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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1148話 諜報員ごっこの始まり!

 生徒の連合による包囲網を乗り切ったハルたちは、頃合いを見てゲームを去り、通常空間へと戻る。

 すぐに出なかったのは、作戦を諦めた生徒たちによるログアウトラッシュによって、校内に人があふれていたためだ。

 彼らと顔を合わせないように、こっそりと学園を抜け出し家へと戻る。


「休みなのにそろぞろと、廊下に人が多かったねー。あれって大丈夫なん?」

「まあ、もともと常時、開放されてる学園ではあるからね。彼ら自身が顔を合わせちゃうことは、気まずいだろうけど」


 もともとログアウトした者同士がはちあわせないように、帰りに指定されるログインルームはある程度別のポイントに指定されるようになっている。

 とはいえ数がここまでになると、どうしてもぶつかってしまう者も出てしまうのは仕方ない。


「それよりも、ゲームのことを知らない生徒に怪しまれないかが心配だわ? あんなにまとまって校舎内に居れば、なんのもよおしかと思うじゃない?」

「まあね。時にはこうやって、ユーザーが増えていくんだろうか」


 原因はどうあれ、永遠に秘密にしていくことはできないだろう。

 もしかしたら、学園でごく一部の者のみに代々語り継がれていく、秘密の儀式としてひっそりと続く遊びになるのかとも思ったが、そんな雰囲気ではなくなってきた。


 参加者が思ったよりも増えていることもあるが、一番大きなことは彼らの親達にも話が伝わってしまっていることだ。

 利権を求める彼らの行動は止めようがなく、次から次へと派閥と参加者を“増やさせて”いくだろう。


「そうなると、少々収拾がつかない。純粋に楽しんでいる子らには悪いけど、そろそろゲームを終わらせにいくか」


 家へと帰りつき、一息ついたハルたちは、そのゲームの今後についてを語って行くことにする。

 ついに尻尾を掴んだあのゲームの謎の一端。ゲームの運用を支えるエネルギーの出どころ。

 それを足掛かりにして、一気に真相に迫っていきたいハルたちだった。


「終わらせるというのは、『サービス終了』に追い込むということですか?」

「……そう聞くと悪者だね僕は。ヨイヤミちゃんはどう? アイリ」

「寝ちゃいました。元気な子ですが、やっぱり疲れちゃったのでしょう」

「そうだね。ちょっと無理させちゃったかな」


 態度の上でははつらつとした元気な子だが、ヨイヤミはずっと学園の病棟の中で体を動かさずじっとしていた子でもある。

 長い時間の外出は、体力的にやはり不慣れであるのだろう。


「それで、これからどうなさるのでしょう!」

「まあ、実際サービス終了か、少なくとも長期メンテで改修は避けられない。あのゲームの存在が、学園外まで広まるのは困る。これ以上ユーザーが増えるようならば、広まってもいいように仕様変更を加えないと」

「また買収ですね!」

「……またうちのゲームだと思われるのも嫌だなあ」


 あのゲームの存在が明るみに出るということは、未知の空間技術、すなわち魔法の存在も同時に明るみに出ることを意味する。

 ハルも『いずれは』と考えてはいるが、それはさすがに今ではない。このままなし崩し的に公表されることは避けたかった。


「……どうかしら。学外に広まる可能性は低いのではなくて? 情報を掴めば、貴族連中が利権を独占しようと握りつぶすでしょうよ。恐らくは、そこで止まるはずだわ?」

「ですがー、だからといって情報を渡してやることもありませんー。やはりたどり着く前に、証拠隠滅しょうこいんめつですよー」

「そうね? それは同意見よカナリー。むざむざ渡してやることなんてないわ」


 今は時期尚早じきしょうそう、ハルでなくともそう思うだろうが、知れば使いたくなるのが人間というもの。

 確実に混乱が起きるのは間違いない。なので、なるべく彼らにはあやふやにしたまま済ませたいところだ。


 そのためにはやはり、ハルが先んじてゲームの仕様を解き明かし、全体を掌握しょうあくする必要があるのだった。


「ねーねー。外側のこともいいけどさ? 中はもういいのん? 確かに連合は退しりぞけたけど、あれで終わりじゃないよね」

「まあ、そうだね。ユキの言う通りだ」

「ゲームクリアした訳ではありませんものね! お二人は、まだ戦いがあると考えているのですか?」

「うん。あるよアイリちゃん。今回、敵が諦めたのはソウ氏が攻めてきたからだけどさ」

「ですね! 地下に潜伏して、牙を研いでいたのです……!」

「そのソウ氏が、きっと次はハル君にリベンジ仕掛けてくるよ」

「むむむ、敵の敵は、次の敵ですか……」


 味方、とはなりえない。今回は利害が一致しただけ、力を取り戻したソウシは、再びハルを倒さんと攻めてくることは確実だろう。


「まあとはいえ、彼らも一戦終えての補給と、広がった国土の再編成がある。ここですぐに、って事にはならないさ」

「その間に、調べられるだけ調べましょうー」

「だね」


 学園から供給される、謎のエネルギーのこと。そして、未だに謎な魔力源に関する謎もある。

 今回手がかりが得られたのは、エーテルネットにより解析できる部分、あくまで物理的な面のみに限られるのだ。魔法に関する謎は、まだまだ変わらず謎のまま。


「けど、調べられるところから、一つひとつ調べていこう。そうすることで、きっと次の手がかりも見えて来る」

「はい! がんばりましょう!」


 そうしてハルたちは、まずはあの学園その物に目を向けて、調べを進めていくことにした。

 世間の目から隠れ、ひっそりと事を進める為だと思われたその立地。しかしどうやら、その学園の方にも何らかの秘密が隠されていたらしい。


 その足元の秘密を、直接探し当ててみせるとしよう。





「僕はこれから、ユキと物理的に学園を探る。ルナはカナリーのサポートで、学園と関りの深い人達を探ってみて」

「《了解よ? 珍しく、お母さまは頼らないのかしら?》」

「……珍しいとか言わない。奥様はお忙しいしね。それに、今回は奥様も、また僕に隠していることがあるはずだし」

「《あら意外。あなたがお母さまを疑うなんて》」

「別に無条件で妄信している訳じゃないんだけど……」


 ただ、信頼が少し行き過ぎており、多少の裏切りは許容できるだけである。

 ……それを妄信と言うのかも知れないが、ハルとしては恩義と思いたいところであった。


「んで、うちらはどーすん? というか、なんで私? リアルミッションじゃ役に立たないよ?」

「そんなことないよユキ。その体は高機能だ。その体に入ったユキなら、リアルでもゲームみたいにこなしてくれるさ」

「にゃんにゃん♪」

「私は不安だぞーメタ助ー。ゲームみたいに、警備員を倒しちゃったら大変だし」

「経験値はもらえないね」

「《お金は、貰ってしまうのでしょうか!》」

「いや、このご時世、現金を所持している人がどれだけいるか。むしろ慰謝料いしゃりょうで、倒すとこっちの資金が減るかも知れない」

「やーめーれー。不安になるー」


 そんなブラックジョークを交わしながら、ハルとユキ、そしてメタは再び学園内に侵入を果たす。

 今度はゲームへログインする為ではない。出どころ不明の、エネルギーの発信源を探るためだ。


「ふみゃう!」

「そうだねメタちゃん。気を付けていこう。生徒とばったり鉢合はちあわせでもしたら面倒だ」

学校がっこにネコ連れ込んでるのは、どのくらいの校則違反なん?」

「わからん……」

「にゅ~?」

「見つかったら大変だぞーメタ助。きっと捕まって、カゴに入れられちゃう」

「にゃごっ!?」

「……ちなみにユキも見つかったら大変だからね? 君はここの生徒じゃないんだから」

「じゃあなんで連れてきたん!?」


 ごもっともである。まあ、ハルだけで来るのが現状ベストなのだろうが、置いて行ったら行ったで仕事が無くて寂しそうにするのがユキだ。

 自分は足手まといではないと自信をつけてもらう為にも、今回は一緒に探索してもらおう。


 それに、実のところユキは今回非常に役に立つ。ある意味、お役立ち度はハル以上だ。


「さて、そろそろカメラの設置範囲を抜ける。ここからは今まで以上に、敏感に気配を察知しないとね」

「ほーい」

「うみゃーっ」

「じゃあユキ、生体検知センサーを起動して」

「……いやそんな急に言われても。どーやるん?」

「みゃみゃっ! にゃんっ!」

「おお、こうか。サンキューメタ助」

「にゃうにゃう♪」

「《……いやなんで分かるのよあなた。そんなに機械に強かったかしら?》」

「いや、今は自分の体だし? ゲームで、自キャラの操作に疑問を持つことなんてないっしょ?」

「《そうだけれど、疑問がなくとも分からないでしょうに……》」

「《すごいですー!》」

「ルナちーもアイリちゃんも、もっとゲームすりゃ分かるさ」


 ……たぶん無理である。これは、ユキの異常なゲームセンスあってのことだ。


 ユキは今、完全機械製のロボットボディへとログインし、ゲームキャラを操作するようにハルと行動を共にしている。

 その意識はほとんどゲームしている時と同じ状態で、ボディの操作もキャラの操作と同じイメージだ。

 なので本来、専門的な知識を必要とする内蔵された各種装置の運用も、そのセンスでまさに『自分の体のように』扱えるのだった。


「そんで、カメラが無い場所っていうと、学生に関係ない場所だよね?」

「うんそう。各種特別な研究施設が入ってるような、特別棟をまずは調べる。リコたちみたいな特殊な学生くらいは居るかもね」


 ゲームの参加プレイヤーの動向を調査するために、ハルたちの仕掛けた物理的な監視カメラ。当然それは、生徒の行動範囲に限った設置だ。

 ここからそれの範囲外に潜入する。ハルは手持ちのモニターの画面を、ユキの起動したセンサーのデータへと切り替え警戒を強めた。


「さて、白昼はくちゅう堂々の、リアルステルスゲームといこうかユキ、メタちゃん。邪悪な学園教団に隠された秘密を、暴くのが今回のミッションだ」

「みゃうみゃう!」

「いや教団じゃないっしょ。どー考えても」


 そんな、潜入ミッションがスタートする。二種のエーテルを寄せ付けない、完全な機密空間には、いったい何が封印されているのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 死神ハルに目をつけられて生き残ったゲームはありませんねー。戯れにサ終へ追い込んでいきますよー。技術も人材も全てはハル様のものですねー? はて、どこかで聞いた話のような……? そんな他社のゲ…
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