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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1257話 一種の焦土作戦

 最初に感じたのは、龍脈を操作する際の違和感だった。

 ハルが普段するように、いつも通りに龍脈の枝を伸ばしていると、突然普段にはない手ごたえ、つっかかりのような物を感じたのだ。


 それは、通常の龍脈のように容易に支配が出来ず、それどころか相手側から押し返してくる。

 明らかに、ハル以外の他者によって支配がなされた龍脈だった。


「意外にも、最初に接触したのは北の方だったね。国力で勝る、南のシノの国が先かと思ったけど」

「国の力と、個人の才能は比例しないってことでしょうねー」


 ハルたちは再び軍議ぐんぎを開き、戦略マップの龍脈地図を更新する。

 先にこちらの龍脈と衝突したのは、北の小国群のうち一つから伸びた物。どうやらそちらには、<龍脈接続>のスキルと高相性のプレイヤーが居たようだ。


 それに少し遅れる形で、南の国の龍脈も彼の国の領内で衝突。その後押し引きを繰り返しながら、両国は龍脈の『国境線』を確定させていった。

 そして、その国内へと食い込んだ龍脈が伝えてくれる情報から、どうやら彼らがこちらを攻める為の兵を再び集めていることが分かったのである。


「嫌でしょうねー。防げぬ地下からのスパイなんてー」

「そうだね。だからこそ、その大元を叩こうと兵を挙げたんだろうけど」

「迎え撃ってやりましょー」

「はい! カナリー様! わたくしも、頑張って戦うのです!」

「……しかしハル? この戦いって、どうしたら終わるのかしら?」

「そこなんだよね」


 普通の戦争ならば、敵の兵を殺してその戦力を減らして行けば、いずれ勝利は訪れることだろう。戦う者が居なくなってしまえば、軍は維持できない。当たり前だ。


 だがこれはゲーム。殺したところでプレイヤーは死なず、その日はお休みになるだけだ。場合によっては、寝なおして復帰する者すら居るらしい。

 そんな世界の戦争など、終わりなく無限に続くのではないか。そんな気さえしてくる。


 ハルたちの場合であってもそれは同じこと。もしハルが死のうが、この拠点が破壊されようが龍脈に影響はない。

 地下空洞の源泉を抑えられたら少々面倒だが、それでも別のラインから支配が継続できる。

 敵はこの戦争、勝利条件をどのように想定しているのであろうか?


「まあ、案外『勝ってから考える』気なんじゃないの? 私らに勝てる気でいるのが、ウケるけど」

「まあ、人数差は歴然だ。そう思われてしまうのも、無理はないのかも知れない」


 確かにハルたちは強いが、しかし無限にプレイできる訳ではない。一日のうち、長くて三分の一程度プレイしていればいい方だ。

 もちろん、やろうと思えば入りっぱなしになることも出来る。しかし、今のところその予定は特になかった。


 そんな『起床時間』の間、どうしたって隙はできる。そのどうしようもない弱点を、数の力で押しつぶしてしまおうと思われても仕方ない。


「……もしくは、『勝てる』というより『負けない』と思っているのかも知れないわね? 私たちがここから出ない以上、相手が致命傷を負うことは決してないもの」

「前に来た時も言ってたしね。大人数で張る風のバリアが首都にはあるから、それは決して破られないって」

「あれってフラグだよねぇー」

「まあ、面倒なのは確かだろうさ」


 ハルとしても、どうすれば『勝ち』になるのか正直測りかねている。

 バリアを突破して首都を破壊すれば勝ちなのか、それともシノを指導者の座から引きずり降ろさないといけないのか。

 ハル個人としては、敵が諦めてもう攻めて来なくなったら、それをもって勝利としたいところだ。


「……もしかしたら勝敗なんて永遠につかず、運営は無限に領土争いを続けさせる気かもしれない」

「そんなことをしても課金アイテムは売れんぞー。ぶーぶー」


 ユキの言う通りだ。普通のゲームならば商売になるが、このゲームではそうした要素がない。

 まだまだ、何を目的にこのゲームを運営しているのか見えてこないハルたちだった。


 そんなハルたちの懸念けねんをよそに、状況は待ってくれることなく先へ先へと進んでいく。

 ついに、シノの放ったであろう敵軍の先頭集団が、ハルの支配する龍脈により察知されたのだった。





「……東か!」

「はいはいー。東に敵影あり、っとー。この辺ですかねー?」

「ちょうどそこら辺りだねカナリーちゃん」

「ぶいー。今日もばっちり、冴えてますよー」


 あまり冴えを感じないのんびりとした口調のまま、カナリーはハルの感じ取ったポイントに敵アイコンを配置する。

 敵襲があったのはシノの国のある南側ではなく、東方よりの襲来だった。

 龍脈の上にある街々に目を向けるも、そこで暮らす人々の様子に変化はない。こちらは、油断させる為の目くらましだったということか。


「もしくは、戦争に参加する意思のない人は、あえてこっちに残したのかもね」

「ぐるりと回って、奇襲なのです!」


 東側には、人家自体はあるものの特記するような集団は居ない。その範囲の者達は、ほとんど北か南に吸い取られるように吸収されていったようだ、との遠征組の見解をもらっている。


 そうしたある意味で緩衝かんしょう地帯となっている空間を利用して、シノは開戦の口火を切ったということだろう。


「……でもそれなら、普通に南から来たって大差ないと思うんだけどね」

「うんうん。ハル君の言う通り。むしろ最北の街でセーブできるぶん、お得じゃない?」

「きっと市井しせいの非戦闘員の方々を、巻き込まないようにとの配慮なのです!」

「この世界、非戦闘員なんて居るのかしら……」


 まあ、そんな彼らの思惑も、すぐに明らかになるだろう。姿を現した彼らは、しきりにマップを確認しながら前進していく。

 恐らくは部隊員に<龍脈接続>者がおり、その者が足元に流れる龍脈の位置を確認していると思われる。

 彼らも、ハルの支配域へと踏み込んだことを、これで察したはずだった。


「カナリーちゃん。ポイント更新」

「はいはーい」

「どんどん進んでくるわね? 流石は正規軍、といったところかしら?」

「あのあたりはまだ、魔物の領域って感じじゃないからねー」

「恐らくはどこかで、中継基地を作るはずですが……!」


 そう、拠点を構えず、セーブポイントを作らないままでは、死んだら都市へと逆戻り。

 なので必ず、どこか途中で前回のような要塞ようさいを建てて、刻むように前線を伸ばしていく、そのはずだ。


 そんなアイリの言葉を肯定するように、しばらく進むと彼らは本当に行軍を停止した。


「おっ。ここで基地作る気か?」

「ずいぶんと遠いわねまだ。長旅で疲れたのかしら?」

「そうかも知れませんねー?」

「むむっ! 待ってください! なんだか、<建築>するといった様子じゃありませんよ!」


 ハルの映し出す<龍脈接続>のモニターに、女の子たちが食い入るように群がっていく。

 確かに、彼らの様子はここに陣を敷く、といった態度ではないように見えた。


 先ほどよりも神経質になって、しきりに地面とマップを交互に目を通していく。

 時には地面の障害物を排除したり、<地魔法>で地形の整備をし凹凸おうとつならしたりと、作業自体は<建築>の下準備に見えなくもない。

 ただ、それでも彼らの中で誰一人、建材をアイテム欄から取り出そうとする者は居なかった。


 代わりにアイテム欄から取り出されたのは、茶色の宝珠。前回ハルたちにプレゼントされた、風の宝珠と似通っているが、色が違う。

 さんざん地下実験を繰り返したハルたちには、それが何であるのかはすぐに察しがついた。あれは、地属性の力を秘めた宝珠だろう。やはり別系統も存在した。


 彼らはその宝珠を整地した地面に埋め込むように起動すると、軍の全員で力を込めていく。

 中には、自身も魔法を発動するためにチャージを開始する者も居る。きっと<水魔法>や<光魔法>を使うつもりだろう。彼らもまた、吸収効果の訓練をしたようだ。


「……なるほど。やりたいことが分かったよ」

「あそこに、陣地を守るバリアを張るのでしょうか!?」

「いいやアイリちゃん。あんな遠くで張ったらもったいないよ。それに、あいつらの居る位置をよーく見るんだ」

「ユキも分かったのね? カナリー、地図を見せてちょうだいな」

「ほーい」


 戦略地図をカナリーが拡大すると、彼らの現在地の詳細が映し出される。

 そこはまだハルの龍脈支配域の外れの地。モンスターも強化がされていない程度の遠方だ。

 彼らの立っている点はちょうど、ハル拠点側から伸びる龍脈の川が、二本に枝分かれしている分岐点。その分岐前の本流に、彼らは宝珠を設置していた。


「違和感はあったんだよね。龍脈が読めるなら、どうして避けて行軍しないのかって」

「確かにそうだよね。威圧目的なのかと思ってたけど」

「……ハルもユキも、二人で納得していないで、そろそろ教えてちょうだいな?」

「見てればすぐ分かるぜルナちー」


 そのユキの声が聞こえた訳ではないだろうが、ちょうどタイミングよく、彼らの設置した宝珠が起動し光を放った。

 宝珠からは強烈な地属性魔法が発動し、さらに味方の魔法をも吸収し飲み込んだそれは、強烈な地鳴りと共に地割れを引き起こし、彼らの足元の大地を割いていった。


 そして、次の瞬間に、彼らの様子を伝えていた映像は途絶えた。





「龍脈を切断された」

「まぁ……!」

「……大胆なことをしたわね?」

「まあ、分かりやすくはある。ハル君の支配が行軍だとしたら、橋を落としたようなもんだ」

「ぶった切られたら、龍脈って使えないんですねー?」

「まあ、地面の中通ってるからね。光ファイバー切られたようなものか。しかしよくやる。彼らにとっても不利益だろうに」

「これ以上ハル君にとられるよかマシ、ってことかねー」

「落ち着いている場合?」


 確かに、次々とこれをやられると面倒だ。宝珠はきっといくつもあるのだろう。しかし、これが致命傷になるかといえばそうでもない。


「まあ、僕らの庭をボロボロに掘り返されても面倒だ。対処に打って出ようかねえ」


 あるいは、そうやってハルたちをおびき出すことが狙いだろうか? なんにせよ、行かないという選択肢はなさそうなのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あるいは東、北、西に対するエネルギー供給を順番に止めることによってそれぞれの方角への敵国を弱体化させつつハル様の霊峰を取り囲むだとか、他の方角への供給を減らすことで結果的に南への流出量を増…
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