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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部2章 エリクシル編

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第1206話 揃いつつある状況再現の材料

 そうやってしばらくアイリスと雑談しつつ、ハルはネット世界の異変がないか調査を進めていく。

 アメジストの件もある、なるべく視野を広げ、普段はただのノイズと切り捨てる『残留思念』に関しても何か余計な動きをしていないか詳細に監視を行っていった。


 しかし、そんな調査もむなしく世はべて事もなし。いや、平和なのは良い事なのだけれども。


「……徒労とろうに終わっている感がある」

「だよなー。無駄に疲れた。もう止めね? こんなこと」

「誰が言い出した事だと思っているのか……」


 とはいえ、アイリスの気持ちも分かる。こうまで手がかりが無いとなると、これ以上続けていても無駄ではないのか、そう思えてきてしまうのだ。


「大変そうね? 大変そうなの! 何かお手伝いできることはあるかしら?」

「おー、マリーかー。手伝え手伝えー。元はといえばお前の責任なんだからよー」

「やあ、マリーちゃん」

「お帰りなさいハル様。いつもお仕事大変そうね?」

「そういう君も、そろそろ二周年で準備に追われているんじゃないかい?」

「そうなのよ! みんなとっても忙しいわ! でもそういうときこそ、気持ちを落ち着かせてお花をでる余裕を持たないとね?」


 ハルたちのもとに現れたのは、花の名を持つ女神マリーゴールド。とはいえアイリスたち六人とは違い、カナリーたちの同盟に与する仲間である。

 しかし、アイリスたちと完全に無関係という訳でもなく、彼女らのゲーム、『フラワリングドリーム』を開催する為のシステムの基礎を作ったのは彼女。

 通称『妖精郷ようせいきょう』という特殊な魔力空間により、新種の電脳世界を構築することに成功していたのだった。


「でも私の責任なんて、失礼しちゃうわ? 私は舞台を提供しただけ。ミントちゃんのことを、きつけたりなんてしてないの」

「どーだかな。たぶんミントの奴の発想は、オメーの計画から着想を得たんだと思うけどな?」

「そういえば、最初にログアウト不可空間を作ったのは君だったねマリー」

「もう! ハル様まで! 確かに私とミントちゃんの計画は似ているところがあるけれど、その本質はまるで別物よ?」

「うん。そうだね。君の方が数段ヤバい」

「邪悪さが別物だわな?」

「もう! もうっ!」


 ひとしきりマリーゴールドを弄るハルたちだが、実際に何も間違った話はしていない。

 妖精郷を使ったプレイヤーの精神への干渉、その点ではミントとマリーの計画は共通している。

 ただし、ミントのそれはあくまで個人を対象としていたのに大して、マリーはといえば対象が無差別だ。


 同時に妖精郷にログインしている者の精神をハルたちのように融合させて、いずれは全人類の魂を合一ごういつしようという、とんでもない計画だった。


 ……ちなみに、もちろん善意である。本当に困った神様たちだ。


「でも個人を対象としている時点で、マリーちゃんとミントは相容あいいれない。その点では無関係と言って良いかも知れないね」

「まあなー。しゃーねー、今は見逃してやる! だが何時までも逃げ切れると思うなよ!」

「はーい、小さな刑事さん。ただそうねぇ、確かにミントちゃんの計画には賛同できないの。個人と全体、というよりは、実現可能性の有無においてよ?」

「おめーの計画が実現可能な段階にあるのが私は恐ろしいんだが……」

「本当にね……」

「もう! 今はハル様に止められて、おいたは出来ないようになっているから大丈夫なのに!」

「お兄ちゃんも大変な?」


 本当である。つまりハルが支配して止めていなければ、あの計画を続けていたのだろうか? 聞くまでもないか。

 愛の神である彼女は、全ての人類がハルを核として一つになれば、それが最大の愛による結びつきだと考えた。

 一理あるにしても極論すぎるのでハルが強引に止めたが、その計画は逆に言えばハルが止めなければ実現可能な段階まで進んでいたのだから恐ろしい。


「……つまり、そんな準備万端な出来るお姉さんから見れば、ミントの計画は子供の遊び同然だと?」

「そうよ、そうなの! かわいらしいわよね! ……とまあ、そうねぇ、真面目に分析すると、不可能ではないにせよ、成功率は低いと思うわ? 達成のために必要となる、確実なファクターが欠けている。そこを手探りで試行錯誤しこうさくごすれば、多くの犠牲が出るはずなの」

「なんか急に真面目なこと言ってっぞこいつ!」

「大人しく聞けアイリス……」

「あの子の目的は、セフィ様と同じ存在を作ることなのよね? 今のままじゃ、幽閉ゆうへいは出来ても進化には至らないと思うわ? 元の肉体が滅びれば、ログインさせたまま閉じ込めた精神も死ぬだけよ?」

「そらそーよ」


 だが、セフィは日本にある肉体が滅んだ後も、精神体としてこの異世界で生き続けている。

 神様たち以上に人前には出てこない彼だが、ハルが遊びに行くといつも元気そうにしている。ハルの女装をからかったりと、非常に元気だ。なんとかならないだろうか?


「……まあ実際、セフィの例は例外中の例外だろう。そもそもセフィ本人が、僕と同じく最初から普通の人間じゃない」

「だよな。それを、普通の人間でいくら実験し続けても、絶対に同じ結果にならねー可能性だってあるのよさ」

「そうね? 失敗してそれで諦めればいいのだけれど、ムキになって無限に人を閉じ込め続けたら大変よ?」

「いや、最初の失敗例を出した時点で大変なんだけど……」


 やはり、断固阻止せねばならない。もし本当に今は何もしていない冤罪えんざいだとしても、ミントの場合動き出した時点でアウトの危険性もある。


「わかったわ! 私も手伝うわ、手伝うの! アイリスちゃんの言うように、私も原因の一部だものね!」

「理由がないと動けねーから暇なだけじゃねーの?」

辛辣しんらつねぇ。そういう貴女は、どうしてそんなに熱心にミントを追うの? かつての仲間の不始末だから?」

「私だってそんなに律儀でも正義の人でもねーのよ? あいつに協力してた訳でもねーしな?」

「ならどうして?」

「そら決まってんよ! 夢の理想郷に閉じこもって、そこで永遠を過ごす人間なんてのは、それ以降はカネを使うことが無いかんな!」

「アイリス……」


 はたまたなんとも、実にアイリスらしい危惧なのだった。





「ミントの手がかりについて、思い当たることがある」

「コスモス、おはよう。君も手伝ってくれるの?」

「ん。家の中が騒がしくて、こんな中じゃ寝てられないし」

「ごめんね?」

「気にすんなお兄ちゃん。どーせ話に加わりたくて、うずうずして待ってたんだぜ?」

「……ミントの前に、先にこいつと雌雄しゆうを決するの」

「なんだー! やるかちびっ子ー!」

「お前も、ちびっこ!」

「おやめ幼女ども」

「微笑ましいわねぇ」

「はぁ? 調子のんなマリー! ちょっとデケーからって!」

「んっ! でかけりゃいいってものじゃない」

「あらあら?」

「対立したり団結したり忙しいなこいつら……」


 ともかく、最近はこの屋敷で一緒に暮らしているコスモスが、のそのそとベッドから起き出してきた。

 ゆったりとした寝巻を引きずりながら、けだるそうにハルたちの傍へと着席する。


 そんな彼女がこの話に興味をもった原因。それはきっと、かつての仲間を止めるため、という訳ではないのだろう。


「セフィ様の特性は再現できない。でも、ミントでも当時の状況を再現可能な事象じしょうが一つある。モノリス」

「まあ、そうなるね」

「コスモスが起き出してきたってことは、そーゆー話だわな?」


 謎の黒い石、通称『モノリス』。セフィや神様たちが異世界に飲み込まれる原因となった物質であり、コスモスが怒りを燃やす対象でもある。

 セフィの当時の状況を再現するにあたり、決して無視できない要素ファクター。セフィの時と同じ結果を得たいならば、当時となるべく同じ環境を用意するのは当然だ。


「アメジストのせいで、最近モノリス業界には大きな動きがあった。ミントもきっと、それで動きを見せたはず」

「嫌な業界なんよ」

「嫌な業界ねぇ……」

「ん。モノリスは嫌。二人とも分かってる」

「……つえーなコイツ」


 自分が皮肉られているとはまるで考えないコスモスだった。つよい。


「確かに。日本で新たに見つかった二つ目のモノリス。いや、あちらを一つ目と数えるべきか」

「どっちでもいーのよ」

「ん。どうせ両方壊す。関係ない」

「あらあら? でも確かに、ハル様とアメジストの戦いで、そこに注目が集まっているのは確かよ? うちのオーキッドもマゼンタも、色々と調べものに忙しそうだわ?」


 別次元からエネルギーを取り出す謎の機関としての特性を備えていた地球のモノリス。そして、それに付随ふずいし明らかとなった、エーテルネットの大元おおもととなる人類の精神接続。

 魔法や魔力に関する新展開でもあるこれら一連の情報に、興味を抱いている神様も多い。ミントもまた、その流れの一部を構成していると、コスモスは断言していた。


「確かに興味深いわ? 私が手を出すまでもなく、人類は最初から深い部分で融合していた、なんてお話は」

「ややこしくなるから、君はあまり興味を持たないように……」

「まーその辺は、ミントの話とはあんま関係ないかもな? あいつは逆に、その大きな流れから個人を切り離そうとしているんだし」

「その作戦に、モノリスを使おうとしているに違いない。私が、許さない」


 まあ、確かにその可能性は考えられる。しかし、それでもミントの痕跡はその情報周囲にも見られなかった。

 ハルだって当然、直近の事件との関連は考えて真っ先に調査した。それに、やはり神様にとってネックになるのはあの石の安置場所だ。なんだかんだ言って、学園にはそうそう手が出せない。


 果たして、アイリスやコスモスの勘は当たっているのだろうか。それともただの杞憂で、ミントは一切動いていないのか。

 この情報の出てこない不気味さは、なんとなくアメジストのそれを思い出してしまうハルだった。

※誤字修正を行いました。ルビの修正を行いました、混乱させてしまい申し訳ありません。誤字報告、ありがとうございました。

 また、名前ミスも修正しました「メリー」→「マリー」。重ね重ね失礼しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女装を揶揄われて困るというのであれば、解決策はもはや一つですねー? 正々堂々と神王ローズのコスプレをして日常生活を送りましょー。セフィーには揶揄われなくなりますし、ヨイヤミちゃんには神王だ…
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