第1108話 記録にない超能力
仲間のピンチに駆けつけて、この場に揃った子供たち四人。合流した二人もユウキたちの元に集まると、軽口を叩き合い互いを鼓舞している。
友情が感じられる良いシーンではあるが、やはり少々不用心だ。ここでハルが後ろから撃ったらどうする気なのだろうか。
「ざまーねーなーユウキ。ボッコボコじゃん! あははっ!」
「っっせ! 不意打ちで一発当てたくらいで調子のんな! そもそも、出てこないって作戦だったろ!」
「でもねユウキ。今は全員でかからないと危ないよ。ここで負けちゃったら、国を大きくするどころじゃないんだから」
「そうだな……、ただでさえ、今はあいつが来れなくなってるんだし……」
どうやら、仲間の一人が今は不在らしい。表で何かあったのだろうか。
そして推測するに、彼らは戦闘には加わらずに世界の浸食にその力を割いておく予定であったと思われる。
現に、新たに二人が姿を現して以降はマップの浸食速度が上っている。次々と子供たちの国が、ハルの領土として組み込まれて行っていた。
とはいえ、欠員はいるようだが全戦力がこの場に揃った。ここからが、真の総力戦ということだろう。
「……さて、そろそろいいかな? 今は戦闘中だよ君たち」
「ふ、ふんっ! お前がエネルギーチャージするのを待ってやったんだ。ちゃんと溜まったかよ?」
「そういう君も、少しは体力回復出来たかい?」
いかに子供の回復力といえど、全力疾走を二度おこなって二度体力を使い果たしたに等しい。そろそろ、本当の限界も近いだろう。
となるとここからの相手は、新たに登場した二人の少年がメインとなるのはほぼ間違いないはずだ。
そのハルの内心を肯定するように、少々キザっぽい少年が一歩彼らの前に出た。彼が、先ほど巨大飛行船エクリプスに遠距離攻撃し破損させた張本人だろう。
「おっと。ここからはオレが相手だ。コイツはお休み」
「……ボクも出る」
そして、二人目の冷静そうな少年も更に一歩進み出る。その態度から恐らく、こちらは近接攻撃が主体となる能力のはずだ。
「さっきのオレの能力、何やったか分かんないだろ兄ちゃん。そのまま、何も分からないままで死んでいきな!」
「ああ、音波攻撃だろう? 振動攻撃と言い換えてもいい。指向性のある超強力な音で、相手を内部から破裂させる厄介な攻撃だね」
「うえええぇ!? なんで分かるの!?」
「……おい」
「はっ! おいヒキョーだぞ兄ちゃん! あれだな! これ、ゆーどーじんもん? ってやつ」
「そうだね」
残念ながら自分から勝手に答えただけである。しかし、音の能力まであるのか。なんだか徐々に、幅が広がってきている気がする。
アメジストが作り出した基本の<超能力>セット。その範疇にとどまらない攻撃方法が、少しずつ生まれつつあるのだろうか?
「じゃあ行くぜあぁっ!」
気合の雄叫びとともに、少年の両手から振動波が射出される。
それは背後の景色を歪ませる程の空気のうねりとなって、ハルの居た位置へと突き刺さった。
「おっと」
だが、いかに速かろうと、いかに強力だろうとその程度の攻撃に当たってやるハルではない。
既にその位置にハルの姿はなく、ステップで回避したハルを通り過ぎた破壊の音波は、周囲に積まれた瓦礫を盛大に吹き飛ばしたに過ぎなかった。
「ちぇっ。だけど、良い目くらましってやつじゃないかねぇ!」
その巻き上がった瓦礫の山の破片。それに紛れるように、ハルに接近してくる姿がある。もう一人の少年が猛スピードにて破片の雨を躱しながら、ハルに急接近してきた。
その速度は、速いとはいっても目に見える速度。事実上の瞬間移動である先ほどの能力と比べればどうということはない。
しかし、その力の真骨頂はどうやら速さそのものではないようだ。
「へえ。なるほど。君の力は肉体強化か」
「…………」
直線的な転移しか出来ず、小回りのきかなかった転移による強襲に比べ、この少年の力は実に小回りがきく。
瓦礫の雨を縫うようなステップで、目にも留まらぬ速度のパンチを休む間もなく繰り出してくる。しかも、息切れを起こす気配もない。
「どいてなっ!! ……っし! 直撃ぃ! って効いてやしねぇ!」
「忙しい子だ」
そんな少年の残像の見える程のパンチと体捌きに付き合っている間に、音波攻撃の第二射がハルへと突き刺さる。
なかなかの威力だが、このスーツの電磁バリアで防げぬ程ではなかった。
「でもエネルギーは使ってるはずだ! あいつに回復のヒマを与えるな!」
「わーってるよ命令するなって!」
実際にその通りで、こうして釘付けにされては充電もままならない。
幸い、肉体強化の能力は地上限定だ。ハルは脚部の装備から青い電流をほとばしらせながら、ジェット噴射のように上空へと飛び上がり回避した。
「アルベルト、充電」
「《はっ! マイクロ波照射装置、起動!》」
そして、その隙にマイクロウェーブにて給電する。完全回復とまではいかないが、この方法なら邪魔されずに小刻みに充電できる。
そう思っていたのもつかの間、足元に見える大地の方にて動きがあった。
「『足場』を巻き上げてくれ!」
「命令すんじゃねぇって、言ってるだろ、っとぉ!」
空中に離脱するハルに、手も足も出ないはずだった肉体強化の能力者。その少年が、音の能力者の少年に要請を送る。
彼は音波攻撃をハルではなく地面に向けて乱れ撃ちすると、それによって砕かれたオブジェクトが勢いよく空中に巻き上がった。
「ふんっ!」
それを、『足場』として活用し、圧倒的に高まった肉体の性能に任せ少年は反射するように空中を飛び交いハルへと迫った。
「おお。まさに能力バトルだね。少々物理法則を超越している気もするけど」
まあ、それは些細な問題だ。なにせ『超能力』なのだから。
「しかし、肉体に直接作用する物まで出てきたとなると放ってはおけない。君、何か体に副作用とかでてないかな?」
「…………っ」
ハルは建物の破片に反射しながら周囲を跳び回る子供に向けて尋ねるも、答えは返ってこない。
答える気がないというよりも、どうやら極度の集中状態により答える余裕がないようだ。
「なら、一度落ち着け」
「っ!? う、うわああああっ!」
反射の勢いのまま、回し蹴りのような飛び蹴りをお見舞いしてくる彼の足をハルは掴み取ると、彼の回転方向を真下に向ける。
一気に地上に叩きつけられるように逆戻りするも、直前で姿勢制御を間に合わせて受け身を取るように彼は着地した。どうやら、反応速度もしっかりと強化がかかっているようだ。
「なにやってんだ。しゃーない、もいっちょ打ち上げてやるから、」
「いや、それはぼくがやる! 君は直接アイツを狙って!」
「そうか、じゃあ任せた。だが、命令すんなよな!」
「飛行船を狙え。そうすりゃ、あいつは絶対に防御しなきゃいけなくなる」
「めーいーれーいーすんなーっ!」
だがそう言いつつ素直に、音の能力の少年はハルの背後に飛ぶエクリプスに狙いをつける。
あれを落とされては遠距離充電のあてがなくなり、ハルもすぐに電池切れになってしまうだろう。彼らの言うように、間に割り込まざるを得ない。
「やれやれ。その歳で人質狙いを覚えるとは。将来が心配になるね」
「うっさい! 心配される将来なんか、オレたちには無いんだよ! 余計なお世話だ!」
「おや。何かマズいこと言っちゃったかな」
「《地雷踏んだねーハル君。手伝っちゃろうか?》」
「じゃあ、肉体強化の子を止めといて」
「《らーじゃっ》」
ハルが音波のビームに割り込み、その身を盾にし受け止めている横で、再び跳び上ってきた少年のパンチに、今度はユキが割り込む。
子供に出来て自分に出来ないはずがないという対抗心だろうか。転移能力によって空中に巻き上げられた建物などオブジェクトの『足場』を使い、八本の足で器用に這い上がる。
人間の体そのものを強化する力と、人外と化すまで改造された肉体。その二つのぶつかり合いは、残像の尾を引くように二本の線となって空中を跳び回った。
ハルはといえば、その中心にて音波攻撃を受け止め続けている。この攻撃、なかなか厄介であり、どうやらただの音ではない。
空間そのものを振動させる力が根底にあるようで、体の前方に真空の断層を作った程度では無効化しきれなかった。
「電気の無駄遣いをしただけか。失敗したね」
「《むしろ、いつの間にそんな機能を? スーツに真空を生み出すようなシステムは装備していないはずなのですが……》」
「今作った」
「《流石にございます》」
しかし、どんなに優れたシステムをハルがプログラムしようと、それを発動させるリソースたる電力がなければ話にならない。
その電力もついに底を突き、スーツから演出効果のように放たれていた電光も弱りついには尽きた。
飛行機能も保てなくなり、ふっ、と浮力を失ったハルが地面に向かい落ちてゆくが、音の少年もまた、力を使い果たしそのままの姿勢で後ろ向きに倒れてしまったようだ。
「あー、もう無理げんかいー……、あと任せたー……」
「……お疲れさん。任せろ、最後はきっちり決めてやる!」
そんなハルにトドメを刺そうと前に出るのは、この間に体力を回復したユウキ。
彼は両手を前に突き出すと、一度はハルのパワードスーツを崩壊させた魔法のような一撃を、再び全力で落ちる最中のハルに向けて放出するのであった。




