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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1287話 属性崩壊

 世界樹の根。地を裂く宝珠や<天剣>でも破壊できぬ異常な耐久性を持つそれは、龍脈ある所どこでも根を伸ばし大地を浸食する。

 ハルは戦いの最中さなか、<龍脈接続>、<龍脈構築>で坑道の上層に向け思い切り龍脈を伸ばし、それに沿って世界樹メニューでその根を拡張させていたのだった。


 その根は落盤らくばんに対処で手一杯なヤマトの行き先を塞ぐように張り巡らされ、坑道の行き先を封じてゆく。

 残る道はハルの待ち構えるもと来た通路のみ。更には、壁や床をも固めるように、ヤマトの退路を塞いでいった。


「これで、山に好き放題穴を開けながら逃げ回るって手は使えなくなった。あとはもうこの場で僕とやり合うしかないね」

「んーな危ない橋を渡らんでも、このまま入り口までこの根っこで閉じちまわんのかい? ワシを閉じ込めて、終わりが安牌あんぱいだろうに」

「……そうしたいのやまやまだけど、それじゃアンタ負けを認めないでしょうが」

「ひひひっ! 当然じゃな! そんなん互いに攻撃が届かなくなってノーゲームなだけ。ワシの負けとは言えんわな」

「なら閉じ込めて<虚空魔法>でじわじわと窒息死させてもいいんだけど?」

「剣で負けたわけじゃねぇから、ノーカンよ」

「こいつ……」


 あからさまに、ハル自身が剣でかかってこいとの挑発だが、乗ってしまうハルもハルである。そんな勝ち方では勝った気がしない。

 確かにこのまま根のおりで閉じ込めれば、それ以上の被害も出ぬし万々歳なのだが、彼との勝負はHPをゼロにしての完勝でなければ気が済まないのだ。


「それに! これならワシも、周囲の崩落を気にせず全力が出せるってもんよ!」


 確かにヤマトにとっても閉所は存分に力を振るえなかった、いや、そもそも外で戦って居た時から、本当の全力は見せていなかったのか。ここに来て<天剣>の力が跳ね上がる。

 構えただけで剣からほとばしる輝きのオーラは今までの比ではなく、追い詰められたことでリミッターを解き放ったようだ。


 獰猛どうもうな笑みでハルを見据える彼はその姿勢で動かず、ハルにも剣を構えろと態度で示す。

 ハルもそれに応え構えを取ると、両者は再びしばし全霊ぜんれいで互いの攻撃予兆こうげきよちょうを察知し合い静止する。


 じり、とハルが半歩踏み出すが、どう計算してもハルが飛び込むには間に合わない。

 どれほどの神速で踏み込もうとも、彼がただ剣を振り切る動作の方が絶対に先。踏み込んだ先に待っているのは、<天剣>の輝きの中に無防備に身を曝す未来。

 それは、仮に<虚空魔法>の吸い込みによる瞬間移動を使っても同じこと。


「……ひひっ」

「…………」


 ヤマトもそれを、先手を取らぬハルの態度から完全に理解したようだ。以前のハルなら、ここでせんせんを取り視界を翻弄ほんろうする手を選ぶ。

 そうしないということは、どう足掻あがいても攻めきれぬと理解してしまったということ。


「シャアアアアアアアァァァァッッ!!」


 ハルが理解したことを理解したヤマトは、その瞬間自らが一歩踏み出して、全力全開の<天剣>を解き放った。

 その輝きの範囲は、通路全体を完全に埋める。ハルがどう飛ぼうと跳ねようと、通り抜ける隙間など一切ない。

 しかも今は、ハル自身の手によってご丁寧に壁が崩れ通り抜けるという隙を埋めてしまったのだ。


「チエエエエエエエェェェイッ!!」


 更に、続けざまの二発目。もはやハルへの対応など気にする必要なし。ただただ最速で、通路の向こうのハルをほふるため力を放出し続ける。


「……エンチャント」


 対するハルは、その世界樹の根により覆われた壁を引き裂きながら迫る輝きの嵐に、一歩も引くことなく刀を引き絞る。

 その刀身に込められた力は、睨み合いの間にチャージした全力の魔法。最初から、間合いを読み合うためではなく、この為にハルは全神経をもって達人にしか通じぬハッタリを仕掛けていたのだ。


 しかし、その刀身に付与された魔法の属性は<虚空魔法>。虚空属性を終点として十二種全ての属性が吸収され最大強化されてはいるが、そもそも<虚空魔法>は攻撃に向かない。

 爆発力では<天剣>に対抗できぬはずのその魔法剣を、ハルは構わず天の輝きに打ち付ける。


「加えて、ミーティアエンジンフル稼働」


 そして当然、ただの悪あがきでハルは終わらない。いつの間にか、ハルの周囲には通路を埋め尽くさんばかりの<星魔法>型衝突エンジン、『ミーティアエンジン』の群れが出現していた。

 このエンジン、裸のまま運用すればどうなるかは知っての通り。ただ隕石を発射するだけの簡易砲台と化す。


 しかしだ、<天剣>を頼もしく迎え撃つはずの隕石も、今だけは悪手あくしゅ

 ハルが武器に属性付与エンチャントした<虚空魔法>と<星魔法>は、互いをキャンセルする消滅関係にあるからだ。

 このままでは二種の強力な魔法をただ不発させる致命的なミスで終わるが、当然、ハルがこの土壇場どたんばでそのようなミスを犯すはずもなかった。


「<属性崩壊>。さあ、吹き飛ばしてやれ」


 二つの属性が反発しかき消えるその瞬間、ハルの新たなスキルが発動する。<属性振幅>に次ぐ新たな属性相性補助スキル、<属性崩壊>。

 吸収を補助する<属性振幅>同様に、消滅の補助スキルもやはり存在した。

 互いが消え去る際のエネルギーを、純粋な破壊力として放射する、相性効果の終着地点。


 剣の形に凝縮された魔法に、隕石が引き寄せられるようにして消滅、まるで対消滅ついしょうめつするかのように爆発していく。

 それは根元から切っ先に向かうように次々と連鎖爆発を起こしてゆき、崩壊のエネルギーはそこで整えられて前方へ向かう。まるで、刀身を発射台にするように。


「悪いねセレステ。剣からビームを出すのは、どうやら僕の方が先だったようだ」


 そして、解き放たれた崩壊のエネルギーは、<天剣>の輝きも、ヤマトの体も、頑丈な世界樹の根でさえも吹き飛ばして、山に穴を開けて空の果てまで突き抜けて行ったのだった。





「…………ふう。死ぬかと思った。リンゴジュース飲んでなければ即死だった」


 属性崩壊砲の反動で吹き込む風に髪をなびかせ、ついでにボロボロに破けた服をなびかせながら、ハルはギリギリのHPを確認する。

 確かに全力の<天剣>をも押し返す威力は発揮できたが、逆に自分の攻撃で死ぬところであった。


 ハルは“吹き飛んで無くなった右腕”に回復薬を雑に振りかけて、最近余りぎみの金林檎をそのままかじる。

 戦闘前にHP増強効果のあるリンゴ料理の数々を無駄にとっていなければ、この反動には持たなかっただろう。


「もうちょっと反動も含めて前方に向けるように計算しなおさないいとね。とはいえ、戦闘中じゃこれが限界か」


 言うまでもなく、通路に追い込んでの撃ち合いに誘導したのはこのトドメの一撃を精密に行う為だ。元気に動き回られては落ち着いて準備が行えない。

 やはり、剣の腕はともかく小賢こざかしい策の張り合いでは、まだまだハルが上のようである。


 ハルはそんなヤマトとの戦いの勝利を知らせるべく、彼が吹き飛ばした天井から山頂に戻る。

 ……なんとか勝利は果たしたが、この派手に吹き飛んだ城の惨状を改めて確認すると頭が痛い。

 坑道の再整備も含めると、大変に面倒な再建作業となるようだ。無駄に伸ばしすぎた世界樹の根の撤去も地味に面倒である。それは自業自得だが。


「シノの国に戦後賠償せんごばいしょうでも請求しないと割に合わないね」


 そんな風にぼやきながら、ハルは問題のシノの姿を探す。彼はといえば、特に隠れるようなこともなく、堂々とこちらへ歩いて来た。いさぎよいことだ。


「やあ。悪いけど、勝たせてもらったよ。ああ、ヤマトさんだけどね、彼は、」

「……知っています。拝見していましたので」

「ああ、見てたのか。イシスさんが?」


 そう尋ねると、彼に少し遅れてイシスも瓦礫がれきの影から姿を現す。

 なぜだか、微妙にバツの悪そうな顔で縮こまっている。


「あのー……、その、すみません……、なんだか必殺技を、大公開しちゃったみたいで……」

「ああ、良いよ別にそんなの。どうせヤマトに見られた時点で伝わるんだ。切り札を切らずに終われなかった、僕の落ち度だね」


 実際は、ヤマトには自分の出した光で何も見えていなかった可能性はあるが、イシスが気に病まないようにそう言っておくハルだ。

 正直、知られても別に対処のしようがないスキルでもあるし、なによりハルの勝利を説明する手間が省けた事の方が大きい。むしろよくやってくれたと思っている。


「さて、シノさん。君の切り札の方は消えてしまった訳だけど、これ以上なにか策はあるかな?」

「……いえ。もうありませんよ。完全にお手上げです」

「それは良かった」


 とはいえ、これでハルの仕事が終わりな訳ではない。ある意味、戦闘そのものよりも難しい仕事がここから待っている。


 さて、ここからはルナたちも交えて、この戦争の勝利をどう生かすかの交渉を進めていく時間となるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のお土産はハル様のお気に召さなかったようで、粉々にしたうえで返品ですかー。ちょっと強度が足りなかったみたいですねー。次はもっと頑丈なものか、そもそも壊す気にならない天然記念物を用意する…
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