第11話 通報しました
※(喜)(怒)(哀)(楽)のような表現は、対応する感情アイコンが表示されているとお考え下さい。
『蔵人』
:このゲーム町がしっかり作られてて観光に良いね
『ナリター』
:でもゴールドが使えないの微妙
『ソフィー』
:分かります!何も買えないの生殺しすぎる!
『くるとん』
:目の前にうまそうな物があるのに
『ケイト』
:犯罪は禁止ですしね。稼ぐ方法見つけるしかない
『Accel 』
:町に入らなくてもゲーム進行に問題は出なくない?
『くるとん』
:戦うだけがゲームじゃあないんだなー
『ソフィー』
:そうですよ!かなり作りこんでありますから
観光だけでも十分楽しめます!
『Accel 』
:現状最も戦いまくってる人が何か言ってる(恐)
その余裕はどこから来てるんだ
『ナリター』
:犯罪といえば目の前で犯罪行為があったらどうするんだろう
『蔵人』
:あー確かに。“野党に襲われてるお嬢様”を助けられない
『ナイトハルト』
:なんでさ
『蔵人』
:NPCには攻撃禁止だから
『ハル』
:通報すればいいんじゃないですかね。神様に
『飛燕』
:お問い合わせか(笑) そんな使い方が
『ケイト』
:ハルさんこんにちはー。もう少しでゴールド貯まりそうです
『ハル』
:お待ちしてます。連絡手段作らなきゃですね
アイリの侍従とルナが船で出発し、少しの間待ち時間となった。
この場でハルに出来る事は少ない。国同士の思惑の中において、個人で介入出来る事が少ない、という意味も勿論ある。
しかし本質的な問題はハル達はシステム的に部外者としての立場が徹底されていることにあった。
そこが一朝一夕では乗り越えられない。
普通、武器や防具などのアイテムは、町へ行き店に入って購入する。ゲーム内通貨(このゲームでは単純にゴールドだ)の使い道も町の店が基本だろう。
「その作りだったらプレイヤーの利点を最大限に生かして動き回って、経済に介入する事も可能だったかも知れないんだけど」
だがこのゲームのゴールドは、メニューから呼び出せるショップとユーザー間の取引でしか使えない。リアルは経済もネット中心となっているのでユーザーから違和感は出ていないが、そもそも物質的なゴールドとしての形すら持っていなかった。
プレイヤー同士の会話であったように、町では買い物すらままならない状態だった。
「何しろ支度金として渡されたものはゲーム内通貨だけだからね。屋台で良い匂いが漂ってきても、買い食いも出来ないのはまさに生殺しだ」
さて、それはともかく、話の中で気になった事があるのでカナリーを呼び出すハル。
半分冗談ではあるが、自分で言った神への通報を実際に行ったらどうなるのだろうか。恐らくプレイヤーの精神の健康に関わる問題なので、対処はしてくれるはずだが。
──野党にお嬢様の乗った馬車が襲われる現場に遭遇したが、攻撃ロックのせいで見ている事しか出来ないとか悲しすぎる……。
簡単にコンタクトが取れる身だ、確認しておいた方がいいだろう。
「<神託>。カナリーちゃんこんにちは。実際に犯罪現場を神に通報したら裁いてくれる?」
「ハルさんこんにちは。場合によりますね。基本的に現地法の範囲を超えて手を下す事はありません。ここで出ている例だと拘束をかける事は出来るでしょうー」
「天から雷は落ちてこないんだね」
「確実に死罪が適用される場合はあるかもしれませんねー」
神が法を定めるのではなく、法を遵守する側なのも変な話だった。
「しかしこれは使えるかも知れないね」
「えー、使わないでくださいよー。お仕事増えちゃいますからー」
神が犯罪に目を光らせているというのはプレイヤーだけのようだ。
考えてみれば当然かもしれない。交易が成立する規模の町とそこに存在する人口。そこで起こる犯罪を全て裁いていては大変だし、自然な世界観を演出できなくなるだろう。
確実に監視社会になる。
「参考までに、何に使えるんです?」
「護衛業に。プレイヤーは神を呼び出せる最強の護衛だ」
「それが出来るのハルさんだけだから問題なさそうですねー」
確かに普通は出来ないだろうか。以前の話だと、お問い合わせを使いすぎるとペナルティがあるという事だった。
そして商隊の護衛となると何日もかかる事になる。プレイヤーと違い神殿でテレポートは出来ないのだ。頻繁にログアウトするプレイヤーでは護衛として成立させるのは難しいだろう。
そしてそれ以前に、最初の信用を得るのがまず難しい。『私は神を呼べる!』と言っても笑い話だ。
「ハルさんなら出来るでしょうけど、やるんですか?」
「いや、やらないよ。何日もアイリの傍を離れてまで小金を稼ぐ意味はない」
「アイリちゃんからお小遣いもらえばいい事ですもんねー」
「カナリーがルナのような事を言う……」
実際、町へ行く事になったルナは、『何かあった時のために』とアイリから通貨をいくらかもらっている。
普通のプレイヤーだと、こうした最初の一手を打つ事がまず難しいだろう。
◇
さて、ハルが今見ているのは、コミュニケーション機能でまだ使っていなかったリアルタイムチャットだ。
これは掲示板の時と同じようなちび人形が出るのは変わらないが、発言は記録されない。しばらく時間がたてば消えていく簡易なものだ。
人形達は広場のようなスペースに入って、そこで雑談している形を取っている。
まだまだゲーム人口は増えない。話しているのは最初の掲示板に居た者や、以前防具のオーダーメイドを持ちかけた時のメンバーなど、基本的に顔見知りが多かった。
アイリの為になる用途に直接使えないとはいえ、自己強化のためにはゴールドは稼いでおくに越したことはない。
<MP回復>もそれなりに育ってきた。防具以外にも提案できる商売があるのではないかと、ハルはプレイヤーの会話へ入っていく。
『ハル』
:何かゴールド得るいい方法ありますかね
『蔵人』
:戦闘
『飛燕』
:戦闘
『ナイトハルト』
:ハルも戦え。一緒に冒険しよう
『ソフィー』
:ハルさんは生産職なんですよね!
『ハル』
:そういう訳でもないんですが
あまり動き回れないので
『ケイト』
:病弱っ子萌え
『ナイトハルト』
:このゲーム職ないから(笑)
『蔵人』
:でも<防具作成>持ってるの今はハルさんだけだろうし
専念してくれると助かるのはある
『飛燕』
:防具屋ハル
「……生産職、嫌いじゃないけどね。でも最初は派手にバンバン魔法撃って戦うつもりだったのに、数奇だね」
アイリとの出会いによって、ハルのプレイスタイルは最初の想定と全く違うものへと変わることになった。
魔法に強い憧れを持つハルだ。最初は派手な攻撃魔法をくりだす魔法使いとして、<火魔法>のようなものを鍛えていく方針であった。
戦場を飛び回り、爆炎の雨を降らせる。ドラゴンの吐く火炎から味方を守る障壁を張る。そんな夢想を何度もしていた。
しかしアイリと出会いそれは変わった。そしてその事をハル自身まるで苦に思っていない。その事に生産職と言われて今思い当たったほどだ。冒険に誘ってくれるのも嬉しいが、行こうと思っていない自分にも気づく。
アイリとの出会いはそれほど衝撃だった。ハルはその事実を改めてかみ締める。
「まあ実際、少し離れたからといってどうという事はないんだろうけど。アイリも今までずっとそれでやってきたんだし」
だがハルには不思議とそうする気は起こらなかった。
少し離れて、仲間との冒険を楽しんで来ても問題など無いはずだ。むしろレベルアップにもなるだろう。そうしないのは何故か。
何故かアイリの傍を離れてはならないような確信があった。数多あるハルの思考のどれもが、それに論理的な結論を出せていない。
「まあ、また王子が来たら嫌だからだよね、きっと。……あ、そうだ。ドラゴンといえば、ここの運営だとドラゴンも『火吹きトカゲ』とかになりそうだよね」
明らかに違和感からの逃避であった。だが複数の思考を持つ故に、“自分は逃避している”とすぐに自覚してしまう。その思考の摩擦から来るストレスを回避するため、ひとまず全て忘れてハルはウィンドウに集中する事にした。
◇
『ソフィー』
:でもハルさんの防具は良いですよ!
『ナリター』
:今のところ唯一の使用者だ、説得力がある
『蔵人』
:高いんだよなー
『くるとん』
:でも店売りに良いのが無い
『ナイトハルト』
:ダンジョンでドロップするかも知れん
『ハル』
:ソフィーさんサイズとか合いました?
『ソフィー』
:ある程度は調節されるみたいなので大丈夫です!
ほんのちょっとキツいかもですが(汗)
『蔵人』
:ハルさんグッジョブ(喜)
『ソフィー』
:えっちです!(怒)
『ソフィー』
:ハルさん新しいの作ってください!
サイズ大きいの!
『蔵人』
:もうゴールド貯まったのか・・・
『ナリター』
:はやい
『ソフィー』
:あ、ハルさん武器も作れるんですよね?
『飛燕』
:切り替えもはやい
『ハル』
:作れますけど、武器必要なんですか?
このゲーム近接は不遇っぽいので疑問が
『ナイトハルト』
:武器は必要だ。特に剣だ
『くるとん』
:何で剣
『蔵人』
:ロマン、だろうなー・・・
『ソフィー』
:私も剣ですね!
出来れば刀みたいのがいいのですが
「武器か。魔法使うこと優先で、武器の優先順位はかなり下げてたな。作ってみるのもいいか」
最初の戦闘で(最後の戦闘でもある)格闘戦を挑んでみたが、反動ダメージがあったので近接攻撃の優先順位を下に置いていたハルだが、近接が苦手な訳ではない。
むしろ一対一の対戦ゲームだと接近戦が主体となるものが多く、慣れでいえばそちらのほうが上だった。
『ハル』
:いいですよ。作ってみます
刀は詳しくないんですが
希望の形とかはありますか?
『ソフィー』
:打刀くらいの大きさなら何でも
名刀のどれかを参考にしてもらえれば!
『ナイトハルト』
:ニンスパで俺もよく使った
『蔵人』
:あれは忍者刀じゃね?
『ナイトハルト』
:侍も居る
『飛燕』
:あんなメジャーゲーやるやつが
よくこんなゲームに手を出したな(笑)
『ソフィー』
:あ、あとどのくらい刃先を薄く出来るか
試してもらえると有難いなーって……
『ハル』
:薄くですか、
手を加えすぎると高くなる傾向がありますけど
『ソフィー』
:言い値で買います!
『くるとん』
:か、姦だ……
『蔵人』
:それじゃ読みそのままカンや
『ソフィー』
:かん?
『くるとん』
:か、漢だ……(本来読みはオトコ)
という誤読ネタですスミマセン……
『ソフィー』
:面白いです!
私うるさいですしね(笑)
『ソフィー』
:単分子ブレードみたいの待ってます!
『メイさん』
:サ開直後に最強装備を要求する女(恐)
『くるとん』
:単分子は耐久がゴミだし最強じゃなくね
『飛燕』
:使い方が悪いんだぞ
『ナイトハルト』
:きちんと刃が立てば言うほど脆くない
だが高周波ブレードの方が使い易い
『ソフィー』
:超音波機能もつけられますか?
『ハル』
:流石に無理です
「これは売れないだろうな」
武器を作る事になったが、恐らく流石の彼女もすぐに購入する事は出来ないだろうと、半ば確信するハル。
色々試した所、ユーザーメイドの品質の部分は手を加えれば加えただけ上がる傾向があると分かった。
シンプルな作品であり、イメージをすんなりと形に出来たルナの作の方が品質が下だった理由はこのためだろう。品質を上げたいならハルの力が向いているが、数値に表れない部分でルナが優れている事を実感する。
「さすがはルナだよね。しかし薄くするために試行錯誤を重ねると、たぶん誰も買えない品質になっちゃうだろうな。資金調達にはならない。まあやるけど」
正直興味があった。ハルも武器は好きである。
なお話に出た『単分子ブレード』と『高周波ブレード』というのは、人気の忍者アクションゲーム、通称ニンスパにおける最強クラスの装備である。
実際の名刀を装備して戦う世界観においてそんなモノを持ち込むなと言いたいが、実際は大人気で使用率は高い。
最高の攻撃力を持つが扱いが難しく、すぐに破損してしまう単分子ブレード。
攻撃力は最上位の武器にやや劣るが、耐久性の高い高周波ブレード。
現代武器ではこの二つが双璧をなし、人気を二分していた。
高周波ブレードの攻撃力が低いのはおかしいという声もあったが、その理由は『刃先が分厚いから』ということだ。薄くすればいいのでは?
ちなみに二つとも現実の世界に実在し、古くから使われている。
単分子ブレードはガラス等を使った、半使い捨ての超精密メス。医療などに使われている。最近はエーテルによって出番は減ってきている。
高周波ブレードは裁断用だ。エーテルは巨大な物を扱うのを苦手とするので、今でも多く使われているようだ。
「えっと、そしてその二つを組み合わせた『高周波チェーンソー』なるものがある、と。高速回転しながら超音波振動する単分子の刃を持ち手の所でガトリングみたいに交換して、常に最高の切れ味を演出する。最強なのでは?」
絶対強い。薄くした。
だが振動させた時点で刃先が崩壊したりしないのだろうか。
『くるとん』
:ハルさんの武器を
魔法で超音波振動させればいいんじゃね?
『メイさん』
:それだ!(楽)
『蔵人』
:<音魔法>かな
『Accel 』
:<音魔法>にはないなー
鍛えれば出てくるかな
『ナリター』
:意外と<地魔法>
『ナイトハルト』
:地震かよ(笑)
『飛燕』
:ハルはもうニンスパやらないのか?
『ハル』
:このゲームやってるうちはやらなそうですねー