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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第4章 マゼンタ編

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第119話 彼の真意は

「やったか?」

「ハル君どうせ見えてて言ってるんでしょ」

「うん。った」

「え!? やってたの!? 今の流れで?」

「なんか神の撃破ポイントとかいうのめっちゃ入ってるし、間違いなさそう」


 ハルの魔法とカナリーの神剣を連続で叩き込まれ、意外とあっけなくマゼンタの体は消え去った。

 いや、これで倒せなかったら流石に厳しいので、素直に喜んでおこう。

 メニューを見ると、大量のポイントが加算されており、マゼンタの撃破が成された事を証明していた。


「……けど気になるのは、宣戦布告時の条件だ。黒曜、マゼンタとの戦闘は、まだ継続してるんだよね?」

「《はい、ハル様。依然、継続中です。決着条件の『本拠地の破壊』、これが達成されるまで解除されない物と思われます》」

「仕方ないんじゃない? もったいないけど、ぴゅーって赤チームまで行って滅ぼしちゃえば」

「……いや、とりあえず城まで戻ろうかユキ」

「りょーかーい」


 あっさりとカタが付いてしまったからだろうか、何かひっかかる。

 嫌な言い方になるが、赤チームはもう何時でも滅ぼせる状態なので、一旦ハルは皆と合流する事にした。

 ユキと共に<飛行>し、バルコニーから城へ入る。


「カナリーちゃんもお疲れ。助かったよ」

「はいー、疲れましたー。でも私はこの試合終わるまでお屋敷には戻れないんですけどねー」

「運営の人は大変だ」

「死んでイチ抜けしたマゼンタのやろーが羨ましいですー」

「……あとでお屋敷からお菓子持ってくるよ。お仕事頑張って」

「はいー」


 戦闘が終了したにも関わらず、カナリーの表情は真剣だった。むしろ、戦闘中よりも真剣さを増しているかも知れない。

 やはり、何かありそうだ。そもそも試合として全員が戦闘中であるのに、わざわざ宣戦布告してきたのも、今考えれば変な話だった。


 知らないうちに何かが手遅れにならないように、しっかりと確認をしておかねばならないだろう。





「おかえりなさいませ!」

「アイリ、ただいま。助かったよ」

「お疲れハルさん。なんつーか、もはや別ゲーだったな。あんな魔法初めて見たわ」

「あれは僕のオリジナルだよ。レベル上げても出ては来ないだろうね」

「ほー、そんなんあるの。でもネーミング変じゃね? ガンマレイって大抵ビームじゃん? 極太の」

「あ、私もそれ思った! 爆弾って感じだったよね、さっきのは。どうなんハル君」

「いや、ちゃんと出てるよ。ガンマレイ

「??」


 反物質の対消滅ついしょうめつ反応により発生するので、そこから取ったネーミングだ。さすがにあの魔法についてはマツバやぽてとには教えられないので、適当にお茶を濁す。


「だいしょーり? それともまたくる?」

「もう来ないよ、大勝利だね。撃破ポイントいっぱい貰ったから、これを侵食力につぎ込もう。そうすれば前回と同じように、全部黄色になる」

「侵食縛りじゃなかったのか?」

「縛ってないよ。序盤は建築に振る戦略だっただけ。今から建築に追加しても、もう戦う敵が居ないしね」

「そっかー。じゃあぽてと、おさんぽに行ってくるね」

「いってらっしゃい、ぽてとちゃん」


 言うが早いか、とてとてー、っとぽてとが出かけて行く。

 膨大なポイントが振られた侵食力は、一気にスピードを増して残る国を飲み込んで行った。前回の焼き直しだ。もはや何をどうしようと、黄色チームの勝利は揺るがない。


「だけどさ、また神様を呼ばれたらどうするんだ?」

「マッツー、その為に使う魔力が全部うちに飲まれちゃうんだ。問題ないよ」

「あ、そっか。じゃあボクはどうしよっかなぁ……」


 神の強化によって、神を敵チームに差し向けられる事が判明はしたが、同時にそのためには自陣の魔力を全て消費する事も分かった。

 今からポイントを振って強化しても、仕上がる頃にはもう黄色の侵食が全土を覆った後だ。


「僕はひとまず、アイリと一緒に拠点に戻るよ。ちょっと休みたいからね」

「お疲れ様、ハル。こちらは任せなさい? ポイントは侵食に入れておけばいいのよね?」

「ん、お願いしようかな」

「流石のハルさんも神様と戦うのはキツかったんだな。おつかれー」

「あ、私も行くよハル君!」


 休憩するというていで、ハルも足早に試合会場を後にする。

 実際に、ここから状況が動く事はもう無いだろう。アイリと、そしてユキも対象にして、<転移>で屋敷へと移動して行った。





 屋敷へ着くなり、休憩の手配をしてくれようとするメイドさんを制して全員を集合させる。

 パワードスーツ、戦闘用メイド服を着用して警戒にあたるよう号令をかける。


「やっぱこっちで何かあるんだね。さっきの神様かな?」

「気づいてたんだ。察しが良いねユキは」

「ま、ねー。ハル君があれしきの事で疲れるはず無いし」

「すごい信頼感なのです……!」

「歴戦の間柄って奴だよアイリちゃん」


 メイドさんには屋敷の周囲と、結界を使っての神域への侵入者の警戒を。ユキにはカナリーの神殿へ飛んでもらう。


 そして、ハルとアイリはマゼンタの神殿、彼の支配する神域へと転移して行く。

 対抗戦のフィールドにおいて、確かに彼を倒しはしたが、それは別に彼が死んだ訳ではない。プレイヤーと同じだ。

 プレイヤーは復活回数を使い切ると、フィールドへは入れなくなるが、普通にゲームをする事は問題なく可能だ。神も、それは同じであるとすれば。


「マゼンタ神は今、この地へ戻ってきているという事ですね?」

「そうなるね。通常、開催中はあそこを離れられないけど、負ければそれが可能になる。カナリーちゃんが愚痴ってたようにね」


 直接口には出せないが、きっとカナリーはハルへ警告していたのだろう。マゼンタだけが、こちらの世界で活動出来るようになっていると。

 であるならば、あの戦いそのものがそれを隠すための偽装フェイク。本命はこちら側である可能性が高い。

 試合会場に留まっていれば、その間に目的を達成されてしまうという訳だ。


「では、本拠地というのも」

「うん。あの試合の本拠地クリスタルではなく、この神域。そう考えられるなって」

「どさくさに紛れて、それをハルさんに了承させたのですね……」

「勝てないから降参しろと言われれば、ムキになってそれに抗う。その心理に、上手く入り込まれたね」


 もちろん、あの戦闘自体を有利に運ぶ目的もあったのだろう。だがそれに気づいたとしても、気づけた事に満足して思考はそこで終わってしまう。

 二重三重の策であった。


「勝っても負けても問題なかった。いや、むしろ自分を負かすように誘導していたのかな」

「流石は神と言うべきでしょうか……」


 マゼンタを探し、彼の神殿を探索するがその姿は無い。カナリーの神域を<神眼>で俯瞰してみるが、そちらにも襲撃は無いようだ。

 神殿の外に出る二人だが、そこも変わらずのどかな物だった。以前と同じ、少し涼しげな風が吹いている。

 今は、スーツの防御を常時オンにしているので、力場に阻まれ、その情緒を肌で感じる事は叶わなかった。


「仕方ない。とりあえずこの神殿を吹き飛ばして、それから考えよう」

「はんぶっしつを使うのですね!」

「……いやー、どうしようかな。神界以外でアレらを使うのは、ちょっと」

「そうそう、やめた方が良い。ボクだけじゃなく、他の神にも目を付けられてるだろうからね、キミは」

「わっ! 出ました!」

「相変わらず死角から現れて会話に入って来るの好きだね……」


 いつの間にか、二人の背後にマゼンタが現れていた。ハルと同じく、いや正しくはカナリーと同じく、神域の中では監視も転移も自在に行えるのだろう。

 突然の神の出現に反応に困るアイリを背に隠す。ぴょこり、と素直に隠れて顔だけ出す彼女がかわいらしい。状況が状況でなければその姿を楽しみたい所だ。


「もう気が付いちゃったんだ。もう少し勝利の余韻に浸っててくれれば良かったのに」

「本気で騙したいなら、『マゼンタを一体倒した!』、のシステムメッセージでも出すんだったね」

「いやー、それ出しちゃったら本当に決着付いちゃうからねー」

「神様も大変だ」


 彼らは基本的に嘘がつけない。だから騙まし討ちをするにも、本当の事を言いつつ騙せるように努力しなくてはならないのだろう。

 今回はそのための絶好の機会だったという訳だ。

 無理の無い状況でハルに宣戦布告し、カナリーも排除した状態での戦いに持ち込める。


「試合に勝てばそれで良し。負けても、こうして事を進められる」

「もう少し戦闘が継続してる事に気づかないでいるか、向こうで右往左往してくれれば良かったんだけど。本当にやっかいだねキミは」

「そのやっかいな僕に見つかったんだ。どうする? 確か、秒で白旗を揚げるんだっけ?」

「……そう思ってたんだけど。ここまで条件が揃えば、欲が出てくる。ここにカナリーは居ない。あの凶悪な魔法も、キミはここでは使えない」


 先ほどハルが神界で使った魔法は、環境への影響が読めない物ばかりだ。

 ここがゲームだと思っているならいざ知らず、ハルはこの世界を、何らかの独立した一つの世界であると認めている。無配慮に危険物の使用は出来なかった。

 ある意味、完全なゲーム世界である神界だからこそ使えた魔法だ。


「……勝利のためなら使うかもよ?」

「使わないよ。キミは優しい。……それに、最低でも反物質爆弾は使わせないよ? あれの配置には、キミの支配してる魔力が要るでしょ」

「そうだね。離れた場所に<物質化>するには、ここの赤色の魔力じゃ無理そうだ」

「離れてない場所でも止めてよね!?」


 ハルの世界ではコストの面で割に合わない兵器だが、この世界では最高のコストパフォーマンスを誇る。気軽に連発されては堪らないだろう。

 何せスプーン一杯にも満たない、ほんの隠し味程度の分量を<物質化>するだけで国一つを吹き飛ばせるのだ。ハルの気分次第で世界を滅ぼせるとなれば、神様も気が気ではなかろう。


 だが、敵陣であるこのマゼンタの神域では、全ての魔力が彼に支配されている。自分とアイリの安全を確保するだけで手一杯だ。

 <物質化>も手元でしか出来ず、もし使えば自爆になるだろう。


「という訳で、改めて宣言しようか。勝利条件は神殿の破壊。……待って! 神殿に手を向けないで!」

「ちっ、もうバリア張ったか」

「油断も隙も無いなぁ、もう。そして、キミに伝えておく事がある。たった今、対抗戦から持ち帰った魔力を使って、この国の国境を少し広げさせて貰った」

「なに横領おうりょうしてんのさ?」

「ルール上問題は無いよ! 使い切れなかっただけだからね。……そして実は今日この時間、ヴァーミリオンの調査隊が国外へと派遣されようと、国境付近に陣をいて居るところなんだ」

「……地中に放置された兵器と、彼らが出くわす事になるんだね?」

「説明の手間が省けて助かるよ。……何で知ってるの?」


 国境、つまり魔力の範囲が広がる事で、それに反応し動き出す古代兵器が目覚めると言っているのだ。

 更に間の悪いことに(彼がそう仕向けたのだろうが)、その近辺にはこの国の兵士が待機していると言う。当然、無差別な兵器のターゲットとなってしまうのだろう。


 マゼンタはハルのことを優しいと語った。優しい人間ならば、それを見捨てる訳にはいかないと踏んでの策だろう。ハルがそちらへ向かえば、マゼンタはカナリーの神殿へと向かう猶予が出来る。

 実際はハルはそこまでお人好しではないのだが、自分が原因になって人死にが起こるのは気分が良くないのも確かだ。


「このやり方が嫌いなのは知ってる。でも謝らないよ。今は、負けるつもりは無いからね。使える手は使う」

「……既にもう戦闘状態だ。その中でやる事だ、咎めたりはしないさ」

「おや。寛容なんだね」

「別にそうでもじゃない。これからボコボコにする相手だ、いまさら言葉で非難する必要も無いってだけさ」


 それに何だかんだでマゼンタは口の達者な相手だ。あまり語る内容に耳を傾けない方が良いだろう。


「アルベルト」

「お傍に」

「えっ、何で傍に居るのさ?」

「お呼びになったのに驚かないでいただきたい……」

「わたくしも、びっくりしました……!」


 音も無くスーツ姿の美丈夫びじょうふ、アルベルトが転移してくる。スーツはスーツでも、今日のスーツはパワードスーツを着用済みだ。

 既に臨戦態勢で、こちらの意図は既に伝わっているのだろう。

 筋肉の流れを浮き立たせた無骨な黒いスーツに、線の細く美しい顔がアンバランスに映えている。


「まあいいや、聞いての通りだ。……どっから聞いてた?」

「ご安心ください。旦那様と奥様がたの睦言むつごとは誓って聞いておりません」

「……一つも安心出来ない答えをどうも。現地に行ってその兵士を助けること」

「ハル様のお言葉のままに。頂いたスーツの性能試験をするとしましょう!」


 フルフェイスのヘルムも着用し、完全武装となったアルベルトが転移して行く。

 そう気合を入れずとも、彼なら生身でもあの程度の敵なら余裕だろう。ハルに貰った武装を見せびらかしたいのか。意外と子供じみた所もあるのだな、と頭の端でハルは考える。


「……ずるくない?」

「負けるつもりは無いからね」


 マゼンタの言葉をそのまま返す。既に戦闘中だ、こちらも使える手は使わせてもらうと言外に主張する。


「仕方ない。カナリーは排除出来ただけでも良しとするさ。どの道、ボクを止めないといけないコトには変わらないんだ」


 マゼンタの気配が膨れ上がり、にわかに緊迫感が増してくる。

 セレステの時と同じだ、神としての圧を感じる。隣に並び応戦の姿勢を見せるアイリも、気おされそうになるのをハルの袖をつまんで耐えている。

 カナリーのように本体が<降臨>している訳ではないようだが、この神域の魔力を自由に使える状態なのだろう。試合の時とは感じる圧力が段違いだ。


「キミは強い。が、切り札無しで神に挑むには力不足だ。その力の差、身を持って知ると良いよ!」

「試合で見せた魔法が全てだと思わないことだね。確かにこっちじゃ使えないけど、逆に人の目のある場所じゃ使えない物だってある」

「へぇ、まだ何かあるって言うんだ?」


 人の目、この場合プレイヤーの目だ。地球の科学技術をあからさまに利用した物などは使い難い。

 例えばアルベルトの装備していたようなパワードスーツ。明らかに発想がこの世界の物ではない事が一目瞭然いちもくりょうぜんだろう。現代人であればすぐ察しが付く。


 要は、ナノマシン技術を十全に使用した、魔法を介さない力だ。


「アイリ、準備は良い?」

「はい! いつでも!」


 ハルに身を預けるように手を回すアイリを抱き寄せ、空中へと<飛行>し浮き上がる。

 マゼンタからの邪魔は入らない。こちらの“変身”を待ってくれるとは殊勝な悪役だ。ハルならきっと待たない。

 それとも、やはりこちらの攻撃を吸収する形でしか攻撃出来ないのだろうか。


 考えるのは後でいいだろう。アイリと視線を交わらせると、意識を同調させ、呼吸を合わせる。


無尽増殖エンゲージ!」


 ふたりの言葉が重なり、起動キーを紡ぎ出す。

 そうして、その体がまばゆい光の中へと包まれて行った。

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