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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1232話 二つ目の資源争奪戦へ

 小規模な土石流のようになりつつ、山肌を滑り降りるハルたち。<水魔法>で波を引き起こしながら、斜面を一気に下って行く。

 さすがにこの人間技ではない所業にルナの平衡へいこう感覚は耐えられず、今はハルが抱きかかえるように、いわゆるお姫様だっこで対処している。


「これは、安全装置なしにジェットコースターに乗るようなものね? 少し、怖ろしいわ?」

「大丈夫だよルナちゃん! シートベルト無しで乗っても、案外なんとかなるのは実証済みだから!」

「あなたたち今度は何をして遊んでいたのかしら……?」


 自然ナチュラルに複数形にされてしまったが、事実なので何も言い返せないハルである。ちなみにユキも一緒だ。

 遊園地制作ゲームにて強引に制限を外し、絶叫マシンを安全装置なしで落ちずに乗り切る遊びは、なかなか面白かった。


 そんな『訓練』の成果もあり、ハルもソフィーも、この命知らずな強行策でも問題なしにバランスを維持し続けられている。


「うおぉ~。ソフィーさんー、離さないでくださいー」

「安心して! カナちゃんは私が助ける! その代わり両手がふさがっちゃうから、攻撃はカナちゃんがお願いね!」

「お任せですよー」

「なにを遊んでいるかカナリーちゃん……」


 ハルたちの後ろではカナリーが、ソフィーに肩車をしてもらっていた。

 ……ソフィーは更にバランスを維持するのが難しくなっているはずだが、何の問題もなく余裕の表情だ。物足りなくて、縛りプレイでもしているのだろうか?


「……これは、せっかくハルに抱きついているというのに、ふざけている余裕もないわね」

「ルナ、平気? 一度戻ろうか?」

「いいえ、問題ないわ? 私が居なくては、広範囲の<探索>に支障が出るでしょう? すぐに、ハルにいたずらする余裕を取り戻してみせるわ?」

「うん。がんばれルナ」


 余裕が出たなら、マップに集中して欲しいところだが、今は言うまい。ルナの為にも、高速かつもっと安定した移動手段の確保が急務になるだろう。


「安心して大丈夫ですよ、ルナ様。私ジェードが先頭に立ち、後ろの皆様をお守りしましょう」

「お前も戦闘系じゃないじゃないか。まあ、仮にも神だから任せるけどさ」


 ハルとルナを中心として、後ろがソフィーとカナリー、そしていかだの先頭はジェード先生が務めていた。

 彼は実に器用に、波が砕いて飛ばしてくる小石などの飛来物を、手にした棒で弾き飛ばしてくれている。頭脳派に見えて、このあたりは流石の神であった。


「しかしお前、なんだいその格好は……?」

「いいでしょう? 私の信徒ファンが、色々と似合う衣装をデザインしてくれるのです。おかげで服装に悩まずに済みますよ。はっはっは」

「そのスタイルになるかはもう少し悩め」


 そんなジェードの格好は、何故か上半身をさらけ出した水着スタイルに装備変更されていた。

 いつもは長い髪の毛を短く纏め、眼鏡の代わりにサングラス。この神、ノリノリである。


「……迂闊うかつだったわ? 私も、水着を用意しておくべきだったわね? そうすれば、直に素肌でハルと密着できたのに」

「ほら、ジェードのせいでルナが妙なことを」

「いいじゃありませんか。ルナ様も、余裕が出てきたようで」

「これはサーフィンだったんだね! あっ、でも、山を下りきったらさすがに減速しちゃうかー」

「ご安心をソフィー様。進行方向には樹海じゅかいが広がっていますので、今度は木々の間をすり抜けるスリルが味わえます」

「おお!」

「さすがにそこは先に前方を切り開きながら行くよー?」


 ソフィーには悪いが、そもそもこの『サーフボード』は幅広だ。みっしりと詰まった樹海の間をすり抜けるのは大変だし効率が悪い。ルナの三半規管さんはんきかんも心配だ。

 樹海に突入したハルは、前方を<水魔法>同様に新たに覚えた<火魔法>で攻撃し焼き払い、波の通り道を作って見せた。


「道を作りながら行く。ジェード、飛来物の排除を頼む」

「かしこまりました。なんだかミニゲームみたいでワクワクしますね」

「パーフェクト以外許されないぞ?」

「ええ。問題なしです。もっとも、破壊された木はアイテム扱いのようで、アイテム欄に収納するだけで簡単に済んでしまうので拍子抜けですが……」


 せっかくの棒を振るう機会もあまりなく、ジェードは退屈そうだ。

 次々と飛んで来る木々などの破壊されたアイテムは、すぐに彼の所持数制限を満たしてしまうが、どうやら裏でカナリーに次々とアイテムを受け渡して処理しているようだ。

 カナリーはそれを最後尾から捨ててゆき、アイテム欄の詰まりを強引に解消している。


 少々もったいなく思うが、例えユキが居てもこのペースで増える素材の処理は不可能だ。今は移動速度優先で目をつぶろう。

 代わりといっては何だがハルの方は、普段は使用用途の無いMPを次々に使えて満足顔である。


「移動するだけでレベリング。なかなか、良い方法じゃあないか」

「……そうかしら?」

「いけませんよハル君。減点です。移動でレベリングをするなら、素直に<疾走>など移動系のスキルを使う方が効率がいいでしょう」

「たわごとに真剣に返すなジェード先生。しかもその格好で」


 平地に入り多少減速し、ルナも慣れてきたところで雑談しつつの移動に入る。あとは、このまま波乗りで疾走するのみだ。

 燃料たるMP回復アイテムも、ユキに潤沢じゅんたくに用意してもらった。


 森を抜けて障害物の無くなったハルたちを、阻む物はもう何もない。

 ハルは更に加速をかけると、ルナを抱きかかえながらの地上サーフィンを堪能していくのであった。





「ハル様。そろそろサーフボードの耐久値が危ないようですね」

「サーフボードというよりは石膏せっこうボードだけどね」

「よし! みんなでジャンプして脱出だー!」


 ハルが魔法の波を解除すると、それに合わせて乗員が揃ってジャンプし離脱する。ボードだけがそのまま押し流されてゆき、しばらく先の地面に衝突してその寿命を終えた。


「では、ここらで小休止といたしましょうか」

「だってさ。ルナ、降ろすよ?」

「いやよ」

「いちゃいちゃですねー。まだまだ、ハルさんを堪能し足りなさそうですねー」

「おお! らぶらぶだ!」

「……堪能している余裕なんてなかったわ? ……それに、降りたら何だが立てない気がして」

「やはりこの移動方法は、少々強引すぎたかな?」


 残念ながらそれにツッコんでくれる常識人は、このメンバーの中にはいなかった。いつもはその筆頭ひっとうのルナもハルに抱きつきながら、調子を整えるのに必死だ。

 ユキが居れば彼女は余裕なので、愉快にツッコんでくれたのだろうけれど、残念ながらお留守番である。


「椅子を出しましょうか。どうぞ、ルナ様」

「ええ、ありがとう。どうして持っているのかはともかく……」

「商品です」


 ユキの作った<建築>アイテムを、他プレイヤーに売る商売もしているジェードだ。家具や<建築>資材なども、案外需要が大きいらしい。


「僕は、拠点の整備をずっとやっていたから、そうした他プレイヤーとはあまり交流してないけど、今後はそうもいかないだろうね」

「ですねー。レア資源を確保してしまったので、特に敵対が今後増えるはずですよー?」

「ぶった切っちゃえ!」

「だね。しかも二個目を確保するとなれば、その際に戦闘になるのも必至ひっしだ」

「そんな二個目だけれど、ここまでマップにはいっさい引っかからなかったわね?」


 初回が拠点の直下にあったので、探す苦労とは無縁であったが、どうやら追加資源というのはそうそう配置されている物ではないらしい。

 今は岩が切り立つような荒野に家具を配置し休憩するハルたちは、既に拠点の霊峰れいほうからはかなりの距離を移動してきた。


 その道中、様々なタイプのエリアをまたいで来たが、その中に新資源は眠ってはいないようだった。

 どうやら、一つのエリアに対して一つの資源を配置、といった分かりやすい追加でもないようである。


「……となると、私たちの拠点のように、何か分かりやすい目印があるのかも知れないわね?」

「うんうん! 例えばここだと、大地の裂け目がこう『ぐばぁーっ!』って広がってて、その最下部にミスリルが埋まってるとか?」

「ミスリルというのは、こういった場所にあるの?」

「わかんない!」

「ここには化石でも埋まってそうだね」


 例えば竜の骨などが配置されていて、それが秘薬の材料になったり、ドラゴン召喚の触媒しょくばいになったりする。そんな事もありそうだ。

 しかし、ルナの<探索>によれば、龍脈結晶のような反応は皆無かいむ。もちろん各種資源はレーダーに引っかかるが、それら全てを掘っている余裕などない。


 目指すべきは、先着で支配できる新資源のみ。


「しかし、目立つオブジェクトという可能性は高いかも知れませんね。ここからはそれを基準に、調査を進めてみませんか?」

「ありそうですねー。もしくは、人がいっぱい集まっている場所でしょうかー」

「みんな欲しがってるもんね! 特に、争ってる場所を見つけるのがよさそう!」

「どちらにせよ、私の役目ね? <遠見>も、<危険感知>もぴったりだわ?」


 ルナがマップを大きく開き、<危険感知>スキルに集中する。このスキルは、マップの描画エリアを超えて、危険信号をキャッチすることが可能になるのだ。

 ただし、あくまで相応の危険があった時のみ。何でもかんでも、遠距離からサーチできるといった便利スキルではない。


 しかし、そんな<危険感知>スキルに、今回は反応があったようである。


「……見えたわ? ここから、進路を少し西の方へとずらした辺りで、大規模な戦闘が発生しているみたいよ?」

「薄い赤のマーカーが密集してるね!」

「ずいぶん離れた位置まで見えるんですねー? 本来ならば、そうやって戦争している方向を避けるスキルなんでしょうねー」


 ぼんやりと薄く、赤の光点がマップ外に固まって表示される。その位置は、大規模な戦闘があって『危険』だとスキルは告げているのだろう。

 逆に言えば、そこには戦闘を起こすだけの理由が何か存在する。そういった読み解き方も可能であった。


「あとは<遠見>だけど、これは千里眼じゃないの。目をよくするだけのスキル、望遠鏡のようなものよ? ここからじゃ、見えないわね?」

「この荒野に隆起した岩が、遮蔽しゃへいとなっているようですね。どこか、高い位置にでも登りますか?」

「それよりも、もっといい方法があるわ? ハル、抱きなさい」

「抱いちゃうんだ!」

「抱いちゃいますねー」

「ベッドもご用意しましょうか?」

「……黙ってろ君たち。じゃあ、こちらへお姫様、お手を拝借」

「苦しゅうないわ?」


 ハルは先ほどと同様に、ルナをお姫様だっこして抱き上げる。

 ボードに乗っての移動の再開ではない。今度は遮蔽を飛び越える、上方への跳躍だ。

 ハルは<水魔法>を間欠泉かんけつせんのように足元から吹き上がらせ、頂点に達した時点で<風魔法>によりその高度を維持していく。


「どう、ルナ? 見える?」

「……ぼんやりと。はっきりは見えないわね?」

「なら、これでどうかな?」


 ハルは追加で<水魔法>を発動。それこそ望遠鏡のレンズのように、凹凸おうとつを作り出し<遠見>を補助する。

 その合わせ技にて、ついに目標地点の様子がルナの目に明らかになった。


「……あれは、以前私たちが作った世界樹かしら? 似たような、大きな木が生えているようね?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハルたちの世界樹まであるということはここはメンテ中であるはずの水晶夢のマップが流用されていることは確定的に明らかですねー。つまり、アメジストのヤローひっそりと大幅アップデートをかけて第二シ…
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