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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1228話 旧友を雇おう

 さて、外部の協力を得るというのは良いとしても、問題となるのが、その依頼をするのに何処で確認を取ればいいかということだ。

 現実リアルで行うにしても、彼らは記憶を持ち帰ってはいないし、ゲーム内で行うにしても、現在は特定のプレイヤーとの接触方法が無いからだ。


事後承諾じごしょうだくでよくない? 文句言わないっしょ。ケイオスなら」

「言わないとは思うけど。だからって迷惑かけてもいいかって言ったらまた別でしょ」

「真面目だなーハル君は」

「事がコトだからね。これがただのゲームなら、まあ事後承諾で引っ張り込んだかも」

「だよね。私だってそうする」


 別にこれは、ケイオスを軽んじているという訳ではなく、それだけの信頼関係が互いにあるということなのである。

 彼ならば、彼らならば、“そんなこと”よりも面白そうな新作ゲームの方が重要だと、そう即答するに違いないと。


 そう、ハルが真っ先に協力者として脳裏のうりに描いた人物は、ゲーム仲間の『顔☆素』ことケイオス。『フラワリングドリーム』では、魔王ケイオスとしてトップを取り、莫大な賞金を手にした人物だ。


「あいつそもそも今なにしてんの?」

「賞金が入ったからね。しばらく豪遊するってさ」

「なーんか一気に使い切っちゃいそ。あの程度の額すぐだよ?」

「あり得る」


 莫大な賞金をあの程度扱いするくらいには、ユキも実はお金持ちだ。ぽんと家まで買っている。

 ケイオスは家に興味はなさそうではあるが、無計画に使えば案外すぐに無くなってしまうのは、その通りなのだろう。


「まあそんな感じなんで、もちろん生活リズムは乱れっぱなしだろう」

「今回の作戦には適任だねー」


 それに、相手は誰だっていいという訳ではない。出来るならば、ハルたちの秘密を知っている者、または教えても構わない者がいい。

 無事に優勝することも出来たことだし、ケイオスならば秘密を伝えても今なら邪魔にはなるまい。


「でもさでもさ? アイツって、リアルは秘密にしたがってたじゃん? そこはどーすん? 場合によってはさ、リアルバレするよ今回のゲーム」

「僕に資産運用の委託する相談をしておいて、今さらだとは思うけどねえ……」


 個人情報を伝えずに、お金のやり取りなど出来ないのである。


「まあそこは、なんとかなるでしょ」

「なして? 根拠は?」

「うん。だって、リアルで緑髪の人間なんてそうそう居ないでしょ」

「おお、情報屋か! 確かに」


 あの奇声を上げて疾走する緑髪の男。普通に考えて、現実リアルでも緑髪だということは考えにくい。

 ……いや、まあ、絶対に無いとは、ハルにも言い切れないのだが。


「それに僕らの方でも、ルナの見た目が電脳空間のキャラ準拠じゅんきょだったしね」

「あーそうだね。『お嬢ちゃん』って言われてた」


 ルナはネットでは、多少背の低いキャラを使っている。ちなみにこだわりがあるのか胸のサイズはそのままである。


 以上の事から、夢世界の見た目は現実準拠ではなく、ネット上で使うボディ、電脳体アバター準拠であるとハルは推察していた。

 ハルたちはほぼ現実の肉体そのままなので、少々分かりにくいが。


「エメ! そのあたりはどう?」

「えー、わかんないっすよー! だってわたし、まだあっち見てないんすから! ……でも九割がた、ハル様のご想像通りのはずですよ? 特に、わたしのスキッププログラムを使えば、“扉を開けた時の姿”でほぼ固定されるはずっすね」

「スキップは、どうするかなあ……」

「しないんすか? 毎回、夢の回廊を通るのは面倒っすよ? 時間の無駄っす。ご同行するにしても、わたしはやりたくないっす」


 夢の回廊。個人の創造した独自の特色を持つ夢世界のことだ。その中で特殊な『鍵』を見つけ出すことで、改めてゲームに参加できる。

 しかし、そのある種の『儀式』には時間がかかり、特に夢の主はそれこそ夢うつつの精神状態。ログインのたびに毎回そうしていては、素面シラフの同行者はそこそこストレスだろう。


「……まあいいか。とりあえず、連絡入れてみよう」

「なんて?」

「『今日は夜通しで遊ぶから今から寝ておけ』、と」

「わお。ハル君強引~。男友達相手だとハル君って強気だよねぇ」

「まるで僕が女の子相手だと弱気みたいな言い方はやめてくれ……」


 ……事実、だろうか? 少々不安になるハルだったが、今はそんなことを気にしている時ではない。

 努めて気にしないようにしつつ、ケイオスから了解の返事を受け取ったハルは、エメにケイオスの脳に向けて、ログインショートカットプログラムを走らせる準備をさせるハルだった。





「うおっ!? ここは!? オレ様の秘密基地は何処へーっ!?」

「なんだ既プレイ者かケイオス? 残念、君の秘密基地は引き払うことになった。今日からここが君の拠点さ」

「ハルゥ!? どういうことだハルーーッ!!」

「……すまない、僕にも分からない。拠点に愛着があったなら悪いことした」

「うちらに引っ張られてこっち来ちゃったんだね。人数差かな?」

「おお、ユキちゃんも居んのか。おいすー」

「おいっす」

「こんにちは! お久しぶり、になるのでしょうか!」

「彼は『ローズ様』の時も私たちのことを知っていたのではなくて?」

「おお。王女様にルナちゃんも。こんにちは」


 説明もなしにとりあえず寝かしつけたケイオスだが、無事に、共に夢世界へとログインできたようだ。

 彼のボディも、問題なく男性体、アイリたちにも馴染みのある異世界で使っていたタイプのボディとなっている。気のいい兄ちゃん、といった大柄な身体だ。


「今日はただのテストだ。まあ、そういうことで、そういう訳だから今後僕が『寝ろ』と言ったらすぐに寝ること」

「横暴すぎるぞハルぅぅ! ……で、すまん、ドユコト、ドユワケ?」

「ハルさんが、俺様系なのです!」

「というよりも、ただの語彙ごいが残念な人よね……」

「割と付き合い長いからねー」


 ついつい関係性に甘えて説明を省いてしまうのだった。


 ともかく、ケイオスからは困惑はあるが不満の様子は出ていない。少し心配であったが、これなら時間的に都合がつくなら協力をしてくれると思われる。

 既にこの世界でプレイ中だったらしい彼だが、特に前拠点にもそこまで執着がなかったようで、ここから心機一転して再スタートしてくれるようだ。


 そんな風に意外に素直というか、話がスムーズなのには理由があった。


「まあオレも、出来ればハルに話が聞きたいと思ってたからな。楽しいっちゃ楽しいが、どう考えても異常だろ? 正直、不安だったぜ」

「そうだよね、そりゃ」

「かといってフレンド検索もねーしよー。起きたらすぐ忘れるしで、どうしようもなかったから助かった!」

「助けられて何よりだよ」

「ところでこのメンバーは、ローズ様ご一行か?」

「そうだけど……、その話はやめない……?」

「だははは! 珍しく黒歴史かぁ? まあ……、オレも魔王ケイオスの話掘り下げられても困るし、やめっか……」

「どもっす。こっちでは初めましてっすかね。エメと言いますケイオス様。エメ(イチゴ)っす」

「おう!」


 二種のゲームで付き合いのあるハルたちだ。特に問題もなく、スムーズに互いの確認と紹介を終える。



 そうして次は、ハルの仲間を今のように、ケイオスと同期する形で連れてきて、一緒にプレイして欲しいということを依頼するハル。

 当然ケイオスは、そのどうにも良く分からない依頼にしきりに首を傾げていたが、それでも最後には、それら全てを飲み込んで快く依頼を引き受けてくれることになった。


「分かったぜ! ハルの仲間なら、良い奴らに違いないしな! ……しかしよぉ、となるとオレらは、一緒にやれねーのか?」

「どしたケイオス? 寂しーんか? ん?」

「さささささ寂しくねーし! ちょっと不安な? だけだし!」

「不安ではあるんかーいっ。情けないぞーケイオス」

「くっそう。ユキちゃんはいいよなー。ハル組だもんなー。いいもーん、オレだって新しい友達作って、楽しくやるもーん」

「腐るなケイオス。時間が被れば、その時は一緒にできるから。それに、当然だけど報酬は出すよ。これは仕事と思って欲しい」

「マジか! よっしゃーっ! 就職先ゲーっと!」

「……君、大金手にしてこれからは遊んで暮らすんじゃなかったの? 仕事に喜んでていいのか?」

「いや、最初のうちはそう思ってたけど、いざ実践すると、なーんか不安で……」


 そういうものだろうか? 働きたくないと言ったり、働かなくて済むようになったら働きたいと言ったり、奇妙なものである。


 まあ、そんな訳で、変な話ではあるが『指定の時間に寝る依頼』として、無事にケイオスは請け負ってくれた。

 これで条件は一つクリアだ。あとは、交代要員として、少なくとも二名は協力者を揃えたいハル。


 最低でもケイオスが居れば二交代制で回すことは出来るのだが、それだと同時ログインの神様の数が多くなりすぎて、異世界運営の人員に穴が空きすぎる。

 加えて、それだと絶対に、ケイオスとハルが同時に遊ぶことは出来ないだろう。『遊びじゃない』とはいえど、出来ればハルも楽しみたい。


「サキュラとか、ひどぅんも呼ぶか? どーせ暇してんだろ」

「それもいいけど、とりあえず別の方面の知り合いからあたってみるよ。色々秘密があって、それを既に知ってる人の方が都合が良いってのがあるからさ」

「ほー。大変だな。って! それはあれか!? 守秘義務か!? オレも契約書を書くのか!?」

「いや、そんなきっちりする気はないよ」

「え、なんだ、書かねーの?」

「書きたかったのか……」


 変なことをしたがる奴である。

 そうして、しばらくケイオスと共に遊んで、ハルたちはそのままログアウトした。

 彼に語ったように、次は神様の事について知っている、あるいは近付いている者から当たって行くのがいいだろう。


 ハルはその対象について、慎重に脳内にピックアップしていくのであった。





《ハルぅぅぅぅ!! 記憶が、記憶があるんだがぁ!?》


 ログアウトの直後、ケイオスから非常にやかましい通信が入ったのは、まあハルの予想の範疇だ。

 エメのショートカットを使うと、どうやら記憶は起きても残ったままのようである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハルは男友達相手だと玩具にして遊ぶ傾向があるけれど、女の子相手だとおもちゃにされて遊ばれるために強気に出られないという可能性がありそうですなぁ。……もしや、男友達が普段一緒に行動していない…
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