表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第5章 オーキッド編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/1765

第127話 そして、週末が訪れる

 週末。七月はじめの土曜日の朝、お屋敷の玄関口(エントランス)に、屋敷内の全員が集合する。

 メイドさんも、ずらりと揃って集合。いつもは夜勤は二人のところ、今日は四人体制で抜かりなしだ。

 とは言うものの、流石に寝不足のが見えるので、メイドさん達の体内のナノマシン(エーテル)をハルの方で活性化させて、目覚ましのお手伝いをする。四人には後日、お休みとご褒美を送るとしよう。


「皆、準備は良いですか!?」


 先頭に立つアイリも非常に張り切っている。引率の先生ポジションだが、残念ながらその体は生徒のそれだった。

 小さな体を大きくのけぞらせて、気合十分のポーズ。

 メイドさん達からは、綺麗に揃った『はい!』の小気味良こぎみよい返事が返ってくる。


「では、しゅっぱつ! ……しても、良いのでしょうか?」

「大丈夫だよ、アイリ」

「えへへへ。では行きましょうハルさん!」


 ハルはアイリと、ユキとルナ、そしてメイドさん全てを範囲に入れて<転移>を行う。カナリーもついでに。自分で出来るだろう、とは思うのだが、なんとなくして欲しそうだ。


 今日はいよいよ皆でプールに行く日。思えばこの時のために、世界を超えてまで色々と準備をしてきたものだった。

 その成果を、心ゆくまで確認するとしよう。





「到着です! ここがぷーるですよ!」


 メイドさんを前に胸を張るアイリが微笑ましかった。頭を撫でてしまいたくなるが、今は彼女が引率役だ。控えねば。

 ギルドホームの地下に作られたプール施設。そこは制作に時間がかかっただけあって、非常に巨大な物だ。


 転移先として設定した広場の脇には基本となる浅い、流れの無いプールがお出迎え。ここが水遊びの為の空間だとまず主張する。

 色鮮やかな花と、南国風の木々に彩られた道を進んで行けば、川を模した流れのあるプールへと行き当たる。この空間の中をぐるりと一周してループするように周回している。


「この川の流れに乗って泳げば、目的地までショートカット出来ますよ!」

「いきなり上級者向けの使い方ね?」

「基本だよルナちー」


 良い子は真似せず道を歩こう。まあ、ここに居る人たちは皆、心得のある達人ばかりだ。多少の無茶はなんともないだろう。

 ざぶざぶと川をさかのぼるメイドさんが、ついに見られるかも知れないことだし。


 ただ、ルナだけは今日はプレイヤーの体でなく生身だ。そこは注意してやった方が良いだろう。深窓のご令嬢であらせられる。あまりはしゃぎ慣れていないだろう。


「ルナちゃん、昨日はハル君の家に泊まったの?」

「いいえ、お屋敷に泊まったわ」

「ああいや、ハル君の家からお屋敷に飛んだの、ってこと。ややこしいな……」

「そうね。私とハルの関係は学園では知れているし、問題は無いでしょう。たぶん」


 他愛なく語りながら、川の上に掛けられたお洒落しゃれで大きな橋を渡ると、外周に作られた各種施設へとたどり着く。外周はそれだけ広くなっている。今踏み込んだ施設はその一部でしかない。


「ここはスライダー、の入り口施設です!」

間欠泉かんけつせん地帯だね」

「おー、楽しそうですねー。これに乗って吹き上がって遊ぶのも、良さそうですねー」

「カナリーちゃん、その遊び方は想定してないかな?」


 川の流れより、更に早い激流に乗る事を楽しむ施設、ウォータースライダー。

 このプールのそれは、また巨大な物になっている。

 プールの何処に居ても、壁際をぐるりと這うスライダーの水道レーンが確認出来る事だろう。


「……なぜ間欠泉なのか、という反応を期待したのだったけど」

「ルナちー。そもそも皆スライダーを知らないよ」

「うかつだったわ……!」

「いやそんなマジに衝撃受けられても」


 何故スライダーに間欠泉なのか。当然の疑問である。

 それはエレベーター代わりだからだ。当然の答えである。


「この間欠泉の吹き上げに乗って、上階にある入り口へと向かうのです!」


 メイドさんが、『おおぉー』、と声を上げて感心している。アイリは得意げ、ルナは微妙に残念そうだ。

 言うまでも無く、設計はルナである。日本でやったら荒唐無稽こうとうむけいどころか営業停止な移動手段も、ファンタジー世界の住人には“画期的な移動手段”としか映らないらしい。

 何かに応用できないか、と真剣に考えるメイドさんまで現れる始末。


 良い子は階段を使おう。

 だが、階段は“一応付いてる”といった程度で、登り易さを排除したデザイン重視だ。螺旋らせん階段なので、ひたすらに長い。いかに良い子でも、あれを登るのは躊躇ちゅうちょすることだろう。

 真の良い子は<飛行>で昇る。


「さて、川の外側にはまだ別の施設があって……」

「アイリちゃんアイリちゃん」

「はい! ユキさん、なんでしょう!」

「はい先生。案内より先に、まず水着に着替えた方が良いんじゃないでしょーか!」

「……! そうでした!」


 皆、まだここに来てから水着を着ていない。

 施設を全て案内するには時間がかかるだろう。ハルはその事を告げてくれたユキに心の中で賞賛を送りながら、中央広場まで<転移>で戻るのだった。





 そうして、荷物の所まで戻り、さて着替えようという段になってから、気づいたことがある。


「どこで着替えるんだ……?」

「迂闊だったわね」

「今回は迂闊すぎでしょルナちー。本当に」

「お外でお着替えは、恥ずかしいですね!」


 さほど恥ずかしがっていない顔でアイリが周囲を見回す。木々に囲まれた東屋あずまやがほど近くにあり、そこで着替える事にしたようだ。

 幸いこの地下プールには人目は無い。ギルドホームの空間は球状で、地面のラインは中央を走っている。つまり下半分には大量のスペースが空いており、そこを使っている。

 <転移>でしか、出入りは出来ない。


「……いやいや、それこそ<転移>で一旦お屋敷まで戻って着替えれば良いだけでは?」

「無粋よ、ハル?」

「そうです! もうお出かけは済んでしまったのです!」


 単に気分だけの話だが、こだわりは強そうだ。仕方が無いだろう。


「いや仕方が無いでは済まないが。僕も戻れないじゃん」


 ハルが<転移>すると必ずアイリも着いてきてしまう。出戻る無粋をしたくない彼女の為には、ハルもここで着替えるしかないようだった。


 ハルの手を引き、メイドさん達を、ちょいちょい、と手招きしてアイリは東屋へと入って行く。

 中はそれなりに広く、ハル達と、メイドさん十二人が入っても余裕があった。


「では着替えましょう!」

「はい。失礼します、アイリ様」「失礼します、旦那様」

「いや僕は手伝いは要らないが」

「せっかくだもの、やってもらいなさい? ハル?」

「ルナお嬢様こそやってもらいなよ」

「そうするわ? だからハルも一緒ね」

「くっ……」


 最近はメイドさんのお世話にも慣れてきたと思っていたハルだが、着替えを任せるのはまだ羞恥を感じてしまう。

 王族であり、なんら気にすることの無いアイリと、生粋のお嬢様であるルナは慣れたものだった。羞恥プレイはハルだけなのか。


──いや、ユキが居る。彼女こそ恥ずか死ぬ。ユキを言い訳にして逃げれば……。


 視野を巡らせユキの姿を探すと、彼女は既に水着に着替え終わっていた。


──そうだったよ! ユキだけプレイヤーの体だったよ!


 逃げ場など無かった。

 ユキと目が合うと、ほんのり頬を赤らめて目をそらされた。かと思えば、ちらちらと、服を脱がされるハルの方に目が行く。

 一人だけ安全地帯から覗きとは良いご身分だ。あとで弄ってやろうと心に決めたハルである。


 仕方が無いので、今はハルも自分の事からは目をそらして、するすると服を脱いでゆくアイリとルナの白磁の肌を、目に焼き付けるのだった。





 ハルたち三人が着替え終わると、アイリの号令によりメイドさん達もその場で着替える事になった。

 恥ずかしい、ではなく恐縮している様子だったろうか。メイドさん心理にはうといハルだが、恐らくは主人の前で着替え、つまり準備の姿を見せるのを悪いと思っているのだろう。

 主人の目に入れる物は常に完璧な結果のみ。それが彼女たちの流儀。


「……お見苦しい物をお見せしました」

「そんなこと無いよ。みんな綺麗だった」

「そういう風に素直に言ってしまえるのが、ハルの強みよね?」

「そうなの?」

「そうよ」


 裸、裸、裸。一面肌色に囲まれた東屋の中は、まさに眼福と言うほか無い。これを褒めずしてどうしようか。

 普段、全身を覆い隠すメイド服に身を包む彼女たちだから、なお更その裸身が眩しく映る。

 桃源郷とうげんきょうと言う奴だろう。桃のようなものも沢山あるし。

 そんな、非常に下らない事をハルが考えていると、何かに思い至ったような顔をしたユキから声が掛かった。


「ねぇハル君。私、思ったんだけど」

「なにかな」

「ここギルドホームなんだからさ、新しく小屋なり何なり、すぐ作れるよね?」

「……そうだったね」

「作らんくてもさ、ハル君<闇魔法>で暗闇のドーム作れるよね」

「……作れるね」


 そこまで言うと、ユキは複雑な表情をして黙ってしまった。言いたい事は分かる。『ハル君ならその事に気づかないはず無いよね?』、といった所だろう。

 きっと、意識の底では気づいていたのだろうが、取り囲む美少女たちの生着替えを前にして、その選択は表層へと浮上する事は無かったのだ。仕方の無い事である。

 それはハル自身の着替えを見られる羞恥を天秤に乗せても、決して捨てられない選択だ。仕方の無い事である。


「ハル君も男の子だねぇ」

「……そうだよ。ユキも女の子だね、って話に繋げようか」

「あはは、止めようか、この話は」

「そうしよう」

「……私、こっちの体で来て助かったぁ」


 奥手むっつりな二人は不戦協定を敷き、その話はそこまでとなった。

 それよりも、着替えた彼女達の水着に目を向けるとしよう。


 まず圧巻と目をくのは何と言ってもメイドさん達。揃いのメイド服は、そのまま揃いのメイド水着へ。

 濃いブルーに統一された上下のピースを、豪華なフリルが純白に飾りつけている。それにより露出は多めなのに控えめに見える、という変わった状態だ。

 エプロン風のパレオも一役買っているのだろう。

 そして水着においても、ホワイトブリム、メイドさんの白いカチューシャは健在だ。これも、素材はルナの特注のようである。


 そんなハルの視界の中に、飛び込んでくる小さな姿があった。


「ハルさんハルさん! わたくしの水着は、どうでしょうか!」

「とっても素敵だよ」


 メイドさんに圧倒されていると、待ちきれないようにアイリが感想を求めて来る。

 尻尾があったら、ぶんぶんと振っていそうな主張の勢いだ。


「どのように! 素敵でしょうか!」

「アイリの上品さをよく表してる。高貴な雰囲気だね」

「そんな、わたくし、最近はおてんばばかりで……」

「上品な人がおてんばするから、素敵なんだよ?」

「そうそう。私なんかガサツになっちゃう所でも、アイリちゃんだとかわいらしい」

「やりました! ……ユキさんも、大人っぽくて、でも元気です!」

「どうもねー。やっぱり可愛いなぁ、アイリちゃんは」


 ユキと褒め合いを始めたアイリの水着を、まじまじと観察する。

 全体としては、言ったように上品さを感じる高貴な仕上がりだ。


 だが、かわいらしさと言うよりも、セクシーさで勝負をかけに来ている印象が強い。

 こども体形のアイリに合うようなワンピースではなく、ビキニ。そして、メイドさんに使っているようなフリルも無い。胸の小ささを誤魔化す装飾は、一切を廃していた。

 むしろ、その小さな形をくっきりと際立たせるように、ぴったりとかたどり、白い布地を金色の糸でフチ取り、また刺繍ししゅうで飾っている。

 布地の外には、レースのような装飾が飛び出し、それもまたぴったりと肌に張り付いて、体のラインを強調していた。


 胸が小さい事を、これでもかと武器にしている。ハルのために作られた勝負水着だった。

 このプライベート空間でしか着せられないだろう。決して他の男の目には見せないことをハルは誓う。


「お尻の方の作りも、自信作よ?」

「ラインが際どいね。……お尻がどうこうって、あの場限りの戯れごとじゃなかったんだ」

「当然よ?」


 ひとしきりアイリを愛で終わるタイミングで、ルナが自信満々といった様子で近付いてくる。

 彼女の水着は大人っぽさを感じる真紅のビキニだったが、こちらは色に反してフリル過多だった。そのアンバランスさが、逆に子供っぽさを強調する。

 背伸びをした子供、のような印象を受けた。


「ルナにしては、ふりふりだね」

「……そうね。プレイヤーの私のイメージで作ったから。このリアルの背丈には合わないわ」

「合ってるよ。かわいいよルナ」

「皆に言っているでしょうハル? そういうコトを」

「言ってるね。みんな可愛いもの」

「……そうね。ありがとう、ハル」


 節操が無いように言われるが、ハルとて誰にでも言う訳ではない。ここに居る彼女たちだけだ。

 十分節操が無い、との意見は受け付けていない。


 ルナの水着は、良く見れば赤と黒とのコントラストが美しい模様を描いており、やはり大人っぽさの演出もしている。

 ルナはこの中で唯一、パレオのようなゆったりとした布をおしとやかに上下に羽織り、その模様も注視しないと見通せない。


「視線がいやらしいわ?」

「いやらしく見てるからね」

「そう。お尻の方も後で見ておきなさいね? いやらしく」

「君はお尻に並々ならぬこだわりでも何かあるのか……」

「ハルこそ、ユキのお尻を確認しようとしたのでしょう?」

「あやつのチクりか……」


 そんなこんなで、全員が水着に着替え終わり、休日の水遊びが始まるのだった。


 ……そう、思ったが、カナリーの姿が見えなかった。既にもう、どこかで遊び始めているのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ハル君も男の子だねー。 …いやあの中で精神保っていられる時点で相当だからね? [気になる点] 最初は3人(もしくは4人)ハーレムかーって思いながら読んでたら気が付いたらメイドさん達がハーレ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ