第1239話 直通回線が開通しました
「そんで、ジスちゃんは何を言ってたの?」
「自分でもミントでもない、第三者の仕業だってさ」
「ほーん。イマイチ信じられん……」
「まあね。でも、そのこと自体は事実なんだろうさ」
ただし、他に企みがないとは言い切れない。いや、ほぼ確実に何らかの計画を進行中なのだろう。
しかし今は、それを問いただす前にこのゲームを何とかする方が優先だ。また夜が訪れ、ハルたちの攻略の時間がやってきた。
「うひゃー。あの子、まーだ暗躍頑張っちゃってるんだー。よくへこたれないねぇ」
呆れとも称賛ともつかぬ声を上げたのは、かつて彼女の協力者でもあったヨイヤミ。その計画の準備の遠大さを知っているため、時間を置かずの再起に、その精神力に感心しているらしい。
「私なら、計画叩き潰されたらしばらくは不貞腐れてやる気なくなっちゃう」
「まあ、そこは神様って言われてる存在だしね。精神構造が、人間と違うというか」
「でもまあ、彼女の計画って、準備に時間がかかるから。とりあえず今は気にしなくっていいんじゃないかな?」
「確かに、そんな感じはするね」
「せっかく今日はお兄さんと一緒に遊べるターンなんだし、こっち張り切って行こう!」
現実とは違い二本の足で地面を踏みしめ、はきはきと口を動かして直接喋るヨイヤミ。彼女も勿論、このゲームに参戦している。
エーテル過敏症の患者として何らかの悪影響があるのではないかと危惧されたが、本人の強い希望によって説き伏せられてしまった。
まあ、問題となる(恐らくはミント担当の)夢幻回廊部分はスキップできるようになったので、条件はハルたちと同じはずだ。
「ヨイヤミはマスターと遊びたいなら、寝る時間を合わせりゃいーです」
「そうですよ。おねーちゃんの言う通りです。自堕落な生活を送っていてはいけませんよ」
「う、うるせーちびっこどもー。そんな健康的な生活を送れれば、苦労はしないもん……」
「おめーもチビです! バカにすんなです!」
そして本日のお相手は、小さな白銀と空木の二人。ヨイヤミと三人ではしゃぐ姿が愛らしい。
なお、彼女らは彼女らで、『自分たちには外に仕事がないからこっちに全力で集中する』という宣言を上げていたが、ならばとハルによって、異世界を舞台としたゲーム、『エーテルの夢』のサポートを言い渡された。
その時の、頬に手を当てての叫びのポーズが忘れられない。口は災いのもと。
「マスター。本日はどうしますか? 何か方針がお決まりでしたら、お知らせください」
「です! 白銀たちも、マスターのお手伝いするです!」
「そうだね。僕は、前回の終わりに手に入れたスキルを試してみるんだけど。興味がなかったら、君たちは外で遊んできてもいいよ?」
「いえ、見てるです」
「はい。空木もお供したいです」
「私もー。私もー」
前日のラストに、検証の結果手に入れたスキル<龍脈接続>。それを、今回はここ拠点に戻ってテストをしてみようとハルは思っている。
結局、手に入れた現場であるあの大樹の元では、何をどう弄ろうともスキルに反応は無かった。ならば、龍脈結晶と名の付くアイテムが手に入ったこちらなら、何かしらあるのではないかと、そう予想するハルだ。
ということでハルたちは皆で揃って、地下空洞に直通の縦穴、そこに新設されたエレベータにて地下へと向かう。
水晶の輝くその洞窟に、龍脈結晶の採取地は眠っているのだ。
「……そういえば、ここの防衛は大丈夫なのかしら? あの世界樹もどきの方は、随分と大人数で攻められていたじゃない?」
「こっちはだいじょーぶですよルナおねーちゃん」
「はい。地下深くに存在するという特性上、まずはここまで<掘削>を進めないといけませんから」
大樹に押しかけて直接登るように、単純なルートは辿れないという訳だ。
そもそも地下を掘り進むこと自体に時間がかかるうえ、この地はハルたちの本拠地であり二十四時間体制で警備中。
もしそんな兆候が察知されたのならば、警備の神様が飛んで行って、掘っている後ろから容赦なく撃破してしまうことだろう。
「セレステちゃんの巡回警備も、きいてるみたいだよー。こっちに近付く偵察隊とか、ばしばしぶっ飛ばしてるから! こっち側には警戒してあまり近寄って来ないみたい」
「流石は自宅警備員。きちんと仕事してたんだ」
「それよりお兄さん。遠い方はどうなってるの? 今ごろ、もう落とされてたりしない?」
「それは大丈夫みたいだよ。ほら」
「おお。アラート鳴りっぱ。うざ」
ハルが自分のメニューを開いてヨイヤミに見せると、そこにはひっきりなしに赤文字で通知が入っているのが見えた。
そこには支配地である大樹が他プレイヤーから攻撃を受けたことを知らせる警報で埋められており、かの地の人気ぶりがうかがえる。こちらとは大違いだ。
「やっぱり、直接見えているというのは大きいのですね! こちらも、大きな山が目印ですが、わたくしたちの本拠地を経由しなくてはいけませんし!」
「そうだねアイリ。地下から行くにしても、どっちにせよ心理的ハードルが高い」
「はい! もしかしたら近場にもっと、攻めやすい資源があるのかもですね!」
さて、そんな非常に安泰である龍脈結晶。ハルたちはその巨大な水晶のような鉱石の前にたどり着き、揃ってこれを見上げる。
これ自体には何の効果もなく、ハルがメニューから採取しなければ資源も取れぬただの石。
しかし隠しスキルが出たということは、それだけで終わらぬ何かが存在するはずなのだった。
「ところでハル君。その<龍脈接続>、ワールドレベルはどうなってる?」
「良いところに気付いたねユキ。実はこのスキル、ワールドレベルも完全に初期値、経験値もゼロだよ」
「ほう? ってことはだ。それは今のところは、ハル君だけの独占スキルとゆーわけだ」
「そうなる。『ユニーク』かどうかは、まだ分からないけど」
ハルがスキルを選択肢表示すると、スキルに表示された二つのレベルは経験値ゼロゼロのまま動いていない。
ユニークスキルかどうかまでは分からないが、これは少なくとも、広く普及されているスキルではなさそうだった。
「でもハル君にも使い方分からんと」
「まあ<龍脈接続>なんだから、龍脈に接続するんだろう」
「まんまやないかーいっ」
「まずは、その龍脈とやらを探さないとね」
ハルは手始めに目の前の龍脈結晶を力の限り採取してしまうことを決める。
今までは使用用途も無いということもあり、最低限の採取量に留めていた。しかし、系統樹の果実の場合の反応を見るに、やってみる価値はあると考える。
「おお、結晶がどんどん小っちゃくなっていくです! もうデケー顔すんなってことですね!」
「マスター。これは採りきってしまったら、枯渇したりはしないのですか?」
「大丈夫だよ空木。果実の例だとちょっとしょぼくれたけど、時間が経てばまた実るようだったから」
「そもそもコイツ、龍脈のエネルギーが固まったもんですしー、また固まるってことでしょうねー」
見た目が変わっても、資源ポイントとしての反応は一切変わらない。ハルが容赦なく採取していくと、水晶は徐々に大きさをしぼめてゆき、最後には手のひらサイズの結晶の核を残すのみとなった。
「これで終わりかしら?」
「うん。もう打ち止めだね。ただ、目的としてはここからだ」
「結晶に隠れていた地面から、何か出てきたのです!」
輝く水晶が失われても、周囲を照らす光は失われない。むしろ、その光量を増したようにすら思う。
その光の出どころは水晶のあった地面の亀裂、その奥からだ。揺らめくエネルギーが放出されており、これが龍脈の出口、龍穴なのだろう。
このエネルギーが凝り固まって、じきにまた、収穫可能になるはずだ。
「けど今は、この源泉自体に用がある。<龍脈接続>」
ハルは泉のように湧き出るエネルギーに手を触れると、<龍脈接続>スキルを起動する。
今まで何も反応のなかったスキルだが、ここにきて顕著な反応を見せてきた。当たりのようだ。スキルの経験値バーが、徐々に増加しレベルを上げていく。
そのまま単に経験値が入るだけで、何の効果もないスキルかとも思ったが、スキルを使い続けるにつれ徐々にその効果が判明してくる。
ハルに龍脈のエネルギーが流れこんでくるのと同様に、ハルの体からもまた、龍脈の内部へ向けて、何かの力が流れ出して行っているようだった。
「ハル? 大丈夫かしら? HPやMPが減っているわ?」
「吸いつくされたり、しないのでしょうか!?」
「今のところ、その心配はないみたいだよ。ゆっくりだし、不安になったら回復すればいいさ。それより、見てみてよ」
ハルが自分のメニューを広げて見せると、そこに新たなマップ表示が生まれている。
そのマップには中心の光点を起点にして、徐々に川が流れるように道のような表示が刻まれて行くのであった。
それはきっと、地脈として流れるエネルギーの通り道、『龍脈マップ』とでも呼ぶべき存在。
その龍脈マップは一本の経路だけを集中して激しく枝を伸ばして行っている。通常マップと重ね合わせて見てみれば、それは予想通り、先日の大樹の方角であった。
「どうやら、あの樹もやっぱり龍脈の出口だったみたいだね」
「あれを支配したからかー、あそこに結晶をぶちこんだからー、この地とラインが形成されたんですねー?」
「なるほどねぇ。つまり、お兄さんは今後、この触手の伸びる先を、次々と支配していくってことかな!」
「それはどうかしら? さすがにコストが、かかりすぎるわ?」
「そだねー。ガーディアンが居てくれる土地ばっかじゃないだろうしさ」
そんな風に、他の地脈の出口について思いを馳せる仲間たち。そんな中ハルは、己の意識に流れ込む情報を整理するのに精一杯で、彼女らに応える余裕がなかった。
どうやらこの龍脈に乗り、エネルギー以外にも、様々な情報が流れこんで来ているようだ。
支配した大樹で、ハチのガーディアンが戦う様子を“その目で眺めつつ”、ハルはそれらの情報について整理していくのであった。




