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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1183話 深淵における異端と異端の邂逅

 学園に設置された不可思議なログインルーム。その機能を形作っていたのは、実は学園の外部にある機構であった。

 いうなれば、遠隔操作で外部から扉の開閉を指示するようなもの。扉はそこにあるが、認証はコントロールルームを通さねば決して行えない、といった感じだろうか。


 それに関しては、現代では別段おかしなことではない。例えばハルが目の前に衝撃波を発生させたとして、その力の大元はこの場ではないエーテルネット上にある。

 ただ、ここで問題となるのが、当の学園には、エーテルネットが通っていないということ。


 その鍵を握るのは、何かを打ち明けることを決心したヨイヤミなのだろうか? ハルは静かに、彼女の話に耳を傾けることにした。


《私、ハルお兄さんが探してたこのゲームのエネルギー源のこと、実は最初から知ってたの! モノリスプロジェクト、だよね!? もう見つけた?》

《……ちょっとまって? なんだって?》

《あ、まだ見つけてない? えっとね、なんか大きな板みたいな、黒い石があって……》

《いや、それは知ってる。見つけたよ。ただ、あまりに踏み込んだ内容の物がいきなり出て来たからね……》


 ヨイヤミの語り始めた彼女の真実、それが、少々予想外のところからハルに殴りかかってきた。どうやらここでもあの黒い石が発端らしい。


《確かに、ずいぶんとタイミングよく、学園で新エネルギー研究が行われているって情報をくれたけどさ》

《あっ、あの話、でっち上げの嘘なの。ごめんなさい》

《そうだったんだ……》

《お兄さん相手だから、気付かれちゃうかとハラハラした》


 確かにハルは、相手の態度から嘘を見抜くのが得意である。しかし、それは逆に言えば態度に出ない相手、月乃であったりヨイヤミの場合は機能しない事があるということ。

 装置に頼っていた月乃と違い、ヨイヤミは普段からほとんど肉体を動かせない。

 それは、無意識のサインを出してしまうことも自動的に防げるという、ある意味ハル対策が万全という体質とも言えるのだった。


《それはつまり、今出てきたあのアメジストから、事前に聞いていたってことかな?》

《違うよ。そうじゃなくて、私、あの石のことを調べてるうちに、あの子の作戦を偶然みつけたの。あっ、でもでも、会うのは今日が初めて。別に連絡取り合ってた訳でもないし、なんなら協力してくれって言われた訳でもないんだ》

《そうなんだ。ずいぶん、特殊な協力関係だったんだね》

《……怒らないの?》

《いや別に? 僕には僕の、君には君の目的があるし》


 それに、ハルだってヨイヤミに対し隠し事をしていた。アメジストのことについても、ハルだって知っていることを彼女に語っていない。

 そんな状態で、ヨイヤミだけを責めることなどどうして出来ようか。保護者と被保護者の関係はあれど、これはお互い様である。


《しかし、その目的については知っておきたいかな。ヨイヤミちゃんも知っての通り、僕はこのゲームを潰そうとしている》

《うん》

《それが、君の目的に不利益を生じさせるなら、今のうちに妥協点を見つけておいた方が良いからね》

《わ、優しっ。『ガキが邪魔するな、そこで指くわえて見てろ』ってなっても当然なのに》

《どんなキャラだよその僕は……》


 彼女の中ではハルはそんなに横暴なのだろうか。それとも、そういうある意味頼もしい対応が好みなのだろうか? 望まれても、希望には添えなさそうなハルである。


 ただどうやら、ヨイヤミからハルの行動に何か注文をつけることはないようだった。

 いや、というよりもむしろ、彼女自身、何を目的として動いているのか、はっきりと本人にも分かっていないらしい。


《……その、何がどうなったら、『良い事』になるのか、よく分からなくなっちゃって。ハルお兄さんと出会う前は、ひたすら、がむしゃらに自分に出来ることやってたんだ。でも、お兄さんと出会って、お外に出て、それからは、分からなくなったの》

《まあ、環境の変化が大きすぎたよね》


 それに、本質的な望みは叶ってしまったとも言える。

 病棟に隔離され、不自由な生活を余儀よぎなくされていたヨイヤミ。その彼女の目的に、『自由になって外に出る』ことがあったのは疑う余地はない。


 しかしきっと、それはあまりの実現可能性の低さから、無意識に諦めていた望みでもあるはずだ。

 そんな願いが、あっけなく叶ってしまった。その環境下では、実行中だった下位の計画をどう扱っていいか、分からなくなってもおかしくない。


《……もし言い出したら、ハルお兄さんたちは怒って、私を捨てちゃうかもって》

《捨てないよ。大丈夫だって。でも、確実に僕の目的と相反あいはんする物だからね、心配になっちゃうのも仕方ない》

《言い出せなくて、ごめんなさい……》

《いいさ。だいじょうぶ、だいじょうぶ》


 助けてくれた人の不利益になる計画に、自分が深く加担していた。それでは言い出せないのも無理はない。

 もし不興をかって病棟に送り返されれば、次また出て来れるか分からない。今の幸せを、捨てることが怖くなったのだ。その感情をなぜとがめられようか。


《しかし、どんな経緯で黒い石が発端になんかなったの? あれはアメジストが先で、彼女経由で知ったのかと》

《あっ、それはね。私の両親がアレに関わってたの。私を捨てやがった両親をどうにかぶっ殺してやろうと色々調べてたら、見つけたんだ。あっ、今は、親なんてどうでもいいかな、比較的。だから、そういう意味でも、宙ぶらりんになっちゃって》

左様さいですか……》


 随分と、物騒なことを朗らかに語る少女であった。気にしていないような事を言っていたが、存外闇が深い。

 まあ、考えてみれば、いや考えるまでもなく当たり前か。自分を捨て、今の不自由な環境を強制した張本人だ。恨まない訳がない。

 今は、それよりも手に入れた自由の方が大きすぎて、復讐は『比較的』優先順位が低くなっただけなのである。願わくば再燃せんことを祈るばかり。


《しかし、両親が石の関係者だって? 確かに、お金持ちの家の人だったらしいけど》

《うん。だから私は、何かの実験で生まれた失敗作なんだよ。そんでポイされたの。ポイ》

《またヤバそうなネタをお出ししてくる……》


 とはいえ、あり得ない話ではない。石を管理している家系である御兜みかぶとの家、そこの当主である御兜天智みかぶとてんじもまた、遺伝子操作されて生み出された存在だ。

 あの石に、そしてかつての研究所に関わることは全てエーテルネットに決して載らぬよう処理されている。

 ハルの知らぬところで、そうした人間もまだまだ居るのかも知れなかった。


《でも失敗作だと思って捨てた私には、見ての通り凄い力が宿ってたんだ! その力を使ってー? 要らない子扱いして捨てた奴らに復讐してやろうと思った! ……んだけど、どうしたらいいか、子供でおばかな私には分からなくて。出来そうなことは、なんでもやってみることにしたんだ》

《そこで、アメジストの計画に行き当った訳か》


 特異な力を持つヨイヤミに、アメジストが目を付けて誘導したのか。

 それとも、アメジストの蒔いた種に、ヨイヤミが目を付け芽吹かせたのか。それは分からない。


 しかし、どちらであっても、ハルにとっては非常に不運な接触であったことは間違いなさそうなのだった。





《お兄さん、エーテルネットには、誰の目にも留まることなくただ消えていくだけの情報がたっくさんあるのは知ってる? まあ知ってるか。お兄さん神だもんね。常識だよねそのくらい》

《まあ、知ってはいるね。ただ、正直専門かと言われるとそうでもない》

《そうなの? へー、意外》

《僕は正式なルートに乗って、システム上に上げられたデータを扱うのが専門だ。その部分においては万能だけど、残留思念ざんりゅうしねんのようなデータは扱いきれないね》

《おおっ! 残留思念! かっこよい、これからそー呼ぼ》


 別に、格好付けている訳ではない。なんとなく、そのイメージがぴったりなのだ。


 誰かが、何処に送信する訳でもなく処理した視覚の拡張、その時に生まれた映像データの残骸ざんがい

 文章構成をネット情報でアシストした際の個人的な下書き。保存するまでもない他愛ない音声記録。


 そうしたデータの数々が、まるで思い出の断片であるかのように、ネットには大量にさまよっている。

 ハルが、意識拡張するときに時おり触れるのがその残骸だ。未使用領域に溜まったそのデータは、放置していればそのうち意味を失って、残留思念が薄れるようにかき消える。


《私はね、その残留思念を探るのが得意なの》

《言ってたね、趣味だって》

《うん、たまーにお宝データがあるんだよー。ぐへへへ……》

《趣味の悪そうな遊びだ……、禁止した方が良いか……》

《あっと! 冗談です、冗談。健全に遊んでるだけだから見逃して~~。……でね? その領域の段階なら、ネット上に上げないようにしている機密扱いのデータもたまにこぼれだして来るんだよ?》

《……なるほど。無意識に、一時領域に上げてしまうことは避けられないか》


 うっかり口を滑らせてしまうがごとく、うっかり作業スペースに上げてしまう。そんな感じのイメージだろう。人の脳に戸は立てられぬ。

 もちろんすぐに機密は厳重削除されるが、『残留思念』となり零れだし、ヨイヤミはそれを見つけることを得意としていた。


《それで私は、親の家が変な事に関わってたのを知ったの。それに関係した何かが、私の居る学園にあることも。そこからは早かったよ? だって私は、学園の範囲程度なら好きに他人の体を乗っ取れるもんね》

《地下に隠していようと、アクセス権を持った人物に憑依ひょういしてしまえば関係なしか……》


 万全のセキュリティも彼女の前では涙目である。どんな高機能な対策をしても防ぎようがない。

 まるで、ハルが魔法でサーチするのを地球人は決して気付けないようなものだ。脅威度の次元が違う。


《それでね。怒った私は、この事実をどうにかバラしてやれないかって考えたんだ!》

《そうすれば、君の元両親も公に罪を裁かれるから?》

《……わかんない。それを期待してたかどうか、自分でもわかんないな。どーせ、ああいう奴らは、金に物を言わして乗り切っちゃうだろうしね。あっ、でも! その時は私のネットスキルが火を吹くよ! あることない事ネットに流してやるんだもん!》

《うん。あることだけにしておこうね?》


 つまりはそれが、ヨイヤミの『復讐』。自分を生み出す大元の原因であったであろう黒い石。その存在を白日の下に晒すことで、それに関わり、隠蔽いんぺいしていた者達に裁きを下す。

 意識してか無意識かは本人にも分かっていないようだが、そう考えて行動していたようだ。


 ……ハルとしては、その計画が実行に移される前に接触できて良かったといった所か。


《そして、そんな計画で動いている中で、アメジストと出会ったと》

《出会った訳じゃないけどね? そうなの。その計画もまたね、残留思念の中に紛れていたんだー》


 果たしてそれは意図的か偶然か。芽吹きを待っていた種は、ヨイヤミという水を得て、ぐんぐんと急速に花開いていったのだろう。

 それが、今回の騒動の始まり。その経緯であったようである。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヨイヤミちゃんもある意味での管理ユニットでしたかー。御兜家がエーテルに頼らぬエネルギーの確保と仮定すると、ヨイヤミちゃんの家はエーテルネットからの監視が目的だったのでしょうかー。そうである…
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