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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1103話 小さな超能力者

 白い装甲を身に纏い、小型のルシファーとなったハル。燃費に難はあるがその戦闘力は圧倒的で、ヘルメットのような仮面を被った敵の戦闘員を次々と殲滅せんめつしていった。


 こうして見ると、怪人部隊を蹴散らす主役のヒーローだが、デザイン的にはハルが怪人だ。

 まあ、特撮のヒーローのような見た目をしながら、物量作戦に頼る敵が悪いということで、今回はヒーローのお株を奪わせて頂こう。


「ハハハハハ! その程度かヒーローども! こんなに死体の山を積み上げていては、正義の味方の沽券こけんに関わるんじゃあないかい?」

「《……あなた、悪役やる気満々じゃない。こっちがヒーローなんじゃなかったの?》」

「いやまあ、正直興味はないというか。それに、なんとなくこうした挑発が効く気がしてね」


 そんなハルの読み通り、敵のヒーロー軍団の動きがピタリと止まる。

 休むことなく雪崩なだれのように押し寄せてきていたヘルメットの集団が、不気味なほど静かにその場で停止する。


 そんな彼らのマスクの奥に潜む瞳が、それを突き抜けてハルを射貫く圧を感じるようだ。

 明らかに、彼らのあるじはハルの挑発に反応している。


「……どうした? 攻めて来ないのか? 敗北を認めるのは構わないが、敵に屈するのはヒーローらしくないんじゃあないかな?」

「《まだまだ、食べたりないのですね! 総帥そうすいさま!》」

「《悪の帝王ですねー。それに正直、おかわりが途切れると敵の浸食圧に押し返されちゃってますねー》」


 そうなのだ。先ほどまでは、大量の敵兵を倒すことで世界同士の食らい合いはハルの世界が優勢をキープしていた。

 しかし、こうして攻めの手を止めてしまうと、逆にじわじわと押し返されてしまっている。


「……兵数の差か、それとも特殊な能力か。悔しいが浸食力は完敗か」

「《ナマイキですねー》」


 魔力同士の浸食合戦では無類の強さを誇るカナリーだ。そんな彼女とハルは、この状況に何とも言えないプライドを刺激される感覚を覚える。


 まあ、とは言ってもそれすなわち負けではない。今はこの隙に、パワードスーツの調子を整えておくとしよう。

 ハルは背に空いた排気口のような穴から、電光と共に熱気を翼のように放出し背後に羽ばたかせ、工兵に転身した人形たちに電池を兼ねる装甲板を交換させた。


「さて、どう出てくる? 挑発に反応したということは、このまま睨み合いということはないだろうけど」

「《その場合、どうなさいますか? 逆にこちらから、攻め込みますか?》」

「そうするべきだけど、それはそれで整備の問題が、っと、出てきたみたいだね」


 動きがないようなら、こちらから攻め込むか、とハルたちが思っていると、いいタイミングで敵の軍団の壁が左右に割れる。

 そうして作られた道から歩いてきたのは、『少年』と一言に言うにも、尚も幼さを強調せねばならない小柄な男子だった。


 ここで切り札の特殊ユニットが出てくるのが通例なので、これは少々ハルにとっても不意打ちだった。


「おいお前! さっきから正義の味方だヒーローだって馬鹿にしやがって! ボクは、そんな幼稚なコンテンツなんて別に好きじゃないんだからな!」

「えっ。でも戦隊じゃないか」

「戦隊じゃないっ! これは、その、たまたまこういう見た目になっただけだ!」

「このゲーム、本人の趣味が反映されるみたいなんだけどなあ」

「ぐ、偶然だ! お前こそなんだ、大人のくせにロボット趣味か!? そんなユニット作って、ガキっぽいなぁ~」

「おっと、これは失礼」


 どうやら、ハルのこの姿を特殊ユニットと勘違いしたようだ。確かに、はたから見ればそうとしか見えないだろう。


 ハルはスーツの頭部を稼働展開し自らの顔を露出させると、改めて目の前の男子に自己紹介をすることにした。

 その際、彼の口からつい『か、かっけぇ』とこぼれてしまったのをハルは聞き逃さなかった。やはり、そういうお年頃だ。


「ハルだよ。よろしく。君のお名前はなんていうのかな?」

「っ……! は、ハンっ! 誰がよろしくするか! お前みたいな悪い大人と! あとガキ扱いするな!」

「あらら。嫌われちゃったものだね。会ったばかりだっていうのに」

「お前はボクを知らないだろうけどな、ボクはお前を知ってるぞ。お前、施設からあの人形女を連れて行った奴だろ」

「ヨイヤミちゃんだね。あの時見てた子かな?」

「名前なんか知るか! あんなの人形女で十分だ!」


 とぼけつつ、もちろん知っているハルだ。ハルがヨイヤミを病棟から連れ出す際、遠巻きにハルたちを睨んでいた数名の子供たちの姿があった。

 その視線に複雑な感情が乗っていることも当然気付いていたハルだが、気付いていながらその全てを黙殺した。

 ハルが面倒を見切れるのはヨイヤミのみ。言ってしまえば、彼らはあの場に置き去りにしたとも言えるのだ。


「この人さらいが。こんな所に来てないで、家に帰って人形女でお人形遊びでもしてろよな!」

「……その言葉、誰に吹き込まれた?」

「ひっ……!」

「おっと失礼。すごむつもりはなかったんだ」


 彼の語る言葉に、その言葉のチョイスの背景に、つい苛立ちが湧いて出てしまったハル。

 今の『お人形遊び』という言葉、彼自身は分かっていないようだが下卑げびた大人のいやらしさがにじみ出ている。


 要するにハルが、体の自由のきかないヨイヤミを保護の名目で連れ帰り、好き放題にしているということだろう。

 そういう発想をして簡単にそうして口に出すような奴こそ、常日頃からそんな事ばかり考えているのだろうに。


《ハル、落ち着きなさいな。背後関係は、あとでじっくり洗えばいいわ?》

《そーそー。大人の陰口なんか気にしてたら身が持たないよーハルお兄さん。あっそれともー? お兄さん私で大人のお人形さん遊びするとこ想像しちゃったぁ? いっけないんだぁ》

《こっちは耳年増みみどしまだなぁ……》


 悪口陰口、内緒話。施設ではヨイヤミに全て筒抜けだっただろう。今さらこの程度聞かされても、何も心は動かないようである。

 それはそれで、達観しすぎた幼い彼女に、言いようのない感情を覚えはするが。


《でもありがとお兄さん。私の為に怒ってくれて。よっしゃー、ついでにあのガキぶっ飛ばしちゃえー!》

《ヨイヤミちゃん。お口、お口》

《こっちは普通に口が悪いわねぇ……》

《あっ、あいつはユウキっての。クソガキ男子の一人。一応リーダー格? あっ! やめてルナお姉さん! 『教育』されちゃう~~》


 ……どうやらヨイヤミはこれからルナにお口の悪さを矯正きょうせいされるようだ。ハルも、目の前の男子と向き合うとしよう。


 どうやら彼に指示を与えた何者かが背後にいるようだが、この世界での彼の力は紛れもない彼自身の物。

 そこに大人も子供も関係なく、決して油断していい相手ではないのであった。





「さて、僕が人さらいではないと釈明しゃくめいしたいところだけど、今はそれは置いておこうか」

「しゃく、めい?」

「すまない。言い訳ってことさ」

「わ、分かってんだよ! 言い訳してんじゃねーよ、ってことだよ!」

「うん。そうだね。ごめんごめん」

「ふ、ふんっ! わかりゃいーんだ……」


 少々気分はよろしくないが、今この子に言っても聞かないだろう。

 ハルは彼にとって、『自分を選ばなかった者』だ。せめて自分の中で悪人にして、酸っぱい葡萄ぶどうと思わねば心の平静を保てない部分もあるはずだ。


 だが、それを利用して都合よく操っている人間はそうはいかない。必ずすぐに、見つけ出してやるとしよう。


「……んだよ?」

「いいや? 君がこの場に出てきた理由が気になってね。大将は、奥でどっしりと構えているものなんじゃないかな?」

「お前だって出て来てんじゃん」

「僕はほら、君の戦隊が強かったから、僕が出張らないとどうしようもなくってさ」

「ははっ! そーだろそーだろ! ざまぁねーなー!」

「あれ? でも、じゃあ君も同じか。どうしようもなくなって、君自身が出て来ちゃったと……」

「ちちち違うしぃ! お前がカワイソーだから、わざわざ出てきてやっただけだしぃ!」

「あと『戦隊』を認めたね今?」

「もう黙っとけよテメぇ!」


 少々悪ノリが過ぎたようだ。ユウキ少年は顔を真っ赤にして興奮している。

 こう見えて病人だ。さほど体は強くない。このまま怒らせて健康被害を出し勝利、などという鬼畜きちくの所業は何としても避けるとしよう。


「失礼。年頃の子と話す機会があまりなくてね。どう接していいやら」

「ジジイかよ……、変な奴だな……」


 ただ実際彼も、単に挑発に乗って無策で飛び出して来たわけではあるまい。挑発してきた悪いハルを、叩きのめす算段があるからこそこの場に来た。

 この小ルシファーと化したハルを前に、彼は少しもその自信のほどを崩していない。

 言葉ではハルに多少いじめられているが、体は一歩も引いていない。戦っても絶対に負けないと、その態度は雄弁に物語っていた。


「ったく、大人はいつもそうだ。ペラペラとくだらねーコト言って切り抜けようとする。だが最後に勝つのはオレだ!」


 一人称が『ボク』から『オレ』へ。自意識の肥大化、戦意の更なる向上が確認される。

 子供特有の万能感、向こう見ずとも考えられるが、それにしてもこの自信の大きさは何かある。

 ハルはその直感に従い、顔を開放していたスーツの頭部を再び閉鎖し、バックステップで戦闘距離を一段階後退させた。


「食らえええええええぇっ!!」


 その直後、前触れもなしに豹変ひょうへんしたユウキから、この小ルシファー以上の電撃がほとばしる。

 そして、まるで電流を固めたボールのようなエネルギー弾をその手の中に生み出すと、一瞬前までハルが居た地点へ向けて全力投球してきたのだった。


 その雷球は地面にぶつかると急激にぜ、文字通りの紫電しでんを周囲にまき散らす。

 暴れ狂う雷撃の壁が、しばらくハルと少年の間を茨のように分断し、やがて消えて行った。


「どうだ! 電撃使いとしても、お前よかオレのが上だろう! この程度でイキんなよ!」


 ハルの能力への意趣返し。電流を使った力で上回っていると、誇示してきたのか。

 そして口ぶりからすれば、まだまだ他の能力も使えるような雰囲気がある。


 これは、特殊ユニットを介さない、プレイヤー本体を強化するようなスキル。といったところ、なのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] おっと、ハルおじいちゃんのことをジジイと呼ぶのは止めて差し上げr(ピチューン [気になる点] 口撃戦になったら押し負けそうな子供が出てきましたかー。そして一瞬でハル様のヘイトを掻っ攫ってい…
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