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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1243話 俺ごと撃てというあれ

 ハルの体に、龍脈から莫大なエネルギーが、MPが<龍脈接続>によって流れこんでくる。

 龍穴から生まれる龍脈結晶のアイテム効果が、『MPの完全回復』であったことからもしやと思っていたが、予想通りであった。


 龍脈と直接繋がるスキルにより、接続者はその強大な力を我が物とできる。本来不可欠な戦闘リソースを踏み倒せるのだ。

 もし<鑑定>スキルがハルに通っていたならば、今の異常なハルの状態に目を飛び出していたことだろう。


 わざわざ、敵が陣を敷いているこのふもとまで降りてきた理由の一つもそれだ。龍脈は地下を走っており、頂上の拠点ではまだハルは接続ができないのだ。


「ハル! 魔法使い同士、律儀に撃ち合ってやる必要などないよ! まずは協力して、前衛を切り崩そうじゃあないかっ!」

「えー? 私たちもこの場に居るんですよー? ハルさんの魔法を受けたら、消し炭になっちゃいますー」

「そのくらいは避けたまえよ。出来るだろう、君も我らの一員であるなら」

「めんどくさいですねー」

「と、いうわけだ! 私ごと撃てハル!」

「その言い方はどうなの……?」


 とはいえ、要求は理解した。ハルは言われるがままに、魔法の照準をセレステに向ける。

 彼女の背に向けて渦を巻く縄のような一条の炎が、高速度で接近する。このままでは背中から直撃し、敵もろとも炎に飲まれるが、当然セレステがそんなミスはしない。

 直撃の瞬間、彼女は後方に宙返りを決めるように飛び去り、間髪かんぱつ入れずその空いたスペースに<火魔法>が流れこんだ。


「ぐああああっ! あっちぃってぇ!」

「回復早くしてくれー!」

「回復魔法を待つな! 緊急時は自前で支給のポーションを使え!」

「あいつ、自分をマーカーに!?」


 間一髪かんいっぱつで回避したセレステは、その奇跡の脱出を喜ぶでも誇るでもなく、当然のように次のターゲットへと向かう。

 まだ炎の渦はさか巻いており、戦場にラインを引くように分断している。その隙に、更に陣形を崩壊させようという腹積もりだ。


「さあハル! 次の哀れなターゲットはこいつだ!」

「鬼ですねー?」


「っっ! ってめ! わざわざ宣言されて、そう簡単に食らってやるとでも……!」


 そうそう思い通りにはなってやらない。そんな敵兵の足掻あがきも、セレステの巧みなスキルさばきの前には無駄に終わる。

 兵士は彼女の槍を受け止めるので精一杯で、その場からの離脱が出来ない。もし逃げようとすれば、魔法を待たずにセレステの槍にそのまま背中を貫かれることだろう。


「はい、間欠泉かんけつせん

「うぼぁっ……!」

「ハル。ピンポイント攻撃では、私が避ける楽しみがない」

「……知らんわ。なら、その空いた時間を使って次の攻撃に移るんだね」

「そうしよう!」


 言うとセレステは何を思ったのか、自らの槍の穂先を地下から噴き出す水柱へと突き刺した。

 当然、その勢いに押され、セレステの身体ごと間欠泉は槍を空へと押し上げる。ハルがやっていた、『間欠泉ボード』の応用だ。


 間欠泉を使ったアクションは、他のゲームでもよく見られる定番のもの。特に驚くことではない。だが、サポートのないリアルな挙動でそれが出来るかというと、また別の話。


「ははっ! 不意打ちとはいえ、パニックが過ぎる! キリモミ状態じゃあないかっ!」


 無茶を言うものだ。基本的に、誰だってそうなるだろう。

 しかし確かに、落ち着いてアイテムを使用していれば助かったかも知れない。彼は混乱のうちに、勢いを付けたセレステの槍に下から切り裂かれ絶命した。


「この死に方は悪夢だねえ」

「死因の一部を担当しておいて何を言ってるんですかー」

「違いない」

「私たちもやりますよー?」

「そうだね。少し、派手にいこうか」


 そんな悪夢の乱戦を演出する素敵な演者キャストは一人だけではない。ハルは空中から急降下するセレステを待ち構える兵士を<雷魔法>で無防備なマトにしつつ、カナリーの方にも意識を向けた。


 顔はいつも通りのんびりなままだが、その体の動きはギャップが激しい。

 常に間合いに対応した複数の武器を一瞬で切り替えつつ、武器に合ったスキルを連続発動し続けている。

 その変幻自在の猛攻に、<剣術>スキル一本の敵兵はカナリーを取り囲みつつも、攻め手に欠いて防戦一方となっていた。


「いまですよー」


「やばい! こっちにもなんか来る!」

「逃げろ!」

「いや落ち着け! お前たちはその女を包囲している! ダメージ覚悟で抑え込めば、そのまま一人撃破できるはずだ!」

「た、確かに!」


 そんなカナリーを巻き込むように、ハルは魔法を発動する。確かに敵隊長の言う通り、今のカナリーに逃げ場はない。

 しかしそれは、平面で見た場合の話だ。立体的な視点で見れば、彼女の頭上がまだ空いている。


「とーう」


 気の抜けた掛け声と共に、スキルに任せた跳躍ちょうやく攻撃をカナリーはお見舞いする。その瞬間、ハルも<土魔法>を発動。彼らの足元に大激震を走らせた。


「うわっ、足場がっ!」

「まずい!」

「スキルを使って立て直せ! 自動でバランスを取ってくれる!」

「もうスキル実行中なんですーっ!」


 ジャンプ攻撃中のカナリーを抑えようと、彼らは既に剣による攻撃を発動した直後。その致命的な隙をハルに突かれた形だ。

 隆起りゅうきする足場に対応できず、バランスを崩しダメージも受ける二重苦に陥っている。

 そこに、三重めの苦難を追加するカナリーが、直前のジャンプ攻撃をそのまま叩き込んだ。


 彼女の攻撃はそこで終わらず、再び武器を持ち換えて連撃コンボを続ける。

 剣、槍、斧、格闘ナックル。今なお暴れる大地のリズムに合わせるように、カナリーはタイミングよく武器スキルを発動させていった。


 結果、彼女を包囲していた兵士は、自分たちを使って反射するように飛び跳ねるカナリーと足元の<土魔法>に一切対応できず、一気に全滅してしまうのだった。


「いえいえーい」

「はっ! やるじゃあないか! これは私も、負けていられないねっ! ハル! こちらにももっと派手なのを頼む! 竜巻とか!」


 今度は竜巻に乗って飛び回るつもりだろうか? まあ、確かにちまちまとやっていても仕方ない。

 ハルはそんな同士討ち上等の大魔法を連打することで、敵の混乱を誘発しその鉄壁の防御を次々と切り崩して行くのであった。





「まずいな。俺も出るぜ!」

「私も参戦する! 予備戦力とか言ってる場合じゃないっしょ」

「裏からは来なさそうだし、後方の警備もこっち回そうぜ隊長」

「……そうだな。よし。まずはあの魔法使いを叩く!」

「おう!」

「だね!」

「あの反則さえ居なければ!」


 派手な魔法によって戦場を混乱の坩堝るつぼに叩き込んでいる元凶のハル。敵の目は当然、ハルに向かって突き刺さる。

 しかし実のところ、ダメージの大半を稼いでいるのはセレステとカナリーだ。ハルの魔法は、ノーダメージでこそないものの決定打にはなっていない。

 それは、不意を突いて直撃しても即死に至らせられない事からもよく分かるだろう。


 ただ、見た目の派手さはその現状認識を狂わせる。この被害を引き起こしたのは、ハルの大魔法であると。

 まあ実際、魔法による混乱がなければ防御陣形を突破できなかったのも事実ではある。


「迂回して奴のもとに攻め込むんだ! 敵の前衛は二人だけ、止めることは出来ない!」


 敵の防衛部隊は変わらず要塞ようさいをがっちりとガードしつつ、後方で待機していた余剰兵力を遊撃部隊として、対ハル用戦力として回してきた。

 通常なら悪手あくしゅでしかないだろうが、こちらには実際彼らの突撃を抑える兵力が居ない。


 ハルは間もなく、大人数によって完全に周囲を固められてしまうのだった。


「密集はするなよ。互いに距離を取るんだ」

「範囲魔法の餌食えじきだからな……」

「ってか動揺しないなコイツ!」

「涼しい顔で前衛の魔法支援続けてるんですけどー!?」

「その余裕を崩してやる」


 ハルが包囲されている事などまるで無視するかのように、カナリーたちの支援をし今も防衛部隊を削っている様子が、逆に彼らを焦らせる。

 その蛮行ばんこうを止めようと、彼らの一人が果敢かかんにも、<剣術>でハルへと切りかかって来た。


「そんだけ魔法に振ってりゃ、近接はからきしだろ! そのまま死ね!」

「いや別に、このゲームそういうゲームじゃないしね」

「なにっ!?」


 ハルは襲い来る剣を、自分も刀を生み出して受け止める。

 別に、魔法使いは武器を装備できないとか、魔力を鍛えたら筋力がおざなりになるとか、そうしたルールのあるゲームではない。単に、スキルがあるかないか、それだけだ。


生憎あいにく剣に関しては、僕も得意でね」

「こいつも<剣術>を!?」


 いや違う。スキルに頼らない、自前の技術である。ソフィーと同じだ。

 その実力は現時点のスキルを使った技量よりもずっと高く、ソフィーがそうであったようにスキル頼りの彼らはそれに対抗できない。


 スキル無しの場合ダメージはそこそこだが、それは手数で補えばいい。どうせ、スキル<剣術>ではハルの剣に対応できないのだ。

 ハルはなます斬りに切り刻むように、容赦なく向かってきた兵士に刀の連撃を叩き込む。

 見る間に、敵のHPはゼロになると消滅しそのままログアウトしてしまうのだった。


「つ、つええ……」

「こんな<剣術>見た事ねぇ」

「いったいスキルレベルいくつなの……?」

「魔法だけじゃなくて、<剣術>も極めて!?」

「い、いや、本国の方に居る<剣術>バカを知ってるけど、こんな動きは出来てなかった。これきっと、<剣術>じゃないなにかだよ」

「まさか上位スキルとか!」

「……いや多分、彼の自前の技術だ」

「達人ってこと!?」

「リアルスキルってやつか」


「話してないで来ないのかい?」


 せっかく包囲しているのだ、次々と突撃してきてくれないと困る。こちらから、移動しなくてはならない所とか。


 ハルはその神速の刀に尻込みした敵兵に向かい、逆に自分から距離を詰めて切りかかる。

 このゲームでは、現実の身体や一般的なゲームよりも身体能力は上がっている。そのぶんハルの刀のスピードも、余計に高速に見えるだろう。


 そんなゲームじみた連続攻撃によって、逆に包囲する兵士を次々と返り討ちにするハル。もちろん、その間もセレステたちの方に魔法を放つのは忘れない。

 そんな悪夢のような三人の活躍により、要塞を守る鉄壁の前衛は、一人また一人と、その数を徐々に減らして行くのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いえいえ、格の違いを見せつける必要があるので魔法の撃ちあいで圧倒しなければいけませんねー? 魔法戦に負けたから別の戦いに向かったと思われては癪なので、まずは誤解がないように実力差を見せつけ…
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