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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1323話 林檎の海からの脱却

「ブドウの収穫、終了しました!」

「よし、じゃあさっさとこの場を離れようか。持ち主に勘づかれる前にね」

「ちょいまちハル君。どうせなら、やれること全部やってから帰らない? この距離、もう軽々とは来れないんだしさ」

「確かにそうだけど。やることって? 嫌な予感が……」

「そりゃ、虹ブドウを作るんだよ!」

「おお! 確かに虹リンゴがあるなら、虹ブドウもありますね!」

「やっぱりか……」


 確かに、ここが同系統の施設であるというならば、リンゴと同じ手順で上位のアイテムを生成できるはず。

 具体的には、収穫メニューに向けて逆にリソースを投入することで、生産速度が高速化し、そこから更に力を注げば、上位の果物が誕生するのだ。


「……いや、確かにレアアイテムを作っておくのはいい手かも知れない。でも、作ってどうするの?」

「それはもちろん……、植えるのです……!」

「やったねハル君。世界樹が更に強化されるよ」

「いやヤバイだろあれ以上育ったら!」


 ただでさえ持て余しぎみなのだ。その世界樹がこれ以上強化されてしまったら、本当にハルの手に負えなくなる。


「まーまー。何かの役に立つかもしれないし」

「そうです! それに、今の世界樹にはブドウは適合しないかも知れません!」

「まあ確かに、そのリスクヘッジは必要か……」


 言いくるめられてしまった。相変わらず女子に弱いハルである。


 とはいえ、アイリの言うことももっともだ。今の世界樹は、言うなれば馬鹿みたいに大きなリンゴの樹。ブドウとは相性が悪い可能性は十分にある。

 確かに現状は他の食料は問題なく飲み込んでくれているが、同列の龍脈アイテムとなるとそう都合よく行かないかも知れない。


 そうした拒否反応を抑えるという意味では、同系統の世界樹の種を用意しておくのは名案であるようにも思える。

 ……本当に名案だろうか? なんとなく、更に自分の首を絞めることになる予感が激しいハルであった。


「……うんまあ、拒絶反応が出た場合、もう一度ここに来るのは二度手間だし」

「あはは。なんか、めっちゃ自分に言い聞かせてるねハル君」

うれい顔も素敵ですー……」

「じゃあその素敵な顔のために、定期的に曇らせていこう」

「やめろやめろ」


 アイリに妙な趣味を教え込まないでいただきたい。


 ……さて、そんなことをして遊んでいる暇はない。ハルたちは大樹の頂上にひっそりと隠された若芽のような小さな枝に戻ると、再度メニューを表示させる。

 そこに、今度は逆に燃料用に持ってきた龍脈結晶を注ぎ込むと、枝には見る間に新たな果物が実るのだった。


「うん。問題なく成功したね」

「綺麗ですねー……」

「アクセサリーというか、インテリアによさそうだね」


 まるで宝石のように果肉が透き通り、陽光をプリズムに反射し虹色に輝くブドウ。

 それをアイテム欄にしっかりしまうと、改めてここでの仕事は本当に終了だ。


「よし、これで次の樹に……」

「お待ちください!」

「どうしたのアイリ。まだ何かある?」

「どうせなら、ここから龍脈も支配してしまってはいかがでしょうか!」

「あーたしかに。ここから龍脈結晶を流せば、オートで拠点まで流れるもんね。そうすれば、手間なく遠方までのラインを構築出来るって訳だ」

「……確かにそうなんだけど。それはちょっと止めておこう。ルナの居ない今、機体の燃料でもある龍脈結晶をあまり無駄遣いできない」

「確かに! それはそうなのです!」

「そんなに使うん?」

「距離に比例するだろうから。ここからでは、持ち込み分を全部使っちゃいかねないよ」

「残念ですー……」

「まあ、その発想自体は素晴らしいよアイリ。そこは、帰ってから考えてみようか」

「はい!」


 それについては、少々考えのあるハルだ。なにも別に、敵地であるこの場から無理に行わなくてもよい。

 なので今は、早急にこの場を後にし、訪れるであろう敵の追っ手をかねばならない。

 この地の龍脈資源が奪取され、支配権が敵の手に渡ったことは、既にメニューから相手に伝わっているのだろうから。





 そうしてハルたちは一路、飛空艇の舵を90°近く傾けて北へと向かう。

 拠点には戻らず、このまま直接次のポイントへの直行だ。


「迷いなくグリッっていったけど、次はもう判明したん!?」

「ああ! さっきのポイントが確定した時点で、もう残りの位置も全部わかった! あとはそれを最短ルートで巡るのみだ!」

「すごいですー! 全速前進です!」


 複数あった分布パターンのうちの最初の一つ、正確にはリンゴの樹も含めて二つ目が絞り込めた時点で、全体の分布パターンが全て確定された。

 残りの果物系、いや大樹系か、その配置はほぼ100%に近い確度で証明され、もはや実際に見るまでもなくその位置を予見できる。流石はエメの解析である。


 そうしてハルたちは先ほどと同様に大樹の頂上に直接突っ込ませるようにして、次々と資源を侵略、奪取していった。

 時に勢いあまって樹の幹に衝突し、時に今まさに大樹を攻略中の敵対勢力と鉢合わせし、時に燃料切れを起こしながらも、なんとか最後の果実を回収し、やっとの思いで帰路についたのだった。


「ただいま戻りました!」

「ただいまー。ふぃー。疲れたぁー」

「お帰りなさい。予定よりも遅かったから、心配したわよ?」

「おかえりなさいー。なにかありましたー?」

「ただいま。それがね。途中で龍脈結晶が尽きちゃって」

「いや焦ったよね。徒歩で帰ることになりかねんかった」

「その時は……、死ねば、戻れるのです……!」


 流石に死に戻りに頼る羽目になるのは勘弁してほしい。まあ、最後の果物を回収した時点で、それでも構わないのだけれど。


「結局どうやって切り抜けたんですー?」

「ん、そりゃね、ハル君がなんとかしてくれた」

「すごいのですよ! その場でぱぱっと、龍穴を作って、龍脈結晶を発生させちゃったのです!」

「ちょっと邪魔な属性も混じっちゃったけどね。まあ燃料にするだけなら、純粋な結晶じゃなくても問題ないみたいだから」


 何もない地面に龍脈の湧き出し口を設定すると、その場で龍脈結晶を生み出すことが出来る。

 これは、以前モンスターを生み出す実験をしていた時に分かったこと。

 その場の地形が持つ属性に結晶の色も左右されてしまうのだが、この技術は何処であっても問題なく再現可能だ。


 それと、ハル自身が龍脈から吸い取る魔力も加えて、どうにかこうにか帰りの燃料を工面して来たというわけだ。


「……しかし、大丈夫なのかしらそれは? そうやって簡単に作れるとはいっても、それは今のところハルの独占技術で、龍脈結晶その物も私たちの独占資源でしょう?」

「ですねー。龍穴を放置してきたら、その土地の誰か回収されちゃいますよー?」

「ああ、それは大丈夫。その龍穴は更に広げて、ボスモンスターの湧きポイントに仕立ててきたから」

「現地の方は、ご愁傷さまなのです……!」

「魔王の所業だぜ……」

「本当にやってること魔王そのものじゃない……」


 空から突然現れて、大切な資源を強奪し、あまつさえ去り際に凶悪な魔物を野に放って行く。これを魔王と言わずして、何と言おうか。

 だが問題ない。今回は最初から、魔王であると宣言しているのだ。邪悪なことし放題である。


「ローズ神王の時は一応正義にもとる事は出来なかったからね。あれは少々、肩がこった」

「……言うほど?」

「むしろ権力を手にしていれば、何をしても許される例の見本ではないでしょうかー?」

「肩が凝ったのは、あのでっかいおっぱいのせいじゃないのー?」

「お姉さま、なのです!」

「その話はやめよう」


 ことあるごとに掘り返される、罰ゲームのような歴史であった。

 あと胸はケイオスの方が大きかった。腹いせに後で当時のケイオスを持ち出して弄ってやろうと決意するハルである。とんだとばっちりなのである。


「……それはさておき、果物は無事に全て集まったよ」

「やりましたねー。これで、カゲツの<料理>とやらも完成ですかねー」

「……少なくとも、リンゴ味だけの日々からは卒業ね?」

「……それは本当に助かる」

「でも、確かもう一つ何かあったわよね? それは、手に入れられなかったの?」

「ああ、確かロイヤルゼリーだか何だか、そんなアイテムだったね」


 他の材料が果物ばかりの中、それだけが少々異質な素材であった。

 今回の日帰り旅行でもその回収はならず、それはエメの地図で資源ポイントが確定した時点で既に分かっていたことだ。一か所、光点が不足していた。


 そもそもが、名前が果物ではない時点で、順当に大樹から回収できるものではないことは予想が出来ていた。


「むむむむ……、どうしましょうか……。これは、追加で見つけて来なくては、作らせないという試練なのでしょうか……?」

「そこは、多分問題ないよアイリちゃん。アイリちゃんは馴染みないと思うけどさ、ロイヤルゼリーって聞くとうちらは何となく察しが付くのだ」

「そうね? ロイヤルゼリー、またはローヤルゼリー。ハチミツとは少し違う、ハチ由来の分泌物だわ?」

「高級品ですねー」

「なんと! では、ハチさんといえば!」

「ああ、こいつらだね」


 ハルは龍脈経由で、遠隔地からハチのガーディアンをこの場へ呼び出す。

 羽音を立てながら大人しくその場でホバリングするその忠実な兵士は、どの大樹にも同様に存在した。


 それもあって、必要素材の最後にロイヤルゼリーとあった時点で、きっと彼らが関係しているのだろうと、なんとなくハルたち地球組は察していたのである。


「……でも、この子たちをどうすれば採取できるの?」

「確かアレって、女王バチの餌なんですよねー?」

「……ぶっ殺す?」

「犠牲は、つきものなのです……!」

「待てまてっ。思い返してみろ君たち。ボス蜂を倒しても、そんなアイテムドロップしてこなかっただろう?」

「ああー、確かに」

「そういえば、今日は何度も倒したのです!」


 大樹の頂上を守護するボスガーディアン。女王蜂であろうそれらを撃破しても、ロイヤルゼリーはドロップしなかった。

 ならば、そこから得るのは期待薄だ。もしその程度の試行回数では落ちないレアアイテムなのだとしても、それもまた現実味がない。

 何故かといえば、果物の方はこれから凄い勢いで増殖し始めるからだ。龍脈を吸う世界樹の力で、簡単に増える。レアドロップでは、まるで追いつかない。


「……正直、手に入らなかったら入らなかったで、ここで諦めてもいいとは思う」

「……そうね? 少なくとも、何種類かレパートリーは増えたことだしね?」

「まあー、それでも全部、フルーツ系の味付けになりますけどねー?」

「…………」


 カゲツによるリンゴ味の暴走は、確かに抑えられるだろう。しかし、これでは根本的な解決にはならない。

 結局フルーツ味の暴走に変わるだけであり、次第に舌が不満を覚えてくることとなるだろう。お菓子を大量生産してもらって、全部カナリーに消費でもしてもらうか。


「まあ、考えていても仕方がない。今は出来ることをやるとしよう」

「そういえば! 何かハルさんには考えがあるのでしたね!」

「ああ。龍脈にアイテムを流すことで、遠隔のライン構築する話があっただろう。あれは、こっちから果物を流す事でも同じ結果が得られるはずだ」

「確かにねー。果物もこれからガンガン増える訳だし、わざわざ向こうで慌ただしくやらんでもいいか」

「そういうこと」

「ではまずは、果実が世界樹に根付くかの確認からですね!」


 結果的に、それは問題なく成功し、すぐにリンゴと同様に世界樹から新たな枝が伸びてきた。今後は、好きなだけこちらも収穫できることだろう。


「……しかし、その龍脈の浸食に果実を消費したのでは、結局リンゴだけがまた残るのではなくて?」

「……もうしばらく、リンゴ味で我慢しようか?」


 ハルたちのリンゴ地獄、果物地獄は、結局もう少々続くことになりそうなのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうせ後から周回させられることが分かっているのだから、取れるものは先に取っておくのが正解ですねー。後々盗りに行ったとき穏便に済まない可能性がありますからねー。ひとまず取れるものは取り尽くす…
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