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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1124話 再来の毛玉

「それじゃー、まずはデザインから決めていこー。ここは世界創造とおんなじ要領で、自分のイメージしやすいように進めていくといいじゃんね」

「はい!」

「ほーい、リコちん先生ー」

「改めて言われると、迷うわね?」

「《ハルお兄さん、私もやっていいのー?》」

「ああ。ヨイヤミちゃんも作っておいた方が良いだろう」

「まーた増えてんじゃん?」

「今回はちゃんと同盟国の子だよ。ヨイヤミちゃん」

「よろ~。ヨイヤミちゃん~」

「《よろ~》」


 リコからまずは戦争時の切り札となる、特殊ユニットについて教導レクチャーを受けるハルたち。

 しかし、これも全員が生成可能な訳ではない。アイリ、ユキ、ルナが実際に取り組んでくれるチームで、ハルとカナリー、ついでにアルベルトとメタも勿論見学だ。

 ハルたちは、国土と同様に想像作業には関われない立場であった。相変わらずの疎外感だ。


 最初は形を決める工程とあって、講師役のリコも含めて見ているだけ。

 その間に、暇な二人でおしゃべりでも、となるのは当然の流れであった。


「……えーっとさ、ハルさん」

「なんだい?」

「待機中にさっきの話、聞こえて来ちゃったんだけど、あれって、聞いちゃって大丈夫なやつかなーって」

「だめですねー。消されちゃいますねー?」

「まっじで!? ウチはなにも聞いてない! 不可抗力だー!」

「聞いてるじゃん。まあ、じっさい問題ないというか、わざと聞こえる位置で待機してもらってたよ」

「ほほう……」


 先ほどの話、つまりは雷都氏と対立していることや、学園に疑惑を抱いていること。

 それらのハルたちの内緒話を、舞台のそでにて聞いてしまったことを不安がっているのであろう。


 もちろん、これはハルのミスではなく、あえて聞こえる位置にリコを配置したのだ。

 このゲームに関して、その根本的な構造に関して、他の立場の者からも話を聞いていきたかった。リコは、信頼できる人物だとハルは感じている。


「今さらだけど、このゲーム、普通じゃないよね」

「まあ、そりゃそうじゃん? みんなあえて口にはしないけどー」

「でもそろそろ、『なぜ普通じゃないのか』気になって仕方のない者が増えて来ちゃった段階になってるんだ。僕らも含めてね」

「ウチはてっきり、またハルさんの仕込みかと。エー夢もぶっちゃけ、普通じゃなかったじゃん?」

「あれは僕らは買収しただけなんだけどね。本当に……」


 あちらのゲームにもどっぷりと漬かっているリコには、超技術の産物であるという淡い疑惑が芽生えてしまっているようだ。

 しかし、そんなぼんやりとした疑惑ではなく、こちらは誰がどう見てもおかしい。

 おかしいと思いつつも、あえて学生は皆口には出さずに遊んでいるのだが、そろそろ、そんな見て見ぬふりの効く段階ではなくなってきた。特に、大人達を中心に。


「親世代に話が伝わるほど、ここの特異さが浮き彫りになっていく」

「いやだねぇ。子供だけの秘密の遊び場が、大人のつまらない事情で荒らされるの。まっ、ウチらは最初からそこ調べるのも遊びにしてたから、いーけどね」

「リコの派閥?」

「うぃ。主に研究生グループ。機械とか好きな変人達でーす」

「きちんと研究してますかー?」

「あい、そこそこやらせていただいてまーす! ……実態はほぼゲームサークルなのはナイショだ」


 とはいえ、そこを突かれない程度には実績を出している要領のいい集団なのだろう。

 リコを含め皆、この学園の通常課程を卒業した者であるが、学園の敷地内で生活し、学生と教員の中間の立場といったところか。


 この学園はエーテルネットワークから遮断されているという特殊な環境であるため、その環境を求めて、学生以外にも様々な外部組織がのきを連ねている。

 例の病棟に始まり、以前ハルたちがお邪魔したサーバールーム。その他、特殊環境での実験施設などなど。

 前時代でいえば無重力環境を求めて宇宙ステーションに実験棟を置く研究者と同じ感じのものだと言って相違そういない。


「どうですー? そんな貴女方から見て、学園その物は怪しいですかー?」

「んー。微妙びみょ。そりゃ、怪しいか怪しくないかでいえばゲキあやだけどね。これの主催って感じはしない感じ?」

「ふむ?」

「ウチ、いろんな機材を搬入してくる業者さんとも仲いーけど、彼らを使って準備したり制御したりしてる様子は全然見られない」

「そうだね。外部からの危険物持ち込みなんかは、僕や奥様もよくチェックしているけれど」

「うわーお、噂の情報ヤクザさんのお仕事の一部を垣間見ちゃったー」


 あくまでリコの抱いた印象のみではあるが、学園その物の動きは、このゲーム以前と以後では大きく変化はないという感覚らしい。


「……なんてーかねぇ。もっと、長期スパンで何か考えてる感じするよー。あっ、いや、怪しいかどうかは不明ふめー。もしかしたら、純粋に理念の通りの研究目的なのかもしれないしぃ」


 もしエーテルネットが突如消失しても、問題なく生きていける人材の育成。また、その際の復興の為の技術の保全と進歩。

 そんな立派で社会の為となる、額面がくめん通りの利益度外視の学術機関。

 怪しすぎる学園の心の顔が、そうした物であるというオチだって存在してもおかしくないだろう。


 だがハルには、なんだかここの所、この学園について胸にもやもやしたものを抱え、その感覚の処理に苦心する日々なのだった。

 これが本当に杞憂きゆうならば、よいのだが。





「よーし、出来たかにゃー、少女たち?」

「はい! できました!」

「自信はないけれど……」

「私は二体目じゃ。もはや、慣れたものよ!」

「おーけーおーけー。んじゃ、見て行こうじゃん?」


 リコと話している間に、アイリたちのユニット作成が終了したようだ。自信満々に、または恥ずかしそうに、新たなユニットを発表してくれる。

 まず、一番手は目を大きく見開き眉を勢いよく吊り上げた、得意顔のアイリからだ。『むふー』、と言わんばかりにその自信のほどが伝わって来る。


「でかゾッくんです!」

「おやおや。これも懐かしい。ハルさんの使ってた偵察機だよねぇ。てか今さらだけど、アイリちゃんさんの存在それ自体にもツッコミ入れていい?」

「いいけど、知ったら戻れないよ?」

「はいっ! やめときまーすっ!」

「リコちん、いさぎよいぜ……」


 アイリの生み出したユニットは、以前ハルの『目』であった監視マスコットの『ゾッくん』だ。当時より、そのサイズは大幅に巨大化している。

 ふわふわの毛に包まれた丸くて可愛らしい体から、ファンシーな翼が生えている。シルフィードもお気に入りだ。


 リコも同様に、この姿を当時目にしており、その時の記憶が呼び覚まされたようだった。良い記憶だといいのだが。


「ゾッくんはお空を自由に飛ぶのです。飛ばせるように出来ますか?」

「モチよモチ! ウチのヘリだって飛んでるじゃん? 飛ばせられなかったらウケるよねー。地上でじたばたするだけの置物になんの。ほんとウケる」

「ウケてる場合か……」


 手痛い失敗では済まないだろう。大幅なリソースの無駄である。

 そんな先人の勇気ある挑戦の成果によって、アイリの巨大ゾッくんは飛行が可能であることは事前にほぼ確定していた。


「でも飛ばすにはかなり容量食うから、そこは了承しといてねー。あの六本腕ちゃんみたいに、超高速は出せないと思うよ」

「了解です!」

「そんな感じで、ユニット作成は『何かを入れたら何かを諦める』ってのが基本ねー」

「ポイント割り振り系ってことだな?」

「そーそ。ユキちゃんは慣れてそうだね」

「お任せだ。んで、ポイント上限は伸ばせんの?」

「伸ばせる。私のヘリも、進化したじゃん? でも伸ばすにはかなり集中しなきゃだから、土地を広げるのとトレードオフだねぇ」


 強いユニットを作ろうとすれば領土の拡張が停滞ていたいし、国土を盤石ばんじゃくにすることを重視すればそれを守るユニットが育たない。

 相変わらず、判断のバランスが問われるゲームのようだ。


「《ふーん。それじゃ、ただひたすらにユニットを強化する役を作っておいてさーあ? 国の防衛は同盟のひとに任せる取引をすればいいんじゃない? そうしたら、無敵の兵隊が生まれちゃう!》」

「ありゃありゃ。賢い幼女だこと。そうだよー? その辺が、派閥の戦略の組みどころ」

「そうして信じた仲間に裏切られ、狭い国土を後ろから刺されるのね?」

「信頼が問われますねー?」

「さ、流石はルナさん、怖いことおっしゃる……」


 リコの表情から察するに、彼女の派閥ではそうした極端な役割分担も実際に進めているのだろう。もしや、リコこそがその役割か?


 しかし、そうした戦略もまた面白い。強いユニットを提供する係と、広い国土を提供する係。

 一人がバトルエリアを作り上げ、もう一人がその上で暴れまわる。互いに信頼関係がなければ、時に一方的に損をする者が出て破局するだろう。


「さてさて。でもアイリちゃんのゾッくんは、まだそんなに、つよつよ能力は付けられないぞー。ただでさえ、飛行能力を付けちゃったからね」

「むむむ! 飛んでいるだけでは、ただの良いマトですね! 判断ミスでしたでしょうか!?」

「同じ飛行タイプとして、そう悲観することはないと言っておく! 初戦で、ウチ、アイリちゃんたちのこと完封しかかったじゃん? 危なかったっしょ?」

「わたくしたちは、決して追い込まれてなどいなかったのです!」

「あはは……、流石はハルさんの嫁だ……」


 アイリもまた、負けず嫌いなのである。

 とはいえ、飛行しているだけで十分な脅威となるのは事実。高空から偵察できるだけでも、普通なら圧倒的な優位であった。ただし、普通なら。


「むむむ。わたくしたちは、飛べるだけなら他にいくらでも方法があります。やはり、ただ飛ぶだけではお荷物なのです!」

「そっかー。そっかー……、改めてなんなん、その状況……?」

「気にしたら、負けなのです!」

「そうだね! じゃあ、そんな困った時の解決法を授けよう! デメリットを付けることで、制限を超えた追加の強化だって可能になっちゃうのだ!」


 これはハルたちの戦ったユニット達にもよくあった、『自国から出られない』といったマイナス要素を付けることで平均以上の力を発揮するシステムだろう。

 船の国の固定砲台などは、更に『移動もできない』というマイナス要素も付けることであの異常な攻撃力を得ていたということだ。


 さて、アイリはそんなアドバイスを受けて、ゾッくんの能力を考えていく。

 その間に、ルナと、ユキの二体目のユニットの発表に進んでいくのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 邪悪空間の運営もまた邪悪ですねー? 超能力とは別枠で人体実験していてもおかしくないですねー? アメジストも、その研究所に自身の都合に適した環境があるから邪悪空間を舞台にしたという可能性があ…
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