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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1221話 悩ましい二つの指標

 そうして女の子たちはユキを先頭に、下山する道を見つけて山を駆け降りて行った。

 とりあえず、モンスターを発見し初期レベルを卒業したいらしい。


 そうして各々(おのおの)獲物を見つけ、無事にレベルが上がったところで頂上の平地へと戻って来る。

 皆でスキルポイントを得られたところで、改めての作戦会議という訳だ。


「うーっし。みんなレベル上がったなー?」

「おーっ!」

「うむっ。私なんてもう、5レベルまで上ってしまったよ!」

「セレステは独走して獲物を独り占めしたからでしょー?」

「ふふん。狩り場を分散したと言ってくれたまえよ!」

「まあ実際、効率化は必須よね? プレイ時間が限られているのだもの?」

「ルナちーも分かってきたねぇ」


 寝ている間もプレイできるという、まさしく『夢のような』ゲームだが、逆に言えば寝ている間しかプレイできないとも言い換えられる。

 他人より長くプレイすることで優位に立つことは出来ず、また他人よりも課金することによって強化を進めることもできない。


「ある意味で、廃人プレイ上等、廃課金プレイ上等だった『フラワリングドリーム』とは、真逆の位置にあるゲームだね」

「唯一の解決策は睡眠時間を増やすこと?」

「それにも限度があるだろうね。それに、起きたらその場で忘れちゃうんだ」

「お昼寝で再びログインしようとは、思いつかないという訳ですね!」

「なかなか都合の良い隠蔽いんぺい策を手に入れたものだねぇ」


 本当である。セレステは、いやカナリーもハルも、いかに異世界の事情を隠しつつ日本に普及させていくかという部分に心血を注いでいるのだ。

 正直言って、この都合の良さは羨ましい。使っていいというなら間違いなく使うだろう。


「またジスちゃんのプレゼントだったりして」

「アメジストが? まあ、やりかねない部分はあるが……」


 言いつつハルもそう思っていた部分はあるのだが、アメジストにこの規模のゲームを手掛ける余力はなかったはず、というのが現状の結論だ。

 今のところは、犯人、ここの運営者は彼女以外の神様であるという推測が優勢のままである。


「考えても仕方がないのでしょう? 今はとりあえず、ゲームを進めることを優先しないかしら?」

「はい! わたくしも、そう思います! 不謹慎かもしれませんが、やっぱり新しいゲームは楽しいです! えへへへ……」

「そうだね。考えることは多々あれど、せっかくならゲームは楽しませてもらおうか」

「うむ! 久々のプレイヤー参加だ、腕がなる!」


 この場で神様について『ああでもないこうでもない』と言っていても決して結論は出ない。まずはゲームを進めて行こう。

 ハルたちはそれぞれのメニューを突き合わせるようにして、寄り集まってその場に座るのだった。


「んで、なに取る? スキル」

「それは当然! 戦闘スキルを、」

「セーレーステー? あなた一人で遊びに来てるんじゃないんですからねー?」

「はは。すまないすまない。もちろん私はハルの剣として、ハルの判断に従うともさ」

「わたくしたちは、チームで最初から協調できるという多大なアドバンテージがありますからね!」

「ですよー? それこそ効率の最たるものですー。一人で冒険用にスキルを完結させなければならない一般プレイヤーとは、そこで差が付きますー」

「確かに、本来不要なスキルも取らなくてはならないのね?」


 今は特に、何かあった際には個人ソロでもなんとか出来るようにと、小さく纏まった構成ビルドにしてしまっている者も多いだろう。

 そんな環境の中においてハルたちだけは、通常のゲームと同様に気心の知れた仲間と示し合わせて、常に同時ログインが可能となっていた。


 それは特化型プレイをしても問題なく互いにフォロー可能であることを示しており、ソロプレイの保険をかけざるを得ない一般プレイヤーより効率面で一歩抜きん出ることをも示している。


「よし。そうと決まればハル。方針を決めてくれたまえよ」

「それなんだけどね。前は結局僕の、『ローズ様』の完全なサポート役に君たちをしちゃってたからね。今度は、そんなの気にせず自由に遊んで欲しいかなって」

「ハルさんは、どうなさるのですか?」

「うん。最後に足りなそうな部分を補ってサポートに回るさ」

「ははっ。無駄なことを考えるなよハル。その結果なんやかやあって、結局また君が最強化して、暴君のごとく無双するのだろうに」

「ですね! セレステ様は、えているのです!」

「はっはっはっは!」

「いやあまり笑えないんだけど……」


 どうあがいても暴君になる運命なのだろうか? 自分は本質的に傲慢ごうまんであると突きつけられることが最近多かったハルだ。その指摘は少々落ち込む。


「まあでもさ、今ここで頭をひねったって方針決めきれないトコもあるよね?」

「そうね? このゲームのスキル、どうにも特殊なようだもの……」


 いつもは一瞬で方針を決めていそうなユキでさえも、まだこうして頭を悩ませている理由がそこにある。ハルも、正直どうすれば正解なのかすぐには見い出せない。

 その原因がこのゲームの中核となるであろう、“二つのスキルレベル”にあるのであった。





「……どうやらこのゲームには、スキルのレベルが二種類あるらしい。一つは当然、自身のスキルレベル、『個人レベル』。きっと鍛えていけば、順当にレベルが上がるんだろう」


 ハルは自分のメニューからまだ薄暗くなったままの未取得スキル、<剣術>を選択して拡大表示する。

 まだスキルポイントを割り振って取得していないので、当然スキルレベルはゼロのままだ。


 ただし、そのスキル詳細欄にはもう一つ、謎のレベル表示が記されている。

 そちらは何故か、ハルがまだ未取得であるにも関わらず、既にレベルが上昇しているのであった。


「そして二種類目が、『ワールドレベル』」

「世界全体の、スキルレベル!」

「……どういう意味なのかしら?」

「そのまんまじゃん? この<剣術>を取った奴らが多ければ多い程、使っている奴らが多ければ多い程、スキルの強さが底上げされてく」

「のようだね! つまり人気のスキルほど、強化がされていくという訳だ!」


 誰もが序盤で取りそうな<剣術>は、それだけ他のスキルよりずっとワールドレベルが高い。

 その影響で、ますます<剣術>を選ぶユーザーも今後増えていくことだろう。


「長い物には巻かれろ、ってやつですねー?」

「でも、そんな仕組みにしていたら、誰もが同じようなスキル構成にしてしまわないかしら?」

「ですね! 不人気スキルはワールドレベルが低いのですから、選んでもあまり力を発揮できません……!」

「そこで重要になってくるんが、その次の『スキル浸食率』なんだろーね」


 スキル欄にはもう一つ、個人レベル、ワールドレベルに次ぐ『スキル浸食率』の表示があった。

 当然、ハルの『剣術』スキル浸食はゼロ%。これもきっと、スキルを覚えて鍛えれば浸食が進んで行くのだろう。


「どー思う? ハル君?」

十中八九じゅっちゅうはっく、これは世界ランキングだ。ぱっと見それを意識させない表示にはしているけど」

「だよねぇ~」

「恐らく浸食率の高いユーザーほど、つまりランキング上位の者ほど、そのスキルの効果を高いレベルで発揮できるに違いない」

「……どうしてそう思うのかしら?」

「ルナも言っていただろう? 何かデメリットが無ければ、皆が人気スキルを選んで終わりだ」


 長い物には巻かれよ、寄らば大樹の陰。定番構成こそが、最も強い。趣味構成を探るなど時間の無駄。

 多くのゲームでも本質的にそうなりがちな部分ではあるが、『使っている者が多ければ多いほど強い』なんて要素が入れば、その結末は決して避けられない。


 であるならば、不人気スキルを積極的に取る理由、取ることによるメリットを、運営である神が考えないはずがない。そう確信するハルなのであった。


「これでもし、その人一人ひとひとりしか取っていないスキルがあったとする。当然、ワールドレベルはまだゼロで弱いスキルだ」

「けど、スキル浸食は一人なんだから100%! 独占で自動的に、そいつが一位だね!」

「そういうことになる。浸食率ボーナスがどの程度か分からないけど、不人気を押し返すだけのインパクトはあるはずさ」

「ふむ、なるほど。流石はハルだね! 伊達に本場でゲーム開発に携わってはいない。素晴らしい読みじゃあないか!」

「おい運営。そこで感心するなよ……」


 現役の運営者であるというのに素知らぬ顔をするセレステは置いておくとして、このシステムはなかなか厄介だ。そして面白い。


 皆が取ればとるだけスキルは底上げされていくが、それだけ自身の取り分は少なくなる。

 隠れたお宝スキルを見つければ一人で独占は出来るものの、皆が育成に協力してくれないぶんいばらの道となる。

 そのバランスを見極めて、丁度いいバランスのスキル選択を出来た者だけが、栄光への道に足を踏み入れることが出来るのだろう。


「……そう聞くと、余計に迷うわね?」

「はい。失敗は、許されないのです……! むむむむ……!」

「まあまあ君たち。そう深刻に考えることはないさ。スキルポイントが無くなったら、レベルを上げればいいだけなのだから!」

脳筋のうきんですねーセレステはー。もう取っちゃったんですかー?」

「うむっ。私にはやはり、<槍術そうじゅつ>は外せないからね」

「あなたこの世で最も槍のスキルが必要ない奴じゃないですかー」


 自前の技術で槍を極めたセレステだ。確かに、彼女ほどスキルによる補助が必要のないプレイヤーなど居ないだろう。


 武器を生成しスキルを使って振り回しているセレステだが、ハルとユキの、彼女と戦ったこともある二人の見立てではその技術は、明らかに当時よりも弱体化して見えた。


「んー。セレちん、スキルオフった方が強いよ絶対。いま私と再戦したら瞬殺。だよねハル君?」

「だろうね。隙だらけだ」

「はっはっは。ポイントの無駄だったという訳だね!」

「笑い事じゃないですよーもー。その神槍しんそうセレスティアも泣いてますよー?」

「ああ、これかい? これも見かけだけのハリボテだから、むしろ丁度いいんじゃあないかな? はっはっは」


 セレステが器用にくるくると、しかし全盛期に比べれば明らかにぎこちなく振り回す青い結晶の槍は彼女の神器じんぎそのままの見た目。

 しかし、当然能力は持ち込めなかったようで、自由自在の変形機能は備わっておらず、単純な槍の形ひとつしかとれなかった。


「……うむ。まあ、無駄だとは理解していて取ったのだとも。この世界を知るのに、必要だろうからね」

「何かわかりましたかー?」

「もう少し経過を見るべきだが、振った感じほぼ間違いないだろうことが一つ。この<槍術>スキル、本質はただの空っぽの入れ物だ」

「ほう? スキルそのものに、意味はないと?」

「いや、方向性くらいは制御しているだろうさ。しかし、これを育てているのはプレイヤー自身。この『ワールドレベル』として蓄積した集合知としての経験が、徐々に最適解へと進化をさせる。そのはずだ」

「……よーするに、今は進化の途上であるとー?」

「うむっ。データ採取途中の半端な状態だった私と、今のこの<槍術>は酷似こくじしているよ。いやはや、なんとも懐かしい。いずれはこれも、『私』になるのかもね?」

「それはおっかないねぇー。誰でもセレちんに成れんのかー」

「もちろん私は負けないがね!」


 つまりは、やはりこの世界は、あらゆる人間の意識を繋いだ大規模ネットワークの中であるということは間違いなさそうだ。

 そんな世界を使って、スキルという入れ物を使って、運営者は何を組み上げようとしているのか?

 なんだかまたアメジストへの疑惑が増したような気がするが、その黒幕の姿は、まだまだシルエットすら見えないままなのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 味覚データが分からないなら数を集めてデータ採取すればいいじゃない、というどこかで聞いた話とも酷似している気がしますねー? アメジスト(仮)め、さてはパクりましたねー? はい。アメジスト…
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