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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1138話 互いを信じぬ烏合の衆

 平野を埋め尽くす大量の兵士達。それらは多種多様な見た目で入り乱れながら、じりじりとこちらへ向けて侵攻を進めていた。

 ハルの世界のやり方について学習した彼らは、もうむざむざ銃火器にやられてばかりいる者達ではない。

 多国籍軍ならぬ、多派閥軍で集まって、即席ではあるものの銃弾に対して効果的な連携を組み上げていた。


「見てみなよアイリ。彼ら、なかなかやるね。まるで『組み方ユーザー任せの選択肢多すぎゲーム』で、最適なビルドを発見したプレイヤーみたいだ」

「シナジーのあったキャラが、集結したのですね! ……ということは、この場に居ない方々は『死にキャラ』の皆さまなのでしょうか?」

「やめよう、これ以上この話をするのは……」

「どーせ最適解しか使われずー、しかもその最適解は次のバージョンで潰される奴ですねー?」

「わたくし、完成品を遊んだことしかないので、よく聞く“なーふ”にも興味があるのです!」

「どーせ最適解しか使われないのに、それ以外のキャラも使って欲しいという開発者の心の叫びなのですよー?」


 多種多様なキャラの用意されたゲームで、それらを自由に組み合わせて自分だけの組み合わせを楽しむゲームは多い。

 しかし、いかに組み合わせの構築ビルドの総パターンが多けれども、実際に使われるのは決まった数パターンのみ。

 使われない不遇ふぐうなキャラを救うため、開発者はそんな上位キャラに下方修正を見舞うのだ。


 なお、弱いキャラを上方修正すればいいのではないかと思うかも知れないが、それをやると今度はゲーム全体のインフレを招きかねないので、どちらにせよ難しい話である。


 余談であった。このゲームも、そんな組み合わせるためのキャラが大量に、しかも自動生成される構築の楽しいゲームなのかも知れない。


「おー、あれはー、鎧と盾を持った兵士がじわじわと前進してますねー? しかし、電磁銃の集中砲火にみまわれて平気な材質には見えませんー」

「それを何とかしているのが、シナジーのきもなのでしょうか!」

「だろうね。あの後ろの方に、祈祷師きとうし風の兵士が居る。あの戦場に似つかわしくない人達が、いわゆるバッファーやサポーターにあたるんだろう」


 ゲーム風に言えば、『防御力アップ』の魔法をかけてくれる心強い味方だ。他者と相乗効果シナジーを出すことを前提とした作りである。


 基本、個人による国家運営の色が強いこのゲーム。そうした他人が居て初めて真価を発揮する兵士が生まれる例は少ないだろう。

 そんな生徒は個人として覇を競い、それを勝ち取る見込みはないだろうが、こうして連合戦となれば引っ張りだこ。

 勝手な想像だが、生徒本人も『自分がトップじゃなくていい』という気質の持ち主なのではないかとハルには思えた。


「さて、そんな敵グループだけど、どうやって攻略するのがいいと思う?」

「はい! もちろんまずは、奥に控えるサポーターを狙い撃ちです! そうして前衛がひるんだ所で奥の遠距離攻撃をする兵を片づけて、手も足もでなくなった前衛を、最後にゆっくり頂くのです……!」

「しかしー、ハルさんの口ぶりから今回はそういったセオリーは踏まないのでしょー?」

「そうだね。今回はあえて、盾の兵士を硬いまま撃破しようと思う」


 それはそれで、正攻法セオリーどおりではあるが、ハルの考えている流れはそうした王道とは程遠い。

 前衛を力押しで片づけて、そのまま無防備となった後衛まで一気に蹂躙じゅうりんする。セオリーを語るなら、そこまでやってこそだ。だが今回はそれをしない。


「盾を処理し終わったら、そのまま別のグループに移るよ」

「がら空きになった後衛への道を、あえてスルーするということですね!」

「そうだよアイリ。敵ももちろん、そのことを不思議がるに違いない。『まさか何かの大掛かりな作戦か』、ってね」


 その疑念を植え付けたら、作戦は第二段階だ。それを現実のものとするために、まずは第一段階を達成せねばなるまい。

 アイリの操るゾッくんは、それを実現する為の凶悪な装備の数々を、体内から取り出していく。


 白いふわふわな体から次々と突き出るのは、黒光りする無骨な銃身。ハリネズミのように体中から飛び出したそのトゲは、一本一本が人に向けることもはばかられる極悪兵器。

 生身で受ければ原型すら留めず吹き飛びそうなそれらを一斉発射して、支援を受け硬くなった盾兵を一気に蹴散らしにかかった。


 防衛のため配備された機銃の数々も寄せ付けない強化盾だが、さすがに特殊ユニットの装甲にすらヒビを入れる大砲の乱射には分が悪すぎる。

 ついでのようにゾッくんの目から放たれるビームにより、盾ごと鎧も溶かされてしまい、陣形は次々と崩壊して行ってしまった。


「すごいぞ、ぼくらのゾッくん! ですね! 世界樹システムも絶好調です!」

「送電量がケーブルの時以上ですねー。体から飛び出る兵器の数も、増えてるでしょー?」

「そこに気付くとは、流石はカナリー様なのです!」


 ゾッくんが急遽きゅうきょこの場で植林した一本の木。それが電源ケーブルの代わりとなり、砲弾をガトリングのように連射する為の消費電力を支えている。

 直感に反することこの上ないが、その出力は無線であるのに有線より上。特殊ユニットとの戦いの際よりも、更に飛び出る砲の数は増していた。


 その多数の砲門も、アイリはただ闇雲に乱射している訳ではない。一門一門を正確無比に、無駄なく敵兵に狙いを定めている。


「《アイリお姉ちゃんすっごーいっ。まるでオートで狙いつけてるみたい》」

「これが、わたくしたちの合体の成果なのです! さて、ここはあらかた片付きました! 次です!」


 前衛がなぎ倒され、後ろで守られていた部隊への道が開く。

 次は自分たちの番かと隊列が動揺で乱れるが、アイリはそこに砲弾を撃ち込むことはしなかった。

 まるで急に興味を無くしたかのように、別のグループへと飛び出た砲門の数々を向ける。


 射線を向けられた次の前衛は、せめて狙い撃ちにされないようにと散開を始めるが、今度は彼らにアイリは興味を示さない。


「このグループは、前衛の防御力はさほどではないようですが、水の壁による魔法防御で、銃弾を防いでいるようですね!」

「《んーとねー。そこはその魔法使いさんが担当かなー》」


 ヨイヤミの指示通り、アイリは水の盾を作り出している後方の部隊まで、空から強引に狙い撃って彼らを粉砕する。


「ここは、特殊ユニットで守っているようですね! 音波を発射して、銃弾と撃ち合っているのでしょうか!」

「《そいつはねぇ。放置かな? ソレにエサ運んでる人達がいるでしょ? その中の、緑色の服の人が対象の派閥でーす》」


 特殊ユニットのコストとなる物資を運搬する為の作業員が何種類かおり、そのうちの一種だけをアイリは精密に間引いてゆく。

 なおユニット自体の稼働は止まらないが、気にせず放置だ。アイリは更に次に目を向ける。


「むっ! この航空兵力は、脅威そうですね!」

「《あー、それねー。別の派閥だけど、どーするハルお兄さん?》」

「放置で。人形兵が対応にあたってくれるだろう」

「はい!」


 高所を飛行可能な鳥人の兵士が突破を試みても、ゾッくんは目もくれない。

 同様にゾッくんの植えた木を破壊し、動力源を断とうとする部隊が現れても、ゾッくんはこれを無視。新たに別の木を植えるだけだった。


 ここまでくれば、全ての者がゾッくんの行動が偏りすぎていると気付く。そして素人しろうと丸出しの無秩序というには、その砲撃は正確すぎた。


「そして、当の派閥だけはハッキリ気が付いているだろうさ。狙われているのは自分たちだけだってね」


 彼らの兵士は倒して終わりではなく、国土ある限り補充がきく。しかし、その援軍すらも、アイリは目に入り次第すぐさま戦場から排除してしまうのだった。


「……そろそろ、効果が出始めましたね。わたくしがやっておいて何ですが、これは思ったよりキツいはずです」


 そんな援軍も、徐々にその頻度が減って来る。

 まずは一つの部隊が顔を見せなくなり、それを見た部隊が一つ、また一つ。戦場から姿を消していく。

 次第には同じ派閥の者達の一切が、この平原からもれなく姿を消してしまったのだった。





「彼らは、別に固い絆で結ばれた連合じゃない。今回だけの寄せ集めだ」

「そこで自分の派閥だけが狙われれば、自分たちがめられたと思うのです!」

「《でもそう上手くいくものかなぁ? だってゾッくんは、ハルさんの国のユニットだよ? それじゃあ、ハルさんも連合と結託けったくしてたことになっちゃう。ハルさんを嵌めるための連合なのに、おかしくない?》」

「別にゾッくんがハルさんのユニットだとは、彼らは知らないのです!」

「《うわ。そうきたかー》」


 もちろん、よく考えればすぐに分かることだ。この状況で出てくる特殊ユニットはハルの国のものに決まっている。


 ……しかし、彼らの絆の浅さがその判断を誤らせる。もしかしたら、どこかの派閥がこっそり裏から手を回し、自分たちを排除しようと送り込んだユニットなのではないかと。


「実際、全ての生徒が完全に手を組んだ訳じゃないしね。寝首をかかれるリスクは、常に警戒していたはずだ」

「そうなのですか?」

「うん。ソウシ君とか参加してないでしょ?」

「確かに! ずっとわたくしたちの国に囚われて大人しかったので、忘れていました!」

「あはは……、忘れないであげて……」


 このゲームにおける敵は、なにもハルだけではない。もしここでハルと共倒れになる事でもあれば、不参加勢力の一人勝ちになるのだ。


「と、そんな背景もあって、ちょっと疑心暗鬼ぎしんあんきを煽ってやればこうなる」

「残った派閥も、『次は自分か?』と互いに互いを信用できなくなっていそうですね!」

「だってこの明らかに妙な事態を、自分たち“だけ”は知らないんですからねー。自分たち“だけ”が知らされていない作戦だって、勘ぐっちゃいますねー?」

「《うわぁやだなぁ。大人らしいやり方だなぁ。大人きったなぁい、大人腹黒ーい》」

「それもこれも、普段から自分たちが陰謀ばかりめぐらせているからそうなるのです! 貴族なんて、そんなものなのです!」


 策士策さくしさくおぼれる、というやつだろうか。

 普段から不可解なことがあれば、それは他派閥の工作である。ならば今回もそうに違いないと、無意識で思い込んでしまうのだ。


「……さて。この戦場は十分に荒らせたようだね」


 連携をとって攻めて来ていた者達が、その連携コンボをめちゃくちゃに崩された。

 疑心暗鬼の部分を抜きにしても、この状態ではハルたちの防衛ラインを突破できる見込みは薄れただろう。


 パーティから一枠欠員が出たようなもので、戦士の役、魔法使いの役、回復術師の役、穴埋めとなる人材を補充しなければならない。

 その再編成にも相談の時間がかかる上に、今の精神状態ではまともに相談が可能かは疑問なところだ。


「さて、冷静になるまで彼らは戻ってはくるまい。それに、事は『派閥』の話だ。これは他の戦場にも波及はきゅうする」

「その混乱に乗じて、ハルさんは計画を進めるのですね!」

「《黒い、お兄さん黒いよー。なになに? 神なだけじゃなくて悪魔でもあったの?》」

「魔王さんなんですよー?」

「……いや、物量に任せて来られたら困るのはこっちなんだ。策ぐらいろうさないとね」


 敵も敵で色々と考えてはいるようだが、ハルにとって最も嫌なことは、何も考えないで力押しする事なのは皮肉である。

 しかし、そうさせないように動いていたのがハルだ。ハニカム地帯防衛網をはじめ、策を練らねば突破できないと印象付けた。


「《ところで、これからどーするのかなハルお兄さん? 連携を分断して、各個撃破? そーゆー感じじゃなさそうだよね》」

「良く分かるねヨイヤミちゃん。そう、各個撃破して一部に退場してもらっちゃ、困るからね」

「ハルさんの目的の為には、なるべく多くの国に地続きになってもらいませんと!」

「《ふむふむ? とゆーことは、ここから更に参加国を増やす気なのかな?》」

「本当、優秀ですねーヨイヤミちゃんはー。独学ですかー?」

「《いやー。正直よくわかんないんだけど。でもさぁ、この包囲網のお外に、更に包囲してる世界がいくつもあるしー。みーんなログインして、こっちの様子うかがってるよ? お兄さんどうせ、この人たちも巻き込むんでしょ》」

「うん。さっき言った、ソウシ君の派閥とかだね。せっかくだから彼らにも、お祭りに参加してもらおう」


 ハルによる、この戦争の勝敗とは関係のないところのデータ取り。その為にハルは、更に戦火を拡大しようとしていた。

 やっていることは戦争請負人フィクサーでしかないが、本人が渦中なのでそこは許して欲しい。


 そんな、ハルによる包囲の打開とデータ取りの一挙両得いっきょりょうとく。その作戦が、本格始動しようとしていた。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 費やした時間と集めた情報と信じて突き進めた成長ツリーが強さや個性となり、しかもその出自には自らの思い入れなりなんなりが込められている訳ですからねー。理屈の分からぬ全体の利のためというお題目…
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