるが、この船はそれさえも許さない。船体を守る真空の壁は水中だろうとお構いなく、空を飛ぶように航行する。

 こうして、少々やりすぎ感もある海竜討伐船によるドラゴン退治の追いかけっこが、ここにスタートしたのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやいやー、ハル様が最初から出ていくと後には素材一つ残らぬ不毛の地しか残らないので、仲間たちの退屈しのぎのためにもハル様には優雅に果物を食べてジュースを飲んでいてもらわないといけませんねー…
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