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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1320話 はじめてのぜんたいしゅうかい

《どこでプレイしてる人ですか?》

《え、わかんねーよそんなん……》

《マップ広すぎ。連絡機能遅いって》

《しかも制限きつすぎるし》

《これがゲーム性ってことなんじゃない》

《求めてないよそんなゲーム性!》

《じゃあ便利だったらどうなんだ? 永住するのか?》

《はぁ!?》

《みなさん落ち着いて!》

《誰か私の恋人知りませんか! 離れ離れなんです!》

《知らんて……》

《こっちでは別の女とよろしくしてたりな》

《なんてことを言うんだ》

《リアルでは議員をしている者です。どうか話を聞いてください》

《知るかよ。リアルの偉さが何だっての?》

《そうだよ。ゲームに持ち込むな》

《現状、纏め役は必要なはずです》

《それはアンタじゃないだろうけどな》

《でもこの状況なら偉い先生は頼りになるんじゃ》

《何が先生だ。そもそも証明の手段が無いだろ》

《そうそう。こっちじゃリアルと別の自分だよ》

《でもうちのリーダー大企業の役員だぜ》


 ……なんともまあ、内部は思った通りに騒がしかった。


 このゲーム始まって以来、初めてまともに実装されたコミュニティ機能だ。盛り上がるのは分かる。

 しかし、耳を傾けて見ればその発言の多くは、不安がかなりの割合を占めているようだった。


 無理もない。今までは、何となく流れであったり、周囲に合わせてであったりでゲーム攻略をしていても、誰だってこんな状況に突然放り出されればそれは不安不満に思うはずだ。

 それが今、吐き捨てて発言しやすい場に入って、周囲から同様の意見も受け取って自信をつけて、一気に爆発するように膨れ上がったようだった。


 そんな、騒がしかった彼らの発言がピタリと止まる。

 彼らが自発的に静かにした訳ではない。何か強烈な出来事が起こって言葉を失った訳でもない。

 皆一様に、まるで急に喋れなくなったかのように、その場であたふたと慌てるのみだった。


「やあ、みんな、集まってくれてありがとう。ハルだよ、よろしく。このホールを、開放した者だ」


 ならば何かといえば、当然その原因はハルにある。ハルがこのホールの支配者としての権限を使い、一時的に彼らの会話をロックしたのだ。


 ハルは姿を、一人だけ等身大の映像を一段高くなった壇上に映し出すと、その彼らに向けて語り始める。


「突然言葉を奪ってしまい申しわけない。今設定を戻すから、どうか落ち着いて聞いてほしい」


《なんだお前いきなり出て来て!》

《会話を禁止したとか、何様なんだよ!》

《なんの権限があって!》

《いやここの支配者権限だろ……》

《反射で噛みつくなよ馬鹿が》

《ああ!?》

《大人しく言いなりになれっての?》

《うん》

《どう見ても逆らっちゃいけない相手》

《言論統制じゃないか!》

《発言の自由はないのか!》

《だから統制する権利を彼は持ってるんだって》

《んな自由よりこの場のルールのが上》

《構うことはねぇ、お前ら、俺に、》


「静粛に。しゃらっぷ。……いやどうにもならないねこれは。一律の禁止じゃなくてフィルターかけるか。とりあえず今から、語気の強い発言は自動でNGになるからよろしく」


 唐突に現れて場を仕切り出した怪しい奴の存在に、反感を隠せない者も多く居る。

 彼らは恐らく、何か理由を付けて不満を吐き散らしたいだけなので、今は冷静に説いても無駄だと思われる。申しわけないがシステム的な強制で、引き続き発言を封じさせてもらうことにした。


 ハルは感情的な発言に強めにフィルターを設定すると、改めて彼らの前で話し始める。

 スピーチ、というほどではないが、こう大量のプレイヤーが見ていると多少は緊張する。大人気プレイヤーの『ローズ様』として、大量の視聴者をさばく経験があってよかった。かも知れない。


「……さて。静かになったね。協力ありがとう」


《強制的に従わせてるんですが(笑)》

《見かけによらずなかなか剛の者っぽいな……》

《みなさんが静かになるのに強制効果が必要でした》

《そんな校長先生いやだー》

《この人って強いの?》

《そりゃ、即決でこのホール買えるくらいだし》

《この人ハルさんだよ》

《そりゃ聞いたよ。自己紹介で》

《他ゲーの強プレイヤー》

《口だけじゃない実力者がやっときたか》


「みんな、皮肉もほどほどにね。フィルターに引っかからない皮肉の応酬になっても、それはそれで辟易へきえきするだけだし。設定が追加されるだけだ」


 エリクシルの用意した発言フィルターは優秀なもので、そうした明言を避けた遠回しな言い回しも、きちんとニュアンスを汲み取って禁止してくれる。

 ただやりすぎれば、『公的文書か』とツッコミたくなるような堅苦しい発言しか出来なくなりかねないので、なるべく各自の自主性に委ねたいところだ。

 今はとりあえず、暴言を封じるだけで良しとしよう。


「よし。まずは現状の確認からだ。僕は今回、とりあえずこの街の機能全てと、ついでに全てのポイントの掲示板機能を開放した」


《すご》

《お金持ち》

《流石は魔王》

《そんなヤバいリーダー居たんだ》

《うちのトップ全然アイテム持ってないよ》

《ハルさんはどこでもハルさんだなぁ》

《ん? 掲示板全て?》

《独占!?》


「その通り。バシバシ言論統制していくから覚悟しているように」


《根に持ってる!》

《でも実際やばくね?》

《情報抑えられた》

《あーあ、試合終了》

《何の試合?(笑)》

《利便性を考えてくれたんでしょ》

《いや、善意だけじゃなくて戦略があるはず》


「うん。当然だけど僕が有利に物事を進行できるようにとの打算はある。でも、そっちはよほど非常識に使わない限りは、いたずらに発言を制限する気はないよ。まあ仲良く使ってよ」


 実際、不満をぶつける場も必要だろう。そこを制限しすぎても上手く回らない恐れがあるので、このホール内のような一律の制限はかけないつもりだ。

 リアルタイムでここまでカオスな状況になるとまともな会話も通じないので、今回はあくまで特殊な措置そちだ。


《その打算ってなんですか?》

《そうだね。何か大きな目的でもあるの?》

《確かに。このゲームで?》


「いい質問だね。現状、このゲームに目的らしい目的はないもんね。あるとしたら、領主同士で陣取りするくらいか」


《好きだよねー。君主ごっこ》

《ごっこというか実際君主だろ?》

《彼らが居るから平和な街に住めてるんですよ》

《……居るから戦争が起きてるんじゃない?》

《そうだけど、居なくても小競り合いはあるよー》


「まあその辺は今回の議題じゃない。僕も否定する気はないよ。自分だって領土を持っているしね」


 その遊び方の是非ぜひに関して、ここで語ることは無意味だろう。きっと答えは出ない。

 ただ、ゲームシステムに照らし合わせてみれば、そうやって人口を集めるほど多くの物事が有利に運べるように設計されているので、エリクシルからは推奨された遊び方なのだろうとハルは思っている。


「さて、僕の打算についてだったね。それを話そう。……さっき、『このゲームには目的がない』と言っていたけど、それは少し違うんじゃないかと僕は考えている」


 正確には、『考えている』ではなくて『知っている』。目的を作るように、ハルがエリクシルに要請したのだから。

 だがそんな裏事情はおくびにも出さず、あくまで推測としてハルは話を進める。

 そこまで不自然ではあるまい。現にこうして、何かゲームを次のステージへと進めるような新機能が出てきたのだから。


「このゲームにおける最終目的、ゲームクリアの条件が何なのか、それは分からない。だけど僕は、これからはそれを目指していこうと思うんだ」


《ゲームクリア!?》

《オンゲにそんなのあるか?》

《サ終がクリア》

《そういう話じゃないでしょー》

《でも無いんじゃない?》

《無いとこまるよー》


「そう、無いと困る。現状僕らは、この夢の世界に監禁されているに等しいのだから。なので、ゲームを完全攻略して、なんとかこの世界から抜け出したい」


《おお!》

《確かに強引すぎだよな!》

《楽しいけどねー》

《睡眠時間を有効活用できていいじゃん》

《でも確かに、冷静に考えると……》

《記憶も無くなっちゃうしね》

《問題は多いよ。残念ながら》

《でも、本当にクリアなんてあるの?》

《……うん。それに、クリアしたら終わる保証も》


「あるさ。あるっていう前提で、僕は攻略を進めようと思うよ。まあ、無い可能性だってあるんだけど、そりゃ。でも、無いことを証明する前に、諦めてやるのもしゃくだろう?」


 ……まあ、確実にあるのだが。なにせハルが作らせた。自作自演もいいところだ。なんだか割といつもこんなことをしている気がするハルである。

 とはいえ仕方ない。今はまだ、異世界と神様のことを公表するには、あまりにも時期が早すぎるのだから。


《いいぞ! 協力する!》

《私も!》

《……自勢力拡大の、方便なのでは?》

《そうそう。本当は攻略する気なんてなかったりして》

《ハルさんはそんなことしないよ》

《いや、俺あの人のこと知らんしなぁ》

《自称政治家よりは頼りになりそうだけど》

《いや、リアルの経験者の方がまだマシじゃない?》

《強いってもいちゲーマーだしなぁ……》

《ここじゃそれが全てでしょ? 何が不満なの?》

《では、その自称政治家が彼のサポートに入りましょう》

《めげずに自己主張!?》

《た、たくましいな!?》

《その面の皮の厚さは尊敬する》


「……いやまあ、とは言ってもだ。僕から君らに、直接なにか協力を強要することはない。国民になれとも言わない」


 というより正直なところ、養う民が増えても面倒なだけだ。こちらからお断りである。そんなことを口にすれば台無しなので、決して表に出さないハルではあるが。


「ただ、僕は今後そうして動いて行くので、もし賛同してくれるならば、各陣営、障害にならない範囲で同じ方向を向いてくれたら助かる。今日はただ、その宣言だけだね」


 ハルがそうきっぱり告げると、会場からはホッとしたような、残念がるような、さまざまな感情がないまぜになった発言が飛び交った。

 ただ、それでも丸きり無意味であった訳ではない。ある種の諦観ていかんが漂い始めていたこのゲーム内に、新しい風を吹き込むことが出来たのは確かだろう。


 この宣言を受けて、シノや皇帝といった各勢力の長も、またそれぞれ動き出すはずだ。

 中にはきっと、ゲームクリアなどさせないことを理念とする勢力も現れるに違いない。


 ただ当面は、ハルの行動を受けての各施設の支配力争いが、各陣営の大目的となるだろう。せいぜい、リソースを切る割合について悩んでもらいたい。


「それじゃあ、みんなで協力してこの世界を抜け出そう。では、まずこの街にある施設を開放するとどんな特典があるかを紹介しようか」


 そうして、ハルのゲーム全てを巻き込んだクリアまでの道のりがスタートした。こうして振るわれたサイコロはこの先、どのような目を出すことになるのであろうか?

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲーマーなら大抵の場合において先攻有利なことは周知の事実ですが、今回の支配者層がそういうセオリー通りに動くとは限らないですからねー。攻略をガンガン進めていく姿勢を見せなければこの閉鎖的な状…
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