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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1307話 次の頭痛が生じる合間に一休み

 昨日の更新で一部、アメジストとエリクシルの名前間違いが発生しておりました。キャラの名前ミス、大変失礼しました。

「お疲れカナリーちゃん。もう解除していいよ」

「おー、戻りましたかー。助かりましたー。いやー、これは思ったよりきついですねー。ぐでーっとしちゃいますー」

「ゆっくりお休みください、カナリー様!」

「君は元々『ぐでー』っとしてるけどね?」


 夢から覚め、エリクシルの元から帰還したハルたちは、仲間たちにあの世界で起こったことを説明する。

 皆の反応は、エリクシルから譲歩じょうほを引き出せたことへに対する喜びと、アメジストとの交渉を条件として出されたことへの懸念けねんが半々だ。


 とりあえず、不安はあれど一歩前進したことには違いない。ひとまず今はそれを祝い、ハルも疲れた頭を休めることにした。


「んじゃさ、これからうちらは、全力でゲームクリアに向かっていけばいいんだね! んじゃ今からでも潜ろう! 私の体は寝たままだから、今すぐいけるぜ?」

「待てまて。落ち着けユキ。一応、僕らも約束を果たしてからだ。まずはまたアメジストに会いに行かないと」

「……あなたも落ち着きなさいな。ずいぶんと消耗しているじゃない。そんな状態で、もう一人の厄介に対面する気?」

「む……」

「厄介二大巨頭ですねー。疲労は判断を鈍らせますー。ここはお菓子を食べて、落ち着きましょー」

「カナちゃんはお菓子食べたいだけだねー」

「糖分が必要なんですよー?」


 まあ、確かにハルは焦りすぎているかも知れない。仲間たちもまた、ハルに付き合い疲労の色が濃い。ここでまた即出発、というのも負担が大きいだろう。


 ならばいっそ、休息代わりにゲームに、夢世界に潜るというのもアリかも知れない。

 どういう理屈かは知らないが、あの世界に入っている間は脳は完全に休眠状態に入っている。ハルもまた、回復出来ることだろう。


 ……ただハルたちは仕事で入るようなものなので、遊んでリフレッシュするという雰囲気にはならないのだが。


「まーまー。とりあえず今回ばかりは、カナリーの言う通りお菓子を食べて落ち着くっす。ほら、わたしが用意してあげるっすから! アイリちゃんも、あっちの世界のおみやげ話があるっすよね?」

「はい! 本当に、わたくしにそっくりな方だったのです!」

「エメも落ち着け。お前もずっと動きっぱなしだろう」

「わたしはほら、休むことを許されないハル様の奴隷ですので。こうして皆様に奉仕するのが、わたしの宿命なんすよ!」

語弊ごへいのある言い方やめろ! 僕が無理矢理お前をこき使ってるみたいじゃないか、このワーカーホリック!」

「にしししし」


 エメに乗せられる形で、ハルたちはひととき緊張をほぐす。確かに、アメジスト相手に焦りは身を滅ぼすだろう。少し弛緩しかんが必要なのかも知れない。


 ハルたちはメイドさんの用意してくれたお菓子をつまみながら、一時体を休めることにした。確かにハルたちが休まねば、彼女らも働きづめだ。


「それで、どうして彼女はアイリちゃんと似た姿をしているのかしらね? 何か、理由があるのは間違いないのでしょう?」

「そうは言っても、わたくし、あんなに大きくないのです! その、色々と! むむむむむ……!」

「アイリちゃんは、そのままでいいのよ? 今が一番、かわいいわ?」

「ハル君に好かれようと、アイリちゃんの真似したんじゃね? いじらしいねぇ。けなげだねぇ」

「いや別に、僕はアイリの外見が好みだから好きになった訳じゃ……」

「お嫌い! でしょうか!?」

「いや好きだけど……」

「あはは。タジタジじゃんハル君。だがそうなると、ルナちーだった可能性もある訳だ」

「……嫌よ。私が年齢を重ねた姿とか、それってお母さまの格好をした神が出てくるってことじゃないの」

「うわ。強そ」

「だからここはユキね。ユキがもっとおっぱいを大きくして、むちむちになって大人の色気を振りまいた姿の神が出るわ」

「残念。私はもう数年この姿から進歩がないよ」

「それはそれで、完成早すぎではなくって……?」


 気を抜いた彼女たちの話は、自然とこうした方向へ。ハルは少々居心地が悪いが、女の子たちが楽しいならよしとしよう。


「はいはい! カナリー様はどうなのでしょうか!」

「私ですかー? 私は別にー、同じ神だからただのコピペにしかなりませんしー、そういうことはしないんじゃないですかー?」

「確かに! カナリー様は完璧な存在! これ以上、変化は不必要でした!」

「……いやそういう訳じゃないですけどねー? まあー、今のこの体なら成長も出来ますかー。どうしますハルさんー。ばいんばいんなむっちむちが、ご希望ですかー?」

「いや僕に聞かないで好きな姿にお成りよ」


 ちなみに余談だが、ハルもルナと出会って以降は、彼女の成長に合わせる形で自然に体格を変化させてきた。

 それまではアイリ同様、幼い状態から一切変化しない姿を百年以上キープしていたことになる。


「むー。そうなるとー、あれがアイリちゃんの本来の姿でー、あの子はアイリちゃんの生み出した幻影だったのですよー」

「な、なんですた!?」


 アイリも思わず噛んでしまうこの衝撃。まあ、完全に妄想の与太話よたばなしだが、アイリの存在も未だに謎があるのも確かだ。

 彼女はハルと精神を癒着ゆちゃくさせる前から、今の姿で成長が止まっていた。

 それゆえに気味悪がられ貴族間で敬遠けいえんされていたわけだが、その原因はハルにも、神であっても解明できていない。


 一応ハルとは違い、特に理由なく極端な童顔で低身長、という線もなくはないが、ハル自身これは少々苦しいと思う。

 ハルが一目見て彼女に言いようのない衝撃を受けたということもある。なにか、特殊な事情がある可能性は高いだろう。


「まあ色々言いましたがー、そういう意味ではアイリちゃんを真似ているのはむしろアメジストの方でしょうねー」

「アイリちゃんと結婚したから、ハル君をロリコンだと思ったってこと? だからハル君に好かれるために……」

「風評被害やめよう?」

「なかなかいいセンスだわアメジスト。彼女を見直した方が良いかも知れないわね……」

「だからやめよう? アメジストに会いに行く足が重くなる」

「つまり! ここはみなさま大人化ではなく、お子様化こそが今まさに“とれんど”、というわけなのですね!」

「聞いて?」


 ……なんだろうか、疲れを取るためのお菓子パーティーだったはずなのに、どっと精神疲労がのしかかる気がするハルだった。

 まあ、それで彼女らが楽しめるのならば良しとしよう。メイドさんも含めて、皆にこにこ笑顔だ。


 そうして一通りわいわいと騒いだ後、ハルたちは体を休めるのと並行し、再び夢世界へと赴くのであった。





「一見、変化はないようね?」

「そりゃ、そうなんじゃないの? ハル君がアメジストと交渉して初めて、契約成立でしょ?」

「いや、契約自体はもう成立している。というより元々、アメジストの回答を待たずに動き始めてもらう約束だ」

「あ、そかそか」

「もしアメジスト様が了承しなければ、一向に話が進みませんものね」


 改めてログインした夢世界は、普段と比べずいぶんと静まり返っているような気にさせられる。

 もちろん、世界中に散ったプレイヤーの気配など、この山頂の城には届かない。

 これはきっと、普段ならいつもローテーションでログインしている、協力者の友人たちや神様の姿も一切ないからなのだろう。


「おや。わたしがしばらくログインしないうちに、ずいぶんと様変わりしたっすね。あんなでっかい木まで生えちゃって。まあとはいえ、情報は随時ずいじリアルでもアップデートされてるんで、新鮮味はないんすけどね」

「エメも来たんだ。珍しいね」

「はいっす! エリクシルちゃんがきちんと仕事してるか、このエメさんが意地悪なしゅうとのようにしかと確認してやるっすよ! 『なんすかエリクシルさん! スミの方にホコリが溜まってるっすよ!』って! にしし!」

「それじゃ姑というよりただの小生意気な後輩だな……」

「まあ本当は、龍脈の様子をチェックしに来たんすけどね」

「ふむ」


 確かに、あの謎の龍脈に流れるデータ。その変化を探るには今は絶好のチャンスなのかも知れない。

 常にプレイヤーがログインし続けるこの世界、そのプレイヤーが全て排出され、まるでメンテ明けかのように内部が無人となった今、何かしらの変化が世界に起こっているのかも。そういうことだ。


「エリクシルはプレイヤー不在となる状況に、ずいぶんと焦っていたようにも見える。それはつまり、参加者が居なければ致命的となる何かがあるということ」

「わたしたちで言うところの、魔力みたいなもんすかね。そういう運営に必要なリソースが、生まれない可能性は十分にあるっす」

「そして今のところ、その可能性が高いのが龍脈か」

「っす!」


 ハルは<龍脈接続>を起動し、無人となった世界に流れる龍脈の様子を覗き込んでみる。

 しかし残念ながら、龍脈内に前回と大きく異なる点はぱっと見では見られなかった。


「……ハズレか」

「まだ分かんないっすよ。あとでデータを、しっかり洗ってみましょう。しゃくっすけど、アメジストにも解析を頼むのも良いかも知れません」

「確かに。手土産代わりに、持っていくことも検討しよう」


 龍脈データに関しては、ハルたちの知らぬ知識を有しているアメジストだ。また、彼女の力を借りてもいい。

 ……ただ厄介なところは、それが彼女の計画にとってハルの知らぬ間に有利に働いてしまいかねない所なのだが。


「まあそっちは任せるっす。わたしは、もう一つ仕事がありますんで、片手間でいいんでそっち見せてもらってもいいすか?」

「ああ、例の資源マップか」

「はいっす。やっぱり、実物を確認した方が詳細に差分が作れるっすからね」


 現在、アメジストやエリクシルを追う作業とは別に、純粋にゲームを攻略するための計画も色々と動いている。

 その一つがカゲツの<料理>スキル強化計画。植物系アイテムを取り込む世界樹の性質を使い、レアな素材を大量生産し高級料理を量産しようという計画だ。


 その為にはまず、この広い世界の各地に散った食材の数々、その位置を特定する必要があった。

 エメにはその分布パターンを特定し、千里眼のように位置を予見よけんする複雑な作業を任せている。


「……ふむ。これだけ資源位置のデータが集まってれば、目的のブツだけならなんとか特定可能っすかね。もちろん、必要アイテム単体のピンポイントは厳しいっすけど、高級果実系に絞った特定ならば、っと、おや?」


 そんなエメが、ハルの開いたメニューとにらめっこしていると、不意にその端に表れたとある表示に気が付いたようだ。

 どうやら、このゲームの更新を告げるアナウンスが、全体に向けて発信されたらしい。エリクシルが、早くも約束を果たしてくれたのだろうか?

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 消耗している状態でアメジストに会いに行くなんて、食べてくれと言っているようなものですからねー。土産話のついでにデザート感覚でパクっとされてしまいますねー? アメジストと相対するときは気力、…
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