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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1309話 飛び込め流星のように


 文字通り、ハルたちは現地へと飛んで行った。空飛ぶ棺桶かんおけ揶揄やゆされる、例の小型飛空艇に乗って。

 しかも、出入口である後部ハッチを開けたままである。


「……またこれに乗ることになるとはね? しかも扉を開けたままとか、気は確かハル?」

「ぎゃ、逆に考えるんですルナさん! 密室になっていないぶん、恐怖は低減すると!」

「今度は高速で外に放り出されそうな恐怖があるけれどね……」

「まーまールナちー。この距離なら一瞬で終わるって。そーゆー速さだからね」

「ふおっ!? そ、それは、『一瞬で終わるぜ、怖かったら目を閉じてな』、という、シチュエーションでしょうか!? さっそくハルさんに、実践してもらうのです!」

「その肝心のハルさんがお外ですけどねー。ルナさんもお外に出ますかー?」

「私の運動神経では、更に別の恐怖がありそうだから遠慮しておくわ……」


 そんな感じで、ハルは“艇内の”会話を機体の上部から聞き流しつつ進行方向を見据える。一応、『甲板かんぱん上』ということになるのだろうか。

 これは四人乗ると座席が狭くなり追い出された、という訳ではなく、進路の微調整のためだ。

 ひたすら直進することしか出来ぬこの『メテオバースト三号』は、遠距離移動にはいいが小回りが効かず近場への移動に向かなかった。


 ならば何故こんな不便な棺桶を近場の移動に持ち出したのかというと、それはもちろん兵器転用のためである。


「見えてきた! いったん停止するよ!」

「はーい」


 内部への呼びかけにカナリーが応え、エンジンである星の属性石へのエネルギー供給が取り外される。

 隕石の衝突によって進む頭のおかしい『ミーティアエンジン』の威力は慣性としてしばらく続き、追加でそれなりの距離を進んだのちに空中に静止した。


 ユキを先頭に、皆が恐る恐る顔を出してくる。甲板上も相応に狭いので、人数が増えると大変だ。


「ハルさん抱っこしてくださいだっこー。このままでは落ちますー」

「もはや『落ちそう』ですらないんだね……、はいはい……」

「わたくしも、これは気を抜くと足を滑らせそうなのです!」

「私はここでいいわ……?」

「あはは、ルナちーの頭だけが出てる。逆に怖くない?」

「どう考えてもそっちに行く方が怖いわよ……」


 ルナは座席のふちに足を掛けたまま、手は甲板のふちを掴んで、ちょこん、と頭だけを出している。

 その目はいつも以上にじっとりと恨めしそうに細められ、無言の抗議を主張していた。


「んじゃルナちー。私に掴まれい。支えてしんぜよう。おんぶでもいいぞ」

「……いいのかしら? 接触は苦手でしょう今のユキは」

「なんのなんの。ルナちーの為だ」


 ルナもそうして、ユキに抱きかかえられるように引っ張り上げられた。この状況でえっちなことは言ったりせずに、大人しくユキにしがみついている。可愛い。


 そうして機体に波乗りするように出そろったハルたち一行。その進行方向には、今回追加された新たな敵の姿が既に確認されていたのであった。


「黒いドラゴンなのです!」

「大きいわね。あれだけのサイズのモンスター、今までは出なかったわよね」

「ですねー。ハルさんが生み出した中でも、大きいのはあの宝石蛇が最大でしょうかー」

「全長で言うならね。今までは、『デカすぎる猛獣』って感じで、なんとか人類が戦えるサイズだったけど」

「こりゃ、いわゆる象とアリの戦いになるねぇ」


 遠景からでも、明らかに分かるサイズ感。地を這う龍脈視点からでは確認できなかったが、空からだとはっきり分かる。この手法で来て良かったと言えよう。


「龍脈だから、竜なのでしょうか!」

「んー、日本的じゃないけど、まあ神様はその辺気にしなさそうだもんね」

「私も気にしませんー」

「単に、大きくて強そうだから選んだのではなくて?」

「まあ、実装までにほぼ準備時間もなかったしね。僕のせいで」

「でも神様のゲームでこんなオーソドックスなドラゴンも珍しいよね」

「確かに」

「カナリーの所は、変なのばかりだったものね……?」

「独創的と言ってくださいー」


 その姿はいわゆる西洋のドラゴン。特に、ゲームによく出て来そうな巨大で強そうなドラゴンだった。

 漆黒しっこくに染まった大きく逞しい体に、巨大な翼。足は四本だが、二足歩行でどっしりと大地に立っている。

 日本のゲームにありがちなドラゴンなので、ギリギリ日本の龍脈から生まれてもセーフなのだろうか?


 まあ、今はそんなことを考えている場合ではない。明らかに強そうな見た目からも、今までの龍脈ボスとは比較にならない強さであることは察せられる。

 しかも、その者の周囲は龍脈が食い尽くされるように枯れており、ハルの得意の戦法が取れなくなっていた。


「確かに、僕のスキルは少々龍脈に頼りすぎていたところはある。けどそれ抜きでも、これはなかなか強そうだ」

「なんの! 私たちには、この科学の力があるさ! 動力魔法だけど!」


 そう、そのために、こうして小型艇に乗ってきたハルたちだ。

 この力で一矢報いることが出来れば、この状況でも勝機があるのではないかと、期待が持てることだろう。





「それで結局突撃なのね!? 死んでしまうわ!?」

「だいじょびルナちー。衝突の直前に、脱出するから」

「だいじょびではないわ!? 飛び降りても死んでしまうじゃないの!」

「そこは、僕がフォローするよ。さて、そんなこと言ってる間にももう衝突間近だよ」

「心の準備が!!」

「脱出しますよー。とりゃー」

「とりゃーっ!」


 カナリーとアイリを先頭にして、ハルとユキもルナを抱えつつ空中に飛び出す。

 すぐにハルたちの体は尚も進み続ける機体から離れ、その空力制御フィールドの外へと飛び出した。

 すぐさまそれぞれの体に抵抗がかかり、一気に大幅なブレーキとなる。


 それに加えてハルが<風魔法>を中心に、衝撃吸収と姿勢制御を手早く行うと、なんとか全員が無事に、ゆるやかにドラゴンへと向かう進路で軟着陸コースで接敵を成功させた。


 その降下するハルたちに、ドラゴンは目もくれない。これは、小さな人間など脅威にも値しないとナメている、のではない。

 ハルたちよりも、よりずっと脅威度の高い存在に、視線を釘付けにされているからだった。


「よっしゃ! 直撃コースじゃ! そのままぶっこめ三号!」

「……私たちはやっぱり、片道切符のミサイルに乗らされていたという認識で間違っていなかったわね」

「そういう考え方もある」

「そういう考えしかないわよ! 明らかにこの攻撃方法を想定して作ったわよねユキ!?」

「…………それより、ルナちー。準備はおーけー?」

「……ええ。いいわよ。まったく、私のこの新スキルも想定していたんじゃないかしら」


 ルナのぼやきもむなしくかき消すように、轟音ごうおんを上げて飛空艇はドラゴンへと衝突、いや直撃した。

 文字通り隕石の直撃にも耐える強度の鋼材が、超高速で衝突する。そのエネルギーにはさしもの巨体も傾き悲鳴を上げた。悲痛な叫びが、ここまで響き渡って来る。だがしかし。


「内部には全然達してない! あんにゃろ、三号の運動エネルギーを全部外皮で受け止めおった!」

「んー、これはハルさんがやったというような、ホバリングからのエンジン直当ての方が良かったですかねー」

「帝国のバリアも破った実績を持つ、攻撃ですものね!」

「……なら、今からでもそれをやればいいわ。エンジンを、回収してね?」

「頼んだルナ」


 ルナが、ドラゴンに衝突し粉々に砕け散った小型艇の残骸に向けて、その手を伸ばす。

 パラパラと落下する装甲板の破片や属性石の数々が、陽光に反射しきらめいている。

 その破片の数々をルナは脳内で指定し捉えると、そのスキルを発動させた。


「<遺留回収>」

「おお! 三号さんが、戻ってきたのです!」

「ばらばらですけどねー」

「……ふう。上手くいったわね?」

「やるねぇルナちー。ついに遠隔でアイテム回収が出来るようになったとは」

「といってもこれ、<潜伏>からの派生なのよね……、潜入先で誰か失敗して死ぬこと前提みたいで嫌だわ……?」

「まあそこは、今みたいに仕掛けの証拠隠滅が出来ると考えようよ」

「ハル? 証拠隠滅をポジティブな言葉のように言わないように」

「管理者出ちゃいましたねーハルさんー」


 怒られてしまった。確かに、ハルは潜入したり覗き見したりといった類の行動を日常的に行いがちだ。最近は特に。

 さすがに少々、己をかえりみた方がいいのかも知れないが、それはまた次の機会にしよう。今は、そんなことを考えている場合ではない。


 ハルはドラゴンに都合よくルナの細まった視線をなすりつけると、その戦いに集中することで追及を逃れる。

 ちょうど、敵の方もこちらの存在に気が付いたようだ。


 不意打ちで自らの体に鉄の塊をぶち込んだ犯人が、足元のこのアリどもであるときちんと認識したようで、その炎のように赤い瞳が怒りに燃える。

 このままドラゴンブレスでも吐かれれば、ハルたちは一網打尽いちもうだじんにされるだろう。


「ルナ、ミーティアエンジンは無事?」

「ええ。片方は。もう片方は残念ながら粉々みたいね?」

「ん-。残骸ざんがいが回収される危険を考えると、次はもうちっともろく作った方がいいんかな?」

「次はもう作らなくていいわ……」

「今後はリコさんとウィスト様が、もっと大きな飛空艇を作るのです!」


 ユキは、ついでにハルも惜しんでいたが、どうやらメテオバーストシリーズの型番は三号で打ち止めのようだ。スポンサーには逆らえない。

 いや、ユキのことだ。きっと地下研究所で、こっそりと四号の制作に取り掛かるに違いない。


 そんな三号の残骸と、燃料となる龍脈結晶を手にルナがドラゴンに目を向ける。

 彼女の拡張されたアイテム欄の中には、同様の燃料タンクがぎっしりと詰め込まれて輸送されて来ていた。


 龍脈が枯れているなら、代わりとなる燃料を持ち込めばいい。そんなハルたちのシステムへの抵抗。その第一波が、隕石の形を成してドラゴンに向け火を吹くのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 空飛ぶ棺桶こと『メテオバースト三号』がとうとう本性を現しましたかー。よもや地獄への片道切符なミサイルだったとはー。この驚愕の事実にはイシスも思わず「知ってた」と納得の頷きですねー。 そんな…
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