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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1274話 軟派男の資産運用状況

 そうして、ハルたちの方針は龍脈の支配体制の強化と、その内容データ解析によるゲーム全容の完全解明に決定した。

 イシスの助けも借りて、ハルは龍脈の支配領域を更に大きく広げてゆく。


 そのついでに、イシスの出現とその救出によって保留にしていた南の国、シノの領土への龍脈制裁けいざいせいさいも完了させた。


「うわぁ。資源ポイントから龍脈の枝を取っ払っちゃうとか、やることがエグイですねぇ。そんなことも出来るんですか」

「綱引きの要領で、龍脈をこっち側に引っ張るイメージだね」

「そんなこと言われても分かりませんよぅ」

「イシスちゃん、龍脈の中のデータが分かるんだろ? それを見学して、どーにか出来ないの?」

「それがどうにも。ケイオスさんの言うように出来ればとこちらも考えたんですが、ハルさんの作業は、そのデータの容れ物それ自体を丸ごと移動させてしまうんで」

「相変わらず規格外なやっちゃのー」


 ハルたちは今ケイオスも交えて、地下神殿を出て城の中に戻り、優雅にお茶などしながら龍脈の操作を行っている。

 窓から差し込む、爽やかな陽の光が心地よい。常に太陽の当たらぬ地底になどもっていては、気が滅入るというものだ。特にイシスが。


 彼女は山頂から地下空洞までの距離を空けて<龍脈接続>出来ないようなので、ハルが<龍脈構築>にてここまで登って来るラインを引き込んでいる。

 そのため世にも珍しい、山頂へ向けて昇るラインが完成したのであった。


「山で龍脈というと、なんだか噴火でもしそうじゃねー? 平気かハル?」

「いや平気だってば。ケイオス、君もこの山の中身を<掘削くっさく>で穴だらけにするのに尽力してくれたじゃないか。この霊峰れいほうは噴火や溶岩とは無縁だよ」

「まあな! イメージだイメージ! がはは!」

「すみません。私が未熟なために」

「いいよ。僕も気分転換になるしね」

「そうだぜ! こうして他の仲間と、交流を深められるしな! ……という訳で、お嬢さんんっぬっ。ご趣味などは、ぬぁにをお持ちなんでしょう、かっ!」

「き、きもい。ケイオス、なんだそのキャラは……」


 ケイオスが実にわざとらしく、気取ったテンションでイシスにアプローチをかける。

 これはケイオスなりの場を和ませるジョークのようなものであり、女好きのキャラ付けのようなものだ。


 実際に深い仲になるつもりなどは最初からなく、引かれてしまってもそれはある意味成功なのだ。


「あらら。ナンパですか? でも残念。私は既に、ハルさんとアイリちゃんにナンパされてここに居るので、これ以上のナンパにはお応えできないんですよ」

「オゥ! 撃沈! てかハル、お前ナンパしてきたのか? やるな! 引きこもりゲーマーのお前が、いつの間にそんなテクを!」

「いやそれはアイリの冗談でね……?」

「うーん、そうですねぇ。でも念のため、ケイオスさんにも脈は作っておきますかねぇ ハルさんがダメだった時のキープとして」

「おっ、マジか脈あり? 龍脈だけに? 悪いなハル! 横からお姉さまを、いただきだぜ!」

火傷ヤケドしないようにね」


 イシスもイシスで、ケイオスの冗談に乗ってくれている。ノリの良い人だ。単純に、良い人なだけの可能性もある。

 しかしその表情はいたずらめいて歪んで、めくるめく笑いの予感をこらえており、これからのケイオスの運命を暗示していた。


「ではケイオスさん? ご質問など、よろしいでしょうか?」

「おうよ! なんでも聞いてくれよな! まずはご趣味かぁ!?」

「お仕事は、何をされているのですか?」


 ピシリ、とまるで効果音でも聞こえそうなオーバーアクションで、ケイオスは愉快なポーズを取ったのちに完全に硬直し動かなくなった。

 お仕事は、なにをなさってますか。ケイオスにとって一撃で致命傷となる、禁断で禁止の最も避けたい質問である。


「お、おし、おし、お仕事ね……、そう、そのなんて言うんでしょうかぁ……?」

「……あら。もしやケイオスさん、お仕事を、していらっしゃらない?」

「いやいやいやいやぁ!? もちろんしてるんですけどぉ!? いやむしろ、オレクラスになると仕事する必要なんてないって言いますかぁ!?」

「どっちだよケイオス」

「違う! そう、資産運用! 資産運用でウハウハの不労所得生活なんですよねぇこれがぁ!」

「まぁ凄い! ……実際凄いですね。ケイオスさん、資産総額と、年間の運用益はどの程度なんですか?」

「おっ? 聞いちゃう? 興味持っちゃう? なんとだなぁ! ……これこれ、このくらいで、収入はこんなもん。らしいっす」

「どれどれ? えっ、しょっぼ……」

「ひどいっ!」

「ケイオス。前に言ったろ。己の資産額を軽々と他人に教えるなと」

「だってよぉハルぅ……、オレも金持ちアピールして、女の子にチヤホヤされたいじゃんかよぉ……」

「す、すみませんつい! その、それだけ元手があっても、年収に直すとそんなものなのかと……」

「なー。思ったようにはいかねーよなー」


 二人はここで子芝居をやめ、姿勢を正して席に着く。二人とも最初から、互いの身の上を知った上での茶番であった。


 なお、ケイオスは資産運用益だけでなく、今はハルに雇われる形で収入を得ていると、名誉のためここに補足しておく。





「あらあら? お見合いは終わり? 終わりなのかしら。残念ね、残念なの」

「ちっすマリーちゃん。やっぱ大人の女性は手ごわいっすわぁー。まっ! 十代だって手ごわいんだけどな! だっはっは!」

「ケイオスさんにもいつか、素敵な恋が巡り来るの。だからそれまで、根気強く待っていて?」

「素敵な恋ねぇ。オレはこうして、仲間と馬鹿やってれば満足なんだけどなぁ」

「こんにちはマリーゴールドさん。今ログインですか?」

「ええ、ええ。そうなのよ? 大人のお姉さん二号、お茶会に参戦っ」


 恋愛話コイバナを聞きつけてか、愛の神であるマリーゴールドもこのテーブルに参加することとなった。

 彼女は主に<栽培>や<農業>などを担当しており、この城の緑化や園芸による装飾を担ってくれている。


 今のところ、残念ながら趣味スキルとしての域を出ることはなく、交易用のアイテム確保にも、<採取>によって野生の物を調達する方が効率が良いレベルであった。

 唯一役に立っているのが、カゲツの<料理>に使う為の素材として、くらいであろうか。


「ハル様には、ご領主さまとして農地改革にも積極的になっていただきたいの!」

「すまないねマリー。今はどうしても戦争前で、軍備が最優先されるから」

「悲しいわ? 悲しいのよ。こうして、田畑は戦火に焼かれ、食料は徴収され、働き手は兵として徴収されてしまうのね?」

「こらこら……」

「そもそも、ハルさんのご領地は農業には向かなそうですよねぇ。拠点は高い山の上ですし、山のふもとの方は、強力なモンスターが支配する『魔物の領域』ですしー」

「害獣がいっぱいで大変なのよ」

「よっしゃ! お姉さまの為にオレも一肌脱ぐぜ! 整地なら任せろー!」

「頼もしいわ!」


 また軽い男を演じるケイオスは放置して、ハルも少々マリーゴールドのスキル活用について考える。

 農地を作るにはケイオスもそうだが、ハルの<地魔法>による土地の整備も役に立つ。

 険しいこの山の斜面や、龍脈によって強化されたモンスターが闊歩かっぽする麓では、大規模な環境整備が必須となる。


 だが、龍脈制裁を加えた今、その反発によるシノの国との総力戦はもう間近まぢか

 ハルとしては、やはり軍備を優先せざるを得ないのだった。


「ごめんねマリーちゃん。リアルの話じゃないが、やはり農地改革は平時の話になりそうだ」

「むしろリアルなら、ハル様は戦時でも余裕で食料供給しちゃいそうだけれどね? きっとそうなの」

「あっちじゃハルはやりたい放題だからなぁ」

「そんなに凄いんですね、ハルさん……」

「おうよ! まさに救世主だったぜ!」


 ……そんな風にあまりにやりすぎも問題だと感じたので、最近は異世界の政治への干渉は最小限に抑えているハルだ。

 たまに、アイリの兄シンシュ王子や、その他親交のある他国の王族の相談に乗ったりする程度。今のところはそれで、なんとか世界は回っていた。


 だがこの世界ではゲームシステムに従わねばならぬ都合上、ハルといえどもタスク管理はかつかつだ。

 今は攻めてくるであろう大軍に、この少数で対抗する為の準備が最優先となっていた。


「大丈夫よハル様。今日はあまりハル様の手を煩わせないような計画を、用意してきたの!」

「へえ、どんなものだろうか」

「カゲツから、『系統樹の果実』の栽培計画を任されているじゃない? それで思ったのだけど、不足しているのは龍脈だと思うのよ」

「確か、植えても芽が出ないんだったよね」

「そうなの。大変よね? 正確には芽は出ることはあるのだけれど、枯れてしまうのよすぐに。悲しいわ?」


 ハルたちの所持している数少ない龍脈資源に、系統樹の果実がある。

 今のところカゲツの<料理>くらいにしか用途のないアイテムだが、そのカゲツが黄金のリンゴのようなその果実を気に入ってしまい、次から次へと消費し更なるリンゴを欲していた。


 しかし、マリーゴールドによる現地栽培は文字通り芽が出なく、やはり栄養の代わりに龍脈が必要なのだろうという結論に至ったようだ。


「今回、イシスさんの為に山頂まで龍脈を引っ張ってきたじゃない? そのついでに、地上みたいにここにも龍穴を用意して欲しいな~、なーんて、思っているの!」

「まあ、そうだね。やってみてもいいけど」

「おいおい、大丈夫かハル? 拠点に直接ボスが湧かねぇ?」

「モンスターは、拠点登録したポイントでは湧かないから平気だと思うけど、出たら出たでその時さ」

「い、行き当たりばったりですね……」


 何事も、やってみないと分からない。もし拠点にボスが出たとしても、逆に考えればそれは狩りに行く手間が省けるというもの。

 ハルはイシスへのお手本も兼ねて、この山頂に向けてラインを伸ばし、<龍脈構築>でエネルギーの吹き出し口、龍穴を作成していくのであった。

 ケイオスの資産状況は、現在の貨幣価値に換算すると元手が一億円とかで、年収が3~400万といったところです。


※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハル様に雇われている時点で勝ち組間違いなしですし、総資産をジェイド先生に投げ渡してもお釣りが返ってくるレベルで問題ありませんねー。資産が赤字になっている? 先輩社員が二十五時間常に働き通し…
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