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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1113話 彼らに芽生え始めた力

 アイリたちと再びログインする一方で、ハルは異世界にある分身を起動する。

 天空城にあるお屋敷の一室で目覚めたハルは、ちょうど室内に居たメイドさんと目が合った。

 分身が目を覚ましたことを認めると、彼女は仕事の手を止めてうやうやしく挨拶をしてくれた。


「お帰りなさいませ、旦那様。なにかご用がございましたら、なんなりとお申し付けください」

「やあ、ただいま。それじゃあ、エメは居るかい?」

「はい。ご案内いたします」

「ありがとう」


 メイドさんに連れられ、ハルは居間へと通される。そこにはエメと、そしてセレステ、ついでにコスモスが、揃って仲良くお菓子を食べていた。

 メイドさんに甲斐甲斐かいがいしくお世話されて実に優雅だが、その格好に少々問題がある。

 セレステはジャージ、コスモスは寝巻き。エメだけが普通だが、やはり優雅なお茶会には似合わぬ質素な普段着だ。


「君たち。ちょっと格好に気を抜きすぎなんじゃないの?」

「やあハル。本当だよね。だから言ったじゃあないかコスモス。きちんとお着替えしたまえと」

「ん。セレステも、同罪。ジャージは、ぎるてぃ」

「はっはっは。そうは言われてもねぇ。ルナたちのように、いつでもきっちりと着こなしていては息が詰まる」

「まあ、あの子たちは生粋きっすいのお嬢様だからね」


 アイリやルナは、いつだってドレスのような優雅な衣装に身を包み、華やかにお茶会を楽しんでいる。

 ハルもそれに合わせて、毎回それなりに良い服を着させられているのだが、セレステの言うようにたまに息苦しくなる感じがするのも否めない。


 なので、今日くらいはこの場の雰囲気に合わせて、ハルも楽な服装に『装備変更』するのであった。


「おや。Tシャツにジーンズ。それはそれで、女の子たちが見たら喜びそうではあるね」

「そっすね。ハル様あまり、薄着なさらないですし。ささ、どぞどぞ。着替えたところで、ハル様もご一緒におやつにするっすよ」

「たべよー」


 彼女らの誘いにありがたく乗り、ハルもお菓子のご相伴しょうばんに預かる。

 すぐにメイドさんがハルの分のお茶も用意してくれて、だらりと楽な格好での素敵なお茶会がスタートした。


 とはいえ、今日は彼女たちとのんびりとした午後を楽しむために戻ってきた訳ではない。ここに来たのは、彼女らに、特にエメに聞きたいことがあったからだ。

 ハルは特に前置きもなく、テーブルの上にデータの表示されたモニターを映し出す。


「これを見て欲しい。僕らがさっき、学園の病棟内で採取したデータだ」

「ふむ? これは、遺伝情報か」


 唐突に提出されたデータにも、神様たちは特に疑問を抱くことなくすぐに内容を精査し答えを導く。

 お菓子を食べつつ片手間にというあたり、流石は神様といえるだろう。


 セレステの睨んだ通り、これは先ほど子供たちの体から得たデータ。その中でも、彼らの遺伝子や細胞の組成に関わるデータであった。


「もったいぶらずに先に言おう。例のアメジストのゲームにて彼らの体に魔法的な介入があった可能性について、君らに尋ねたい」

「……ふむ。君ら、というよりも、主にエメの担当だろうね?」

「ん。私は、専門外」

「うえええ!? 押し付けないで欲しいっす! まあ確かに? わたしは以前、似たようなことしちゃいましたけど……。でもでも! わたしはそっちの専門家って訳じゃないっす! むしろ、アメジストの受け売りというかー、技術流用というかー……」

「分かる範囲だけでいいんだ」

「うううー……」


 エメは以前、日本に対して秘密裏に、複数の計画を並行して実行しようと企みそれをハルに阻止された。

 その計画の中には、日本人に超能力を目覚めさせる、といった内容のものもあった。


 エメはこの異世界にゲームとしてログインしているプレイヤーの一部に、キャラクターを介して現実の肉体にも干渉、超能力を発現させることに成功している。

 幸いというべきか、その成功例は数えるほどで、発現した者達も他人に見せびらかすようなことはなく、ひっそりとその者たち同士で集まって楽しんでいるだけだった。


「君が当時、どんな方法を用いていたのか、そして、今回も当時と同様の干渉が起こっていないか。それを本人に確かめてほしくてね」

「りょーかいっす。とはいえ、多分ですけどこれは違いますね。いや、『わたしには分かりません』って言う方が正確かも知れないのが、正直なとこなんすけど……」

「ふむ?」


 既にエメは、ハルの渡したデータに全て目を通して、それを精査し判定を下していたようだ。実に優秀だ。相変わらず、自己評価は低いが。


 そのエメが言うところによれば、どうやら当時エメが使っていた手法による超能力の覚醒は、少なくとも行われていないようだった。


「わたしのやり方はそもそも、アメジストの『スキルシステム』ありきです。超能力スキルを習得したプレイヤーキャラクターを通し、そのスキルデータを逆流させることによって、その方の本体の方にもスキルを使えるようにします。出来る、場合があります」

「というと?」

「例えば、<透視>なら透視の、<念動>なら念動の才能が、元々運よく備わっていた人ならスイッチが入る場合があるんすよ。本人にどの才能もなければ、何も起きません。基本的に、何も起きない場合がほとんどっすね。ギャンブルっす」

「なるほど……」


 アメジストありきというのはそういうことだ。スキルシステムはアメジストが作り出したもので、特に超能力スキルは完全に規格統一パッケージ化されている。

 エメは単に、それを流用し計画の補助としたに過ぎない。


「なので、今回の事例はそもそもわたしの手に負えないっす。発生している能力はスキルの範囲を超え、どんどん多様化しています。エーテルネットを介さぬ空間での事象じしょうであることからも、発現の経緯もまったく別のものでしょう」

「君はネット経由でしか発現の手助けは出来なかった?」

「はいっす。内容的には、リコリスがアメジストの依頼とやらで実験していた物に近いですね」


 であるならば、論理的に考えて今回のゲームとは無関係ということになる。

 ゲームは完全にエーテルネットから切り離された空間にて行われ、ログインを行う学園もネットを排した特殊環境だ。

 エメや、リコリスが行ったように、ゲームにログインしている精神を逆流するようにして、肉体に影響を与える手法は不可能だった。


「少し、待ってくれないかいハル?」

「セレステ、どうしたの?」


 そこまで話したところで、セレステが話に割り込んできた。どうも、気になる点が存在するようだ。

 真剣な顔とジャージ姿がちぐはぐだが、何故だかそれでも様になっている。美しい彼女の特権だろう。


「今の君の話では、例の子供たちは既に現実でも超能力に覚醒しているような言いぐさだ。なにか、その根拠を見つけたのかな?」

「ああ、うん。すまなかった。その前提を省いていたね。その通りで、さっきの調査で彼らの体に、何らかの力が発生していることを確認したよ」

「おお~~」


 気の抜ける声でコスモスが驚くが、彼女がここまで興味を示す時点で余程のこと。事の重大さをよく表していた。


 そう、セレステの言う通りで、先ほどハルは、子供たちが病室内においても、超能力を使用しているとしか思えない現象を記録していたのであった。





「それが、こっちのデータだね」


 ハルは新たなデータを、三人の女神に提出する。先ほどの会話の際に、こっそりと病室内にナノマシン(エーテル)散布を行って得た環境調査。

 そこには、通常ではあり得ない事象の数々が、異常な数値となって記録されていたのであった。


「彼らの体の周囲で、放電現象、空間の歪み、不可解な振動等の現象が確認されている。これは、ゲーム内で彼らが見せた能力にどれも一致する」

「ほぉ~~」

「やばいっすね! 子供たちがそれを知ったら思春期と合わせて、自我の拡大、良識の欠如、万能感の肥大化と加速して、きっと事件を起こしちゃうっす! もしや既に計画を!? 止めてあげるっすよハル様!」

「落ち着けエメ。彼らは完全に無意識で、そのことに気が付いている様子は皆無かいむだったから」

「ほっ……」


 だが、いずれ何かの拍子に気が付かないとも限らない。特に、現象を発生させる力が拡大していくとしたら、認識可能なレベルでの物となって発現してしまうだろう。


「ふむ? 興味深いデータだ。よくやったねハル、大変だっただろう。あの病棟も、学園と同じくナノマシンを感知し排除するのだろう?」

「まあ、多少無理をしてでもデータは取らないといけなかった。確かにハッキングと事後処理には骨は折れたよ」

「うむっ! こちらへ来たまえ。お姉ちゃんがよしよししてやろうじゃないか!」

「いやいいから……」


 血のつながらない年下の姉の誘いを丁重に回避しつつ、ハルは改めて今回のデータを精査していく。

 これは、彼らが元々持っていた力なのか? それとも、ゲームがきっかけで新たに開花した力なのか? そのことを、どうしてもはっきりさせておく必要があった。


「……ヨイヤミの例もある。あの施設の患者は、皆もとから何かしらの特殊能力を持っていた、という事でも驚きはしないんだけど」

「うむ。しかしだね、ヨイヤミのように自在に操れている様子はない。しかもゲーム内ではスキルとして増幅されている」

「どう見ても、アメジストの影響~」

「っすね! ただ、アメジストは増幅しただけなのか、それともゼロから新たに子供たちに力をつけ足したのか。そこが大きな問題となるっすねハル様。どうやって調べるつもりっすか? ここに来たってことは、とっかかりはあるんですよね?」

「ああ。エメには遺伝子や体組織のデータが、外部要因で変質した形跡がないか調べて欲しい」

「げげっ! やぶへび……」

「がんばー。ふぁいとー」

「コスモスも手伝ってくださいよー!」

「私は、専門外」

「事件以前の遺伝子データもあればやりやすいのだがねえ」


 セレステの言う通りだ。なのでそれも含め、ハルはエーテルネットから彼らについての情報を洗おうと思っている。

 そちらに集中するために、ゲーム内の事は女の子たちに任せてきた。


「……彼らに接触した人間のことも気になる。まあ、そちらは大した事はないとは思うけれど」

「不可能だからねぇ、世界からエーテルネットを無くすなど。文字通りの『子供だまし』で、大言壮語たいげんそうごをでっち上げただけだろうとは私も思うよ」

「だが、無視も出来ない」

「うむっ」


 そんな様々な情報の裏付けを取るべく、ハルは神様たちと協力し情報を洗う。

 まずは、子供たちの生い立ちや、周囲を取り巻く環境。そして、彼らに接触した人物の正体。そこを明らかにしていくのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 判別がつかないからガチャを回すしかなかったエメに対し、アメジストは元から超能力自体に着目していたわけですし、対象の適性に合わせた能力をゲーム内で使えるようにすることで現実での能力覚醒を促す…
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