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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1278話 魔王領に侵入者あり!

 そうしてハルが世界樹の成長と設定を調整しているうちに、ついにシノの国による本格的な侵攻作戦が始まった。

 今までのように、龍脈を分断するための魔法使い部隊ではない。全戦力をもって、この山頂の城を落とさんとするシノの本気度合いが見て取れた。


「龍脈資源完全封鎖は、さすがに怒らせちゃったみたいだね。完全な総力戦だ」

「それはそうですよ。帝国では、経済の中心を龍脈資源がになっていました。そしてそれは、きっと何処の国も現状同じです」


 副官のようにハルの発言を補足するイシスからは、隠しきれない緊張がうかがえる。仕方がないだろう。

 今までは圧倒的戦力を誇った帝国側で、自領に深く攻め入られるという経験はなかったはずだ。


 対して、その他のメンバーにはずいぶんと余裕が見える。これも仕方がない、なにせ神様たちを中心としたメンバーだ。慌てろというほうが無理な話であった。


「でしょうね。大した効果がなくても、龍脈資源というだけで仕入れが高くてかないませんよ。もちろん、格安でお譲りいただきますが」

「しゃーねーわさジェード先生よぉ。レアもんってそういうモンよ。だからカゲツちゃんさぁ、植物系の龍脈資源を集めろ集めろって、会うたび圧かけてくんの止めねぇ?」

「でもでもでもでもぉ? おりょーりのレパートリーが増えるのは、このカフェの為にも良い事ですぅ。これは、みなさまの為なんですぅ」

「いやカフェのメニューなんか適当に数種類ありゃいーんよ……」

「おやアイリス? カフェ経営をナメていますか?」

「テメーどっちの味方だジェードォ!!」


 シノ軍を待ち受けるハルたちは、世界樹の幹に寄り添うように建てられた屋上のカフェに集まっている。

 いこいの場はそのまま本陣、指令室に早変わりし、ログインしている生産系、商業系の神様が集合していた。

 皆テーブルにはカゲツの用意した<料理>と飲み物が提供されており、どう見ても有事には見えないくつろいだ良いご身分である。


「《ハル? こちらからも、敵軍が目視で確認できたわ? それと、私たちにも<料理>を持ってきなさいな。不公平だわ?》」

「《私ハンバーガーがいーい》」

「はいな、はいな。ただいまお持ちしますぅ~」


 カゲツがぱたぱたと駆けていく“樹道きどう”エレベーターの先、世界樹の枝の上には、<遠見>による観測手のルナと、備え付けられた兵器の開発者にして砲手のユキが待機している。

 二人はその超高度に陣取れるメリットを活かし、進軍中の部隊を直接観測することに成功していた。


「《しかし、あなたやイシスさんが居る以上、わざわざ目視で索敵さくてきする意味も薄いでしょうけれどね?》」

「そうでもありませんルナさん。敵は、なるべく龍脈を避けるように行軍しています。ハルさんならともかく、私ではその位置は観測しづらいですから」

「僕も同じだよ条件は。もちろん、気付かれないレベルの細い糸のようなラインは通しているけど、その糸からは薄ぼんやりとしか映像は取れないからね」

「私は侵入さえ出来ませんから、同じじゃないですよ」


 敵は龍脈のぬしたるハルを警戒して、行軍はなるべく龍脈を避けての移動を心掛けている。

 もちろん完全になど不可能だが、ハルから直接的な妨害が出来ないのは確かなので、有効な戦法なのはシノの狙い通りだ。


「しかし、意外でしたね。わざわざ、地割れを作って切り取った北側の街を通って来るとは」

「そうだねアイリ。でも、意外と言うほどでもないさ。既に奇襲は意味をなさない。西や東にも、前以上に僕の龍脈の手は伸びてるしね」

「私もお手伝いしましたから、今は案外、南が最も手薄かもしれませんよアイリちゃん」

「なんと!」


 ハルたちから見て南、シノから見て北の魔物の領域と接する街々は、地の宝珠による地割れにより本国と分断された。

 ハルの龍脈侵攻を避けるのが狙いであり、ハルとしてもその分開戦が遅れるならばと放置を行っていた。


 そのため今は最もハルの監視が手薄、とシノからは見えているだろう。実際には、どこから来ようと大差はない。


「それに、街でセーブできますしね。わざわざ<建築>で野営しなくていいのは楽です」

「街の人を、徴兵して戦力の増強もできますしね!」

「それなんだけどねアイリ。どうやら北部の街は、既にシノへの忠誠心はあまり無いみたいだよ」

「むむっ! 確かに、前後であまり軍の規模が増えていないのです!」


 地裂ちれつの壁により本国と分断された北方の街の不満は高く、彼らはハル討伐にあまり積極的ではない。

 これは、ハル側から必要以上の嫌がらせを行わなかったのも大きいだろう。


 物理的に分断され交流が途絶えた北部は独自の自治体制を構築し、既に半分程度は別の小国と化している、と言っても過言ではない。


「《自業自得だねー。それともジェード先生、アンタがなんか暗躍した?》」

「いえいえ滅相もない。しがない商人一人で、そんな大それた工作ができようはずも……」

「だから一人じゃなくて私と二人で、物資の提供とかしてこっちの好感度上げてたんよな? 不満を煽りつつ」

「いやいや、そんなそんな。はっはっは」

「《やり口がお母さまじみているわねぇ……》」

「《ルナママとよく悪だくみしてるもんね。でも、私としてはちょーっと残念。この、超々高度弾道射撃用制圧魔導砲台、略して『高射砲』で狙う訳にもいかんし》」

「へえ、もう届くんだ」

「すごいですー!」

「《高所からの撃ち下ろしをなめるなー。奴らは既にばっちり、射程内よ……》」


 ならば、戦端せんたんを開く時もすぐそこまで迫っている。反撃不能の圧倒的遠距離にして高所から、一方的に砲弾を撃ち込むことで開戦といこう。


 さて、そのタイミングはいかにしようか? 敵が北端の街を出た瞬間に砲撃することで、街には手を出す意思がないことを強調するか。それとも?

 ハルは砲撃開始位置により生じる戦略上のメリットを複合的に考えつつ、シノ軍が魔物の領域へと足を踏み入れるのを待つのであった。





「おつまみはいかがですかぁ~? こちら白身魚の、リンゴソースかけになりますぅ」

「へえ、新作だね。いただこうか」

「ソースが輝いていますー!」

「……当然といえば当然ですけど、リンゴ関係みんな光ってますよね」

「我が国の名産ですからぁ。名産のオーラが見えるんですなぁ」

「いやどう見ても物理的に発光してるから……」


 金林檎の生産量大幅アップによって、カゲツの<料理>レパートリーにそれを使用した物が大量に増えた。

 まあ、龍脈資源を使ったレシピは経験値の入りも良いので止める気はないが、なんでもかんでもリンゴ味にするのが、魔王国のお国柄ということになってしまいそうだ。


「……さて、そうしてくつろいでいるうちに、彼らが魔物の領域に踏み入ってきたね」

「ここからは、ハルさんがめちゃくちゃに<龍脈構築>していますから、龍脈を避けての行軍という訳にはいきませんね。もう私にも、ハッキリ見えます。うぅ、ドキドキしてきたぁ……」

「まだ特にすることもないから、落ち着いてイシスさん」


 ハルが好き放題に<龍脈構築>し龍穴を増やしたエリア、通称『魔物の領域』。

 龍脈により活性化した強力なモンスターがその出現率を増しているだけでなく、生成された龍穴からはより強力なボスモンスターが発生する。

 それらは別にハルの配下という訳ではないが、行軍するシノにとっても当然敵となる。


「進軍するだけでもかなりのストレスだろうさ。さて、お手並み拝見といこう」


 ハルは密度の増した龍脈により鮮明化した映像をモニターに映して巨大化し、この指令室となったカフェにて皆で優雅に鑑賞会としゃれ込む事としたのであった。


「《第三警戒進行陣! この先は強力なモンスターが出始める! とはいえまだまだわが軍の敵にはならない! 速度を重視し進軍せよ!》」

「《第三警戒進行陣! 了解!》」

「《歩兵部隊前へ!》」

「《精鋭遊撃隊、側面をカバー!》」

「《蹴散けちらし進め!》」


「ほう。移動スピードは落ちない、むしろ加速しましたね。自国の軍事力に、それだけの自信を持っている、ということ」

「それにモタモタしてっと、あそこ(あっこ)は次々モンスター湧くかんなー。消耗を避けるためにも、良い判断なんよ」


 ジェードとアイリスが、敵の陣形構築を評論する。内容はほとんど彼らの推測通りで、軍勢は雑魚を蹴散らし、行軍速度を上げて一気に奥地に踏み込んで来た。


 行軍は原始的な歩兵部隊であり、モンスター騎乗している者は少ないが、このゲームの仕様として与えられた高い身体能力がある。

 それにより軍はまるで車両部隊の移動のように、猛スピードで悪路を踏破とうはして行った。


「むむむ! モンスター達では多少の削りにもなりませんか!」

「まあ、強いといっても雑魚は雑魚だからね」

「……一応、あの方々では通常敵わないレベルにはなっていると思います。しかし、ああ数が揃っていては」

「分かるの?」

「あっ、はい。帝国に居た頃は、色々なレベル帯の方の戦闘を見てきましたので」

「流石は龍脈の巫女」

「経験豊富ですー!」

「や、やめてください……、恥ずかしいぃ……」


 だがそんな本来敵わないはずの強敵でも、軍としてすり潰してしまえば関係ない。

 基本的にモンスターは少数で出現ポップするので、数で押してしまえば大抵はなんとかなる。


 そしてそれは、龍穴から呼び出されたボスモンスターであっても同じことであった。


「《全員で魔法を叩きこめ! 属性は考えなくていい! 前衛は壁を作って決して後ろに行かせるなぁー!》」


 さすがに被害は出していたものの、部隊の維持が困難になる程ではなくボスモンスターも討伐される。

 荒野の龍穴から湧いた凶暴なライオンのようなモンスターは、前衛の歩兵が命がけで足止めしている間に、遠慮も容赦もない魔法使い達の絨毯爆撃じゅうたんばくげきにより塵と化した。


 そして、討伐の余韻よいんに浸る間もなく、シノは更なる一手をこの魔物の領域に仕掛け攻略する。


「《まだだ! まだ腰を下ろすなよ! 全周警戒配置! 地の宝珠をもって、次のボスが湧くより前にこのポイントを破壊する! それが済んだら、陣地作成だ!》」


「へえ。まあ、さすがにまだ宝珠の在庫は尽きてないか。だけど、そう思い通りにはいかせない」

「《ねーねーハル君~? やっちゃっていいんだよねぇ?》」

「もちろん。待たせたねユキ。彼らが陣地を<建築>し始めたら、それを『高射砲』で吹っ飛ばしてあげようか」


 にやにやと悪い顔をする、ハルとユキによる侵略者への反撃が始まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一度見せた陳腐な戦法が何度も通用するわけありませんねー? 悠長に工作なんてしようものなら恰好の的ですよー。なんならこれで先に仕掛けてきたのは貴様らだと北の街近くまで威嚇射撃を行って、さらな…
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