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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1240話 龍脈から見える景色

 地下を流れる龍脈のラインを通して、遠方の景色がハルの目に流れこんでくる。

 樹上のバトルエリアでは、今この瞬間ガーディアンと戦闘し、そして撃破されていくプレイヤーの姿が確認された。


 これは、龍脈によって接続された大樹の情報が、<龍脈接続>によってリアルタイムで確認できたということだろう。


「ふむ。これは便利だ」

「どしたんどしたん?」

「それがねユキ」


 ハルはユキをはじめとする仲間たちに、この情報を共有する。この千里眼の力があれば、この広大な世界にて実に有利に立ち回れるだろう。

 ただし、やはりいきなり万能の力が手に入る訳ではない。確認できる範囲は、支配地である大樹の周辺のみであるようだった。


「スキルレベルを上げれば、もっと確認できるのかも知れないけど」

「よし! そんじゃ鍛えよう!」

「残念だったねお兄さん! ハルお兄さんは、どうやらどう足掻あがいても地下の強制労働の刑からは逃れられないようでしたー。なーむー。でも安心して! 私が差し入れ、持ってきてあげるから!」

「……その差し入れって、作業用のMP回復薬とかじゃないの? この場合」

「てへっ! もっと刑務作業できるね!」

「まあ、しばらくはそれもやむなしか……」


 ハルとしても、この力を鍛えれば何が可能になるのか見てみたい気持ちは強い。しばらくは、この地下空洞にこもってレベル上げに従事しても構わないだろう。


「ハルさん、ファイトです! わたくしも、“たんこうふ”を頑張るのです!」

「龍脈がこの更に地下にあるのならば、私たちで更に掘り下げるのもアリかしら?」

「どうなんでしょー。ハルさん、わかりますー?」

「うん。源泉はここよりもう少し下のようだ。そうだね、距離といえば、少し検証してみるか」


 ハルは<龍脈接続>を使用したまま、スキルの発動条件のテストに入る。龍脈の吹き出し口となっている結晶の生成ポイントから、一歩二歩と距離をとり、ハルは離れていく。

 もし、この距離を離したままでも問題なくスキルが使えるというのなら、なにも暗い地下に留まって作業を続ける必要はないはずだ。


「マスター、どーです? 問題ねーです?」

「ああ。今のところはね」

「見たところ、龍脈が占める地下の範囲はそれなりに大きいようです。水平方向の移動では意味がないかもしれません、マスター」

「よし、じゃあ次は上に移動してみようか」

「はいマスター」「はいです!」


 小さな白銀と空木うつぎに手を引かれながら、ハルはエレベータへと向かう。

 そうして徐々にその高度を上げて地上へと向かっていくと、途中でぱたりと、スキルからの反応が途絶えてしまった。


「ふむ。この距離が、今のところの限界か」

「使えねースキルです! こんなんじゃ、離れたうちにはいんねーです!」

「頂上の拠点までは、まだまだ距離がありますねマスター。いっそ、地下に拠点を作り直しますか?」

「それもちょっとなあ……」


 地下の秘密基地というのもロマンはあるが、せっかく皆で遊ぶ良い機会でもあるので、出来れば日のあたる見晴らしの良い山頂に拠点は構えたい。

 ハルはエレベータを下まで降ろすと、再びスキルを龍脈に接続する。

 そしてしばらくかけてスキルレベルを上げ、また高度を上げるテストを行ってみるのだった。


「よし。接続距離が上がってる。これならいずれは、拠点に居ながらも接続できそうだ」

「はっ! わたくし、知ってます! これは、“あんてな”が立った、というやつですね!」

「よくそんな前時代のことまで知ってるねーアイリお姉ちゃん」

「“れとろげー”を、たくさんやっていますから!」


 しかし、やはり近ければ近いほど接続強度は高いようで、最大の効果を発揮するにはやはり源泉付近に近付く必要があるようだった。


「じゃあ、やっぱり拠点をこっちに移設がいいのかな? どう考えてもキースキルだし。くっそー。私の超能力がこっちでも使えればなぁ。ユニークスキルみたいので出るのも期待してたけど、その気配もないし……」

「ヨイヤミちゃんの遠隔視はチートだしね」

「そうした超能力も含めて、この<龍脈接続>なのかも知れないわね? しかし、そう考えると利点ばかりではないわ? これも、ユニークスキルではないのでしょう?」

「そだねルナちー。今後、ハル君以外の誰かも手に入れることだってあるかも知れない」

「……となるとやっぱり、拠点は龍脈から離すべきかも。情報は双方向で、相手からも確認できるのではなくて?」

「むむむ! 難しいのです!」


 確かに、ヨイヤミのようなチート中のチート能力でもないかぎり、かならず情報のやりとりというのは双方向だ。アメジストも語っていた通り、これは動かせない。

 ハルたちの情報もまた、他の<龍脈接続>者に抜かれてしまうという事も、十分に考えられた。


「だいじょぶです! マスターは、情報戦にて、無敵です!」

「ええ。覗き見されるのならば、セキュリティを構築すればいいだけのこと。マスターなら容易ですね」

「すごいですー! 流石はハルさん、ですね!」

「……まあ、そういう色々が可能になるまでは、ここで刑務作業に従事しないといけないんだけどね」


 龍脈に含まれる情報はかなり多彩なようではあれども、今はその半分にもアクセスできない。これもまた、スキルアップが必要なのだろう。


「まーまー。うちらも今日は、一緒に居てあげるからさー」

「ですよー? みんなでやれば、刑務作業も楽しいですよー?」

「まずその刑務作業って表現やめない……?」


 そんな風に、暗い地下空洞を明るく楽しく照らすように、ハルたちはおのおのスキル上げも兼ねてはしゃぎ回るのであった。





「というかさー。新資源はそもそも、全部が龍脈関係なん?」

「それはまだ分からないね」

「だよね。もしかしたら、<龍脈接続>だけじゃ全部をカバーできないのかも!」

「それだと面倒だから嫌だなあ。複数のキースキル見つけて、それも全部鍛えないといけない」

「頑張れハル君。きっと<虎脈とらみゃく接続>とかあるんだよ」

「とらみゃく……?」


 妙な響きを理解しきれなかったが、どうやら龍に対しての虎らしい。龍虎りゅうこ、とセットでライバルを表す際に語られるからだろう。


 そんな虎脈が本当にあったら実に面倒だが、マップに表示される龍脈の流れを追っていくと、どうやらその心配はない気がするハルだ。

 龍脈の枝分かれは方々に散っており、その接続先はかなりの数の資源をカバーしているように思う。

 新資源として出現したオブジェクトがどの程度あるかは分からないが、それらを十分にまかなえるだけの流れのラインが、存在しているように見えた。


「レベルが上がって、出来ることが増えたみたいだね。このスキル、どうやら龍脈の流れそれ自体にも、干渉できるみたいだ」

「てことは、新しい流れをマスターが勝手に作れるですか?」

「場合によっては」

「それはいーですね! そんなら、ここの源泉を山のてっぺんまでひっぱるです! そしたら、こんな地下生活とはおさらばです!」

「おねーちゃん。だからそれはリスクがあるんですってば。拠点の傍に龍脈を引いたら、それだけ覗き見の危険性が高まりますよ」

「しまったです!」


 まあ、セキュリティが確保できるならばそれもアリかも知れない。ハルは考慮にいれておく。

 だがどのみち、まだそこまでの力はないのでただの妄想だ。今できるのは、特定の箇所に流れを集中させることくらい。


 ハルは能力の説明もかねて、ここの地下にある資源、『龍脈結晶』に向けてエネルギーの流れを集中する。

 すると、結晶の生成スピードが何倍にも増し、比較にならぬ速度で再収穫が可能なまでに回復していった。


「すげーです! これで、結晶採り放題です!」

「驚くのはまだ早いよ白銀。更に、あっちの果実の方にも、こうして流れを調整すると……」

「おお! 離れた資源ポイントも成長したです!」

「マスター。もしや、収穫もできるのですか?」

「いや、今のところそれは無理みたいだ。将来に期待だね」

「残念です」

「んー、もしかするとハル君それさ。ガーディアンの設定も拠点に居ながら行える?」

「お気付きになられましたか」


 ユキの指摘通り、大樹のガーディアンの設定も、この場でメニューから調整できる。

 加えてガーディアン用のエネルギーの供給も龍脈から直接行えるので、ハルたちが拠点での作業にかまけているあいだに陥落かんらく、などという悲劇も回避できる。実に楽でいい。


「……となると、支配地どんどん増やしても大丈夫かもね?」

「ああ、かも知れない。ただ、そう考えるのはどうやら僕らだけじゃないみたいでね?」

「なにか見えたですか!」

「ああ」


 レベルアップにより、ハルは大樹とは逆、ここより南側のラインにも千里眼のように視線を通すことに成功していた。

 まだこの拠点の近くのみになるが、それでも、興味深いことが判明している。


 どうやら近所のプレイヤーを纏めるリーダーがその先の資源を支配し、次はこちらへと狙いを定めてきているようだ。

 龍脈のラインに沿うように、大規模な軍勢が、この霊峰れいほうを目指して進軍中のようである。

 これは、どうやら初めての拠点防衛、この地での戦いの予感がするのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2024/8/25)

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― 新着の感想 ―
[良い点] そうそう、ハル様は天空から地上を見下ろさなければならないので、地獄の底から漏れるような呻き声を上げながら地下から覗きを続けるなんてことはーーー誰もいなければ地下帝国を築くことも地上を陥落さ…
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