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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1230話 地球を貫く空洞に飛び込んだ時の話

 ハルたちは地上に(と言っても高山の山頂だが)戻ると位置を変えて、もう一か所の地下への入り口を掘るために準備を整える。

 アイリとケイオスは得意げな顔でツルハシを肩に担ぎ、カナリーも剣を構える。ユキとルナは装備を持たないが、彼女らはある意味で掘り担当よりも仕事が重要だ。


 そしてハルは、魔法で足元を掘削くっさくするために、脳内で詳細なシミュレートを重ねていた。

 ここは既に屋内、家が<建築>された後の位置なので、はたから見ているとどうにも奇妙な光景だ。


「よっしゃ! いつでもいいぜ! ハル、ここの床、壊して問題ねーんだな?」

「ああ。どのみち仮拠点というか、あとで改めて建て直すしね。ここは後で、エレベーターホールになる予定さ」


 最終的に鉱山への入り口は全て拠点の内部に集約される。そうすることで、この山で採れる資源は全てハルたちの独占となる予定だ。

 この山に新資源が配置された今、その独占計画は更なる有益性をハルたちにもたらすだろう。


「でもよハル! なんで今の今まで、一直線に真下ましたへ突き進んで行かなかったんだ? やるだろ、普通」

「まあ、色々と理由はあるけどね。やってみれば分かるさ」

「ですね! さっそく、始めましょう!」

「そうだねアイリ。待たせてすまない」


 もう待ちきれないとツルハシを素振りするアイリのためにも、直下掘削ボーリング作戦の開始を告げるハル。

 家の床板と基礎をはがし、いざ採掘スタートだ。


「うおおおおおおっ! やるぜやるぜ! このまま一気に、地の果てまで突き抜けるぜ!」

「突き抜けると、どうなるのでしょう!」

「そりゃアレだよアイリちゃん。地面の設定がなくなって、そのまま虚空こくうへと無限に落ち続ける」

「なんと! こわいですー……」

「まあ普通は、『世界の壁』で阻まれているわよね、下も」

「“私たちのゲーム”でやったら、どうなるんでしょうねー?」


 カナリーたちのゲーム、すなわち本物の異世界だ。当然ながら本物の惑星上を舞台にしているために、見えない壁に阻まれるようなことはない。

 だが、魔力圏内でしかプレイヤーは活動できない為に、地下であっても実質そこが『世界の果て』だ。


「やった奴居るみたいだぜ? どこのゲームでも居るよな、酔狂すいきょうな奴は」

「そうなのね? ハルくらいにしか不可能かと思っていたわ?」

「まあ、もう二年も経ってっからな! 結局ある程度で進めなくなって、その深さが世界の果てってことになったみたいだ! 穴はその後、国の預かりになったみたいだな」


 ツルハシを振るいながら、情報通のケイオスが解説してくれる。

 実際は魔力は球形に大地を覆っているので、掘る場所によっては到達可能深度に差が出てくる。しかし、プレイヤーには知らぬ事情。

 調査班は世界の果てにたどり着いたことで満足し、その後は穴掘りも禁止された。マップを穴だらけにされても困る。


「……で、お前ならその先も行けるのかハル?」

「まあね。行く意味ないけど」

「……どこまで行ける?」

「うーん。どこまで、かあ。それこそやってみないと分からないけど、正直これ以上惑星に負担をかけるのも嫌だからなあ……」


 夢世界の協力者として参加し、神様たちの裏事情も知ったケイオスが興味深げにハルに尋ねる。

 確かに、本気で魔法を使ったハルがどこまで地面を掘り進められるかという話には興味はあるが、実際に行うことはないだろう。


「だってよぉ、気になるだろ? 星の逆側まで通じるトンネルを掘ったら、ジャンプして一直線に反対に行けるのか!」

「そんなことかい……」

「小学生かバカケイオス!」


 まあ、小児しょうに的な考え方ではあるが、確かに面白い話だ。

 マントルもコアも突き抜けて、一本道で反対側の地表に出れば、それが最短のルートであるのは間違いない。


 ……難易度とコスト面で非現実的である以前に、<転移>があるので行う意味は全くないのだが。


「ですが、たしかに興味深いです。ぴょーんて飛び込んだら、ぽーんて向こうに飛び出るのでしょうか?」

「そう直感通りには行かないと思うわよアイリちゃん? 中心に向けて引き寄せられる力がかかるから、実際は振り子みたいにトンネルを行ったり来たりするだけだと思うわ?」

「なんと! 向こう側には、出られないのですね!」

「その前にそんな距離に対して誤差無し完璧な垂直で飛び込むの無理だから、途中で壁に激突して死ぬっしょ」

「夢が無いぞー!!」


 ルナとユキによる非常に現実的な解説を突きつけられ、小学生のようなケイオスの夢は打ち砕かれるのだった。


 そんな雑談をしている間にも直下への掘削は続いていくが、どうにも進みが悪い。

 最初は満面の笑みだったケイオスも、次第にその表情に疑問を募らせていく。そろそろ、この作業の大変さにも気付いてきたようだ。


「……なあ? もしかしてこの直下掘り、意外と大変? だからやってなかったのか?」

「そらそーよ。ケイオス、気付くの遅いぞー」

「もっとこう、ガンガンゴンゴン掘れると思っていたのにーっ!」

「掘るだけならね」


 ハルの<土魔法>に、皆の攻撃やツルハシでの<採取>。ケイオスの直球の<掘削>スキルで穴掘りは進むが、それは一気に落ちるようには決して進まない。

 加えて、このゲームでは穴を掘ればそれだけ資源が飛び出してくる。


 一部は破壊され消滅するが、アイテムとして残った分は掘った穴の中を埋めて、次第に足の踏み場も無くなって行く。

 ハルたちはそれを、必死に回収しスペースを空けることに腐心ふしんしていった。


「これは、俺もカナリー様のように武器に持ち替えて破壊した方が良いのか!?」

「ダメですー。ケイオスさんの<掘削>が一番の掘り頭なんですからー」

「私が<収納>するから、どんどん掘ってちょうだいな?」

「うーむ……、これは確かに、今までやってこなかったのも納得……」


 肉体性能は高いこのゲームだが、それでも思うようには掘り進められないだろう。特に個人ソロでは。

 ハルたちは皆で手分けして、掘り、保管し、加工して、土砂を端から処理して行った。特に、中核を成すのは加工、ユキの力である。


「どんどん渡して良いよールナちー。ここが腕の見せどころじゃ! 渡されたリソースをきっちり使い切るように、一手も遅れることなく<鍛冶>して<錬金>して<調合>しちゃる! ほいっ! ほいっ!」

「……相変わらず凄いわねユキ。あなたが生産職担当になった理由が分かったわ?」

「想像するだけで目が回りそうですー……!」

「オレも負けてられっか! 器用万能のケイオス様のマルチタスクを見よ!」

「お前は全力で<掘削>だけしてろ器用貧乏ケイオス!」


 そんな風に騒がしく、楽しく愉快に、ハルたちのトンネル計画は進行して行くのであった。





 途中、合流した横穴の坑道に溜まった資材を全力で流し込んで押し付けたり、押し付ける坑道が無くなったらくぼみを横に作ってぎゅうぎゅうに詰め込んだり、纏めた資材をハルの攻撃魔法の連打にて全力で打ち上げたりして、ハルたちは何とか生き埋めを回避していった。


 ちなみに、打ち上げた資材は上で待機してくれた神様がアイテム欄にキャッチしてくれる。神使いが荒くて申し訳ない。


「ふう。初めてMPの有効活用が出来た気がする」

「お、おっかねー……、届かなかったら、頭上に資材が……」

「その時は、消滅するまでお手玉するさ」


 そうしてついに、ハルたちはルナの<探索>が示すポイントまで地下に掘り進み、あとは左右への位置調整を残すのみとなった。

 ここまで来ればあとはもう終わったようなもの。ラストスパートに、皆の目にも気合が戻る。


「……ところでよ。これ、どうやって戻るんだ?」

「お気付きになられましたか」

「後先考えないケイオスらしいねぇ。だから後回しにしてたってのもある」

「まさか戻れないのか!? いや、一回死ねばいいのか」

「でも、死んだら起きてしまうのでしょう? おいそれと使えないわ?」

「そうだった!」


 昨今のゲームは、死亡ペナルティが薄い、またはほぼ無い物が多い。それを利用して、このような地下の強行調査だって容易だ。

 このゲームも『ペナルティ』として明確化されているものは存在しないが、死ねばその時点で目覚めてしまうという部分のデメリットが非常に重い。その時点で、次の挑戦はまた明日になる。


「まあ安心しなよケイオス。さっきの荷物みたいに、上まで打ち上げてあげるから」

「良かったじゃん。ちょい短いけど、地球トンネルの気分味わえるよ」

「よかないわ!」


 そんなくだらない事を言い合いながら、ハルたちは資源に向けて掘り進む。

 少し掘った先に、地下の空洞が口をあけていたので、ここからはもう土砂の処理を気にする必要は無さそうだった。


「ふわぁ! 綺麗な所ですねー……!」

「ですねー。輝いていますねー?」

「神秘的ね?」


 壁を砕いた先は、かなりの光量に照らされた空間。ハルは暗闇を照らしていた<光魔法>を解除して、皆と共に地下の大空洞へと踏み入れて行った。


 どうやら壁から飛び出している水晶のような鉱石が光を放っているようで、一同はしばしこの神秘的な光景に目を奪われる。

 このゲーム、地上どころか地下まできっちり観光地として見栄え良く整備されているようだった。


 その中でも、ひときわ明るく輝く場所へと、ハルたちは吸い寄せられるようにして歩み近付いて行く。

 進むほどに輝きは強くなり、その光源の正体が判明する。

 それは、壁や天井の水晶をより巨大化した物。二階建ての家よりも大きなこの大結晶こそが、新たに配置された特別な資源であるようだった。


「<鑑定>します!」

「頼んだよアイリ」

「はい! ……むむむ、出ました! これはどうやら、<龍脈結晶りゅうみゃくけっしょう>というアイテムのようです!」

「龍脈……」


 龍脈、大地を流れる地脈のエネルギーとして、ファンタジー世界では定番の物だ。

 アイリの解説によれば、このアイテムは龍脈から噴き出したエネルギーが結晶化し、その莫大な力を内に秘めた神聖なアイテムであるらしい。


 思ったよりも凄そうな資源が配置されたことに沸くハルたち。運よく拠点の地下に、有用な資源が埋まっていたようだ。


「しかし、何に使うんだろうねこれ? ユキ?」

「うーんにゃ。まー当然だけど、『龍脈結晶』なんて使うレシピは存在しませーん」

「まあ、そうだよね」

「スキルレベル上げたら出てくるのかなー。それとも、結晶を所持したら出てくるんかしら」

「やってみようか。アイリ、頼んだよ」

「はい! <採取>しますね!」


 アイリがツルハシを叩きつけるも、龍脈結晶はびくともしない。アイリも首をかしげる様子を見るに、どうやら<採取>は出来なかったようだ。


「採れませんでした! その代わり、メッセージが出てきました! 『龍脈結晶を支配しますか?』です!」

「なるほど」

「おー、そういうタイプかぁー」

「先着で触った人か。ちょっと荒れそうだな! アイリちゃん、やっちゃっていいぜ!」

「わ、わたくしでは不安ですね……! ハルさん、代わっていただいても、よろしいでしょうか!」

「うん。構わないよ。ケイオスもいい?」

「問題ないぜ!」


 アイリから譲り受けるように、彼女と交代し結晶にハルは触れる。メッセージに『はい』を選ぶと、無事にハルは特殊な資源の支配者となったようだ。

 これでメニューから、龍脈結晶の採取がハルにのみ可能となるらしい。まさに、独占である。


「つまりこれで、ハルはこの地下採掘場で永遠に地下労働に励むことになった訳だな! だっはっは!」

「笑えんわ! どんな刑務作業だ!」


 さて、この結晶、果たしてどのような使い道があるのだろうか?

 願わくば、非常に有用な効果で、ハルが資源確保の為にこの場に監禁、なんて事態にならないよう、祈るばかりである。

※誤字修正を行いました。改行忘れを修正しました。改行は誤字報告できない、初めて知りました! 今後も気を付けないといけませんね。報告ありがとうございました。


 追加の修正を行いました。「魔力圏外」→「魔力圏内」。意味が真逆になってしまっており申し訳ありません。誤字報告ありがとうございました。(2025/4/4)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一般人であれば果て無き直下掘りの穴に落ちようものなら地獄への片道超特級切符間違いなしですが、ゲーム内ではどうなんでしょうねー? きちんと周囲を固めておかなければ生き埋め待ったなしでしょうが…
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