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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1293話 新たな仲間と新たな開発

「あ~、逃げ切れなかった~」

「そう言わないでよ。悪いようにはしないからさ」


 再建したハルたちの城に、新たなメンバーが加わった。こうして嘆き、ぼやいているのはリコ。アメジストのゲームでも世話になった女性である。

 ギャルのような華やかな容姿に、白衣を羽織るというアンバランスな見た目の、可愛い中にも知的さが光る少女であった。


「最終決戦の時に姿が見えないと思ったら、やっぱりログアウトしてたんだ」

「そりゃ逃げるっしょー。あれ以上深入りしたら引き返せなくなる。そう、ウチのセンサーがびんびんしてたんだよねー」

「良い勘してる」

「やるっしょ? 全部終わった後、すっかり深みにハマっちゃったソウシの奴を指さして笑ってやったんだけどなぁ……」

「こらこら……」

「次は我が身だったぁ。だー、いいじゃんさあ、今回もソウシで~」

「ソウシ君だとちょっとね。生活が規則正しすぎる。夜は毎日僕らも入ってるから、彼を誘うメリットがあまりない」

「ウチはダメ人間だから巻き込まれたってことか……」


 そういうことになる。言い方は悪いが。

 学園に赴いた際にハルは、ついでにもう一つの用事を済ませてきた。それが、リコの勧誘だ。

 人間がキーとならねばログイン出来ぬ神様がメンバーの大半を占めるハルたちにとって、生活リズムの崩れた人材は確保すべき優秀な存在。昼夜逆転の研究職であるリコはうってつけだった。


 アメジストとの最終決戦前に離脱したため、ハルの事情に対する致命的な『ネタバレ』は回避したリコであるが、とはいえまあ今更だろう。

 激化する状況を乗り切るための新たな仲間として、巻き込ませていただくことにした。


「……んー、まいっか。実験も開発も好きだし、こうして大木戸様とこんな近くで作業するなんて、あっちじゃ絶対にない機会だもん」

「大木戸ではない。ちなみにオーキッドと呼べばいいというものでもない。可能ならオレのことはウィストと呼べ」

「おおお!? それはいわゆる、真名しんめい!?」

「……真名ではない。オレを中二病患者のように言うな」

「大木戸様から『中二病』なんて言葉が出るとは……、なんだろう、この複雑な感覚……」

「もう大木戸で良い」

「あはは。珍しく押されぎみだねウィスト」


 ハルたちの横で、黙ってもくもくと生産に打ち込んでいる白髪はくはつの男はウィスト。七色の神のうちこれでも『紫色』担当の男神だ。よく見れば微妙に反射の加減で紫にも見える。


 寡黙かもくというよりむっつりと不機嫌に押し黙ったような彼は、いつも眉間にシワでも寄せていそうな顔をしている。

 とはいえその本質は面倒見がよく、ゲーム内でも信者向けに積極的にイベント開催を行っていた。


 その彼が主に担当しているのは魔道具の開発や流通。リコもまた、魔道具の研究が好きで彼の守護する国、『ふじの国』に所属している。


「フン。オレは、こんな世界の研究ではなく、現世での魔法研究に戻りたいのだがな」

「そう言うなってウィスト。このゲームの属性システムは、どう見ても君の作り出した属性相性をベースにしている」

「へぇ~。やっぱそーなんだ」

「見た目だけだ。内部処理はまるで別物だ。これを深掘りすることによって、得られる成果は特にない」

「アメジストの時は素直に協力してくれたのになあ……」

「あれは魔道具が関わっていたからだ。今回は違う。フン、とはいえ、引き続き原初ネットとやらには興味がある。それを探るために協力してやろう」

「さっすが大木戸様。今日も素直じゃない」


 未知の神が黒幕になっているという疑惑が出てきたこのゲーム、外部の調査も勿論もちろん、内部の攻略も加速していかねばならない。

 そのために鍵となるのが魔道具、改め、属性石による道具生産だ。

 数で劣るハルたちは、そのぶん装備で他を圧倒するのが攻略の早道だった。


 リコはそのための人員でもある。研究開発に長ける彼女にはうってつけの役割であろう。


「魔法効果を持つアイテムの組み合わせによる道具開発かぁ。確かに魔道具に近いかもね」

「うん。自由な発想で強力な兵器を生み出してほしい」

「これでこの世界も終わりかぁ……」

「……いやそこまで物騒な物を期待してはいないんだけど」

「でもハルさん、前回もそうだったじゃん? システムを逸脱いつだつした生産を開始した途端に、ゲームぶっ壊れたし」

「うっ……」


 確かに、この属性石を組み合わせて複雑な効果を持つアイテムを生み出すという策は、明らかに運営の想定を逸脱している。

 あの高速飛空艇、『メテオバースト三号』をとってみても、確実に現時点で出して良い速度ではないだろう。

 せっかく運営が、軽々しく遠方の勢力と接触させないようにと世界を広げたのに、それを台無しにしてしまっている。


「……で、でも、<龍脈構築>と台座に刻む文様の組み合わせで、好きな属性石を作れるのは確実に想定内でしょ?」

「そりゃそうっしょね」

「なら、それを組み合わせて道具を作るのも、想定されておかしくはないはず!」

「いやいやいや。どう考えても、属性石を作るところがゴールっしょ。その解析と試行錯誤に、普通ならどんだけ時間がかかると思う? そこ平気な顔してすっ飛ばせるのハルさんくらいじゃんね」

「いや。ちゃんと苦労して解析している」

「……そーゆー話じゃなくてね?」

「諦めろ娘。オレの時も、エンドコンテンツの予定をただの汎用はんようイベントに落とされた」

「逆にアレはヒントなさすぎて欠陥品だろウィスト。僕が居なきゃ未だに、まるで進んでなかったんじゃないか?」

「……フン。そこの娘のような者たちも居る。問題なかろう」

「いやぁ~。期待していただいても、そりゃちょーっと荷が重いってゆーかー……」


 まあ、このゲームに関しては、ゲームバランスが崩れることもコンテンツの寿命が縮むことも、特に気にする必要はない。

 今はどんな手段を使っても、攻略上の万難ばんなんを排し、内部からもそのシステムの裏に居る存在を探っていかねばならないのだった。





「おっ、リコちんじゃん。おっすー」

「ユキちゃんおいすー。おじゃましってまーす」

「ソウ氏はどう? 元気してる?」

「なんでウチに聞くのさ! 知らないってのぉ。相変わらず偉そうにしてるんじゃないの~?」

「そかそか。あっ、ハル君借りてってもいい?」

「どうしたのユキ?」


 どうやら、新たな石の生成を試してみたいそうで、ハルの<龍脈構築>が必要になったとのこと。

 これは、現状ハルにしか行えない。イシスも龍脈を操作は出来るが、既存のラインへの干渉が限度で、ハルのように新たなラインを構築することはまだ不可能だった。


 ユキの要請に従って、ハルは立ち上がり彼女に続く。その後ろを、リコも興味深げに付いて来る。


「ねぇねぇ。ウチも身に行っていい? 生産工場にも興味キョーミあるし」

「よいぞよいぞ。ついて来るがいいリコちん!」

「いえぃ! 大木戸様もいこ!」

「……オレはいい。ここで、っておいやめろ、引っ張るな。……仕方ないな」

「押しに弱いねウィスト……」

「フン……」


 ということで連れだって、ユキの研究室へと皆で向かう。

 地下工房が世界樹の根に埋もれ使えなくなったことで、研究室は地上に改めて再<建築>された。

 仕様上龍脈のすぐそばにあることが望ましいそれは、当然というべきか世界樹の根元へと建てられることになった。防衛上も都合が良い。


「ここだよー。ここここー」

「おお~。秘密基地っぽくてかっくいーじゃん」

「でしょでしょ」


 世界樹の根を一部押し広げて作られた入り口を通り、薄暗い根に覆われた通路を進む。

 すると次第に奥から光源が見えてきて、じきに外と同じ明るさを取り戻した。

 いや、外は広大な世界樹の葉に覆われた少し薄暗い環境だったので、この場の明るさは外部以上であるのだろう。


「ようこそ、世界樹研究所へ!」

「カラフル~」


 数々の属性石が台座の上で生まれ輝くこの空間は、十二色の輝きに全方位から照らされていた。間接照明、多すぎである。


 この場でユキにより生み出された様々な効果を持つ石を組み合わせて、リコはこれから魔道具を作っていくことになる。

 良い機会だ、必要な機能のリクエストなどあれば、ついでにその石も作っておこう。


「んでだハル君。ここ、ここに龍脈、新しく通して。おねげーします」

「いいよ。ちょっと待ってね」

「うわぁ、めっちゃ既視感。雑多というか、ごちゃごちゃというか。ウチの部屋みたい」

「研究室は君の私室ではないよリコ……」

「いーのいーの。似たようなもんだし」

「……しかしユキ、そのうち本当に足の踏み場がなくなるんじゃない?」

「んー。でもねぇ。今作ってる石は、大量に使うことが決まってるから、生産を止める訳にはいかないし」


 新設した施設だというのに、そこは既に床一杯に我が物顔で台座が敷き詰められている。

 それらは全て龍脈からエネルギーを吸い取り、元気にアイテム生成を行っていた。


 その台座に供給中の、既存の龍脈と干渉しないように新たなラインを通すのも、既に一苦労だ。

 パズルというか、知恵の輪でもやっている気分になるハルである。


「同じ石を大量に使うって、何か大きな物でも作る気なの?」

「ん! 飛空艇リベンジじゃ! 一応、メテオバースト系列を進化させてもいいんだけどさ、ぶっちゃけアレ欠陥品じゃん?」

「言っちゃった」

「ハル君以外からは大不評だったしねぇ……」

「僕は気に入ってるんだけどね、あのスピード」


 窓の無い狭い船体をガクガク揺らしながら轟音を響かせて、文字通り隕石のように飛翔するあの飛空艇は、もう空飛ぶ棺桶かんおけ扱いしかされていない。

 搭乗員の二人、ルナとイシスからは、『もう絶対に二度と乗りたくない』と真剣な顔で告げられてしまっており、今後の活用には難がありそうだ。


 しかし、この広大な世界を自在に移動するには、どうしても高速飛行する乗り物の存在が不可欠。

 なのでユキは、改めて飛空艇らしさのある大型の飛行船舶を開発するつもりであるようだった。


「置き場所ってか港も世界樹の枝の上でいいしね。邪魔にはならんしょ」

「そんなに大きな船を造るんだ?」

「うん。ある程度大きくないとねぇ。属性干渉があるから、どうしても。ハル君のおかげで虚空属性の良い活用法が浮かんだはいいけど、やっぱ星属性も便利じゃん?」

「確かにね。消滅相性を両方とも活用しようとすれば、どんどん大きくなっちゃうか」

「あー分かる。リアルでも、温度とか反応の干渉を避けつつ両方の機能入れようとすると、どーしてもでっかくなっちゃうヤツ」

「設計図を見せてみろ。オレも最適化を手伝ってやる」

「ウィスト、君、そう言って天之星あめのほしの時も手伝ってくれたけど、結果として大量の機能追加で船体が予定より大きくなったよね……?」

「……知らんな」

「まあ、この世界は無駄に広いから、多少大きいのが出来てもいいけどさ」


 そうして、新たな頭脳を加えて、ハルたちの開発環境は更に強固なものとなった。

 この研究が実り、無事に移動手段が確保できれば、攻略もまた次の段階へと進むことだろう。

 果たして、今回はどのようなトンデモ装置が出てくることとなるのであろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] いくら逃げたところで、特殊な状況への適応力が高く、状況に流されるだけでなく自身なりの考察で状況把握を行い、その上で好奇心を満たす範囲で遊びつつ、踏み込んだらまずい範囲を弁え危機管理として適…
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