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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第4章 マゼンタ編

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第115話 魔王城の大砲台

 仲間達と共に、どんどん魔王城を完成させて行く。

 人数自体は他のチームとは比べられないほど少ない。しかし素材を集めに行く手間が存在しない事で、タイムロス無く建築できることが大きい。

 戦闘を警戒しなくて済む面もやはり利いている。他チームは、隣り合う国同士での争いに時間を取られていた。


「第一目標、つまり僕らを倒すことしか考えてなかったんだね。判断が追いついてない」

「なまじ、わたくし達が健在なのも利いているでしょう。こちらへ来る手段を模索するか、完全に無視するかで割れているはずです」


 アイリの言う通りだった。掲示板ではまさにその割れ方をしている。

 『力を合わせてハルを倒すべきだ!』派と、『うるせぇ今の敵はお前らじゃ!』派によるじつの無い言い争い。

 なお、その書き込みの時間そのものが無駄である。


「人は共通の敵を前にしても、目の前の敵と争う事は止められないんだね……」

「悲しいですね。おとぎ話のようには上手くいかないのですね……」

「そこのラスボス夫婦~。憂い顔してるけど君たちが仕組んだ事だからねコレはー」


 ユキと三人で、遠く戦火を眺める。魔法の花火が咲いては散っていた。


「しかし、今回は国境線の数が多すぎて戦いも多いね。このままじゃ餌……、もとい尊い命が失われて行ってしまう」

「でもさハル君? 全部うちになだれ込んで来てもそれは同じだよ? 私らが倒すか、互いに食らい合うかの違いでしかない」

「そうですね。わたくし達に目を向けさせつつ、手は出せない、そんな都合の良い状況へ持ち込まねばなりません」


 その為にしなくてはならないのは、こちらが未だ脅威であるということを見せ付ける事。

 手の届かない場所に引きこもっているだけではない、倒さねばならない相手だと伝えなければいけなかった。


 つまりは、侵食力を更に強化して国境線を押し上げる事。

 更には砲台を完成させて、軍事的にも脅威であると威を示さねばならなかった。


「ルナの図案は完成間近だけど、どちらもいまひとつだね。侵食力はじわじわ押し上げてるけど、十分とは言えない」

「ハル君の神通力じんつうりきで更に強化するんじゃないの?」

「神通力、ではないが。……するけど、やっぱり自動化で楽したいよね。アイリも休ませてあげたいしさ」

「わたくし、一日半程度は寝ずとも頑張れるのです! 今はナノさんも居ますし!」

「廃人ハル君の嫁になろうとする子は覚悟が違うねー。でも体は大切にしなきゃダメだよー、うりうりー」


 気合の入りすぎたアイリの力を揉み解すように、ユキはアイリを抱きしめるようにくすぐる。うりうりと、うりゃうりゃと。二人とも楽しそうである。

 長丁場の試合には慣れっこなユキだ。長期戦では気の張りすぎは逆に効率を落とすと、経験で知っている。


 長時間集中するためのコツは何か、と聞かれた時、『集中しない事だよ』とユキが答えたのを覚えている。

 目の焦点をずらすように、集中力の頂点に達しないようにあえて力を抜いてやるそうだ。それにより何時間も十何時間も続けてプレイが可能とのこと。

 ちなみにハルの場合は、『脳の並列稼動を最低四つは休ませておく事』、と参考にならない。だが言っている事自体は似ている気がする。


「しかし、そうなると素材が不足してしまいますね」


 ユキの腕の中にすっぽりと納まったアイリが真剣な顔を作る。頬の端にはまだ笑みが残っていた。かわいい。

 アイリの背に潰されるユキの大きな胸からは、意識的に目の焦点をずらすとしよう。そこに集中しては、持たなくなる。


「まだ他国の土地が残ってるよ? また夫婦ドリルで削り取ってくれば?」

「それもよいのですが、それにはまた魔力の消費が……」

「本末転倒なんだよね」

「今はやっと初期位置に戻ったくらいだもんねぇ。他のチームもこれから侵食力に積んで来るだろうし」

「自分から飛び込んでくる建築ポイント達も、居なくなっちゃったしね」


 初期に大挙して押し寄せて来たプレイヤー達は、良いポイント供給源だった。

 敵を撃破すればポイントが手に入る。それを『侵食力』、『建築力』、『神力』につぎ込むことでそれぞれを強化出来る。

 素材を使って建築を成功させた場合も、同じくポイントが得られる。


 だが敵が攻めて来なくなり、建築素材も尽きようとしている今、これ以上のポイントが得られなくなろうとしていた。


「建築強化にポイントを入れて侵食力を上げ、ついでに示威じい行為もしなくてはならない……」

「問題は山積みだねハル君。だがそれを一気に解決する良い方法があるよ」

「それは何なのでしょうか!」

「聞こうじゃないか」

「もうさ、今から撃っちゃおうよ、マーズキャノン」





 各自、それぞれの担当が終わったチームメイト達が、本拠地のクリスタルがある玉座の間へと集合した。

 皆、手持ちの素材はほぼ使いきり、魔王城は一応の完成を見た。


「でもさ、これじゃ勝てないだろハルさん。もうこの先ポイントは得られないんだぜ」

「ぽてとね、はやく終わったから浮島から採取してきたんだ。素敵だね、浮島」

「ありがとうね、ぽてとちゃん。狙った訳じゃないけど、空に浮かぶ群島みたいになったよね」

「うん、たのしいよ。ぽてと、また取ってくるね!」

「素材はまた銀ね。銀の装飾でもつけようかしら?」


 残る素材は土や石などの基本素材がほとんど。それを地表に捨てるように建築し、ポイントを稼ぐことも出来る。しかし、それではハル達が手詰まりだと言外に証明しているような物。

 やるならそこは駄目押しでなければならない。劣勢時にやれば苦し紛れに見える行為も、圧勝時にやれば絶望的な追撃となるのだ。


「ぽてとちゃんの採取もありがたいけど、今回は大半の採取地を破壊してしまった。それだけじゃ足りないだろう。なので手を打つ事にする」

「おっ、待ってたよ新展開。なにするんだハルさん?」

「マーズキャノン、マーズライトで建築した城壁に並ぶ大砲だね。あれを使う」

「むき出しになってる敵国の台地を削り取れば、素材も得られる。それに、強制的に敵の目を私達に向けさせられるってね!」

「ユキさんの発案か……、やっぱ好戦的だー」


 マーズキャノンは魔力をほとんど消費しない。チャージされて行く専用のエネルギーを使用して砲撃を行う、魔力的にエコな兵器だ。

 それを使って破壊した物からもアイテムが得られれば、示威行為と素材集めが同時に出来る。


「しかし大丈夫か? アイテム粉々にならない?」

「だいじょうぶだよ、マツバくん。魔法でふきとばした壁からもね、素材はとれるんだ。ぽてともよくやるんだ」

「ほー、そうなんだなー」


 素材アイテムは実体があるわけではない。極論で言えばただのメニュー内の数字だ。

 破壊した壁や地面から入手ドロップすると、キラキラとした光のエフェクトとしてプレイヤーの体に勝手に吸い込まれる。


「エネルギーはもう溜まってるからね。とりあえず一発、ガケの底にでも向けて撃ってみよう」

「え、ハル君、一発と言わず何発も撃とうよ。地面が全て無くなるまで」

「たわけが」

「ユキ、全滅して試合が終わってしまうのは、望む所ではないわ?」

「そうだった!」


 どうしても、戦って勝利する事にユキは頭が行きがちだ。


「アイリ、号令を頼める?」

「わ、わたくしで良いのでしょうか……!」

「うんうん。アイリちゃんが適任だ。うちら一般人だしねぇ」

「……どう見ても一般ではないわ?」


 ユキも含め、一般の範囲に当てはまる人間は一人も居なさそうだった。

 それでもアイリが適任だろう。人の上に立つのに慣れている。司令官役にはぴったりだった。


「……では。全門、斉射せいしゃ!」


 アイリの号令に合わせ、ハルは砲門を地の底に合わせて発射する。

 その際、データを取る事は忘れない。着弾地点に<神眼>を飛ばし、黒曜に記録させる。


「うわ、すっげー威力」

「じめん、えぐれてる!」

「建築力に振り切ったからね。砲の威力も強化されてるみたいだ」


 城の全方位から放たれたエネルギー弾は、ガケの下側を粉々に崩壊させてえぐり取っていた。破壊音が城まで届いてくる。

 超強力、と言って差し支えない。遠く見えていた戦火も、その轟音に、ぴたりと戦闘の光を収めるほどだった。


「これは強力だ。超強力だ。使えるねこれは」

「せかいせいふく!」

「違いますよぽてとさん。わたくし達は裏から世界を支配するのです」

「どっちにしろ魔王じゃんか……」


 粉砕した地盤の中から、キラキラとしたエフェクトが一斉に城の方へと飛んでくる。

 どうやら操作したプレイヤーに、問題なく素材は取得されるようだ。しかし飛んで行く先は魔王城。なんだか魂を収集しているようにも見えるのは気のせいだろうか。


「これで素材集めは問題無さそうだ。ルナ、増築の案を起こしてもらえる?」

「それは構わないわ? でもハル? これ以上の攻撃はしないのでしょう?」

「しないよ。ただし表面上はね」

「わるいかおー」


 流石に城からの攻撃はもう行わない。今のは『こういう事も出来る』、という威嚇いかく行動だ。

 これにより危機感を覚えた各チームは、行動力リソースを戦争よりもハルへの対策へ回すだろう。

 もちろん侵食力の押し合いはキツくなるだろうが、最終的に得られる物が増える事の方が重要だ。


「表面からは撃てないなら、内部からやる。これを使って」

「おおー? かわいいね。なんだろうハルさんそれは。だっこしていーい?」

「ゾッくんですよ!」

「僕のスキル……、かな? だから、だっこは止めておこうね」

「ざんねーん」


 取り出したのはゾッくん一号。ハルが目玉を飛ばす代わりに最近は使っている、羽の生えた毛玉のファンシー生物。ちなみに命名はアイリだ。

 これを地中に穴を開けて送り込み、内部から敵領土を削り取って行く。





「前回、ハルさんがどうやって採取してるか分からないって言われてたけど、そんなスキル持ってたんだな。一体どんだけ隠し球があるんだか……」

「そうだね。遠隔操作型だよ」


 実際には前回は目玉を飛ばしていたのだが、言わぬが華と言うものである。


 今は侵食は黄色チームが有利。他チームの土地に魔力が食い込んでおり、その中にゾッくんを生成出来る。

 地中に生成する必要があるが、そこはエーテルボムで穴を開けた。


「中継も出来るよ。ライブ映像を皆で見ようか」

「見えないが?」

「まっくらー」

「……ゾッくんが収まる程度しか穴あけなかったからね」


 <地魔法>で周囲を掘り、<光魔法>で照らす。そのままモグラのようにゾッくんで掘り進めてゆく。


「どこ目指してるんだ? この戦闘フィールドの外周か?」

「マツバ君正解。その更に一番下だね。……流石に遠いな」

「ハル? 城のバフ効果をあなたに乗せれば良いのでは? その玉座がそうよ」

「……禍々しい。この展開狙ってたでしょルナ」


 だが彼女の提案は最もだ。ハルはその玉座、城の強化バフ機能を一点に集中させるアイテムに腰を下ろす。

 すると途端に力が流れ込む感覚があり、ステータスが上昇して行く高揚感が巻き起こった。

 今なら何でも出来る、そう錯覚するほどの一種の快感だ。


「ははははは! いいねこれは! よし、どんどん行ってみようか!」

「ハル君、戦闘時のテンションじゃん。なんか久しぶりだなー」

「魔王へいかー。ははぁー」

「あ、ボクも見たことあるわ。大会の時とかたまにそんな感じだよなハルさん」

「……おっと。最近は戦闘より内政がメインだったからね、どうも。……ぽてとちゃんは顔を上げてね?」

「ゆるされた」


 じろりとルナに抗議の視線を向けるも、してやったりという顔をハルに分かるようにだけ作って見せた。はたから見ればほとんど表情は動かない。

 椅子にブービートラップが仕掛けてあったような物であった。


 それはさておき、強化された力でゾッくんが掘り進んで行くと、じきにフィールドの外延部まで到達した。そこに多少広めの空間を削り取って行く。

 その広間の中に、余った素材でマーズキャノンを設置する。


「……何やりたいかもう分かったけど聞くわ。何すんのハルさん?」

「無論、マーズキャノンで地下から素材回収する」

「ぞっくんが死んじゃうよ?」

「大丈夫だよぽてとちゃん。死なないようにバリア張るから」

「なら、あんしんだね」


 初弾の威力は計測済みだ。どの程度の反動が来るかを、黒曜と共に計算して行く。

 そうして砲撃によって、地下の資源を大胆に回収するのだ。

 最初の一発を耐え凌げば、後はその威力によって開けた空間で安全に作業が出来る。

 素材はゾッ君へ回収され、新しくマーズライトが貯まれば、それを使って二基目、三基目のマーズキャノンを設置する。つまり効率もどんどん、二倍、三倍となる。


「なーハルさん、この映像使って良い? これは見せない手は無いわ」

「良いけど、どうせ次回には修正されるよ。流石にこれは無いわ」

「ないわないわー」

「ハル以外に出来ない……、と思ったけれど、マーズライトだけ必要数集まれば誰でも同じことが出来てしまうのね?」


 運営としては、頑張って採掘した人へのご褒美として設定したのだろう。建築力強化で強くなっているとはいえ、一基作るだけでも一発逆転の威力を秘めている。

 そしてその威力はもう白日はくじつの下に晒されてしまったのだ。むしろ今回から作ろうと思い立つプレイヤーが出てもおかしくない。


「だからそんな危険なマーズライトは、僕が責任を持って全部回収しないとね」

「ハルと同じように、地下を掘り返すプレイヤーが出るかしら?」

「皆さん、あなどれないのですよね!」

「その通りだね。気づく人はすぐ気づくだろう、この魔王城の材料には」

「その前に素材を独占してしまうのね?」

「何処の世界でも、戦争が起こるのは資源問題だね」


 自分で問題を掘り起こしておいて何を言っている、という顔を皆に向けられる。返す言葉も無い。

 そんな中、アイリがこっそりと耳打ちをしてきた。


「でもハルさんは魔力から資源を作れます。現実では資源を奪うことは決して無い、優しい魔王様です」

「……それはどうなんだろうね」


 物質で見れば確かにそうだ。だが魔力も資源として見るならば。

 ハルはその魔力資源を全て支配下に収めようと動いている、強欲な魔王そのものではないか? そんな気もしてくる。

 『それも大丈夫だ』、とでも言うように、ハルの手を握るアイリの体温が暖かかった。


「てかさハルさん。マーズキャノンのチャージこんな早かったか? 今なんかもう設置してすぐ撃ってたじゃん」

「ああ、それね。自陣のキャノンは空間を超えてエネルギーを融通出来るんだ。僕とゾッ君みたいな関係だね」

「無敵かよ……」


 つまり増やせば増やすほど、使えるエネルギーも加速度的に増えて行くのだった。

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