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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1123話 浮かび上がる学園の疑惑

 エーテルネットワークには決して載ることのない秘中の秘の内での会合も終わり、ハルも雷都邸を後にした。

 今回手に入れた情報は大きなものばかりだが、同時に即効性のあるものは少なかったといえる。

 得た情報を元に即座に動くというよりは、じっくりと吟味ぎんみし今後の行動を決めて行かねばならぬタイプのものだろう。


「彼ら以外にも、日本中でああした会話がこっそり行われている訳か。文字通り地下活動家って感じだね」

「とはいっても、行動を起こす時は必ずエーテルネットに触れることになるわ? 脅威にはなりえないんじゃないかしら?」


 ハルたちは休戦中のゲーム内へと戻っており、戦火に傷ついた国土の修復と、今後の戦いに備えての拡張に励んでいる。

 医療派閥が大規模な攻勢を仕掛けたこともあってか、今は他の派閥は様子見のようだ。この間に攻めて来る者は居なかった。


 正月休みが明けて授業が始まったということもあるだろう。加えて、彼らの思惑も多種多様だ。

 それぞれの派閥にそれぞれの思うところがあり、全員が一丸となってハルを倒す為に協力し合うような一枚岩ではない。


「五対一とはいえ六本腕相手に互角に渡り合っていた上級生組がどうして退いたのか少し気になってたけど」

「はい。“れーだー”を見るに、すぐ後ろに別の国が、挟み撃ちにしようと迫ってきていたようです!」

「こうなると、彼らも後方を気にして全力を出せない。戦略ゲームらしくなってきたね」

「だねー。私らを攻めるためには、他の隣接国と不可侵条約を結ぶとか、色々考えなくちゃならない。じゃないと今度は自分らが二正面作戦するハメになる」


 今までは、海上に島が点在するようなマップ構成だったが、徐々にハルの国を核とするようにして大陸じみたマップに変化をしてきている。

 そんな、自国の周囲の国家情勢、今は反響探査を使わずとも、ゲーム内のシステムである程度は確認できるようになっていた。

 これは属国化した船の国が使っていたのと同じ物であるようで、国力の増加に伴って解禁されたようである。


 子供たちの国を吸収して発展した国土は、『勢力値』を大幅に伸ばしている。

 数値的には弱小国家だったハルたちの国も、今やいっぱしの、他国と比べても遜色のない勢力を誇るまでに成長した。


 そんな国の更なる発展を行いながら、今回の情報についてハルたちは作業の合間の雑談でもするように話し合う。


「次の攻撃は、各派閥間の調整が済んでからかな?」

「かもね。漁夫ぎょふの利で攻め滅ぼされる心配をしていたら、怖くて動けないだろう」

「学園の中で、こっそりと接触してお話をするのですね! なんだか、どきどきしちゃいます!」

「密会ですねー。青春ですねー?」

「ギスギスしてそうだけどねぇ? でもそう考えると、ライトおじさんの秘密会議の子供版みたいのが、この学校ガッコの中では日々行われている訳だ」

「……子供版とはいえ、規模は比較にならないけれどね」

「お? どったん、ルナちー?」


 ユキのふと出た発現に、ルナが真剣な顔をして考え込んでしまう。どうも、雷都邸の秘密会議を見てから気になる事があるようだ。

 あのアンチエーテルの地下室と、この学園の校舎の中は条件としてはほとんど同じ。いや、規模としては比較にならない程に学園が上だ。


「あの会合を見てからというもの、どうしても考えてしまうの。この学園、本当に大丈夫かしらって」

「ルナさんは、この学園もあの地下室と同じように、体制に不満を持つ者が集う為に作られた場所ではないかと、そう考えているのですね?」

「体制、そうね? きっとつどっているのは体制側なのでしょうけれど、エーテルネットワークを『体制』とするならばその通りだわ?」


 まあ、その懸念けねんはもっともだ。一応、この学園の教育理念は立派なものだがそれが建前であるとは誰もが思っている。

 行われているのは理念通りの『エーテルに頼らない』為の教育ではなく、『エーテル逃れ』の為の教育だということだ。


「こうして密会のやり方を学生の頃から培った彼らは、大人になっても社会に知られることなくそれを継続する……?」

「そういう側面もあるかも知れないけどね。考えすぎないようにルナ」

「またそんな暢気のんきな事を言って。あなたも、ネットの外で行われる会合の多さを実感したばかりでしょうに」

「そうなんだけどね。それはそれ」


 その一方で、この学園の健全性はデータ的に証明されているのも確かだ。ハルも月乃も、ルナの通う学園の安全性の調査をないがしろにすることはない。


 いかに学園内部が閉ざされているとはいえ、そこに入る者のデータは一切隠すことが出来ないのも事実。

 怪しい会合の為に要人が日にちを合わせて集っている様子もなく、謎の機材が秘密裏に持ち込まれ、内部に極秘の兵器工場が作られているなんてこともない。


 仕組み上、犯罪の現場として格好なこの学園。それゆえ監視の目も常に、多方面から厳しく突き刺さっているのであった。


「《でもハルお兄さんが言っても説得力ないんじゃなーい? こうして毎日、セキュリティを無視してこっそり忍び込んでるんだしー。そんな状態で大丈夫って言ってもねぇ? 生徒だって、玄関からなら入り放題なんでしょ?》」

「まあ、それを言われると弱いけど……」

「ヤミ子よ、ハル君は別枠で考えておかねば話が進まぬのだ。肝に銘じよ」

「《はいっ! ユキししょー!》」

「……とはいえ、ヨイヤミちゃんの例もあるもの。そうした例外が、まだ居ないとも限らないわ?」

「まあね。敵の話で、気になる所もあった。どうやら、彼らも学園の経営母体を警戒しているらしい」


 彼らがこのゲームの運営として目星をつけている者。その上位に、ハルたちと、そして学園その物の存在があった。そして学園の方が疑いは上。

 神様の存在を知らぬ彼らにとって、その推測は無理なからぬこと。自分のお膝元ならば、妙な仕込みもお手の物だろう。


 更に彼らの目線では、エーテルを遮断した空間に居れば超能力が目覚めやすいと信じている。

 ならば、学園その物が、超能力者養成機関だという結論に結びつけても不思議はない。

 自分たちの他にも、そのデータを得て大々的に実験をしている組織が学園ということだ。ゲームの目的とも合致する。


「一応、奥様にもそのことは話して意見をうかがってみたよ」

「お母さまはなんて?」

「変わり者だけれどおかしな動きはしていない。現状、彼らはシロに見えるってさ」

「……どこまで信じていいものやら。お母さまも、まだまだ怪しいことには変わりないわ?」

「そう言うなってルナ……」

「《なんと! 月乃お母さんは、悪い人だったのか!》」

「うん、それは、まあ」

「悪い人でしょうねー、ある意味ではー」


 別に、極悪人と言うつもりはないハルたちだが、その点に関しては、誰も否定はできないのであった。





「まっ、学校がっこについては、考えていても答えは出まい。今はライトおじさんとの、直接対決の準備に集中するのだハル君!」

「そうだね。決定的な証拠と、攻撃の為の手札を用意しないと」

「うむうむ。その間にうちらも、こっちの準備を進めておこう」


 すぐにでも直接顔を合わせ、その企みを潰してしまいたいハルたちだが、敵の規模もまた大きい。

 問い詰めようとも、のらりくらりと誤魔化して逃げおおせてしまうだろう。そうした経験には長けているはずだ。


 そして、また地下深くに潜伏し、表向きは動きを止めてしまう。その我慢強さを、発揮するいとまを与えてはならない。


「まあ、そっちも奥様と協力してだね。なんだか、頼りきりになっちゃってるけど」

「いいのよ。お母さまきっと、嬉々としてやっているのでしょうから」

「……そうだね。とっても良い笑顔してたよ」

「《月乃お母さん、容赦ないよねー。とっても優しいけど》」


 最近はハルたちにデレデレな姿しか見せていない気がする月乃だが、対外的に見せる冷徹な対応と、敵対企業への苛烈かれつな追い込みは健在。

 そんな月乃に目を付けられた雷都氏には、ご愁傷様と言う他ないハルだ。まあ、彼女に告げ口をしたのはそのハルなのだが。


 そんな、表での対決はハルが行い、その場所はやはり学園の病棟が望ましいだろう。

 彼は再び病棟への訪問を予定しており、その日に合わせハルもまた“偶然に”同時刻にその場へ現れる予定になっていた。


 そんな表側の準備と同様に、裏側となるこちらの方でも準備はおこたれない。

 そちらにばかりかまけて国力の増強をないがしろにすれば、攻め滅ぼされゲームオーバーとなり、事件への参加権利そのものを失うのだから。


「……といっても、僕には相変わらずすることはない。みんな、任せたよ」

「おー! がんばります!」

「《おーっ! 私もがんばる―! で、なにすんのー?》」

「それなんだけどね。僕らの国力は上がり、勢力値もまた増えた。やれることも広がったところで、他国に追いつくべく次のステップに進もうと思う」

「おー!!」

「でも、次ってどこさ? その情報が不足してるぜい?」

「そこでだねユキ。情報を持っている人に今日は講師としてお越しいただいている」


 ハルがマップの操作をすると、先ほどまで誰も居なかった場所に一瞬で、待機していた人物が登場する。

 国土の中なら自由自在に、仲間の位置を移動できるゲーム内機能だ。


「どもー。講師としてお呼ばれした、リコ先生でーす。今日はウチが、大国としてのありかたを厳しくレクチャーしちゃうんで、敬うよーに!」

「あっ。敵で生産工場のリコちんだ。ちっーす」

「こらー! うーやまーえ~。そしてもう許して。ウチは無限に続く単純労働から解放されて、対等な立場になったんだから……」

「おぅ、ちょっと病んでる。初心者には無限周回は厳しかったか」

「調教完了ね?」

「屈してなーいー! そんじゃ、気を取り直してさっそくいっくよー。まずは、特殊ユニットをもっと作っていこうか」


 そうして、ゲーム内では先輩であるリコのアドバイスのもと、ハルたちの国の強化が行われていくのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「リコちんが堕ちたか。所詮生産ガチ勢、ゲームガチ勢への精神攻撃には耐えられなかったか」 「いったいゲーマーは何と戦っているのかしら……?」 「開発と運営と仕様とステータスと己の限界じゃない…
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