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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1186話 密封される箱庭

《んー、分かった。しょーじき細かい部分はわからねーけど、大筋では分かった。かも!》

《そんなんでいーのアイリスちゃん? もっとしっかり、理解しないと!》

《若いぜ幼女。……いや、当然だわな? まあともかく大人は、細かいこと気にせず即行動なんよ! 『詳細まで解明してから』、なんて生っちょろいこと言ってたら、ライバルに先越されんぞ!》

《おお~~》


 実際には、安全面においてそれでは困ることも多々あるが、概ねアイリスの言う通りだろう。

 たまに神様たちとの話題に出るが、魔法だってエーテル技術だって、『なぜそうなるのか?』が分かっていないまま実用化されている物は案外多い。これは、前時代においても同じこと。


 特に今は、何より時間制限が迫っているのだ。贅沢なことは言っていられない。


《聞かせてくれアイリス。どうなってる?》

《おーよ。任せろな? どーやら、共通の事柄について思考する意識をぶち込むとな? その分、魔力が帰って来るらしい。意識の数が増えるほど、そのリターンも大きくなるんよ》

《なるほど》


 なんとなく、異世界における魔力発生のルールとも似通っている所がある。

 あちらは、異星の地でこちらの人間が、地球人の意識活動があると、その場に魔力が発生する。その際、活動する人数が増えれば増えるほど魔力も増していく。


 こちらも同じだ。別次元からエネルギーを取り出すという原初ネットに、指向性しこうせいを同じくする意識の残滓ざんしが交わった際に魔力が発生する。

 そして、その量が多いほど、発生する魔力もまた多くなる。


《詳しく調べりゃ、魔力の本質について探れっかも知れんのよ。だけんど、まあ、今はそんな暇ねーわさ》

《まあ、この騒動が終わったらゆっくりやればいい》

《おー。そんときゃアメジストにも手伝わせっから、とっ捕まえて来てよお兄ちゃん!》

《それは、約束しかねるが……》


 全てはアメジストの出方次第だ。そもそも、捕まえられるかどうかも現状分からない。

 あの空間では、アメジストが絶対的に有利であるのはまだまだ動かないのだから。


 だが、突破口は見えた。この新しい魔力生成システム、アメジストも同じ仕組みを利用しているのは間違いない。

 ならば、そのエンジン部分を押さえてしまえば、彼女はもう新しく魔力を調達できなくなる。


 今までは一切が謎に包まれていたため苦労させられたが、エンジンがエーテルネット上にあるとなれば、そこはハルの領域だ。


《ヨイヤミちゃんが噂を広めて作ったシステム、それに強引に手を加える》

《どきどき。強引に、されちゃうんだ》

《お兄ちゃん鬼畜きちくだよなー》

《やかましい。これに関しては、いくらアメジストが製作者だろうと、抵抗しきれないはずだ》

《そーね。基本的に私ら、こっちのネットへは回線細いかんね。いや、万全だったとしても、お兄ちゃんには手も足もでねーのよ?》

《事実、アメジストのハッキングは一切通していないからね》


 とはいえ、常に並列思考の処理を一部持っていかれているのは、煩わしいので出来ればもう止めて欲しいところだが、なかなか諦めの悪いアメジストだった。

 その内容、メニューウィンドウの非表示化が、彼女の目的にそんなに重要なのだろうか?


 まあ、今はそれを気にしていても仕方ない。重要なのは時間内に扉の完成を阻止することだ。


《アイリス、手伝え。さっき発見した魔力の生成法則。それを利用している回路を特定して寸断する》

《よしきた! 任せとくといーのよ! 私の技術を覗き見してかすめ取ったりするやつが、どうなるかを教えてやらーな!》

《おー、がんばれー!》

《よっしゃ、見とけよ幼女! お姉さんのカッコいいとこ見せてやるんさ!》

《見た目おなじくらいじゃないー?》


 元々、アイリスが組み上げ研究していた能力だ。その理解度は年季が入っており、すぐにアメジストの生み出したネットワークから特定部分を抽出する。この手際の良さは流石だ。

 その部分を、ハルが周囲から切り離し一時的にオフライン化するだけで、効果は実に覿面てきめんだった。


 ハルの本体と話していたアメジストの頭上に伸びるゲージ。そのバーの移動が、その瞬間にがくりと止まる。

 扉の作成に必要な魔力の供給が途切れたことで、エラーが起き作業が進まなくなったのだ。


《ざまぁ! ついでに、これだけで終わるかぁ! 見とけアメジスト! 今度は逆に、おめーの作り出した扉の制御を乗っ取って、こっちのモンにしてやるのよさ! お兄ちゃんが!》

《アイリスちゃんがやるんじゃないんかーいっ》

《まあ、いいけどさ……》


 ハルとしても、仕事をしない訳にもいくまい。彼女の言うように、作業を止めただけで攻撃は終わらない。今のままでは、時間制限が先に延びただけだ。

 有利な交渉を進めるには、ここからが肝心。ハルは制御システムにハッキングをかけ、自分の管理下へとシステムを少しずつ移していく。


《おっけ。あとは、お兄ちゃんに任しとけば安心だな! その間お喋りでもしてよーぜーヨイヤミちゃんー》

《いいよ! じゃあ、さっそく聞きたいんだけど、さっきから二人が言ってる、『魔力』ってなんのこと!?》

《うげっ! お、お兄ちゃん……、どーするよこれ……?》

《……今忙しいから、アイリスに任せた》

《逃げんなー! 重要な説明責任を私に押し付けんなーっ! まじどーすりゃいいのこれ!?》


 申し訳ない。ハルにはどこまで話して良いのか上手く判断ができないのだ。よって、その辺りの計算は、神様の処理能力に任せることにする。補佐として、役に立ってほしい。

 ……といっても、アイリス一人ではさすがに可哀そうなので、エメにも回線を繋ぎサポートに回ってもらうこととした。





「……あら? 止まってしまいましたね?」

「そのようだね。何かトラブルかい?」

「ふふっ。なんて白々しい。これは、ハル様の仕業ですね? わたくしの秘密に、ついにたどり着かれてしまったと」

「そういうことだね」


 アイリスを置き去りにして、ハルは意識を本体へと浮上させる。会話の最中に、突如処理がエラーを起こしゲージの進行が停止した。

 それどころか、徐々に完成度の割合は逆回転し、ゲージ量は減って行き途中で一気に消失してしまった。


 ゼロパーセントとなったバーはもうピクリとも動かず、アメジストも困ったように首をかしげるのみ。

 裏では復旧しようと処理を走らせているのを感じるが、アイリスの語った通り、エーテルネット上における処理速度は決してハルに敵うことはない。


「あらあら。困りましたわね? これは、新しく作成中の扉だけではなく、もしや他の入り口も?」

「その通り。閉鎖中だよ。全ての扉と、それを開閉する為の魔力はもう、僕の手中にある。つまり君は、自分で作った箱庭の中に閉じ込められたってことになるね」

「それは困りましたね。扉を固められて、空気の供給を断たれてしまったということですね」

「……またおっかない例えを」


 全然困っていない顔で、アメジストは上品にくすくすと笑う。絶体絶命の状況なはずであるのに、まだまだ余裕そうなのは何らかの準備があるのか。

 例えば、非常口のようなシステムから独立した出口があるとか、そういった準備が。


 しかし、もしそうして彼女に逃げられてしまっても、今はそれで構わないとハルは思っている。

 この学校の怪談に端を発した一連の騒動は、このゲームを掌握しょうあくし閉鎖することでひとまずの決着がつくからだ。


 あとはゆっくり解体し、次またアメジストが同様の手順で干渉してこないよう監視し、黒い石の調査を進めていけばいい。


「……おい、ハル。大丈夫なのか? 良く分からないが、俺もこのまま閉じ込められたりしないだろうな?」

「ん? まあ、場合によっては。大丈夫だよ、安全は保障するから、安心してよソウシ君」

「安心できるかっ!」

「いいツッコミだ」

「い、一応信頼はしていますけど、ハルさんのことは……」


 まあ実際、ソウシやシルフィードの事も考えると、長時間このままというのはハル側としてもまずいだろう。

 アメジストとの我慢比べをするとなれば、お互いにいくらでも粘れる二人だ。それに巻き込むのはよろしくない。


 とはいえ、現状これ以上の手出しも出来ないハルである。扉を構成するシステムは突き止めたが、逆に言えば分かったのはそこまで。

 この世界の内部では未だに、ハルは魔法を封じられたままであるのは変わらないのだから。


 そんなハルの事情は全てお見通しなのだろう。アメジストは焦ることなく、顔に指を当てて挑戦的な笑みを浮かべ続けている。

 憎らしくも可愛らしいその顔からは、一歩も引く気はないことがありありと感じられた。


「しかし、参りましたね。力の流入を封じられてしまった今、強制排出もままなりません。お互い、どちらかが根負けするまで、こうしてにらめっこを続けるしかないのでしょうか。ふふっ」

「笑ったから君の負けね」

「三万回勝負です」

「多すぎだろ……」

「というのは冗談で。しかし、らちが明かないのも事実。どうでしょうハル様、ここは、わたくしたちらしく、ゲームで決着をつけるというのは」

「まあ、そういう流れになるか」


 互いに、進むことも戻ることも出来ない状況。それを打開する為に、アメジストから勝負の提案がかかる。

 半ば、予想していたことだ。むしろ、それを引き出す為に膠着こうちゃく状態を作り出したハルだった。


 神は約束を破らない。この勝負に勝利すれば、安全に彼女との戦いに決着をつけられる。


「ゲームの内容は?」

「このままです。このまま、このゲームで行います。ハル様は育てたこの領地をお使いになり、わたくしはそこに、この水晶の世界で挑む」

「なるほど。クリア後の、裏ボス戦ってわけだ」

「ええ。どうか見事、このゲームマスターに勝利してみせてくださいな?」

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アメジストとの決着はGM戦となりましたかー。先にログアウトすることを勧めていたあたり、ログインルームの設定を解析されてログアウト不可のデスゲームと化すところまでは想定通りという気配がします…
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