表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1264/1793

第1264話 不用心な書き込みにご用心

 ヨイヤミから軽く事情を聴き、彼女を『大丈夫だ、任せろ』と落ち着かせると、ハルは急いで意識を浮上させていった。

 そのヨイヤミはといえば、安心したらもう仕事をやりきった顔で、揚々とプレイに戻るようだ。切り替えの早いことである。


 アイリの導きに合わせてハルが意識を身体に戻すと、既に体はベッドから身を起こしているようだった。


「黒曜。状況を」


《はいハル様。先ほど、アイリ様が朝の支度をされていると、ヨイヤミ様が慌てた様子で飛び込んでまいりました。ネットの巡回中に、くだんの書き込みを発見したようです。書き込みの内容はお聞きになりましたか?》


「ああ。中で聞いて来た」

「おっ。起きた。いや、今までも起きてたけど」

「びっくりしました! 黒曜さんと、入れ替わったのですね!」

「うん。おはようみんな」


 ハルの体が既に活動準備を整えていた事からも分かるように、一瞬前までは支援AIの黒曜がこの体をコントロールしていた。

 着替えも済み、既に何時でも行動可能だ。実に頼もしい。

 少し前までの学生時代も、登校の際こうしてオートで登校準備を任せたものである。本当に頼もしい。


「……それはともかく。ついに怖れていた事態が発生したようだね。この情報は他には?」

「《はい。ヨイヤミ様は、まず月乃様へと相談されたようです。『月乃お母さんなら、なんとかしてくれると思った』、とのことで》」

「信頼されてるね奥様」

「お母さまには重要情報はすぐに渡さないように、言っておくべきかしら」

「いいよルナ、それは。せっかく信頼してるとこ、教育に悪そうだし。それに奥様は、やっぱり頼りになるよ」

「そうなのだけれど……、どうしても身構えてしまってねぇ……」

「うんまあ。前科が多い方だから……」


 ルナの苦手意識を、娘特有の反抗心と言い切れないハルだった。


 とはいえこうした、既に表に出てしまった情報については月乃は実に頼れる存在だ。

 ハルであっても情報封鎖や痕跡こんせきも残さぬ完全な消去は可能だが、自然な隠蔽いんぺい工作となると、やはり月乃が一枚上手だろう。


「お母さまが言うには、幸い今は大した注目を集めてはいないらしいわ? 直接の工作は行わずに、対象の情報がこれ以上拡散しないように、『封じ込め』だけするに留めるそうよ?」

「うん。今聞いている」

「《ですから来訪は不要です。わざわざそんなご機嫌取りに顔を出すよりもまずは、迅速じんそくに事態の収拾にあたりなさい。ですが、全てが片付いたら、必ず報告に来るように。いいですね?》」


 ルナたちと話しながら、並行して既に月乃へも通話を繋いでいたハルだ。

 周囲に目があるのか、月乃は厳しい奥様モード。その音声を耳にしたルナは、彼女の発言の真意を察して軽くため息をつきつつの呆れ顔であった。


「《ハル様。『奥様翻訳機』を起動しますか?》」

「いや、通話はもう終わる。それに、この程度あからさますぎて、翻訳なしでも分かるだろう」

「ええ。駄々洩れね……」

「『今はいいけど会いたいから、終わったらこっちに遊びに来てね!』、ですね!」


 心なしか言葉にもとげというか、キツさ冷たさがなくなってきているのは計算か。ハルを家の一員として、受け入れる準備をしているのだろう。

 決して、最近の浮かれ具合の延長で、隙が出来ている訳ではない、と思いたい。あの月乃に限ってそんなはずはない。はずだ。


「それで、どうするのかしらハル?」

「うん。やはりここは、下手にネットでやり取りするよりも、直接接触しようと思う」

「接触できる相手なん?」

「うん。相手は二十代、女性、会社員だ。幸い出社はこれからみたいだから、家を出たところを捕まえる」

「うわっ! ハル君のストーカー! 変質者!」

「怖いわね……、ネットへの何気ない書き込みで、こんな風に目を付けられてしまうなんて……」

「“ねっとりてらしー”の、重要性! ですね!」

「こらこら。緊急事態じゃなければ、僕もこんなことしないよ……」

「緊急事態にかこつけて、たべごろ美人の自宅に突撃しちゃうんだ!」

「やめんか」


 かといって、あの投稿にこちらも匿名とくめいでアクセスするのもまどろっこしい。情報を聞き出すのに、腹の探り合いをする時間が惜しい。

 それにログを取られるようなヘマをハルがするはずはないが、万一ということもある。最近は、モノリスをはじめとしたハルも知らぬ技術も増えてきた。


「しかし、実際どうする気なのハル? そりゃあなたなら、初対面の女性をナンパしてそのままホテルに連れ込むくらい訳もないでしょうけど」

「訳あるわ。いや、良い訳あるかそんなこと!」

「おっ。ナンパの成功率は否定しなかった。ハル君モテるもんねー。……でもま、そういう手合いじゃないかって警戒されないように、対策は必要かもねぇ」

「そうね? それなら私に、良い案があるわ?」

「ルナの良い案は、悪い予感しかしないんだけど……」


 それでも、聞いておいた方が良いだろう。確かに見知らぬ男が、突然声をかけてきたら警戒する。詳しく話を聞く前に、逃げられてしまっては本末転倒。


 ルナの助言により準備を整えて、ハルは彼女が出社する前に日本へと<転移>するのであった。





「ここですね! このあたりで、待ち伏せをするのです!」

「ああ。家の目の前は、さすがに印象が悪すぎるからね」

「ストーカーに、家を特定されている恐怖なのです……!」


 ルナの提案した策は意外に(と言ったら失礼か)まともなもので、ハルと共にアイリが一緒にその人の元に出向く、というものだった。

 幼い見た目のアイリが共に居れば、男一人の場合よりも、よこしまな推測を受けづらくなる。


 アイリは最初遠慮しルナを推したが、ルナでは逆に日本では名が売れておりダメらしい。特に社会人相手では。

 確かに、仮にも有名社長が突然他社の社員に接触している事が広まれば、色々と噂になりかねない。ハルもそこは気を付けよう。


 ユキは『自分は大きすぎるから』とパス。カナリーは能力面では最強だが、神界でのお手伝いがあることと、性格面がふわふわしすぎということで却下となった。


「どきどきですね! これから、ふたりでお姉さんをハンティングなのです……!」

「アイリさんや。ナンパから早く意識を戻してこようか」


 警戒を解くためのアイリが目をギラギラさせていてはなんの意味もない。

 ハルはアイリが自分の顔をむにむにしているうちに、この人通りの少ない住宅街の一画を、更に会話内容が盗み聞かれないように、周囲のエーテルを調整していった。


 その処理が終わるころ、ハルたちの前に、お目当ての人物が通りがかって来るのであった。


「来ました! 獲物がまんまと、何も知らずに!」

「まんまとは止めようねアイリ? あと獲物も」

「ですがわたくしたちは、ハンターなのです……」

「ま、まあ、気合たっぷりなのは良いことだよね……?」


 ここにきて修正は諦めたハルだ。アイリに甘すぎである。

 とはいえ両手を握ってやる気を出すアイリも、はたから見ればかわいらしい少女が、かわいらしいポーズをしているだけ。何をしても好印象なのは実にお得だ。


 そんなアイリの姿を横目にとらえ、にっこりと微笑ましい表情をする女性が、今回のターゲットだ。


「失礼。少々お話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「えっ? 私、ですか? え、ええ。何でしょうか? 通勤中なので、手短だとありがたいです」

「それは出来ません! なぜならわたくしたちは、ナンパなのですから!」

「あら? うふふっ。可愛いナンパさんですね」


 あくまでナンパにこだわったアイリの方針が、良い方向に作用したようだ。逆に冗談として、彼女の緊張をほぐしている。


 女性はのんびりとした雰囲気を持つ、ゆるいウェーブのかかった長い髪と、長いスカートの大人の人だった。

 少女から大人になる過程といった未熟さを残す容姿だが、その落ち着きが年齢以上に大人に見せている。きっとモテるだろう、ハルよりも彼女こそ。


「それで、どのようなご用件ですか?」

「ご安心ください! 宗教でもセールスでも、アイドルの勧誘でもないのです!」

「そうでした。ナンパさんでしたね。でも、アイドルさんの勧誘なら、嬉しかったですねぇ」

「アイドル! やりますか!」


 にこにことアイリと話す彼女。やはり、アイリを連れて来たのは正解だったらしい。

 そうして警戒心がほどけた所に、ハルはタイミングよく目的の爆弾を差し込んでいく。慎重に、態度と表情を読みながら。


「すみません、アイドルのお仕事についてはまた折を見て。今日は、貴女の今朝の投稿についてお話をお聞きしたく。イシスさん、でよろしいですよね?」

「あっ、はい。私が……、って、えっ……? ええっ!?」

「申しわけない。調べました。失礼は後ほどきちんと謝罪いたします」

「謝礼も出すのです!」

「……それはその、別に気にしてない、です? それよりも、どうやって私のことを。もしかして、私なにか気付かないうちにやらかしてました!?」

「いえ。ハッキングしました」

「はっきんぐ!」

「すごいですよね!」

「はい。驚きましたー……」


 どうやら、ストーカー疑惑をかけられるのは避けられたようだ。いや、混乱しているところを、勢いでゴリ押しただけとも言う。


 そんな混乱中の彼女だが、それでもハルの語った内容に気が付いたようで、ストーカー疑惑よりもそちらに食いつく。どうやら、笑顔の裏でずいぶんと悩んでいたようだ。


「そ、それよりも、今朝の投稿というと、えと、その! なんと言いますか……」

「はい。『夢の中でゲームをしている気がする、同じような心当たりのある人、居たりしますか?』。その心当たりが、ある人です」

「やっぱり!! あっ、すみません、つい大きな声を……」

「大丈夫です」


 今この場では、例え隕石が爆発を起こしたとしても外部に聞こえない。防音処理は完璧だ。

 とはいえ、こんな道端でいつまでも話し込んでいていい内容でもない。今のところ視界は、全く遮っていないのだから。


「……よろしければこれから、」

「わたくしたちと、お茶しませんか! です!」

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2024/6/24)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 廃ゲーマーが夢と現実を混同している可能性は消えましたかー。とはいえ、まだ夢現な確証があるとは言えないレベル、単体で見ればMMOプレイヤーが寝ぼけていたと解釈されそうなところですかー。逆に同…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ