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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1145話 半物半魔の動力源

「知ってるって、ヨイヤミちゃん? それはなにか開発中のものを、ネットで見かけたとか、そういうこと?」

「《んーん。これはね、あの学園の中を覗き見してた時に聞いちゃった情報だよ。あの学園の敷地内はねー、だいたいが私の力の射程内なんだから!》」

「なるほど……、スタンドアロン環境の最強セキュリティも形無かたなしだ……」


 なにせネットを介さず自分の視界に侵入されてしまうのだ。その状態で研究成果を隠すことなど不可能である。

 まさか、目をつぶって研究する訳にもいくまい。なにより、ハルでもなければ自分の脳に侵入されたことにすら気が付かないのだから。


「それで、ヨイヤミちゃんが見たって研究はどんなの?」

「《あっ、怒らないんだ……》」

「いや、僕が言った所で、『どの口が言ってる』としかならないし……」


 今も背後で、無許可で晒され続ける生徒たちの様子が映るモニター。それを映しながら、『勝手に覗き見しちゃいけません』なんて言っても説得力のかけらもないだろう。


「《んーとね。別の空間、別次元からエネルギーを取り出すんだったかな。なんか凄い画期的で、夢のエネルギーですよーって、世界を取れますよーって、偉そうな人が、もっと偉そうな人に語ってた》」

「……なんだか、急に胡散臭うさんくさくなってきたわね?」

「《う、嘘じゃないよ!? 私、本当に聞いたの……》」

「ええ、大丈夫よヨイヤミちゃん? あなたを疑ったりはしていないのよ? でもね、ヨイヤミちゃん。あなたが聞いたことが、本当の話とも限らないの」

「《出来もしないことを、資金欲しさに適当テキトーぶっこいてたってこと?》」

「……そうだけど、お口には気を付けましょうね?」

「《わ! こっちは本気だ!》」


 まあ、よくある話だ。研究費欲しさに、本人も『出来はしないだろう』と確信している内容をぶちあげる。

 いざ許可が下りて資金が入れば、あとは適当に研究した振りをして過ごし、期日が来たら『やっぱり無理でした』と報告すればいい。


「《……でも、本当にそんな感じじゃなかったの。嘘じゃないよ? なんかもう、研究は出来てるというか、あとはその人の、許可が欲しいみたいな》」

「ふむ?」


 ずいぶんと、慎重に言葉を選んでいる雰囲気のヨイヤミだ。いつもは快活にハキハキと喋る彼女にしては、珍しいことだった。

 とはいえ、その表情はいつも通りの無表情のまま動かない。そのためハルでもそこから彼女の内心を推し量ることは出来ないが、それでも、言葉の端々(はしばし)から緊張が伝わって来る。


 恐らくは、これが彼女の隠している、というよりもまだハルたちにも伝えていない内容に関わる事。

 これを、本当にハルたちに伝えていいことなのか。その決心が、きっとついていないのだろう。


「……なるほど。ヨイヤミちゃんの話は、もちろん全面的に信じよう。しかし信じた上で、分からないことがある」

「どったんハル君? 信じたんなら、それが事実って前提で動くんじゃないのん?」

「いや、事実をベースとして動くならだユキ。他にも考えるべきことがある。材料やエネルギー源だ」

「なる」


 別次元からエネルギーを取り出す。夢物語にしか聞こえないが、実際、不可能ではない。

 むしろハルたちは既に実用化しており、ある程度それを自由に扱える状況と言えるのだ。ある意味誰よりも可能であることを知っている。


 しかし、知っているからこそ、分かることがある。夢のエネルギー機関に聞こえるが、そうそう都合の良いものではないということ。

 もちろん非常に効率のいい仕組みではあるのだが、まずその『扉』を開くためには莫大なエネルギーが必要だ。


「その『呼び水』を生み出す為のエネルギーが、この学園では用意できない。エーテルが無いんだからね」

「外から持って来ればいいんじゃないの?」

「そうした『輸入』に関しては、ハルさんや月乃お義母かあさんが目を光らせているのですよね?」

「うん。そうした資材が持ち込まれた形跡はない。そもそも、そんな研究はこの学園の中では行われていないことになっている」

「そこは、分かったものじゃないわ? そんな建前、今どき誰が信じるのかという話よ。むしろあなたは、何でそう素直な前提を持っているのよ?」

「まあそれは、奥様が信頼している学園だから、としか……」

「……またあなたは。余計怪しいじゃないの。お母さまを妄信しすぎよ? むしろ甘やかしすぎね?」

「逆にルナは奥様に厳しいね」

「当然でしょうに? むしろ、今でも母と慕っているだけでも感謝してほしいわ?」


 おっしゃる通りであった。彼女の出自を考えれば、縁を切っていたり、あるいは敵対していてもおかしくない境遇だ。

 まあそうした月乃の怪しさについてはハルも認めざるを得ない。なにしろ一度、月乃には出し抜かれているのだから。


「《どこのおうちも大変なんだねー。良く分からないけど、月乃お母さんは私のクソ親より何倍も優しい良い人だと思うけど》」

「騙されちゃダメよヨイヤミちゃん? あの人はああ見えて悪い人。いい? あとお口には気を付けること?」

「《はーい》」

「……まあ、奥様の思惑はともかく、物理的に不可能なのは変わらない。『輸入』品にその手の機材はなかったし、自力で作り出すにも、エーテルの無い学園では現実的じゃない」

「地下にヤバい出力の核融合発電機でもあったり? もともとさ」

「《あはは……、どーだろ……》」

「その、ユキさん……、そんな物があるなら、それを直接使えばいいのでは……?」

「しまった!」


 とはいえ、この学園にはまだハルも知らぬ、何かしらが存在することは間違いなさそうだ。

 雷都氏のように、外部の監査を受けないこの聖域にて、他にも何かしらの企みを企てている者が存在することは確実だろう。

 迫る彼との『面接』の際に、その辺の事情も聞き出せればいいのだが。


 さて、そうしたゲーム外の事情は今は後回しにしよう。ハルのすべきことは、この世界で起きている事象じしょうを解析し、人ではなく神の企みを解き明かすことなのだから。





「……しかし、今の話で少し思ったのが、僕はエネルギー源について、発想が少し凝り固まっていたかも知れないってことだね」

「《お役に立てた?》」

「ああもちろん。また気が付いたことがあったら、どんどん教えてね?」

「《う、うんっ!》」


 作り笑顔を構築して、ヨイヤミが喜びを表現する。全てがマニュアル通りの、ある意味どんな作り笑顔よりも血の通わない笑顔だが、ハルにはそれがどんな笑顔よりもまぶしく見えた。


 さて、そんなヨイヤミが伝えてくれた情報からハルの思うこと。それは、このゲームの運用エネルギーは実は魔力ではないのではないか? ということだ。

 いや、もちろん魔力は使われている。この異空間を構築しているのは間違いなく魔法だし、この場所にプレイヤーを転移させているのもまた魔法だろう。


 しかし、ゲームそのものはどうだろうか? 世界を構成しているのは神力ではあるが、それは『神』とは名の付くものの、ふたを開けてみれば重力制御技術。

 他にエネルギーさえあれば、魔力を使わずに再現することも可能かも知れないのだった。


「アルベルト。この世界のオブジェクト生成、既存のエネルギーで賄えるか?」

「可能ではありますが、著しく非効率ですね。お勧めはしません。それだけのエネルギーが手に入るならば、もっと別のやり方があるのではありませんか?」

「確かに……」

「《そこは、まだ却下せず考えてみるべき内容じゃないっすかね?》」

「エメ。どうした? 何か思い当たることでもあるかい?」


 ここで、天空城に待機しているエメが口を挟んで来た。別の次元に関する知識については、こう見えて彼女は専門家といえる。話に耳を傾けてみてもいいだろう。


「《要はハイブリットにすりゃいいんすよ。ガワだけは既存の方法で組み上げて、物理的に影響を及ぼす効果を発揮する時だけ、そのなんちゃらな謎エネルギーを持ってくる。そうすりゃ、どちらも最大限節約しつつ、双方の良いとこどりが出来るっす》」

「ふむ。限られた資源の中での、涙ぐましい努力という訳ですか。シャルトのようですね」

「その限られた資源を湯水のように食いつぶすアルベルト、反省しなよ?」

「はっはっは。敵にダメージを与えられますし、いいじゃないですか」

「ふーみゃっ♪」


 増殖を司る繁栄の担当者は、基本的に節約など知ったことではないようだ。惑星規模の環境改善を手掛けるメタも同じ。

 節約などしていては、大事は成せないのである。大量消費、大量生産。


「しかし確かに、その説は興味深いね。エネルギー源が複数あるとは、考えていなかったよ」


 ある意味で、魔法以外を軽んじていたハルの落ち度といえよう。

 しかし、そう思ってしまうのも仕方ないと思って欲しいところだ。ただでさえ神はこの地球に物理的干渉を行うことが難しく、特に舞台が学園。

 エーテルを排除したこの学園は、ある意味で日本で最もエネルギーに乏しい空間と言っても過言ではないのだから。


「……そんな中で、もしヨイヤミちゃんの言うようなエネルギー源が存在したら。それはちょっと、調べてみないといけないかもね?」

「《その、私も、チラッと見ただけだから……》」

「大丈夫ですよヨイヤミちゃん! ここからは、ハルお兄さんが調べてくれますからね! 安心して待ちましょう!」

「《う、うん! わかった!》」

「いやそう期待されると、何も出なかった時にいたたまれないんだけど僕……」


 まあ、やれるだけやるだけだ。何も出なければまた、いちから状況の洗い直し。

 今までもそうして来たように、これからもそうして行くだけである。研究の道なんてものはそうした地味なものが九割だ。突然、天才的なひらめきが連発する訳ではない。


「じゃあ、カナリー。その方向でやっていこうか」

「ほいほーい。それじゃー、物理的エネルギーが発生している現場を探りましょーかねー」

「頼んだ」

「頼まれましたー。んー、電気ばちばちのうちの国は、ばちばちすぎて分かりにくいですねー。じゃあ、ここは戦争中の他国にしましょー」


 カナリーが脳内で探査範囲を移し、それに合わせてハルもそのポイントをモニターに映す。

 そこではソウシの配下と思われる生徒と、ハルを包囲していた連合の生徒が激しいぶつかり合いを起こす戦場を構築していた。

 ハルの世界側の国境は今紫のきりで覆ってしまったので、彼らの主戦場はそちらへと移っている。


 さて、この派手に兵たちを吹き飛ばしている爆風。その演出の為のエネルギー、一体どこから調達してきたものか、解析し判明させることは出来るのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] とうとう邪悪空間の片鱗が露わになりましたかー。目の前の大事が落ち着いたら徹底解体の時間ですねー。そのためにもまずは、仮定新しいエネルギーの正体を明かして使う潰す算段をつける必要がありますね…
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