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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1248話 龍脈の川を泳ぐ

「ハル、実験も構わんが、奴らとの戦争はどうするんだ?」

「まあ、そっちは今は良いさ。建前上とはいえ、手土産てみやげ持参で話し合いに来たんだ。これを停戦協定としていいだろう」

「甘いぞハル! 我らの平穏を脅かされたのだ! ここは奴らの首都の破壊をもって、己の愚かさを理解させてやるべきだろう! ……やっぱむり?」

「無理じゃあないと思うけど。実際昨日のより数段強力なバリアは少し面倒くさいかなあ」

「可能ではあるんかーいっ」


 女の子たちと合流する道すがら、ケイオスとこの戦いのく末について雑談交じりで語り合う。

 石造りの城、この山から切り出された石材をふんだんに使った荘厳そうごんな作りの拠点の廊下に、二人の歩く音と会話がこだまする。


 この山頂特有の、淡いながらも神聖な雰囲気の陽光が等間隔に差し込んで、まるで神殿のような気配をかもし出していた。

 もっとも、そこを歩む二人組は『神聖』とは少々程遠いかも知れないのだが。


「しかしだハル、真面目に。このまま奴らが肥大化すれば、その時また攻めてくるのは確実だぞ? ここは一度、首都とやらを叩いて分断しておいてもいいんじゃないか?」

「んー。滅ぼして体制を崩壊させたとして、その後どうするのさ。僕は今回君主プレイは御免だし」

「『君臨すれども統治せず』でいいじゃないか」

「現行政治を滅ぼしといてそれやったらただの魔王なんよ……」

「フハハハハハ! だって魔王だしな、我!」

「黙れよ最終クラス<平民>」

「ちょっ! それは言わないお約束ー!」


 男同士の気軽なバカ話を続けつつ、ハルたちは城の外れに作られた、小さな工房へとたどり着く。

 ここは主にユキの生産スキルの効果を上げるべく、専用の<建築>パーツを詰め込んだ研究室だ。

 実は、別にこの室内で生産を行わずとも、拠点内ならば何処に居ようと効力を発揮するのだが、基本的にユキは普段はこの中で研究を行っている。気分は大事だ。


「よう! 終わったぜみんな!」

「ケイオスさん、お疲れさまでした!」

「ハル君の邪魔しなかったかーバカケイオスー?」

「しなかったってーの! むしろナイスアシストだったってーの! まあ、ジェード様のサポートぢからには、ちょーっと敵わなかったかもだけど……」

「お疲れ様。それで、話はどうなったのかしら?」


 工房にお邪魔したハルとケイオスは、南の統治者シノとの話の内容を彼女らに語る。カナリーは居ないようだ。

 シノは、別に統治者と名乗ってはいなかったが、概ねそう見て間違いないだろう。ここに本人が来たのも、あわよくば資源ポイントを自分で支配するためと見た。


 その話を聞いた女の子たちは、それぞれの得意分野にて色々と意見を出してくれた。


「……んー。この城に入りたがったのは、物理的な敵情視察もありそうだけど、地形効果の確認かな? 現状、拠点バフは隠せないからね」

「なるほど! 招いてしまっているので、その間は彼らも拠点効果を受けるのですね!」

「でも大丈夫だよアイリちゃん。この城には、既にそれを想定した仕掛けがあるのだ!」

「おお! あれですね!」


 実は現在、とある仕掛けによって拠点はその効果を十全に発揮していない。彼らには、城の力は最大より低く伝わっているのだ。

 まあ、それでもその辺の下手な都市より十分強いと、ハルたちは自負じふしているのだが。


「それより気になるのは、試供品しきょうひんとして渡されたその宝珠ね? 確かに、便利そうなアイテムね?」

「これで便利さを教え込んで、二個目を欲しがらせようって作戦かー。おのれー」

「甘いぞユキちゃん! プロの節約家は、ちまたに溢れる試供品を初回だけ貰いまくって、その後は一切購入には応じぬものよ!」

「……ケイオスー。あんたもうお金持ってるんだから、そういうドケチ思考やめな?」

「そうね? それに、いくら無料だからといって、そうしたサービスを探し回る時間が損よ? あなたは優秀なのですから、自分の時間単価を考えましょう?」

「なんか予想外のところで諭されてしまった!!」

「どんまい、なのです!」


 基本お金持ちのお嬢様がただ、ケイオスお得意の節約ネタは、通じにくかったようである。


「んで、ハル君はそれをどう活用すんの? その顔はもう決まってるんでしょ?」

「ああ、せっかく貰ったんだ。最大限有効活用したい。出来れば、二個目は買わなくても済む形でね」

「むむむ! どうするのでしょうか!? うーん。ハルさんの溢れる魔力で、とーっても強いバリアをこの城に張る、とか!」

「まあ、普段の体力捨て場としては使えるかもね? でもそれだと、来訪者まで防いじゃわない? 奴らの都市はどーしてんだろ?」

「いいのではなくて? どうせ来るのは、敵だけでしょうに」

「いや! 敵は来てもらわないと困る!」

「あれだなユキちゃん! 強敵と書いて!」

「『けいけんち』! なのです!」


 確かに、とっておきの一個をフルに活用した最強のバリアを作り出し、防御および示威じい行為に使う手も考えた。

 彼らのアイテムだ、龍脈の力を注ぎこんだバリアを見れば、その異常さに腰を抜かすこと間違いなし。


「しかしそれでも、彼らの想定通りの使い方には違いない。それはちょっとしゃくだ。なので、思いもしないだろう活用法を考え付いた。みんな、地下に行くよ」

「おー!」


 元気いっぱいのアイリを先頭に、皆で揃って工房を出て移動する。

 今度は、ひときわ高い尖塔せんとうの目立つ、中央よりの施設に。よく見るとここだけ、他の施設からは構造的に独立しているのが分かる。


 塔の根元は一段広く家のようになっており、その周囲を装飾のように池が取り囲む。しかし、よく見ると橋がない。

 ハルがおもむろに壁を操作し隠されたスイッチを作動させると、塔へと向けて橋がかかるギミックが作動した。


「ふふん。この私渾身の仕掛けで切り分けられたこの城本来の力に、奴らは気付かなかっただろうねー」

「追加オプションパーツ、なのです!」


 橋によって拠点と接続された瞬間、ハルたちが拠点から受ける支援効果が一気に跳ね上がった。

 この塔と接続されることで、城は本来の力を発揮する。逆に切り離すことで、解析を妨害できる。


 そんなギミックによって繋がる強化パーツ。その接続先はもちろん山の内部に掘られた地下坑道。

 頂上の城はまさに氷山の一角。ダンジョンのように入り組んだ坑道全体を拠点とすることで、規格外の大きさの施設を実現しているのであった。





 そんな迷宮との接続部である尖塔の地下。塔の直下に設置されたエレベータを降りて、ハルたちは最深部となる龍脈の源泉へとやってきた。

 ハルの実験は、やはり龍脈を使ったものにするのが最も効果的だろう。


「アイリ、この宝珠を<鑑定>してみて?」

「はい! ……ですが、既にケイオスさんたちが<鑑定>を行ったのでは?」

「そうなんだけどな。しかし、アイリちゃんの<鑑定>が一番レベルが高い! もしかしたら、新しい情報がなんか出るかも知れないぜ?」

「分かりました! ……むむむむ、出ました! 『大地のエネルギーを吸い上げ、宝珠として加工したアーティファクト。その精製技術は、古代文明の崩壊と共に失われている。研究では、宝珠を生み出す台座こそがそのかなめだと考えられているようだ』、です!」

「ほぉ~、オレの時は無かった一文だな! もっと抽象的だったぜ!」

「やっぱり、龍脈関係だったみたいだね」


 スキルのレベルが上がる程、その内容が詳細になるのが<鑑定>。その力により、どうやら遺跡とやらも龍脈の力を活用した物だと裏付けが取れた。

 やはり今回の追加で出現した資源は、全て龍脈に関連した物である可能性が高まった。

 風属性のアイテムなのに『大地』などと言い出すのは、やはり龍脈を示唆しさしていると見ていいのではないだろうか。


「んで、龍脈ネタだったとしたら、それでどーすん? あっ、私が色々作って、その台座とやらの再現を目指そっか!」

「それも面白そうだけど、さすがに実物を見てもいない状況じゃ難しいかな」


 とはいえ実はハルも、ユキの語る実験についてもかなり前向きに検討している。

 龍脈エネルギーを人工的に加工してアイテム化出来るならば、同様の方法でハルたちにも指向性を制御し望みのアイテムを作り出せるのではないだろうか?

 そうなれば、わざわざ遠くの資源ポイントを支配しに遠征する必要などない。この場に居ながら、ハルは望みの資源を作り出すことが可能となる。


 ……問題があるとすれば、替えの利かない<龍脈接続>スキル持ちであるハルの、地下強制労働がより確実な未来となったくらいだろうか。


「……まあ、その研究は追い追い考えるとして、今回はこの宝珠はここで使い捨てる」

「いいのではなくて? どうせ押し付けられた物よ?」

「発信機とか仕込まれてるかも知れないしねー」

「スパイの手口、なのです!」

「そこまで言っていないけど……」

「いや、むしろ、今回は僕が発信機として使う。前に実験していて、気になったことがあったんだ」


 それは、ハルが遠隔地の収穫物である、『系統樹の果実』をどうにかしてこの拠点に居ながら採取できないかと試行錯誤していた際。<龍脈接続>に気になる反応があった。


 龍脈に果実を放り込み、その流れに乗せて転送など出来ないかと試していた際に、それは起こった。

 結果的に、転送は出来なかったのだが、エネルギーに還元し龍脈に放り込んだ果実が変わった挙動を見せたのだ。


「こうして、ここから果実を流し込んでみると、その変換されたエネルギーはあの大樹と繋がるラインを流れ、あの樹に戻るように引き寄せられるんだ。それこそ、発信機が付いて誘導されてるみたいにね」

「なるほど!」

「見えないぞハルぅ!」

「実演の為に、高級品を無駄遣いするのお止めなさいな。研究者の悪い癖ね?」

「なるほどねー。つまり今回は、風の宝珠を同じように流し込んで、遺跡とやらの位置を突き止めるんだね?」

「そういうことだね。正確に言うと、ここと遺跡とやらの間に直通ラインを構築したい」


 果実を流し込んだ結果、ほんの少しだが<龍脈接続>によって繋がった大樹との間の龍脈の流れ、その支配力が強まったように感じた。

 ならば、今はシノが支配している彼の領土の遺跡も、龍脈を通してハッキングするように支配できるのではないだろうか?


 それが可能ならば、彼の国の人口やバリアなど関係ない。察知も防御も不可能な龍脈という地下通路を通して、反則じみた侵略が可能となるのだ。


「つまり、良く分からんがハルお得意の情報戦という訳だな! ネットの無いこの世界でも、手段を見つけてそれを可能にするとは怖ろしいやつ!」

「まあね。それに、龍脈を地下ケーブルに見立てれば、ほぼインターネットのような物なんだけどね」

「分からん! 任せた!」


 エーテルネット全盛時代の申し子であるケイオスには、インターネットは想像がつかないようだった。これも時代か。


 そんな、己の実年齢を実感させる会話のギャップをハルは努めて無視しながら、作戦を実行に移していく。

 龍脈に投げ込まれた風の宝珠はその実体をエネルギーへと分解され、龍穴の奥へと吸い込まれる。

 その流れる先は、やはり予想の通りにハルの支配地とは逆の南の方角。


 ハルはそのエネルギーを追い、意識を集中させる。まるで放った魚の尾に、細く長い糸をくくり付けて行き先を辿るかのように、龍脈の川の流れを遡って行く。

 そして、ついにその流れは終点へとたどり着き、おぼろげながら何かの人工物の上に置かれた龍穴から、飛び出して消えて行くのが見えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] せっかく戦争する機会ができたというのに和平なんて言語道断、ゲームをしているのに争わないとは何事かと言わんばかりの不評を買ってしまいましたかー。その憤りたるや、友好の証を高速で叩き返すほどで…
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